表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いはいダイアリー  作者: 紫木
22/24

憧れのエンディング 後編

 走れ、走れ!

 今はもう、とにかくそこへと進むしかない!


『そっか……ようやく……気付いてくれたみたいだね』


 僕の状況と心情を汲み取ってくれたのか、電話の向こうの声は幾分柔らかい。

 それがますます僕の心を締めつけてくれる。

 

「うん、気付かないはずがない。いや……」


 ――もっと早くに気付くことも出来たのに!


 甘えていたの僕だ。

 見ようともしないどころか、思考までもが腐って腐って、どうして今まで動けなかった!


『りっくん……この数ヶ月、香菜と過ごしてどうだった?』

「どうもこうもあるわけない。僕は踊らされながら主人公を演じてた。文句の一つも言いたい気分だ」


 ――とても感謝なんてしてやれない。


「あいつはほんとに馬鹿だ。ほんとにほんとの大馬鹿馴染みだ」


 ――でも、今この時は無理矢理にでも感謝しないといけない。


『香菜は本当にりっくんが好きだった。だからこそ、今もりっくんの事を待ってる』

「聞きたくない! それに、それならそうと、こんな強制じみたやり方じゃなく、もっと上手く言ってくれれば良かったのに、それなら僕も……」

『……私とほんとの別れ話(・・・・・・・)をしてた?』  

 

 …………その切り返し方は卑怯じゃないか?

 そんな風に言われてしまうと、僕はグウの音も出すことが出来ない。


『にゅふっ、愛されてるって嬉しいことだね。……でも、でもだからこそ、私はこの瞬間に嫉妬してしまってる』

「エミさん、でも今は……」

『今はこうするしかない。でしょ? 大丈夫、分かっているから。私はずっと分かってたんだから……』

 

 空元気にしろ、今まで高揚していたエミさんの声から、ほんの少しだけ、切ない感情が伝わってくる。

 どうして僕はこうも上手く生きれない。

 あの時だってそうだ。

 カナがイジメを受けてた時、もっと僕が上手くやれていたのなら、物語のストーリーも変わっていたのかもしれない。

 僕はあの時自分の感情を抑えきれず、理不尽な暴力を撒き散らしてしまった。

 その結果がこの現実(いま)だ。

 世界はそんなに優しくはない。

 僕とカナには多くのレッテルが貼り出された。

 味方の数は減った。

 多くの友と絆を断ち切った。 

 カナがこの事に関してどう思っているのかは知らない。

 でも、味方が多いに越したことはないはずだ。 


 ――日常の全てを敵に回した愚かなヒーロー 


 そんなものになりたかったわけじゃない。

 多くの人に囲まれて、その中で誇らしく胸を張れるような人物。

 それが僕の目指したヒーロー像だったのに、今もなお僕は、誰にも理解されないような愚かな道を走り続けてる。


 ――でも、今はそれでいい。この道の先には、もうその選択肢しか残されていないんだから……  

 

 

 人を退け、段差を跳び、エレベーターよりも早く駆け上がる。

 たくさんの人に注意はされた。

 たくさんの人に迷惑はかけた。

 それでも僕にはもう、この道以外に行き先はない。


「……りっくん」


 電話越しに聞いてた声が、現実のものと重なり合う。

 病室の扉を開け放ったとたん、目の前に飛び込んできたのは、ベッドに横たわるカナと、それを見守る家族の姿。

 普通なら邪魔しちゃいけない景色だ。

 でも僕は、敢えてその中に食い込み、カナの傍へと歩み寄る。  

 

「あはっ、やっぱり……りっくんは来てくれた」


 ――これは僕にしか出来ないことだから


「……吃驚させちゃったかな? でも、こうなる事は分かってたしね~」


 ――誰も彼もを裏切り、誰も彼もを幸せには出来ない


「……ひどい顔してるよ? りっくん……男前が台無しだぁ~」

 

 ――こんな最後まで巫山戯た幼馴染だけれど、それでも、僕にとっては大切な幼馴染なんだ


「……にゅふっ、どうしたの?」

「結婚しよう、カナ。僕は君を、絶対に幸せにするから」



 ――だからこの『いはいダイアリー』の最後に、君だけは(・・・・)幸せにしたかった。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ