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いはいダイアリー  作者: 紫木
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位牌ダイアリー

 こほんっ! いや~いざ自分で書くとなるとなかなか難しいものだね~。

 でも自分から言い出した事なんだし、少しぐらいは頑張らないとりっくんに申し訳がたたなくなっちゃう。

 これは私の『位牌』なんだから、懇切丁寧に書き上げて見せます。


 そもそも、私が今まで筆を取らなかったのには理由がある。

 私はこの『位牌ダイアリー』を二人の共同作品にしたかった。

 だから、いの一番にりっくんに相談を持ちかけたんだけど……りっくんにはがっかりだ。

 どうして『位牌ダイアリー』を取り込んでしまったのかな? 

 それじゃあ二人の共同作業にならないよ。私の目論見も夢も全部おしゃかだよ。

 カメラだって持って帰っちゃうしさ。 

 ほんと、りっくんは私の想定以上に残念だ。


 でもまあ、許しちゃんうだけどね~。

 りっくんだから許しちゃう。

 うん、私もやっぱり甘々だね。


 ……とまあ、そんなこんなで仕方なしに私は別のノートにこの『位牌ダイアリー』を書くわけになったんだけど……にゅふふっ、何を書けばいい?

 頬が蕩けちゃうくらい甘い二人の話が読みたい? それとも、二人がどんな馴れ初めでここまで辿り着いたのかを延々と文字にしたためて欲しい?

 ……いや、ごめんなさい。全部私の妄想でした。残念ながら、私とりっくんはそんなドラマみたいな逸話は持ってないんだよね~。

 

 うーん、でもせっかくの機会なんだし、少しぐらいは赤裸々に書いてみよう。

 まず初めにこれだけは書いておかないといけないと思うんだ。


 私はりっくんの事が大好きだ。


 それがいつからなのかは覚えてないし、これが報われない事も知っているけど、それだけは間違いない。

 だからりっくんには幸せになって欲しいし、りっくんの願い事ならどんな事でも叶えたい。

 我が事ながら健気だよね~。

 私にはりっくん以外考えられないんだよ。


 まあそういう訳で、私は自分の死期を聞かされた時、いの一番に思いついたんだ。


「にゅふっ、これはチャンスかも~」って。


 私はりっくんの願いを知ってたからね。

  

『大きくなったら、僕は世界中の誰よりもヒーローになるんだ』


 子供っぽい考えだよね~。でも、笑い飛ばしちゃ駄目だよ。りっくんは本気で本当に今でもそう思ってるんだから。

 だからこれは千載一遇……いや、一世一代の私に訪れたチャンスだって思った。


 立ち向かう敵や抗えない局面があってこそ、ヒーローはヒーロー足り得る。

 うーん、今の私って、それにピッタリだと思わない?

 いや、別にりっくんの敵になるって訳じゃないよ。

 でも、今の私の立ち位置って、とってもヒーローには好都合だと思うんだ。 

 実はこういった局面は前にもあったんだけどね、その時はちょっと選択肢を間違えちゃった。

 私ってさ、こんな風に変に考えるところがあるからさ、集団の中じゃ浮ついちゃうんだよね。

 だから孤立した。

 だから弾かれた。

 それはどんどんどんどんエスカレートしていって、でも私はその状況を逆手に取ろうと、悪巧みばっかり頭の中で考えてて……そうこうしている間に、りっくんがキレちゃったんだよね~。

 あの時のりっくんは格好良かった。私のためにクラス中の皆をボコボコにしちゃってくれたのには鳥肌が立った。


 ――でも、それじゃあ駄目だった。

  

 りっくんは私のせいでヒーローどころか悪者扱い、放校処分までくらっちゃってさ。ほんと、散々だったんだよね~。

 あの時ばっかりは、流石の私も肝が冷えた。

 私の中でりっくんの背中が遠ざかった。

 もう、どうしようもなく嫌われちゃったんじゃないかなって、頭がおかしくなりそうだった。


 この辺りは惚気みたいになっちゃうかもしれないけどさ、まあ、うん、結果から言ってしまえば、それでもりっくんは何も言わなかったんだよ。

 恨み言の一つも、かといって心配事の一つも、りっくんはこの件に関して、私に何も言わなかった。 

 

 それが私をどれだけ救ってくれたのか……今でも言葉に出来そうにない。

 孤立から抜け出せたことよりも、弾かれた事から解放された事よりも、私にはそれが一番嬉しかった。

 

 だから今度は間違えない。

 これはりっくんの為の物語なんだから、しっかりと詳細に書き残さないといね。


 私が今度こそ、りっくんをヒーローにしてあげる。

 これはきっと、世界中の誰にも真似できない、私だけの特権だから。

 これだけはお姉ちゃんにも譲れない。

 私が世界で一番、りっくんの事を幸せにしてみせる。


 だから忘れないでね――二人で過ごしたこの数ヶ月を……

 時には紐解き、思い返してね――りっくんが主人公のこの物語を……

 

 そして、いつかこの日記を読み返した時に、そんな事を願った幼馴染を思い出してね。


 これは私の誇りで、最初で最後の愛情表現なんだから、りっくんは心して受け取るように! 


 にゅふふっ、りっくんからの愛情なんて要らないよ?

 それはお姉ちゃんに全部あげちゃって下さい。 

 

 私はりっくんをヒーローに仕立て上げれた事だけで満足なんだから、それ以上は要らないんだ。



 忘れないでね。

 りっくんはこの瞬間、世界中の誰よりもヒーローだったんだから。

 忘れないでね。

 私はこの瞬間、最高に幸せだったよ。


 ありがとう、私のヒーロー。


 ほんとにほんとに、ありがとう御座いました。

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