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いはいダイアリー  作者: 紫木
17/24

嘘 ニ

『大きくなったら、僕は世界中の誰よりもヒーローになるんだ』

『ええ~、りっくんじゃ絶対に無理だよ~』


そんな遠い昔の夢を見たのは、どうしてなんだろう。

『ヒーローの定義』なんて在りはしない。

 精々が目の前の人たちを幸せにする程度が、その夢の落としどころなんだって伝えてあげたくなってしまう。



 ――だって、この世界にはそれほどの悲劇も、それほどの不幸も訪れはしないんだから。



『……何でそんなこと言うの?』

『ああ~……、りっくんはすぐにそうやって泣くんだから』


でも、思い出したくもない惨めな自分は、手の届く範囲でそうやって蠢いている。

その程度でヒーローを目指すなんて、昔の自分を百発は殴りつけてやりたい気分だ。


『泣いてなんかないよ! カナなんて大嫌いだ!』

『ええ!? どうして私が嫌われちゃうの?』 


これ以上は直視すら躊躇ってしまう。

止めろよ。僕はもう、ヒーローなんか目指しちゃいない。


『…………』

『もうっ、すぐにそうやって拗ねちゃうんだから……』


そんな思い出は捨ててしまえば良いはずなのに、まだ僕の中にそれが生き残っているのが不思議だ。

全部過去のこと。

思い出す必要も、掘り返す必要もないはずなのに……


『じゃあ、こうしよう? わたしがりっくんの夢を叶えてあげる。私がりっくんを絶対に世界で一番のヒーローにしてあげる』


大丈夫、世界にそんな悲劇は訪れない。

少なくても、僕が見るこの小さな範囲では、そんな『ありふれた悲劇』なんて起こりようはずもないんだ。


――悲劇や悪意が訪れなければ、ヒーローになんて、なれようはずもない。


『……じゃあ、カナを信じてもいいの?』

『大丈夫。私が絶対にりっくんをヒーローにしてあげるから。だから、りっくんは何も心配しなくていいんだよ』



 だからこそ、僕は目の前の現実を、非現実的だと思い込ませてきた。

 嘘ではないにしても、本当だとは考えようとも……いや、考えないように目を逸らし続けてきたんだ。




 嘘 ニ 


 僕は、この現実を受け入れたフリをしていた。



 だから僕はきっと、この先もヒーローになんてなれやしない。

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