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いはいダイアリー  作者: 紫木
19/24

憧れの街路樹 前編

 季節が変われば世も変わる。

 僕は街路樹をゆっくりと進みながら、そんな言葉を思い出していた。

 だって、つい先日までは木漏れ日が焼けるほどに暑かったっていうのに、この変わりようはなんなんだ?

 少しはこっちの事情も汲んで欲しい。


「綺麗だねぇ~」


 街路樹は赤々と紅葉を束ね、今はもう過去の面影なんて見る由もない。

 それほどの時が流れたわけじゃないにも関わらず、この場所はこんなにも変貌をとげてしまっていた。


 ――これは何処かの誰かが作った映画のワンシーン


 そう言われても不思議じゃないほど、僕達はこの景色に溶け込んでしまっている。

 惨めな話だ。

 仮面を剥ぎ取られてなお僕は、この現実を堪能してしまっている。


 現実はドラマじゃない。

 その証拠がこの有様だ。


 僕はゆっくりとカナを乗せた車椅子(・・・・・・・・・)を押しながら、この街路樹を歩いている。


「落ち葉真っ赤に染まりゆく、傍では生いし、息吹かな?」

「……何、それ?」

「頭に勝手に浮かんできた~」


 カナの様子は変わらない。

 こうやっていつも通りに馬鹿を言い、気にした素振りを一切見せずにいる。

 それが今の僕をなおさら締め付けていると感じてしまうのは、全部自分のせいなんだろう。


 時が経てば、容態も変化していく。

 そんな事は始めっから分かりきっていたはずなのに、これが目を逸らし続けてきた愚か者にはとっても重い。


 ――だからどうした? 僕にいったい何が出来る?


 そんな自問自答をくり返し、僕は今日もこうしてカナといる。


「でもあれだねぇ~。とっても綺麗なのに、どうしてかセンチメンタル。……そうは思わない?」

「一過性ものっていうのはそんなものだよ。儚く短いからこそ、人の心に留まり易い」

「にゅふっ、りっくんも詩人さんだ。……でも確かに、そんなものなのかもしれないね」


 ギリギリのラインで会話を楽しむ。

 そんな高尚で馬鹿馬鹿しい真似をしたかった訳じゃない。

 でも、何故だかその言葉は自ずと自分の中から溢れ出てきて、押し留める事が出来なかった。


「これがドラマなら、きっと私は薄幸のヒロインなんだろうねぇ~」

「……冗談言わないでよ」


 その先の言葉が紡げない。

 この期に及んで僕は、僕はまだ……



「分かってるよ。私は別に不幸じゃない。むしろ、それ以上に…………わっ!」


 

 その先を聞きたくないが為に、僕は後ろからカナの体を包み込んだ。

 そっとゆっくりと、それでいて力強く抱き締めた。


「にゅふふっ、これじゃあますます、幸せだとしか思えないかも……」

 

 カナの顔はきっと、これ以上ないくらいに綻んでいるんだろう。

 それに比べて、僕の方はどうだ?

 ドラマの主人公や映画に出てくるヒーローに憧れを持っていたにも関わらず、現実を突き付けられたらこのザマだ。

 

 僕はどうすれば、この現実を打破出来るんだろう。

 足りない頭をフル稼働させても、いまだ答えは、見つけられそうにない。

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