憧れの夕焼け 前編
人生なんて、所詮は一瞬の幻に過ぎない。
そう、誰かが詩的な表現でのたまっていたのを、僕は今でも覚えている。
「ひゃあー! すっごい風だねー!」
だからこうして二人でいられる時間なんてものには限りがあって、ましてやそれが本物のひと時に過ぎないほどの短い時間しか残されていないというのなら、なるべく、本当になるべくだけれど、その時間を愛おしく、大切に使いたいと思うんだ。
「おおっ! あれってひょっとして、りっくんの家じゃない?」
いつもよりほんの少し贅沢をしたり、普段より本当に少し変わった過ごし方を楽しんだり。
そんな、ありきたりからちょっとだけ外れた過ごし方をするのが、きっと最善策で最善案なんだって思ってしまう。
「でも、こうして見ているとあれだよねぇー。 やっぱり何にもない街だよねぇ」
「うん、そうかもしれないね。 っていうかカナ、乗り出し過ぎだよ」
でも、こんな風に学校の屋上でのんびりとした時間を過ごすなんて生き方も悪くはない。
……幼馴染が、はっちゃけ過ぎていなければ、という条件付きだけど……
「大丈夫だよ〜。 私だって、そこまで馬鹿じゃありませーん……おわっとっと!」
言っているそばから体勢を崩しているあたり、彼女にとっての言動が、いかに浅はかなものかが伺える。
勘弁してくれよ。
ただでさえ、僕らは放校された身分なんだ。
ここでこうして佇んでいるだけでも、実は大問題だっていうのに。
「心配しない、心配しない。 りっくんも私も言い方を変えれば『卒業生』なんだから。 胸を張って良いと思うよ?」
「……僕はカナみたいに図太くないんだよ」
「それなら、図太くなれば良いんだよ」
こうやって正論で返されてしまうと、文字通りグウの音も出ない。
いや、でもそれって本当に正論か?
よくよく考えるまでも無く。ただの我儘なんじゃ……
「それにしても、本当に良い景色だよねー。 何が見えるわけでも、何が綺麗かってわけでもないんだけど、これは本当に絶景なんじゃないかな〜」
それでも、こうやってご機嫌な表情を浮かべているカナを見てしまうと、僕っていう人間は、全部を許してしまいそうになる。
それに、学校の屋上で過ごすこの一時っていうのが、僕にはやっぱり、たまらなく心地良いんだろう。
それこそ、まるで昔見た映画のワンシーンみたいで……
……あれ? 今なにか、頭の中に引っ掛かったものが……
「もうっ! いつまでも、しみったれた顔しない〜!」
「ふごっ!?」
ちょっと待って、鼻の穴に指を突っ込むのはNGだ!
いくら我儘三昧許したからって、女子力の放棄までは見逃せない。
「……そこになおれ、この馬鹿馴染み」
それは、こんな感じで新語を作ってしまうほどに馬鹿馬鹿しくも頭にきて、僕はおもいっきりカナの両頬を引き延ばした。
「うひゃひゃっ! ひたひよぉ〜、ひっふん」
ちくしょう、ただの下らないじゃれ合いだっていうのに、どうしてこんなに楽しいんだろう?
その後も僕はカナをフニャフニャと痛めつけ、久方ぶりに幼馴染との一時を満喫したんだ。
夕焼けが落ちるには、まだ少し時間が掛かる。
そんな何処ぞの小説に書かれているような、詩的な言葉を思い浮かべながら。




