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7-7

 少年は最初、それに全く取り合おうとせず、そんなことよりもここから出せという意思の篭る瞳を、睨み据えるように男へと向けていた。しかし彼がベッドに近付き、屈んで手を伸ばせば触れるほどに隣接した時、彼の気配が明らかに変化したことに気が付いた。

 いや、あるいは最初からそうした気配を持っていたのだが、気付くことができなかったと言うべきかも知れない。

 彼が近付いてきたことで、その領域内に取り込まれてしまったように思え、少年は思わず背筋を凍らせ、自ら動こうとすることができなくなったほどだった。

 彼はよく見ると、不気味な顔立ちの中で無感情なのではなく、口元で薄っすらとだけ笑っていた。そしてそれを動かし、言ってくるのだ。

「私はカウンセラーだ。相談援助、つまりはキミの抱える悩みを聞き、相談に乗る役目を担っている」

 少年はその瞬間、それは自分の役目に他ならないと激昂し、唾を飛ばすほどに叫ぼうとした。しかしそれができなかったのは、彼の声が再び、暗闇の中で聞いたのと同じ異様な反響を持ち始めたように思えたためか、あるいはそう感じられてしまう原因も含め、彼が続けて言ってきた言葉のせいだったかもしれない。

「キミは、誰を助けたいんだ?」

 薄ら笑いで問われ、少年は息を詰まらせた。彼の声音は低く、また不自然なほどゆっくりで、その余裕ある様はどこまでも脳の奥深く、心理の先の先までもを見通し、全てを理解した上であえて言わせようとしていると思えて仕方がなかった。さらには視線だけは一直線に交わらせたまま、大仰な身振りで両手を広げ、病院の建物全体を示す姿も、やはり異様さを感じさせる迫力を持っていた。

「ここは病院だ。助けを求める者が集められた場所だ」

 頭の上から、しかし室内のどこからでも響いてくる声が不気味で仕方なく、竦み上がらざるを得なかった。なんらかの圧倒的な気配に視界がぐらぐらと揺れ、上下左右に大きくぶれ始める。男が言葉を発するたび、異様な反射で脳を支配され、ここが四角い個室なのかどうかもわからなくなるほど、壁という壁、柱という柱が歪み、全てがあり得ない角度を示すようになっていく。

「キミは誰かを助けたいんだろう? そうすることで自分が余裕のある、幸せな人間だと示したい」

 そうした移り変わる錯覚に違いない恐るべき現象の中で、白衣を着た男だけが真っ直ぐに立っていた。真っ直ぐにこちらを見つめ、異様に歪んで言ってくるのだ。

 彼は明らかに自分よりも上の立場を示しており、あるいは他の全てを下に見て、圧倒的な余裕を作り出している。ただ、それでも彼が幸福であるとは思えなかったが。

「私が手を貸そう。望むといい。キミの口で答えるべきだ」

 無意識に身体を起こし、手を伸ばしていた。逃げるためか、何かを掴むためかはわからないが、高く上げたそこにいずれかの、自分の存在を確立させ、自分の望むものが存在しているような気がしてならなかった。

 その時にはもう、全てが白光か、あるいは暗闇かに閉ざされ、何も見えなくなっていた。そしてどこからかは全くわからないが、恐るべき男の声が聞こえるのだ。

「さあ、キミは誰を助けたい?」

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