不幸な事故
朝リビングで一人テレビを見ている人物、今この家には彼しかいない。
両親は既に事故で他界しており今は妹と二人で暮らしている、彼らの生活費や学費は親戚から仕送りしてもらっている。
そんな彼はいま、朝食を取ろうとリビングに向かった際にテーブルに置いてあった”二つ”の弁当箱を眺めていた。
「珍しいな、桜のやついつもは忘れ物なんてしないのに、日直だったから急いでいたのかな?」
本当に珍しかった、兄である俺が言うのも変だが、桜は今まで忘れ物などしたことがないのだ・・・・。
普段から早起きしてるし、それに準備などは前日にやるから、忘れ物はしない、そして何より早起きしているから、焦ることも全くないんだよな。
(まあ人間完璧ではないから忘れ物くらいあるか)
「よし!そろそろいい時間だな、学校行くか」
学校に行く準備を軽く済ませ。
俺はリビングに置いてあった弁当箱を二つ持って家を出た。
学校に到着し、俺は自分の下駄箱で上履きに履き替えた。
妹に弁当を渡しに行くため、一年の教室に向かった。
「失礼します妹の桜いますか?」
(う、そんな一斉に見ないでほしいな、なんか恥ずかしい)
俺は教室を見渡し、一際目立つ可憐な黒髪の少女を見つけた。
彼女も俺を見ると近寄ってきた。
「兄さん?一年の教室に来て何か用ですか?」
この少女が俺の妹の桜だ・・・・・
桜は容姿端麗で成績優秀まさに完璧。
同学年だけでなく上級生からも人気ある、そのため男子から結構なアプローチがあるらしい。
「ほれ、弁当だ今日珍しく忘れていったろ?」
「あ!ありがとうございます兄さん。実は学校に着いてから気づいたので困っていたんです。」
「そうか、次からは気をつけろよ、まぁお前なら大丈夫だろうがな。」
そう言いながら俺はポケットにしまっていた懐中時計をみた。
そろそろ予鈴が鳴り始める頃だろう。
「それじゃ桜。俺はもういくよ授業頑張れよ」
「はい、兄さんも頑張ってください」
「ああ」
「あ!兄さん今日は、私。帰るの遅くなるので先に帰っていてください」
「ん。了解」
俺たちは、そう言葉を交わし、去った。
しかし、桜は今日遅くなるのか・・・・・そうなると夕飯どうしようかな?
ちょっと桜の好きなものばかり作って軽く驚かしてやろう!
そんなこと考えながら俺は自分の教室に入った。
「はい、静かに突然なんだが、みんなに転校生を紹介する。さ、入ってくれ」
「はい」
HRを始めて早々担任の教師が、そう言い廊下に立っていると思われる人物を呼んだ。
入って来た、その人物の特徴は腰まであるくらいの長い緑色の髪、そして何より特徴的なのが蛇と蛙の髪飾りをしていることだ。
「へー、可愛いな」
「え?」
「な、なんだよ」
「いや、お前がそう言うってことは相当可愛いんだろうな」
「なんで、そう思うんだよ」
「だってお前、相当可愛い子じゃないとそうゆうこと言わないじゃん?」
「そ、そうか?」
「そうなんだよ、まぁお前の妹は、かなり可愛いからな、毎日見てたら他の女子なんて霞んで見えるかもな」
「お前ら騒ぐんじゃない!それじゃ自己紹介してもらおうか」
「はい、皆さん初めまして東風谷早苗といいます皆さん仲良くしてくださいね」
「おおおおおおおお!!」
「うお!?」
「え!」
東風谷早苗と名乗った彼女の自己紹介が終わった瞬間に教室全体に響き渡るほどの歓声が上がった主に男子から。
お前らどんだけ女子に飢えてんだよ、さすがの俺でも引くぞ。その反応。
「かわええ!」
「俺このクラスでマジで良かった!」
「鏡夜の妹とどっちが可愛いんだろうな!?」
「俺は早苗ちゃんだと思うな!」
「えー、俺は鏡夜の妹の桜ちゃんの方がちょっと上だと思うな」
「それ、お前が年下好きなだけじゃん」
「まあまあ、どっちも可愛いということでいいじゃん」
「そうだな!!」
「全くこいつらは、相変わらずだな。あと、勝手にひとの妹と比べるなよな」
「ははは、兄からしたら実の妹を比較に出されるのは許せないのかな?」
(まったく、こいつは)
どうしてこう、俺を弄りたがるんだ。全くこのクラスは本当に変な奴多いよな
「騒ぐなって言ったろう!まったく、東風谷お前の席は・・・・・そうだなあの窓際でいいか?」
「はい」
「鳴海。東風谷はこちらの都合で教科書がまだなんだ、だから見せてやってくれないか?」
「ええ構いませんけど、どうして俺なんですか?」
「ん?お前は隣の席だし何よりお前以外の男子信用ならん!」
などと、堂々と言い切ってしまったよ、この教師、まあ他の男子は確かに東風谷にデレデレしてるし、隣のこいつは他の男子と違って騒いだりはしてないが、教科書をいつも忘れてきてるやつだしな、先生が信用できないのも分かる。
「はぁ、分かりました」
「えー!先生なんでだよ、そんなことしたら、俺が鏡夜から教科書見せてもらえないじゃん!」
「そんなの知らん!お前が忘れたのが悪いんだ、というよりお前は、まず、教科書を持って来い!」
「そんな殺生な~」
そんなことを言いながらがっくしとうな垂れる。直後クラス全体で笑いが上がった。
うちのクラスは変な奴も多いが、みんないいやつだし、きっと東風谷もすぐに馴染めるだろう。
その後はHRが終わり、みんなが一斉に東風谷に質問攻めにして困らせていた。
俺も色々質問したいが、今は流石に迷惑だろうし・・・・・
そんなこんなで東風谷に教科書見せたり、わからないところを教えたりして放課後までむかえた。
「はー、やっと授業終わった!」
「ふふ、お疲れ様です」
「ああ、東風谷もお疲れ」
「はい、今日はありがとうございました、色々と教えてくださって」
「ん?あぁ転校してきたばっかだし、分からないところあって当たり前だから、気にしなくていいよ」
「鳴海くんは、このあと用事とかありますか?」
「ん?夕飯の買い物に行くよ。」
「そうなんですか?いつも家では、鳴海くんが作ってるんですか?」
「いや。妹と二人で暮らしてるから、どっちかが作らないといけないんだよ」
「そうなんですか、妹さんと二人で・・・・・あの、鳴海くんのご両親はどうしてるんですか?」
(ああ、その質問が来ちゃったか)
その質問にはあんまり答えたくはないんだが、まぁ両親が亡くなった事を話すのは別に平気なんだが・・・・質問に答えると、そのあとに哀れむ様な目を大体の人がするんだよな・・・・・。
俺はその目が苦手だったりする。
でもここで答えなかったら自然と相手は察してしまうだろうし、嘘ついても結局バレてしまうだろうから、いつも正直に話してる。
「いないよ」
「え?それってどうゆう」
「だから両親は事故で他界してるんだよ」
「そんな!?あの、ごめんなさい!」
「気にしなくていいよ」
「でも、知らなかったとはいえ辛いことを聞いてしまいましたし」
ほらね、東風谷も哀れむ様な目を・・・・・あれ?してない。
ーーいや、違う。同情はしている。他の人も同情はしてくれる。同情はな・・・・・
だが、東風谷のこの目は何かが違う。何が違うかは、俺も分からない。でもこの目を見てると、何故か安心できる。
不思議なやつだな・・・・・。
「その!お詫びと言ってはなんですが何か手伝えることありませんか」
うーむ。相当気にしてるな、本当、東風谷は不思議なやつだな。
だが、こういうのも悪くないかな。
「手伝えることね。そうだな、じゃあ買い物手伝ってよ!」
「え?は、はい喜んで」
それから、東風谷と一緒に学校からちょっと離れたところのスーパーに買いに行った。
スーパーの目の前に来たとき東風谷が話しかけてきた。
「ところで、今回どんなの作るんですか?」
「ん?妹が好きなハンバーグやエビフライを作ろうかと」
そう桜は意外にこういった子供っぽところもあるのだ。
「なるほど、では早速食材を探しに行きましょう!」
そう言い東風谷は嬉しそうにスーパーに入って行った
そして食材を買い終わり帰り道。東風谷が何やら思い詰めた顔をしてるので理由を聞いてみることにした。
「東風谷どうしたんだ?そんな顔をして」
(どうしたんだ?)
俺の声が聞こえてないのか東風谷は一人でブツブツと何か言ってる。
「決めました!!」
(うお!びっくりした)
ブツブツと言っていた東風谷がいきなり声を上げたのだ
「鳴海くん!私をあなたの家に案内してください」
「は?」
(な、なんだいきなり俺の家に案内?)
なぜいきなり俺の家に案内することになったんだ・・・・・
「私思ったんです!結局お詫びを出来てないって、それで鳴海くん家に行って料理を手伝わさせてください!」
「そ、そんなことないぞ!すごく今日は助かった」
「どこがですか!食材見つけたの全部鳴海くんだし荷物だって全部持ってくれてます」
「わ、わかったから、そんなに近づかないでくれなんか、怖い」
まったく、こいつは、まぁいいか。東風谷は話していて楽しいしな。
「それじゃ東風谷行こうか」
「はい!!」
それから東風谷と話しながら帰り道を歩いていった。
ちょうど家の近くにある公園に差し掛かった頃。俺は足を止めた。
「鳴海くんどうしました?」
「ん?いや公園で子供が遊んでるなって思って」
「そうですね、鳴海くんは子供好きなんですか?」
「そうだな、好きか嫌いかで言ったら好きに入るな」
「そうですか、それはどうして、なんですか?」
「子供ってさ、すごく純粋なんだよな。だから、俺はそうゆうところが好きなんだ」
「なるほど」
俺たちは二人で公園で遊ぶ子供を眺めていた。
つっても俺たちは公園の向かい側にいるのだ、こんなところで長くいても、おかしな人だと思われるだけだから、そろそろ行こうかと思った矢先に、ひとつのボールが転がってくるのがみえた。
「ありゃ、あれは道路に出るな」
すると、後ろからボールを追っかけて来たと思われる女の子が走ってきた。
だが、ボールは既にガードレールの下をくぐり道路に出ていた。
「な!」
「え!」
なんと!その子はガードレールをくぐり始めたのだ、そして、そこにトラックが少女に向かって来てるではないか。
しかも最悪なことに運転手はよそ見をしていて女の子に気づいてない。
「くそ!東風谷荷物見ていてくれ」
「え?何するの鳴海くん」
「決まってるだろ!あの子を助けに行くんだよ!!」
そう叫び俺はガードレールを飛び越えその子の元に向かった。
そしてもう少しで少女に届きそうな時。
「え?」
俺は肝心な時に足を絡めてしまったのだ、そして少女に向かって倒れていった。
「マジかよなんで俺はこんな時に・・・・・こうなったら!」
俺は少女を抱き抱えながら体を捻った。
「東風谷!!受け取れ」
「え?きゃ!!」
俺は東風谷に向かって少女を投げた。
東風谷は後ろに倒れながらも少女をキャッチした。
「ナイスキャッチ」
俺はそう言い向かってくるトラックを見た。
(はは、本当。俺らの家族って不幸だな)
ぶつかる。そう思った瞬間に声がした。
「鏡夜くん!!」
(ああやっちまったな、まさか最後に女の子を泣かせてしまうなんて)
東風谷は泣いていた、本当に悲しそうな顔だった。
そして俺は目の前が真っ暗になった。