62.魔族召喚
「あのバカっ!『魔族召喚』なんか持ってやがったのか!」
俺はミザリーのしでかそうとしていることを理解して、血の気が引くのを感じた。
すずっ。不気味な青黒い魔力が魔本から滲み出てきて、ミザリーの全身を包み込んでいく。
「アキ、キミはあいつが何をしようとしているのかを知っているのか?」
事態が掴めていないティーナが、ミザリーの異変に気付いて問いかけてくる。俺以外なにが起ころうとしているのかを理解していない。そうか、みんな『魔族召喚』のことを知らないのか。
「あの本は、魔本『魔族召喚』。ミザリーは、自分の命と引き換えに、魔界から新たな魔族を召喚しようとしてやがるんだ!」
俺の説明に、この場にいた全員の表情が凍りついた。
「あんな外道なもの…許せませんっ!!忍法【一・刀・両・断】!」
激昂したプリムラが、小刀を抜いて青黒いオーラに包まれたプリムラに遅いかかった。ぎぃぃぃん!という鈍い音が響き渡り、プリムラの刃は青黒いオーラに弾き返されてしまう。
「きゃはっ!あたしの命を捧げた“召喚術“なんだ。そう簡単に破れないわよーだ!」
「くぅっ!このっ!!」
血を吐きながら、壮絶な笑みを見せる悪魔ミザリー。プリムラが一心不乱に小刀を叩きつけるものの、青黒いオーラを突き破ることは出来無かった。
やがて…悪魔の叫びに呼応するかのように、魔本『魔族召喚』がより一層青黒く光を放つと、ミザリーの真上に回転する【渦】のようなものが出現してきた。その渦の中心に、暗く蠢く空間を見ることができる。
あの空間には…見憶えがある。あれは…俺がこの世界に飛ばされた時に通ってきた、転移空間そのものだ!
「そうか、悪魔どもはあんな方法を使って魔族を喚び寄せていたのか。もしかしてあれは…門魔法の一種か?」
「ちょっとティーナ!呑気に状況を分析してる場合じゃないでしょ?」
プリムラに代わって俺を支えてくれているエリスに怒られて、困ったような表情を浮かべるティーナ。いやいや、そんな救いを求めるような顔をこっちに向けられても、今のは場をわきまえていないお前が悪いと思うぞ?
「【三日月華】!」
「【太陽の女神の鉄槌】!」
動きが早かったのは、カレン王子とミア姫だ。ふたりが全力で『天使の歌』をぶつけているものの、魔本『魔族召喚』の放つ青黒いオーラを撃ち破ることができないでいる。それどころか、魔力ごと巨大な渦の中に吸い込まれいきやがった。
おいおい、魔力を吸収しちまうのかよ?そんなん…どうすりゃいいんだよ!?
そうこうしている間にも、ミザリーの頭上の渦が巨大化していった。
まずい、このままでは…新たな魔族の犠牲者が産まれてしまう。
洗脳すらされずに喚び出された魔族は、100%狂う。それが、これまで証明されてきた事実だった。
どんなに善良な魔族でさえ狂ってしまい、最期はその命を落としてしまう。
そして…1度狂って喚び出された魔族を、元に戻す方法は…無い。
ゾルバルが、命を懸けてまで避けたいと思っていた悲劇が、俺の目の前で始まろうとしていた。
俺の目の前で、新たな魔族が召喚されるという、最低最悪の事態。
そんな状況を黙って見過ごすことなんで…俺には出来なかった。
かといっても、今の俺はボロボロの状態。相手は、物理攻撃どころか『天使の歌』すら受け付けない始末。そんな【魔族召喚の儀】に対して、俺に出来ることは…
たった一つだけあった。
それは、レイダーさんの【絶対物理防御】や【絶対魔法防御】でさえも突き抜けるという、絶対無二の能力。
俺の固有能力…【新世界の謝肉祭】だ。
出来ることならば、二度と使いたく無かった方法。あまりの悍ましさと凶々しさから、俺自ら使用を避け続けていた能力。
でも…新たな犠牲者を産むくらいなら……
俺が、ミザリーを喰ってやる。
大丈夫、苦しむのは俺だけなんだ。俺だけで済むんだ。
たったそれくらいで済むのであれば…
ミザリーごと、俺が受け入れてやろう。
俺は、心の奥底に封じ込めた【人喰いの魔獣】に対して、ゆっくりと心の手を伸ばしていった。
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『ほぅ…必要ないときには封じたくせに、必要になったら無理やり呼び出そうとするなんて、貴様は随分と都合の良い輩なんだな』
ずずっ…。
心の一番奥の方に潜んでいた【人喰い魔獣】の痛烈な皮肉に、俺は思わず舌打ちした。
「だまれ。お前は…俺の能力なんだろう?だったら黙って主の指示に従ったらどうだ?」
『…ククッ。主、ねぇ…。まぁいい、貴様がそう思ってるなら、それでも別に構わないだろう。それで、彼奴を丸ごと喰えば良いのか?そんなに旨そうじゃないんだがな』
なんだこいつ?こんなにフランクに話しかけてくるヤツだったのか?
若干の戸惑いはあったものの、今はそんなこと考えている場合ではない。
「そうだ。さぁ…発動するぞ」
『ククッ。承知した、主よ』
ずずずっ。
黒く、目の前よ悪魔よりも禍々しい存在が、俺の中から表に出てこようとしていた。
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最初に…俺の異変に気付いたのは、ティーナだった。
「おい、アキ!キミは何をしようとしている!」
緊張感を含んだ声に、他の面々も俺へと視線を向ける。横に居たプリムラが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「アキ様…?」
「だ、大丈夫だ。これから私が…ミザリーの【魔族召喚の儀】を阻止する。私の能力があれば、丸ごと『消し去る』ことが出来るから…これ以上不幸な魔族を産んだりはしないよ」
「っ!?」
全身から悪魔以上に禍々しいオーラを発し始めた俺に、プリムラは言葉を失ってしまったようだ。
代わって、真剣な表情を浮かべたティーナが俺の方に近寄ってくる。
「アキ。よく分からないが、その能力はマズいんじゃないか?ボクにはキミが…キミの方があの悪魔よりも危険に感じるぞ?」
「…何も知らないやつが、余計な口を挟むなよ。そもそもあんたには、ミザリーの儀式を阻止することが出来ないんだろう?でもな、私だったら…それが出来るんだ。
私はなぁ…これ以上魔族や大切な人たちが、あのクソみたいな儀式に翻弄されるのを、黙って見てることなんて出来ないんだよ」
「…そうか。だけどアキ、それはまるで、眼の前の小事を片付けるために、より大きな問題を呼び起こすようなものじゃないのか?そうでないと、キミは言い切れるのか?」
「煩い!私にとっては、”魔族召喚”を阻止することが、他の何事にも優先するんだよ!
…なぁティーナ、ここまでは”お前たちの物語”だったんだろう?でもな、此処から先は、私の…”私たちの物語”なんだ。だから、邪魔しないでくれ。
邪魔するなら…お前も喰っちまうぞ?」
俺の語りかけに、ティーナはやれやれといった感じで大きく息を吐くと、完全に黙り込んでしまった。すると今度は、横に居たプリムラが俺に問いかけてきた。
「アキ様…あなた様はいったい…」
「私か?私は……ゾルバルの、大切な恩人の想いを受け継いだだけの、ただの人間だよ」
俺の言葉に、横に居たプリムラがサッと片膝をついて頭を下げた。
「あなた様の行い、そして想い。それらは、まっこと正しき魔界の王のお言葉にございます。あなたさまこそ、偉大なる魔王ゾルディアーク様の遺志を継ぐお方に相違御座いません」
俺は魔王なんかじゃないし、そんなものになりたいなんて思ってないよ。
そう思いながらも、思わずフッと微笑んでしまう。やっぱゾルバルは…魔界の人たちに愛されてたんだな。そう、改めて実感したんだ。
さぁ、茶番は終わりだ。
覚悟を決めて…能力を発動させよう。
「待って、アキ」
俺が覚悟を決めて、改めて一歩を踏み出そうとしたとき…新たに俺に声をかけてくる人物がいた。
その人物は…紅茶色の髪をした、優しげな顔立ちをした小柄な少女。
「…エリス?」
此の期に及んで俺を制してきたのは……なんとエリスだった。
「なんだよ、エリス。あんまり時間が無いんだ。君まで邪魔をしないでくれよ」
「違うよ、アキ。邪魔するんじゃなくて…ちょっとここは私に任せてもらえないかな?」
は?エリスは何を言ってるんだ?
予想外の発言に、俺は思わずエリスの顔をマジマジと見つめてしまった。彼女の瞳浮かんでいるのは…確固たる強い意志の光。
「エリス。きみはいったい…」
「私はね、ずっと平凡な人生を歩んでたの。だけどね、あるとき私は…人生を変える大きなきっかけに出会ったんだ」
エリスは胸元に手を入れると、首にかけていたネックレスを取り出した。初めてエリスに出会った時に首から下げていたそのネックレスには、鍵の形のチャームが装着されていた。
まさか…あの鍵は…
「私はね、この鍵に出会ったとき、強く願った。もし叶うのであれば…運命を変えるための力が欲しい。本来であれば行けるはずのない、閉ざされた『未来への扉』を開けることができるのであれば、その力が欲しいってね。そうして手に入れたのが…この力なんだ」
エリスはネックレスを外して鍵を手に取ると、前に掲げた。まるで滲み出るように、エリスの身体から魔力が湧き出てくる。
次の瞬間、エリスの全身から爆発的な勢いで白い魔力が噴出した。白い魔力はやがてエリスの背に集まっていき…純白に輝く天使の翼へと変化を遂げた。
それは紛れも無く…エリスが『天使』であることの証明だった。
この戦いにおいて、驚かされることがたくさんあった。その中でも、こいつは別格だった。
ウソだろう?まさか…まさか…エリスまでもが、【天使】だったなんて!
俺が驚いている間にも、背中に純白の翼を具現化させ新たな天使となったエリスが、巨大な”鍵”の形をした杖を手に持って、その場に降臨したんだ。
「エリス、きみは…天使だったんだね」
「黙っててごめんね、アキ。でも…お互い様だよね?」
そう言うとエリスは、少し恥ずかしそうに微笑んだんだ。
エリスが天使の姿に降臨している間にも、ミザリーを取り巻く事態は進展していた。青黒い渦が徐々に広がっていき、その奥にあるドス黒い空間まで見えるようになってきている。しかも、どうやらミザリーの方はすでに意識を失っているようだった。おそらくはあの”渦”に生命力ごと奪い取られているんだろうな。
…マズい、あんまり時間が無いな。確かにエリスが天使だったことは驚いたけど、本当に彼女の能力でこの『儀式』を止めることができるのか?
俺の焦燥や戸惑いをよそに、エリスが巨大な鍵状の杖を前に出すと、ゆっくりと…澄み渡る綺麗な声で『天使の歌』を歌い始めた。
「それじゃあ…いくよ。
『開けられしパンドラの匣、今ここに閉じん。
運命を切り開く魔法の鍵よ、魔の意志を封じて』
…封鎖せよ、【魔を封じる鍵】!!」
エリスの手から放たれた【巨大な鍵】が、勢いそのままに『青い渦』へと突っ込んでいった。そのまま鍵は…渦が発する障壁を突き抜け、渦の中心部分に突き刺さる。
まじか!?エリスの能力は…プリムラや双子ですら越えられなかったあの”絶対障壁”を越えることができるのか!
「えいっ!」
可愛らしい声とともにエリスが両手をくるっと回すと、その動きに合わせて【巨大な鍵】が回転した。
ガチャンッ。まるで鍵をかけるときのような音が響き渡る。
そのあと俺が目の当たりにしたのは、ひとつの奇跡だった。
うおぉ、これは…俺は夢を見ているのか?
驚く俺の目の前で、まるで牙をむく巨大な魔獣の口のようだった青黒い渦が…ゆっくりと閉じられていったのだった。
青黒い渦が閉じるのと同時に、それまでミザリーを取り巻いていた禍々しい青黒いオーラが完全に消え去った。どさっという音とともに力なくミザリーが崩れ落ち、魔本『魔族召喚』も一緒に地に落ちる。
役目を終えたからからか、それとも【召喚】に失敗したからか。魔本『魔族召喚』は青白い炎を上げながら燃え始めると、すぐに燃え尽きてしまった。
本当に…エリスは【魔族召喚の儀】を止めてしまったみたいだ。目の前で繰り広げられた信じられない光景に、俺は開いた口が塞がらなかった。
おかげで完全に「用無し」となってしまった『新世界の謝肉祭】が、いつのまにやら心の奥のほうに引っ込んでいってしまっていた。こいつも驚きのあまり度肝を抜かれたんだろうか?
「ふぅ…上手くいったみたいだね?」
大仕事をやってのけたエリスが、はにかむような笑顔をこちらに向けてきた。
額から流れる汗を拭うエリスのその姿は、俺には眩しく輝いて見えたんだ。エリスさんマジ天使。
「お疲れさん、エリス。すごいじゃないか、あれを止めるなんて」
「本当だよ。さすがエリス、ぼくたちの先生だね!」
「え?えへへ…そうかな?」
ティーナにミア姫という世界最強の美女二人に褒められて、照れ笑いを浮かべているエリス。
あんな平凡に見える娘が、よもや『魔族召喚』を止めるほどの強い能力を持っているとは思わなかったよ。
それにしても今回は本当に助かった。【新世界の謝肉祭】は、できれば二度と使いたくない能力だ。そいつを使わなくて済んだのは、もしかしたら僥倖だったのかもしれない。
さて、決着がついたところで、俺には最後の仕事が待っていた。それは…悪魔ミザリーの始末だ。
こいつはどこで魔本『魔族召喚』を手に入れたのか。どうしてこの学園に潜入していたのか。そして…『解放者』とは何者なのか。
「なぁプリムラ、お願いがあるんだ。私を…ミザリーのそばに連れて行ってくれないか?」
「承知しました、魔王様」
だーかーら、俺は魔王じゃねーっつーの!
俺はプリムラに抱えられながら、意識を失って倒れているミザリーへと近寄って行ったんだ。
地に倒れ伏した哀れな少女。悲惨な少女…ミザリー。
すでにその体を保つことが困難になっているようで、少しずつ身体の崩壊が始まっていた。
崩れ落ちていくミザリーの姿を眺めながら、俺は先ほど【龍魔眼】で見たミザリーの情報を思い出していた。
ーーーー ミザリー 『悲惨』 ーーーー
本名:なし
年齢:生命を得たときから10年
カルマ:悪魔 (準覚醒)
性別:両性具有
種族:人造人間
ーーーー
これが、ミザリーにナスリーンの【桃色吐息】が効かなかった理由。
そして、おそらくはこいつの身体が崩れ落ちている理由。
ミザリーは…『人造人間』だった。
『人造人間』
この世界に、元の世界ですら空想の世界でしか存在していなかった『人造人間』などというもんが実在しているとは思いもしなかった。
深い意味はわからない。フランケンシュタインのような存在なのか、それともホムンクルスのような存在なのか。
ただ、この世界のどこかに…命を弄んでいる存在がいることだけは間違いなかった。
こいつを弄り、改造生命体とした人物。
そのものの名を、ミザリーは『解放者』と言った。
クソッ、なにが解放者だ。ただのイカれた野郎じゃないか。
醜く崩れ落ちているミザリーの姿を見ながら、俺は奥歯をぎゅっと噛み締めた。
「…見ないで…」
そのとき、意識を取り戻したミザリーが、掠れる声で俺に語りかけてきた。それは悪逆の限りを尽くそうとした、悪魔の悲しい誇り。
「ミザリー。これ以上悲惨な姿を晒さないように、今私が…お前のことを消してやる。その前に、いくつか教えてくれないか?」
「…なによアキ、あんたなんかに教えることなんてないわ。せいぜい…あの”呪われた娘”に翻弄されることね」
呪われた娘…それはティーナのことを指しているのか?
「おいミザリー。その”呪われた娘”ってのは…」
「うぅ…。せっかく『鍵』を見つけたっていうのに…ここで終わりだなんて…」
鍵?そういえばナスリーンも操られながら言ってたな。鍵というのは、もしかしてエリスの持っているあの鍵のことを指しているのか?
確認しようとするものの、ミザリーの瞳はもう…俺の姿を映していないようだった。
「…ねぇアキ……あたしは…何のために生まれてきたのかな?」
俺の問いかけには一切答えず、最後にミザリーはそんな問いかけをしてきた。
すまない、ミザリー。その問いに対する答えを…俺は持ち合わせていないんだよ。
だけど…もしかしたらお前も、その『解放者』とやらの犠牲者なのかもしれないな。
「…アキ、はやく…消して」
「…生まれ変わったら、幸せになれよ」
切ないまでの悪魔の願いを、俺は受け入れることにした。
体が崩壊しかかっているミザリーであれば、今の俺の力でも消し去ることはできるだろう。俺は、もう一度右の拳に力を入れた。
…そのとき。
ガシャンッ!と、窓ガラスの割れる音が響き渡った。
同時に、室内の電気がすべて消え去る。
なんだ?今度は何が起こった!?
慌てて状況を確認しようとした時、ふと…目の前になにかの気配を感じた。
ミザリーが倒れているはずの場所に視線を向けると、そこに4本の足で立つ存在がいた。全身は白い体毛に覆われ、背中の部分に稲妻のような模様の入った、ライオンによく似たその姿。
それは…夢にまで見た懐かしい存在。
俺にとっては神聖なる存在、”白き獣”。
「ゾ、ゾルバル!?」
そう、そこにいたのは…今は亡き偉大な戦士ゾルバルの化身した『白い獣』にそっくりの”魔獣”だったのだ。
…いや違う。似ているけれども、こいつはゾルバルじゃない!こいつには右目がある!
俺がゾルバルに似た白い獣をジッと見つめると、そいつも俺を鋭く見返してきた。交錯する視線と視線。
「ぐるる…」
だが…そいつはプイッと視線をそらすと、半ば崩壊してしまったミザリーを口に咥え、そのままダッシュで駆け出していった。向かう先は、おそらくコイツがこの部屋に侵入してきた際に通ったと思われる割れた窓。
「曲者っ!待てっ!!」
我を取り戻したプリムラが、小刀を抜き放って素早く白い獣に襲いかかっていった。魔獣に劣らないスピードで追いすがるプリムラに対して、その獣は黒くて丸いボール状のものを多数具現化させ、一気に放ってきた。
そのうちの一個がプリムラの小刀に当たると、小さな爆発を起こした。どうやら小型の爆弾的な魔法のようだ。
白い獣は、その小型爆弾を辺り構わず四方八方にばら撒いた。その先にいたのは…気絶した多数の女生徒たち。
「むっ、いかんっ!?」
プリムラが慌てて無差別にばらまかれた爆弾に追いすがり、必死に迎撃していく。異変に気付いたミア姫も援護射撃に加わり、一緒になってばらまかれた爆弾を排除していった。
そして…なんとかすべての爆弾の排除が終わった時には、白い獣とミザリーの姿は消え去っていた。
「…逃したか、無念!」
悔しげに膝を打つプリムラ。だけど…俺はなぜか少しホッとしていた。
どうしてだろうか。ミザリーの命を奪わなくて済んだから?俺は未だにそんなセンチメンタルな気持ちを持っていたのだろうか。
それとも…あの”白い獣”に懐かしい存在を重ねていたから?でもミザリーを攫いにきたということは、おそらくあいつはミザリーの仲間…『解放者』の側の存在なのだろう。
考えることは山ほどあった。だけど…その前に、俺自身が限界を迎えようとしていた。
ぐらり。
自分の体が左右に揺れているのを感じる。だめだ、もう…立っているのも限界だ。
「アキ様っ!」
「アキ!?」
意識を失う寸前に聞こえてきたのは、プリムラとエリスの声。
あぁ、今回の俺は本当にダメダメだったな…
もう二度と、こんな事態は起こさないようにしないとな。
慌てて近寄ってくるプリムラとエリスの姿を視界の端に捉えながら…そのまま俺は意識を失ってしまったのだった。
ーーーーー 第3部 完 ーーーーー
これにて第8章、ならびに第3部「学園編 前編」は終了となります。




