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73.そうだ、海へ行こう!

 


「アキと話してると、本当に楽しいね」

「そ、そうか?」


 満面の笑みを浮かべながら俺に話しかけてくるレッド…レドリック王太子に、俺は頬をヒクつかせながらそう答えた。なんだろう、背筋に悪寒が走るんだが…


 最近この男は、エリスに関係ないことでもよく話しかけてくるようになった。なんとなく嫌な予感がしてるんだが…もしかしてこいつ、俺に惚れてたりしないだろうな?

 いやいや、そんなことがあるわけがない。だって俺はごく平凡で地味な眼鏡っ娘だぜ?そんな俺に、天下のブリガディア王国の王太子が惚れることなんてありえないよな?

 必死こいて自分にそう言い聞かせようとするものの、不安な気持ちは膨らむばかりだった。



「…どうしたんだい?アキ。なんだかぼーっとしているみたいだけど。もしかして熱でもある?」


 爽やかスマイルを浮かべながら、そっと俺の額に手を当ててくるレッド。うぎゃー!やめてくれ!俺は慌ててヤツの手を振り払った。


「だ、大丈夫だ!急にそんなことしてくるなよ!」

「あ、ご、ごめん。アキのことが心配になって…」


 いかん、こいつはマジでやばいな。

 俺に対して変な態度を取るという意味では”カノープス”という先例があったんだが、あいつの場合はなんとなくわざとやっている節があった。だけどレッドは違う。こいつは…素でやっている。


 まいったな、どうしたもんだろうか…

 レッドへの対応について困り果てた俺は、しかたなく周りにいるやつらに相談してみることにしたんだ。







 俺が最初に相談したのは、”魂の盟友”カレン姫だった。


「うーん、なんというか…ご愁傷様って感じだね。でもさ、アキの気持ちはわかるよ。ぼくも何度か酷い目に遭ってきたからさ」


 いや、こんな気持ち分かり合いたくなんかないし!

 …あ、でもちょっと待てよ。冷静に考えてみると、俺よりもカレン姫のほうが男から言い寄られるのに慣れてそうだな。であればここは…言うなればその道のプロであるカレン姫に、俺と代わってもらえば良くないか?おお、こいつは我ながら良いアイディアだ!

 そう確信してカレン姫に提案してみたら、この世の終わりみたいな顔をされて猛烈に拒絶されちまった。

 …チッ、ケチなやつめ。どうせ減るもんじゃないんだから、もう一人くらいついでに引き受けてくれても良いのにさ!



 続いて相談してみたのは、魔族の少女プリムラだった。


「さすがはアキ様です。大国の王太子を手玉にとるとは、拙者感服つかまつります」


 いやいや、そんなつもりぜんぜん無ぇーよ!そもそも俺は色仕掛けなんて絶対使わないし!

 ったく、これ以上話しても精神的に疲れそうだったので、俺は早々にプリムラとの会話を打ち切ることにしたんだ。





 あーあ、まいったなぁ。俺は一人でブラブラ散歩しながら、ふぅとため息をついた。

 …予想通りというか、なんというか。やっぱり参考にならない回答ばかりだった。まぁそれも仕方ない、まともに相談できそうな相手が一人も居なかったのだから。

 だってさ、さすがにエリスにこのネタは相談できないだろう?おまけにティーナはまだ旅から帰ってきてないし…その他のメンツは論外だ。


 あとは…やっぱりスターリィかな。

 正直スターリィはヤキモチを妬きそうだからあんまり相談したくなかったんだけど、ことこうなってくるとさすがに背に腹は変えられないかなぁ。



 そんなことを考えながら学園内を一人歩いていると、偶然…あまり目立たないところにあるベンチに座るスターリィの姿が目に飛び込んできた。


 おぉ、ちょうどよかった!さっそくスターリィに相談してみることにしよう。

 そう考えた俺は、駆け足でスターリィに近寄ろうとして…彼女の横に別の人物がいることに気づいた。慌ててすぐに木の陰に身を隠す。


 彼女の横にいたのは、青いネクタイをした爽やか系イケメン…3回生のアークトゥルス先輩だった。彼の足元には、灰色の毛並みで大きな牙を持った巨大な狼が行儀よく座っていた。あれが噂の”剣牙狼サーベルウルフ”とかっていう、アークトゥルス先輩が使役している魔獣かな?



 二人は何やら真剣な顔で話をしているようだった。息を潜めながら近寄った俺は、こっそりと聞き耳を立てることにしたんだ。

 …だってさ、何話してるか気になるじゃん?



「…スターリィ。俺じゃダメなのかな?もしかして俺が”魔獣使い”だっていうのが、君には受け入れられなかったりする?」

「いいえ、決してそういうわけではないんですけど…」


 ドキッ。いきなり耳に飛び込んできた二人の会話に、俺は胸の奥に鋭い痛みが走るのを感じる。もしかしてこれは…スターリィが告白されているのか?


 でも、告白したくなるアークトゥルス先輩の気持ちは分からないでもない。

 そうだよなぁ…スターリィは可愛いもんなぁ。たしかにカレン姫やティーナみたいな”絶世の美女”とまではいかないけど、普通に美少女だしスタイルは良いし性格も良いしおっぱいはでかいし…

 もし前の世界で出会ったら、たぶん会話することすらできないくらい、俺には敷居の高い存在だっただろう。なのに、今の俺はスターリィがすぐそばにいることが当たり前だと思ってて、それに甘えてて…



 俺がいろんなことを考えている間にも、二人の間の会話は進んでいた。


「俺はスターリィと…付き合いたいと思っている。俺では…ダメだろうか?」

「アーク先輩…」


 熱い眼差しでスターリィを見つめるアークトゥルスというスケベ野郎。こいつ、俺のスターリィになんてことを言いやがるんだ!

 だけどスターリィもすぐに返事を返さず、すっと下を向いてしまう。おいおいスターリィ、なんですぐに返事を返さないんだよ!思わず声が出そうになるのを、俺は必死で堪えた。



「スターリィ。俺は…君のことが好きなんだ」

「っ!?」


 素早くスターリィの手を取り、ギュッと握りしめるアークトゥルス先輩。その瞬間、俺の脳の中で何かが弾け飛びそうになった。くそっ!なにしてるんだスターリィ!早くその手を振り解けよ…っ!


 しばらくの間アークトゥルスにされるがまま手を握らせていたあと……スターリィはゆっくりとアークトゥルスの手を押し返した。一瞬悲しそうな顔を浮かべるアークトゥルス。ぐふふっ、ざまーみやがれ!



「…アーク先輩。ごめんなさい、あたし…」

「…すまないスターリィ。どうやら俺が急ぎすぎたようだ。返事は今すぐでなくても良いから…ただ、俺が真剣な気持ちで言ってるってことは分かってほしい」

「……はい、それはわかっています」

「…それじゃあ、また」


 最高にムカつくイケメン、アークトゥルスの野郎は、最後にそう言うと”剣牙狼サーベルウルフ”をひと撫でして一緒に立ち去っていった。あとには…ふぅと大きなため息をついて、自分の手のひらを見つめながら呆然とするスターリィだけが残された。



 そんなスターリィの姿を見て…俺は最後まで声をかけることができなかったんだ。











 ********










「海に行こう!」


 そう言いだしたのは、つい先日旅から帰ってきたばかりのティーナだった。

 こいつ、どこに行っていたのかは一切口を割らないくせに、どの面下げてそんなことを言い出すのやら。


 だが、提案自体はなかなか良いものだった。なにせ海だ。海といえば水着だ。水着といえば…パラダイスだ!


 それにしてもティーナのやつ、夏や暑いのが大っ嫌いなくせになんでこんな提案をしてきたのだろうか。意外に思ってエリスに聞いたところ「なぜかティーナは海が好きなんだよねぇ…」とのことだった。


 ま、いいか。スターリィやエリスの水着姿を見れるってなら、それはそれでアリかな。カレンの水着は…どうなるんだろうか。ちょっと怖いもの見たさで見てみたい気持ちもある。


 でもさ、俺たちみたいな学生が、勉強ほっぽりだして海とかに遊びに行って大丈夫なのかな?

 気になってティーナに問いただしてみると…


「そんなの大丈夫に決まってるだろう?そもそも校舎の中に閉じこもりっぱなしってもの精神衛生上良くないしね。ボクらもたまには息抜きが必要なんだよ…ふふふっ」


 いつになくハイテンションのティーナが、もっともらしいことを答えてくれた。


 確かにティーナの言うとおりだよな。気分転換にもなるし、最近モヤモヤしていたのもあったので、結局俺はティーナの提案に飛びついたんだ。








 ---







 そんなわけで俺たちは、ユニヴァース魔法学園から馬車で半日ほどの場所にある、小さな湾状になったビーチに来ていた。学園からは少し距離があるので、今回は一泊二日のちょっとした旅行気分だ。



 それにしても今回の旅の参加メンバーはなかなか豪勢だった。


 まず…ハインツ勢からはハインツの双子、カレン姫にミア王子と、その侍女二人。

 我らが『星覇の羅針盤ヴァルハラ・コンパス』チームからは俺、スターリィ、ボウイ、カノープス。おまけでナスリーン。

 それからティーナにエリス、そしてプリムラもついて…ぜんぶで10名+侍女2名だ。



 このうち男は、なんとたった3人しかいないのだ!しかも純粋な男という意味では、カノープスとボウイしかいない。ほかはぜーんぶ女の子だ。…微妙なのもいるけど、まぁあえてそこはカウントしない。


 圧倒的女子率を占めるこのメンバー。なんとも華やかなプチ旅行になったものだ。







 今回の旅行で俺たちが滞在するのは、外界からの視線が完全にシャットアウトされたプライベートビーチを所有する大型の貸別荘だった。なんでも双子の侍女であるベアトリスが手を回して、他の一般客が絶対に来ない場所を探してくれたらしい。さすがは優秀な侍女さんだ、こういうときはすごく助かる。

 あ、ちなみに今回の費用はぜんぶハインツ持ちだそうだ。ありがとう!持つべきは金持ちの友達だぜ!





「うーみーっ!!」


 海が視界に入ってきた瞬間、嬉しそうに声を上げて最初に駈け出していったのはミア王子だ。続けてティーナが追いかけるように海に向かって走っていく。元気だねぇあいつら。それにしても、こんなに子供っぽいティーナは初めて見たよ。



「しまった!先を越されたぞ!」

「おーし、ウチらもいくでぇ!」


 先行する二人に触発されたのか、ボウイとナスリーンも追いかけるように一気に海へと駆け出していく。あーあ、さらにバカが増えたよ。


 呆れた視線で服のまま海に入っていく愚か者どもの姿を追っていると、俺と同じように呆れた顔をしているものが他にも2名ほどいた。もちろんそれは…カレン姫とエリスだった。


「子供だなぁ…」

「子供ねぇ…」

「子供かよ…」


 異口同音に呟きながら、俺たちはまるで子供を見守る保護者みたいな目線で、きゃいきゃいはしゃいでいるティーナたちの姿を見守ったんだ。









 今回の旅行最大の見せ場は…言わずもがな、女性陣の水着姿だ!男の水着?んなもんどーでもいいね!

 実は…今日という日に備えて、各自が街に出て水着を新調していた。その中には当然俺も含まれてるんだが、俺についてはこの際どうでも良い。注目すべきは、綺麗どころのあられもない姿さ!



 ってなわけで、ここからは俺が全員の水着姿を解説させて貰おう。


 ちなみに俺だが、あまり自慢できるバディじゃなかったので、青い色で大人し目のセパレート水着を着ている。実はこれ、先日スターリィと一緒に街に行って買ってきたものだ。これだったら見られてもそんなに恥ずかしくないし、案外可愛らしいんだぜ?





 …さて、それではこれから各乙女たちの解説に入ろうと思う。まずは…我らがスターリィ!

 一緒に買いに行ったから実はどんな水着か知ってるんだけど、やはりお店で試着したのを見るのと実際に海で見るのは雲泥の差があった。

 ピンク色が主体となったビキニタイプの水着を着たスターリィは、反則級に可愛かった。もちろんただ単に可愛いだけじゃい。パレオ付きスカートからときどきチラッと覗くお尻と、ひらひらのついたブラからはち切れんばかりの存在感を見せる胸が、思わず生唾を飲み込んでしまうくらいセクシーだったんだ。


「ちょ、ちょっとアキ。そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいですわ!」


 ついガン見してしまっていた俺に文句を言ってくるスターリィだけど、文句を言いたいのはこっちのほうだ。まったく、なんというわがままボディだ。実にけしからん。




 …あーゴホン。では次のメンバーの解説に移ろう。

 今回のメンバーの中で一番大胆な水着を着てきたのは、なんとナスリーンだった。情熱的な赤色の…面積が少なめのビキニを装着していやがる。まさかナスリーンがこのメンバーに対して色気で勝負してくるとは思わなかったよ。


「なぁボウイ、ウチの水着どう?」

「…あ、あぁ。わ、悪くないんじゃないか?」


 色っぽいポーズで誘惑するように話しかけてくるナスリーンに対しては、さすがのボウイもたじたじだった。こいつら、なんだかんだでいい感じになってきてないか?




 お次は”魔族の少女”プリムラだ。なにげに彼女もスタイル良いから、ちょっと期待できる…と思っていたんだけど、俺の思いは悪いほうに裏切られることとなった。


「拙者、海というものを見るのは初めてでございます。なんというか…綺麗なものですね」


 初めて見るという海を眺めながら感嘆の声を上げるプリムラ。だけど、なぜか彼女は競泳用のようなワンピースの水着を着ていた。はっきり言って色気もクソもない。

 残念だ、残念すぎる。けっこうスタイルが良いだけに、あれはちょっともったいないよなぁ。


 呆れた視線でプリムラの姿を眺めていると、カノープスに気付かれてしまった。あいつも「困ったもんだよね」というふうなジェスチャーをしてきたので、たぶん同じようなことを考えているのだろう。

 カノープスよ、もしそう思っているんだったら、次回からは同じミスをしないようにちゃんとフォローするんだぞ?





 さぁ、ここまではオードブルだ。このあといよいよ…本日のメインディッシュの連続登場となる。

 まずは…エリス!


「私…変じゃないかなぁ?」


 そう口にしながら着替えて出てきたのは、黄色い色のかわいらしいフリルが付いたセパレートタイプの水着を着たエリス。思わずドキッとしてしまったので、正直に「とっても似合ってるよ」って伝えると、急に顔を真っ赤にして照れてしまった。その反応がなんとも初々しい。でもお世辞抜きでエリスの印象イメージにマッチしてすごく可愛らしかった。

 ふふふっ。エリスは決してスタイルが抜群というわけではないんだけど、それが逆に良い感じに作用してて堪んないよなぁ。



 エリスに続いて登場したのは、一番不安だった…カレン姫!

 なんと彼女…じゃなく彼が着てきたのは、ノースリーブの丈の短いワンピースのような上着に、下はショートパンツというタイプの水着だった。ギリギリまで男っぽい水着に挑んできながら、それでいてめちゃくちゃ可愛らしく変身している。こいつが男だってわかっている俺でも、思わずグッと来てしまうほどだ。こいつ…本当についてる・・・・のか?


「へー、カレンがそんな感じの水着で来るとは思わなかったよ。よく似合ってるな?」

「うん、ありがとアキ。これタンキニっていうタイプの水着なんだ。これだったらぼくでもギリギリ我慢できるんだよねぇ」


 そう言いながらもカレン姫の視線は、すでにエリスのほうに向けられていた。…なんちゅうか、ほんと分かりやすいやつだな。



 一方、双子の片割れのミア王子のほうは、カレン姫とよく似た短パンタイプのボーイッシュな水着にロングTシャツといういでたちで登場してきた。どういうわけか、胸の部分もぺったんこになっている。あれは…サラシでも巻いてるのか?それとも…素?


「いやー、太陽が眩しいねぇ!たまんないねぇ!」

「あんまり焼きすぎるとあとで後悔するからね?あとちゃんとお肌のケアするんだよ?」

「うっさいなぁ。んな女々しいことやってられるかよ!ひゃっほぉーい!」


 …とまぁ、カレン姫の忠告を受け入れることなく、ミア王子はダッシュで海に飛び込んでいった。カレン姫とは間逆のミアおてんばについては、最近どうも男の子にしか思えなくなってきたぜ…あいつあんなんでお嫁に行けんのかな?




 そして…最後に登場したのが、言い出しっぺのティーナだった。

 実は俺は密かにティーナの水着姿を一番楽しみにしていたんだ。この前ちょっとした手違い・・・で下着姿を見てしまったんだけど、胸以外はスタイル良かったんだよなぁ。

 ところが…


「あぁ、期待に添えなくて悪かったね。ボクは海を見るのは好きなんだけど、泳ぐのは大キライなんだ」


 なんとティーナのやつ、水着ではなくおきて破りの"麦わら帽子にワンピース姿"で登場しやがったんだ!

 なんだよそれ、完全に裏切りだろう!絶対に許せない…期待していた俺のワクワクを返せよっ!



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