64.結成!『白銀同盟』
「えーっと、要約すると…お二人のお母様であるヴァーミリアン様からややこしい精神魔法をかけられてしまった、と。それで、カレン王子は男らしくしようとすると”可憐に失神”して、ミア姫は女らしくしようとすると”熱血に燃える”ようになったので、仕方なく入れ替わって生活している…と。そういう理解で良いかな?」
俺の確認に、コクコクと首を縦に振るカレン姫。鬼気迫る表情で頷く彼女…いや彼は、どうしても俺たちに『仕方なく女装をしてるんだ』ってことを理解してもらいたかったらしい。
まぁそうだよな、女装が趣味だなんて思われたりしたら、俺だったら立ち直れなくなるかもな。
とはいえ、最近ナチュラルに女性用下着を装着できるようになった俺に対して、カレン姫はまだそこまでの境地に達していないようだ。
ふっ…まだまだだな、カレン君。悟りへの道は遠いぞ。
「しっかし、驚いたけど…なんちゅうか極悪な魔法だな?君らの母上は君たちになにか恨みでもあるの?仮にも七大守護天使…『塔の魔女』ヴァーミリアンと呼ばれるお方だよね?」
オブラートに包むことなく発された俺の質問に、双子は揃って微妙な顔をした。ついでに横にいるエリスも苦虫を潰したような表情を浮かべているところから察すると、どうやらヴァーミリアン王妃はかなりやっかいな性格の人のようだ。
…七大守護天使にもいろんな人がいるみたいだな。
「…お、お二方の厳しい状況は分かりましたわ。あたしはこれでもアキのような人とそれなりに長く付き合ってきていますので、比較的人の趣味には理解がある方です。それが、たとえ女装や男装が趣味でも…」
「ちょ、スターリィ!?」
「ふぇぇ!?」
双子の話をそれまで黙って聞いていたスターリィが、ここにきていきなり爆弾を投下してくれた。おいおい、俺がこんなナリをしてるのは趣味じゃないっちゅーの!
天然少女スターリィが放った爆弾の威力は計り知れなく、カレン姫の精神に大きなダメージを与えたようだ。
「ぼく…趣味じゃないのに…」
クラクラしながら頭を抑えるカレン姫を、エリスが必死に宥めていた。なんかあそこの関係も大変そうだな。
その後…相変わらずイケメンなミア王子と気を取り戻したカレン姫から、それぞれの固有魔法…『天使の歌』の特徴を聞くことになった。
ちなみにカレン姫のほうが【月】をイメージした防御系の電撃能力で、ミア王子(男装した姫)のほうが【太陽】をイメージした攻撃系の電撃能力とのこと。
二人とも電撃系ってのは、やっぱり母親のヴァーミリアン王妃が電撃が得意だからかな?
「以上でうちらの説明はお終いかな?あー、さっさと話してスッキリした!」
「そりゃ姉さまはスッキリしたかもしれないけど、こっちにも心の準備をする時間が欲しかったよ…」
ゲッソリとしてしまったカレン”姫”が、姉であるミア”王子”に恨みがましい視線を投げかけていた。どうやら彼は、母親だけでなく姉からもずいぶんと苦しめられているみたいだった。可哀想に…ますます彼への同情心が高まっていくよ。
こんな感じで双子の説明が終わったところで、今度はエリスの事情説明が始まった。
「私の方は…たいした話はないんですよ。もともとブリガディア王国の中流貴族の一人娘として生活していたんですけど、あるとき家を飛び出して、そこにいるティーナのお店で働き始めたんです。
その際、実は両親と血の繋がってないことと、魔法の素質があることがわかって…紆余曲折あった結果、ティーナに助けられて”天使”へと覚醒したんです。もっとも、そのせいで実家と縁を切ることになってしまったんですが…」
へー、可愛い顔してエリスもなかなかヘビーな人生を歩んで来てるんだな。なんだか裕福な家の出を彷彿とさせる穏やかさを感じていたんだけど、貴族のお嬢様だったとはねぇ。
…ガタンッ。隣でスターリィが物音を立てる音がした。
どうしたんだ?と思って横に視線を向けると、スターリィが目をまん丸にして驚愕の表情を浮かべていた。
…あー、そっか。スターリィはエリスが”天使”だったことを知らなかったんだな。そりゃあこんな平凡そうな子が”天使”だって聞いたら、誰だってビックリするだろう。
「…そのあと、ティーナがこの学園に編入した際に、ご縁があって私はカレンとミアの家庭教師になりました。半年ほどハインツの王城で過ごしたあと、二人と一緒にこの学園に来ることになったんです。先ほどの話にあった通り、二人には色々と複雑な事情があったので、二人の学園生活を少しでもサポートするのが私の役目…ですかね?」
少し照れ隠し気味にそう口にするエリスに、感謝の気持ちのこもった視線を投げかける双子たち。特にカレン姫は感謝もひとしおのようだ。まるで恋する乙女のような視線をエリスに向けていた。
「あっ、そうだ。私の天使の力…『天使の歌』なんですが、【鍵】にまつわる能力になります。覚醒したのが最近な上、モノが“鍵“なので、イマイチまだ使い方がよく分かってないんですけど…どうやら色々なものに鍵をかけたり、逆に解錠したりできるみたいです」
へー、すごいな。だったら泥棒やりたい放題じゃないか?そんなことを考えてたら「でも、私は勝手に他人の家や物の鍵を開けたりはしませんからね?」と即座に釘を刺されてしまった。
…ちぇっ、便利そうな能力だと思ったんだけどなぁ。
エリスの話を聞いて、俺が最も知りたかった…エリスとティーナや双子との関係性は理解することが出来た。ティーナとエリスは『店主とアルバイト』、エリスと双子は『家庭教師とその生徒』という関係だったみたいだ。思ってたよりも普通の関係だった。
それにしても、ティーナとエリスが働いてた店か…一体どんな店だったんだろう?
飲食店とかだったら行ってみたいなぁ。たとえばフリフリの制服とか着てて…むふふっ。
「ちなみに、うちの店はただの”魔法屋”だからね。変な店と勘違いしないように」
おーっと、ティーナに釘を刺されてしまった。こいつ、人の心が読めるのか?
「さて、じゃあうちの店の話も出てきたみたいだし…次はボクの話かな?」
そう宣言すると、波打つ黄金色の髪をかきあげながら、今度はティーナが自身のことを語り始めた。
「まず、ボクは10歳よりも前の記憶が無い。正確にはあるけど”封印”されているんだ」
ふ、封印!?
それは…どういう意味だ?
「文字通り“封印“だよ。デイズおばあちゃんに魔法で封じてもらってるんだ。一応記憶解放のためのキーワードは教わってるんだけど、おばあちゃんの遺言に従って18歳まではこのままでいようと思ってる」
…おいおい、いきなりヘビーな話だな。たぶんティーナの過去は、彼女が大人になるまでは封じた方が良いと思えるほど過酷なものだったんだろう。
それほどの対応を迫られるほどのティーナの過去って、一体どんなのなんだ?
「それで、10歳以降はデイズおばあちゃんが経営する魔法屋で育てられたんだ。…15歳の時、おばあちゃんが何者かに殺されるまではね」
ハッと、隣でスターリィが息を飲むのが聞こえた。
「…それ以来、ボクはデイズおばあちゃんを殺した犯人を探している。黒髪の女悪魔だってことだけは判ってたんだけど…今回の件のおかげで、おばあちゃんの仇が『解放者』ってやつだってことがほぼ判明した。わざわざこの学園に来た甲斐があったってなもんだよ」
「えっ!?そうだったの!?」
「ああ、エリス。本人の姿を確認しないと確定できないけど…ミザリーが口走った話を聞く限りは間違いないと思う」
まさか、ティーナが追い求めていた仇が、例の魔本をばら撒きまくってる『解放者』だったとは…
真っ先に驚きの声を上げたエリスに、優しげな表情で語りかけるティーナ。それだけで二人の関係がただの友人では無いことを読み取ることが出来た。
それにしても、分からないのは『解放者』の行動。
なぜ『解放者』は、デイズばあさんを殺した?なぜ魔本『魔族召喚』を世界中にばら撒く?なぜ…この学園にちょっかいをかける?
疑問はたくさんあるものの、一つはっきりしたことがある。俺にとってもティーナにとっても、『解放者』が『宿敵』だってことだ。
「あと、ボクの天使の能力は『扉』にまつわるものだ。対悪魔に特化した力を発揮することができる」
「ええっ!?あ、あなたも”天使”でしたの!?」
次々と浴びせられる彼女たちの情報に、もはやショックを通り越して全身を震わせてしまっていたスターリィが、ティーナまでもが天使と聞いて、思わずといった感じで声を上げた。
「ああ、そうだよ。この場には”天使”もしくは”天使級”の人しか居ないんだ。10代の天使がこんなにゴロゴロしているのが、キミにはショックなのかい?」
「あ…いえ、そういうわけでは無いんですけど…ということは、そちらの黒髪の女性も”天使”なのですか?」
スターリィが確認する視線の先に居たのはプリムラ。それまで優雅な姿でコーヒーを口にしていたプリムラは、ティーナのほうに向かって軽く頭を下げると、話を引き取った。
「拙者は…天使ではございません。魔族でございます」
「ま、魔族…」
「はい。拙者の名前はプリムラ。スターリィ様ご一家に大変お世話になったパシュミナの妹にございます」
プリムラの名前を聞いて、スターリィが「あっ」と驚きの声を上げた。どうやら彼女の正体に気づいたようだ。
「あなたが…無事だったのですね?」
「はい。スターリィ様の兄上であるレイダー様や、ここにいる”大天使”ティーナ様、エリス様、カレン様、ミア様のご尽力により、拙者正気を取り戻すことあいなりました」
「それは…本当に良かったですわね」
心の底から嬉しそうにそう言うスターリィ。たぶんあのとき兄であるレイダーが「俺がやる」と言ったから任せたところはあるだろうけど、スターリィもそれなりに気にしてたんだろうなぁ。
「拙者は幼き頃より、魔族でも有数の武門の娘として恥ずかしくないように、『忍』としての修行を積んで参りました。残念ながら拙者には姉パシュミナのような【魔武具現化】は出来ませんが、代わりに【忍法】という技を使えます。それがこちらです」
突如、プリムラの身体が五つに分裂した。呆気にとられるスターリィの前で、五体のプリムラがテーブルをグルッと一周したあと…またひとつに戻っていく。
「これが拙者の忍法のひとつ、【分身の術】です」
「は、はわわ…」
あらら、スターリィさんビックリしすぎて変なこと口走ってるよ。それにしてもあの分身の術、どんな原理で分裂してるんだろうか?明らかに実体のある分身のように見えるんだけどさ。
少しだけ乱れた黒髪を手で撫でつけながら、再び席に着いたプリムラ。これで向こう側のメンバー全員の説明が終わったことになる。
「さーて、これでこちら側の説明は大体終わったかな?」
「いや、まだ肝心なことを聞いてない」
話を終わらそうとするティーナに、俺はすかさず釘を刺した。
そう。俺が聞きたかったのは、彼女たちの過去や正体ではない。彼女たちの…目指そうとしている道の先にあるものだ。
「あなたたちの…目的は何なんだい?」
それこそが、俺が一番聞きたかったこと。彼女たちが何を目指し、何を成そうとしているのか。それを聞くまでは、安心して背中を預けることなんて出来ない。
俺の問いかけに、ティーナがフッと微笑んだ。
「…なにがおかしい?」
「ふふっ、いやいや。事前の予想通り、スターリィじゃなくてキミのほうが主導権を握ってるんだなぁって思ってさ」
おいおい、なんだよその誤解を招きそうな発言は?スターリィまで顔を赤らめてるし!
「いや、もともとこんな事件が起こらなくても、近いうちにキミたちとは話をしようと思ってたんだ。最初はスターリィのほうに話をしようかと思ってたんだけど…すぐにキミのほうが”実質的なリーダー”だってことは分かったよ」
あぁ、そういう意味か。あからさまにホッとした俺たちを見て、ミア王子が含み笑いを漏らす。おいおい、勘違いしなさんなよ、そこ!
「まぁいいや。ボクたちの目的だったね?まずボクの目的は…さっきも話したとおり、デイズおばあちゃんの仇を討つことさ。そのために、ここで力を手に入れようと頑張っている」
真っ直ぐに、俺の目を見つめながら復讐を口にする絶世の美女。とてつもなく重く苦しい宣言のはずなのに、復讐が神聖な行為のように感じてしまうのは、ティーナの発するオーラに気圧されているせいだろうか。
続けて、ティーナの横に座るエリスが宣言した。
「私は…ティーナの親友として、彼女を止めるために此処にいます。出来るのなら、復讐なんてものは忘れてほしいんだけど…それが叶わないなら、できるだけティーナの側にいて最悪の事態だけは避けるよう力になりたい」
エリスの堂々としたティーナ阻止宣言に、一番驚いていたのはティーナだった。どうやら本人から何も話しを聞かされてなかったんだろう。
「エリス、キミは…」
「ティーナ、どうせあなたは何を言っても聞かないでしょ?だったら私も勝手にさせてもらう。私は…私の意思であなたを止めてみせるからね?」
なんだろう。この二人はきっと他人には入り込めないような深い絆があるんだろうな。そう感じさせる二人のやり取りだったんだ。
最後に、超絶美少年&美少女であるカレン姫とミア王子が、目的を話してくれた。
「そして…ぼくと姉さまは、そんなエリスをフォローするためにここにいるんだ。エリスにとってのティーナがそうであるように、ぼくたちにとってもエリスは…大切な存在だからね」
「まぁ、こいつの気持ちとあたしの気持ちは若干違ってるけどね。概ね同じ考えだよん」
「カレン…ミア…」
そんな二人のことを、エリスが泣きそうな顔で見つめていた。
復讐に突き進もうとするティーナと、それを阻止して平和な道へと歩ませようとするエリス。
それが、今回判明した彼女たちの構図だった。
なんだろう…この人たちは、本当に優しい心の持ち主たちばかりなんだな。目の前で繰り広げられる『思いやり』の連鎖に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
エリスたちがいれば、きっとティーナも安易に復讐なんて出来ないだろうな。その方が俺も良いと思う。復讐なんてものは、不幸しか産まないから。
この先もしかしたら、『解放者』と決定的な決着を付けなきゃいけない場面が出てくるかもしれない。そのときは…たぶん、俺の出番だ。
穢れなき心を持った彼女たちに、俺は人の命を狩るような酷いことをさせたくない。『人殺し』の悪名を被るものがいるとするならば、それは…既に手を汚してしまっている俺のほうがいいんじゃないかと、このとき強く思ったんだ。
ほんわかとした空気が流れる中、俺の横に座っていたプリムラがスッと片膝をついた。きっと彼女も俺と似たようなものを感じたのだろう。
「拙者もエリス様と同様に、ティーナ様をお守りし、時にはその刃となるためにこの学園に入学してまいりました。もっとも、新たなる『魔王』たるアキ様の熱き魂に触れ、その志に付き従う思いもございますが…」
「え?新たなる魔王!?アキってば、いつから魔王になったんですの?」
「いや、なってねーから」
感極まるのは良いんだけど、誤解を招くような発言は謹んでもらえないかな、プリムラくん。おかげで俺はスターリィから若干白い目で見られてしまったよ…
困った表情を浮かべる俺を、ククッと笑いながらティーナが助け舟を出してくれた。
「アキが【魔王】というのは中々面白そうな話だね。…さぁ、これでボクたちのことはだいたい話し終わったよ。そしたら今度はキミたちの番だ。キミたちのことを…ボクらに教えてくれないか。
なぜキミは、この学園に居るんだい?キミたちは…何をしようとしている?そして…なんでキミは【魔王】などと呼ばれてるんだい?」
俺は、スターリィと視線を交わして頷き合った。彼女たちなら…たぶん大丈夫だ。仮に裏切られたとしても、後悔は無い。
俺たちは覚悟を決めると、ティーナたちに自分たちのことを話し始めたんだ。
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先に説明したのはスターリィだった。彼女自身の能力についてや俺との出会いなんかを説明したものの、ティーナたちから特段大きな反応は無かった。まあスターリィはそこそこ有名人だからね、彼女らも事前にある程度知ってたんだろう。
そしていよいよ最後に…俺の話の順番になった。
俺は少し悩んだものの、基本的に問題無い範囲については説明することにした。
異世界から来たこと。ゾルバルとの出会いと別れ。俺の忌まわしい能力。魔本との宿命。そして…俺の旅の目的を。
その結果待ち受けていたのは…5人それぞれの反応だった。
「…い、異世界からの召喚者ぁ!?」
目ん玉が飛び出そうな勢いで、ミア王子が驚愕の声を上げた。そ、そんなに驚かなくても…
「元・男のひとっ!?」
カレン姫のほうが、歓喜の声を上げる。おいおい、あんたは食いつくのそこかよ!
「狂った魔族を召喚する魔本『魔族召喚』を、この世界から滅する遺志…でございますか…」
プリムラが感慨深げに呟く。そっか、そうだろうな。魔族にとってはこんな悪どい魔道具が存在してたんじゃ堪んないだろうからな。
「行方不明の親友であるサトシさんを探す旅…ですか」
友達想いのエリスらしく、彼女はサトシのことを気にかけてくれているみたいだった。
「他人の能力を魂ごと喰らう能力、ねぇ…。もしキミ以外がその能力を持ってたら、すごく厄介だったかもね。他でも無い…キミで良かったよ」
なぜか妙に優しい口調でティーナがそう口にした。どうしてだ?どうしてそんなことを言える?
「だってキミは、あのとき…その能力をミザリーに対して使うのを躊躇しただろう?相手が悪魔であっても躊躇うキミくらい甘ちゃんじゃないと、そんな禍々しい能力は使わせられないよ」
そうか…俺は甘ちゃんなのか。だけどなんとなく、その評価が彼女なりの”褒め言葉”であることはなんとなく分かった。
今後とも、ティーナのその評価を覆さないような存在でありたいな。
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一通りお互いの説明を終えたところで、気分転換にとエリスが紅茶を淹れてくれた。
これがビックリするくらい美味しくて、思わず「うまっ!」と口走ってしまった。
「美味しいでしょう?エリスの淹れる紅茶は最高なんだよ?」
「そうそう、ボクなんて朝イチにこれを飲まないと目が覚めなくて困るんだよ」
「あはは、カレンもティーナも褒めすぎだよ。こんなの趣味の延長線上なのに…」
仲良さげに話す3人の様子に、思わずホッコリしてしまう。なんというか、生い立ちや地位なんか関係なく仲良くしてる様子ってのは、本当に素晴らしいよな。
俺の視線に気付いたミア王子から、「お互い敵にならなそうで良かったね」と言われてしまった。うん、本当にそう思うよ。
横を見ると、既にスターリィの警戒心も消えているようで、微笑ましい3人の様子を目を細めて眺めていた。
どうやらこの会合は大成功だったみたいだな。
美味しい紅茶とお菓子を口にしながら、互いに少しずつ打ち解けて会話も始まってきている様子に、俺は安堵の吐息を吐いた。近いうちにカノープスやボウイも紹介してやるかな?
やがて雑談が落ち着くタイミングを見計らったティーナの口から、彼女の考える今回の事件に関してのあらましが述べられた。
「そしたら、これまでボクが得られた情報から判明した事項をみんなに共有しよう。
この学園には、最低でももう一匹の悪魔…『暗号機』という名の『解放者』の手下がいる。そして『解放者』は…何故だか分からないけど、”年若い天使”を監視したりしているようだ。
その理由は不明だし、なかなか尻尾を出さないから相手にしにくいんだけど…キミたちも油断しないでくれぐれも気をつけて欲しい。今のところ積極的に手を出してくる様子はないけど、いつミザリーみたいに仕掛けてくるか分からないからね」
その場に居る全員が、うんうんと頷く。全員が同意するのを確認した上で、ティーナの口から…本日集まった最大の目的とも言うべき、最後で最大の提案がなされた。
「それじゃあみんな、良いかな?
今日この場を以って、ボクたち7人の間で秘密を共有する特別な同盟関係が構築された。この同盟の名を…『ハインツの太陽と月』にあやかって【白銀同盟】と呼ぼう思う。
目指すべきゴールは異なるけれども、悪魔の好きにはさせないという一点において、ボクたちは無条件に手を結ぶことができるだろう。
そんなわけで…スターリィ、そしてアキ。これからよろしく頼むよ」
そう言って差し出されたティーナの右手を、俺とスターリィは順番に握りしめていった。ティーナの白くて細い手は、驚くほど冷たかった。
続けてカレン姫、ミア王子、プリムラと手を握りしめていく。
一番最後に、ニコニコと微笑むエリスと手を握り合った。
「ふふっ。アキに入学式の日に出会ったときから、こんな風に仲良くなる予感がしてたんだ」
「そうなんだ。私はエリスがこんなに凄い人だとは思ってなかったけどね?」
「えー、私なんて全然普通だよ?でもさ、あの日あの場所で出会ったのも、もしかしたら…なにかの運命だったのかもね?」
運命。
あんまりそういうものを信じたくはないんだけれど、このメンバーと手を組むことが運命なのだとしたら、そんな運命だったら受け入れても良いかな?
出会ったときと同じように素敵な笑顔を浮かべるエリスを見ながら、俺は「運命」とやらに感謝したんだ。
こうして…俺たちの間に結ばれることとなった【白銀同盟】。
この同盟は、俺のこの後の学園生活を劇的に変化させることになる。