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7-4

 少年は日々、そうした生活を送っていた。無論、毎日靴跡を付けられるという意味ではないが、似たようなものではあるかもしれない。

 休日になると、彼は街に人が多くなる昼前頃の時間を見計らってから外出する。両親は反対に、人が少ない間か、あるいは前日の段階から外出しているため、物音を気にしなくていいのが楽ではあった。それでも階段から降りてまず母親の部屋、そして次いで隣接する父親の部屋の扉を見やり、その中が空であることを確認してしまうのは、出払っていることを確認するためなのか、それとも在宅を確認するためなのか――少年は考えることがあったが、すぐにそれを意識の底へ押し込めると、家を出るのだ。

 白く正方形めいた家々が並ぶ住宅街の、直角に曲がりくねる道を歩くのは、少年にとって若干の煩わしさや、憂鬱さがあった。以前の帰路と同じく、先に主婦たちの立ち話の声が聞こえてきて、その中に入り込んでいかなければならない。そして角を曲がり、少年が姿を現すと、彼女らはそれに気付いて一様に言葉を止めるのだ。向けられる視線については全く見ないようにするとしても、通り過ぎた後にひそひそと始められる会話については聞かざるを得なかった。耳を塞ぐのも不自然だろうが、そうしたい気持ちではあった。

「あの子、またじゃない?」

「きっとそうよ。この前もそうだったって話を聞いたし。やっぱりちょっと、おかしくなってるんじゃないかしら」

「もっと小さい頃は、よく父親に殴られてたって聞いたけど……今はどうなのかしら」

「母親も酷いらしいわよ。自分が帰ってきた時に出迎えたら怒鳴り散らすとか」

「それって、自分が不倫してるからじゃない?」

「きっと父親の方もしてるわよ。元々できちゃった婚みたいだし、子供に愛情がないのよ。可哀想ねえ」

 それは紛れもなく小さな、お互いにしか聞こえないほどの声だろうと思えたが、少年の耳には奇妙なほど大きく聞こえた。次の角を曲がっても、彼女らのいたずらに哀れむばかりの、嘲笑にも等しい声音が響き続けていたのだ。少年はそれを置き去りにするように、ほとんど走り出すほどの早足になりながら、胸中で大きく首を横に振り続けた。

「ボクは……可哀想なんかじゃない」反駁する自分の声は胸中だけでなく、口からも溢れ出していた。それほどまで、強く否定する感情が溢れていたし、彼女らの哀れみが全くの間違いであることを信じていた。

「ボクは幸せなんだ。お父さんと、お母さんの子供で、ボクは幸せなんだ」

 自分自身が吐き出す言葉はすぐに脳を支配して、それが正しいことを伝えてきた。紛れもなく自分は幸せなのだ。でなければ、どうしてこんなことができるだろう?

 助けを求めるというのは不幸の只中にあるために他ならず、少年は今まで、迷子がいれば親が見つかるまで探し続けたし、杖をつく老人を見かければ強引にでも距離を問わず目的地まで手を引いたし、悩む顔を見せる者がいればそれを深く追求し、話を聞き出し、その助力を行った。

 それによって相手が救われ、感謝していることが明白だったのは紛れもなく、彼らがそれを告げてくるためである。「助かった」「ありがとう」などと言うのだから、彼らを救ったことに疑いようはないだろう。また少年も自分が救ったのだと強く自覚していたし、そうでなければならなかった。

 この日も当然ながら同じように、日が暮れ始めるまでには四人を救い、感謝の言葉を引き出していた。

 ただ、問題はその後だった。休日は夜更け、あるいは翌日まで間違いなく両親が不在であるため、少年はその間に、できる限りの人助けを行おうと決めていたのだが……自宅からはだいぶ離れた、山を間近に控えるような奥地に建設された高校へと続く、古めかしい色褪せた木造家屋や、同様の駄菓子屋や、営業中かどうかもわからない漢方を取り扱う薬屋のような古風な店が散見される街路を抜けようとした時のことである。車一台分ほどの幅しかなく、左右の端には背の低い雑草が見えるような道の向こうから、周囲に全く溶け込まない、不釣合いに苛立たしげな顔をした男たちが歩いてくるのを発見したのだ。

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