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帰る場所 1

 ショウがユリシスを殺したその翌日、私は早速授業があった。全国に指名手配されてる犯罪者を片付けたんだから、何か然るべき報酬があると思う。例えば休日とか。


 初めて人を殺したショウは非常に凹んでいた。ユリシスを哀れんでいるんじゃなく、人を殺した感触が手から離れないのが気持ち悪いのだそう。試しに私と比べて、どっちが気持ち悪いか聞いてみると、即答で私を答えたから多分大丈夫だと思う。


 ユリシスとの戦いは、私にも爪痕を残した。


「ねーえ、せんせえ? 何日も休んで、何してたの?」


 休みを取った件について、アルマからの質問攻めに遭っている。言えるわけがない。元嫁をぶっ殺したなんて。私に結婚歴があることがアルマに知れると、何をされるか分かったもんじゃない。


「超巨大隕石の落下を防いでた」


 いつもの流れを汲んで、私は鉄板の隕石ネタを投下した。しかし、アルマの反応は悪く、口を尖らせて不機嫌アピールをしてきた。


「私、知ってるんだよ? せんせえが昔結婚してたことぐらい」

「ええっ!?」


 それはもう驚いた。ショウが私の実験に巻き込まれた時よりも驚いた。ショウですら気付いていない事実に、アルマが気付いていることが、私の心を激しく揺さぶった。


 狼狽える私が面白かったのか、口元を歪めたアルマはそのままの表情で言う。


「戸籍を調べればすぐ分かるよ」

「判子とかは?」

「んふふ、秘密」


 口元に指を添えて、笑顔を崩さないままアルマは言った。可愛らしさと恐怖と同時に与える、嘘のような表情だ。家の鍵を取り付け直した方がいいかもしれない。


 私にべったりと引っ付いている、平凡な少女。本人の素養も、家庭も平凡な少女。少し恋に暴走気味なところもあるけれど、まあ、女の子だし、それぐらいは多少大目に見るべきだ。そこを除けば、どこにでもいる、少し可愛い女の子だ。


 その平凡さが、私の中で大きなものになっている。

 恋愛とはまた違った、上手く言い表せない大切さ。私の日常の中で、欠けてはいけないものであるのは確かだ。


「アルマ、今日の放課後は暇?」

「? 暇だよ」

「何かスイーツでも食べに行こうか」


 私がそう言うと、アルマは小口を開け、目を見開いて固まった。そして、数秒おいてから一気に顔が赤くなる。それはもう耳までゆでだこのように。


「わっ、わわっ、ほんとっ!?」

「本当だよ。私の奢りだ」

「やった、んふ、えへへ」


 両手を頬に添えて、だらしのない笑みを浮かべるアルマは、とても嬉しそうだった。

 まあ、職員室でこんなやりとりをしているものだから、周りからの視線が非常に痛い。私が生徒と私的な約束をしても、他の教員に咎められないのは、迫っているのがアルマから、そして私だからという二点だ。どうにもここの教員達は私を腫物扱いする。


 アルマが職員室に入り浸るのは最早日常茶飯事で、アルマ用の椅子まである始末だ。流石に机はないけれど。


「そろそろ授業も始まるし行くよ」

「うんっ!」


 アルマはこっちから押していけば押しが弱くなる。私は漸くそれを知った。これからは時々デートまがいのことをしてやれば、ストーカー行為も多少はマシになるだろう。


 ユリシスの件を解決した私達が、衛界省から与えられるのは、申し訳程度の謝礼金らしい。それもほとんどはショウへ送られ、私がもらえるのは一月の給料程度。文句を言ってやると、衛界省の壁の修繕費を突き付けられたので、その時点で電話を切った。


 私はもうしばらく、教員を続けるだろう。家系のためにも、私の腕を抱く少女のためにも。

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