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7-5


 彼らが以前に出会った三人組の高校生であることは明白だった。恐らくは学校側からなんらかの呼び出しを受け、高校に出向かなければならなくなった帰りだろう。彼らはまだ数十メートルはあるという距離でも聞こえるほどの音声で、教師や学校に対する罵詈雑言を吐き回っていた。

 その声が不意に止まったのは、立ち話に興じる主婦たちと同じく、目の前から歩いてくる相手を見つけたために他ならないだろう。彼らは一瞬顔を見合わせると、怒りの形相をさらに大きなものにして駆け寄って来たのだった。狭い道を三人で塞がれ、少年は足を止めざるを得なかったし、彼らの声を聞かされることになった。

「てめえ、この前のガキじゃねえか」

「くそムカつく顔しやがってよお。ここはてめえの来る場所じゃねえんだよ!」

 彼らの怒りの声音には、今しがたまでの苛立ちに加え、以前の恨みが込められているようだった。つまりは明らかに無抵抗で年少な者に、僅かにでも怖気付かされたという、矯飾としたプライドを傷付けられたことへの逆恨みだろう。その時の不可解さや恐怖を振り払うため、先手を打って凄んできたに違いなかった。

 少年はそうした意図を全て理解した上で、臆する気配もなく、無言のまま彼らを見上げた。彼らの方は反対に、その少年の意図を理解したのかもしれない。今度は怖気付くのではなく、見透かされたことに対してまたしても逆上し、すぐさま殴りかかろうとしてきた。それよりも早く少年が口を開いたのは、少年にとっては紛れもない善意だったのだが。

「お前たちは不幸に違いない。そうであるなら、ボクが助けてやる」

「ふざけんな!」

 罵声と共に、少年はやはり殴打されることになった。

 ただ、今度は以前のように踏ん張ることができず、すぐに倒れ込むことになったが――少年はそんなことなど全く問題としない様子で、踏み付けてくる足から身を守る素振りも見せず、血を出しながら口を開いたのである。

「こんなことをするのは、お前たちが不幸だからだ……ボクは違う。だから、お前たちも助けてやる」

「気持ち悪いこと言いやがって、黙れってんだよ、ガキが!」

 ひとりが踏み付ける場所を口に定めたらしかった。横倒しになった鼻や頬に靴裏が叩き付けられ、確かに喋りにくくなる。しかしそれでも、少年は構わなかった。そもそもからして、痛みなど感じないのだから構う必要もないだろう。痛みが不幸であるなら、そんなものを感じることなどあり得ないと、少年は紛れもなく信じきっていた。

「不幸な、お前たちは……人を殴りたかったんだろう? ボクが……それを叶えてやっている。感謝して然るべき、だと思わないか……?」

 男たちがそれを聞いたかどうかはわからなかった。ただ、その辺りで彼らとは別の、「そこで何をしている!」という中年めいた厳つい男の声が、少年の耳に聞こえてきた。男たちはその人物を知っているのか、あるいは知らずとも現在の行為を見られたことに対するものか、喫驚と焦燥を明らかにして、すぐさまその場を離れようとしたらしかった。

 ただ、それでもそのまま逃げることはやはりプライドが許さなかったのか、まだ物足りないとでも思ったのか、はたまた慌てて逃げようとした際の偶然かもしれないが、口元を踏みつけていた男の爪先が、今度は鋭く上顎を蹴り付けてきて、少年は首を仰け反らせて地面を滑り……痛みなど全く感じないにも関わらず、瞬間的に脳が強く揺さぶられたせいで、理不尽にも意識を失わされることになった。

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