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いはいダイアリー  作者: 紫木
12/24

憧れの家族 前編

 僕にとってのカナが何なのかと問われれば、僕は迷わず疑わず、去勢を張るまでもなく、こう言える事が出来るだろう。


 カナは僕にとって、最親であり、最愛の友達だ。


 でも、この想いは一方通行で、カナにとっての僕がどういった立ち位置かだなんて事は、いまさら考える必要もない。

 そんな事は僕だって知っている。

 これを誰かに自惚れだなんて言葉で揶揄されようと、この真実だけは変わらない。

 だから僕は、目をそらす。

 これからもずっと、そうやって、終わりの日まで目を逸らし続けるんだ。



「よく来てくれたね。 理生君」

「いえ、ご無沙汰してます。 おじさん」


 その日、僕はいつも通りカナのことを誘うために、彼女の家の前で佇んでいた。

 あの花火大会の日に何がどう変わったかと言われても、別段、日常生活に支障をきたすほどの変化は見受けられない。

 あれからも僕とカナは、何なりと目的を見出しては、いはいダイアリーの作成に取り組んでいただけだ。

 そして、カナと僕が行動を共にする際には、いつだって、こういう風に、僕がカナの家まで足を運ぶことになる。

 特に理由はない。

 強いて言うならば、その方がカナにとって幸せなんだと思い込んでいたからだ。

 でも、この日はいつもと様子が違う。

 午前十時、普段ならこの時間になった途端、目の前の扉から弾丸のように飛び出してくるはずのカナが、今日に限っては扉を半開きにしたまま、その場を動こうとしないでいる。

 僕がいくら何を問いかけようとも、カナはその場をテコでも離れようとはしなかった。

 夏の暑さも相まり、いよいよ痺れを切らした僕は、およそ何年ぶりになるだろうか、カナの家の敷地へと足を踏み入れ、ドアノブをグッと引っ張る。


 それがこの大馬鹿幼馴染の、悪どい罠だとも知ることもなく……


「捕獲!!!」


 カナの行動は早かった。

 それはさながら、昔見た映画にあった、巨大哺乳類が海面の中で大きく口を開いていたシーンのように、僕をあっさりと飲み込んでいく。(格好良く言おうとしたけども、実際は手を引っ張られ、家の中へと引きづり込まれただけだ)


 でも、この家が僕にとって、巨大生物の腹の中とそう違わないことは真実だ。

 そうして僕は、とことんまでに顔を合わすことを避けていた人物、すなわち、カナの両親と数年ぶりに対面することになってしまった。


「あまり長々と引き留めてしまっても、香奈に怒られてしまう。 でも、まず始めに断っておかなければいけないな、今日、香奈が理生君をこの家に引き込んだのは、全部、私の指示なんだ。 だから、あまり香奈のことを責めるんじゃないよ?」


 居心地の悪さが全面的に出てしまっていたんだろうか。

 おじさんは、やんわりと僕にそう告げると、今時分、台所へとお茶を淹れに行ったカナのことをフォローするような言葉を口にする。

 でも、ごめんなさい、おじさん。

 僕はきっとこの後、少なくとも、カナにヘッドロックをかける事は間違いなさそうです。


「さて、本当なら、ここで思い出話に花を咲かせるのも悪くはないんだけれど、今日ばかりはそうも言っていられない。本題に入ることにしようか……」


 それまでの柔和な雰囲気は一転、おじさんは居住まいを正し始める。

 この辺りのギアの変え方は、実にカナの親だと伺えるところだ。

 少しは、こっちの心情も考えて接待してほしい。

 これじゃあ、馬鹿な事を考えていた僕が、なおさら馬鹿者みたいに思えてしまう。

 そしてきっと、この後も僕の事はお構い無しに、きっと、胃が飛び出るほどのビックリ発言を口にしてくれるんだろう。

 例えば……


「単刀直入に言おう。 理生君、君と香奈は、もう会うべきじゃない」


 こんな風に、とても身勝手で、それでいながらも、僕が避け続けて見ないようにしていたはずの、本物の言葉を。

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