61.魂の一撃
それまでは余裕ぶっていた悪魔ミザリーが、ナスリーンが“解放“されたことに驚愕の表情を浮かべた。
「ええっ…どうなってんのよ!?あたしの【魔傀儡】が…」
「ふふっ。キミのその最低な能力の影響は、ボクが断ち切らせてもらったよ」
黄金色の髪をさらっと手で流しながら、そう口にするティーナがえらくかっこよく見えた。んー、不審人物なんて言ってごめんなさい。ティーナさんマジ女神。
「どうしてっ?!【解放者】様の能力は完璧なはずなのに…」
「そんなの知らないさ。さぁ…もう諦めたら?キミじゃそこの双子の『天使の歌』を破れないでしょ?」
「ぐぬぬ…」
ティーナの言う通り、ナスリーンのゴタゴタのスキにミザリーが仕掛けてきた攻撃を、さっきから双子が連携プレーで全て打ち破っていた。どんなに鎌を投げつけても、片っ端から双子に消滅させられているのだ。双子すげー、マジかっけー。
しかもそれだけじゃない。まさかの“ティーナさん天使化“で、こちらの戦力が圧倒的に有利になった。こうなれば…いくら悪魔とはいえ、太刀打ちできないだろう。
「さあ、一気に決着を付けようかね。…プリムラ、“双子“にあの悪魔の防御を破らせるから、一気に叩いちゃいな」
「はっ!【大天使】様」
「ま、まってくれ!」
プリムラの忍法【以心伝心】で、双子との今後の連携の仕方を相談しようとしていた二人を、俺は慌てて静止した。
「…なんだい?キミはもうボロボロだろう?あとはボクたちに任せて、ゆっくり寝てなよ」
「まってくれ、頼みがある。今話してたプリムラの仕事を…私に任せてくれないか?」
俺の申し出に、二人は一様に驚いたような表情を浮かべた。それはそうだろう、もはや立っていることすら危うい俺が、こんなことを頼んでるんだから。
だけど…俺にはこのままプリムラたちに任せることが我慢ならなかった。だって悪魔は…ナスリーンを無理やり操ってたんだぜ?
そんな卑劣な行為、絶対に許せない。だから俺はどうしてもミザリーのことを…一発殴りたいんだ。
「なぁプリムラ、頼むよ」
「せ、拙者は構いませんが…」
プリムラが困りはてて、救いを求めるような視線をティーナに向ける。
ティーナのほうは少しの間目を閉じて悩む素振りを見せたあと…再び目を開いて、俺の目をじっと見つめてきた。
まるで全てを見通すかのような、ティーナの黄金色の瞳。だけど俺も、ここで引くつもりはない。
やがて諦めたのか、視線を逸らしてフッと微笑むと、ため息を吐きながら頷いてきた。
「…わかったよ、アキ。最後の一撃はキミに任せよう」
「…ありがとう。恩にきるよ」
「なぁに、気にしないでくれ。ただ、ボロボロのキミを働かせたのはボクじゃないってことを、あとでエリスに説明してくれよ?じゃないと、責められるのボクなんだからさ」
どうやら絶世の美女天使も、親友には弱いらしい。ティーナの口から出たとは思えない情けないセリフに、俺は思わず苦笑してしまったのだった。
悪魔ミザリーと双子の戦いの方も、完全にこう着状態に陥っていた。結局、魔力を増強しても結果は変わらず、ミザリーの攻撃は“双子“に届かなかったのだ。
巨大化した暗黒色の鎌を何度振ろうと、カレン王子とミア姫の発する白銀色の魔力の前にすべて打ち消されてしまう。
あー、こりゃ完全にナスリーンとの戦闘の焼き直しだな。いやー、ほんっととんでもない能力だよ。
『プリンス!プリンセス!これからとどめの一撃を、こちらから仕掛けます。御二方は悪魔の注意を逸らして頂いてよろしいですか?』
『オッケー!』
『わかったよ!』
突然、頭の中でプリムラたちの声が聞こえてくる。これがプリムラの忍法【以心伝心】か?すげぇ便利じゃないか。携帯電話みたいだ。
プリムラからのメッセージを受け取って、双子がそれぞれ動き始めた。
カレン王子のほうが、その手に白銀色に輝く太陽を…ミア姫のほうが同じく白銀色に輝く三日月を、それぞれ具現化させていく。
「うっそー、そんな攻撃してくるのっ!?こうなったら…あたしも出し惜しみしてられないじゃない!」
慌てた様子の悪魔が、手に持つ鎌に力を込めると、黒く禍々しい魔力がミザリーの全身を真っ黒に染めていく。
どうやらミザリーも、自身の持つ最大の攻撃を仕掛けてくるつもりのようだ。
「『あたしは認めない、あたし以外の理不尽を。
死ねっ、滅びろっ。そして…消え去れ』
…悪魔の叫び声、【悲劇的大災害】!」
奇声とともに、ミザリーが巨大な鎌を一気に振るった。
鋭い斬撃から放たれる黒い魔力が、幾千もの暗黒色に輝く刃をまとった黒い嵐となって、俺たちの方に襲いかかってくる。
これは…ヤバい!俺たちはともかく、他に倒れている女生徒たちに被害が及んでしまうぞ!
そんな悪魔の最終奥義を前にして、倒れた生徒たちの盾になるべく一歩前に出た人物がいた。白銀色の光を纏った、二人の天使…カレン王子とミア姫だ。
「姉さま、先にぼくが出るよ?」
「あいさー!あとはお任せっ!」
そして…一歩前に出たミア姫が、手に持っていた白銀色の三日月を、前に掲げた。
「解き放てっ!【月の女神の恩恵】!」
炸裂する、白銀色の閃光。ミア姫の持つ三日月が分裂して、細かく小さな星屑へと変化する。
そして…悪魔の撃ちはなった黒い嵐と激突した。
激突する、暗黒の嵐と白銀色の星屑たち。互いの攻撃を打ち消し合う激しい攻防が、中間地点で巻き起こっている。
勢いは…互角。
だけどこっちには、もう一人天使がいた。
「今度はあたしの出番だよ!
解き放てっ!【太陽の女神の鉄槌】!」
カレン王子の持つ巨大な白銀色の太陽が解き放たれ、物凄い勢いで悪魔に突撃していった。
その勢いは凄まじく、ミア姫と攻撃が拮抗していた地帯をアッサリと突き破ると、そのままの勢いでミザリーに迫っていく。
目指す先にあるのは…驚愕の表情を浮かべた悪魔だけだった。
「うっそーっ!?」
そしてそのまま…素っ頓狂な声を上げるミザリーに、太陽の化身が直撃した。
まるで、太陽が落ちたかのような閃光。
その輝きのあとに、腹の底から響くような大爆発が、悪魔を中心にして巻き起こった。
「たーまやー!」
「やったね!」
カレン王子とミア姫が、嬉しそうにハイタッチを交わしていた。おいおい、これのどこが『足止め』だよ?完全に仕留めにいってるじゃねーか。
だけど俺は、まだ気を緩めて居なかった。たった一撃…そのために力を蓄えながら、悪魔の様子を伺う。
…いたっ!
巻き起こる爆風の中に、ボロボロになって宙を舞うミザリーの姿を見つけた。
既に手に持っていた鎌は根元から折れ、ビリビリに破れた服は悪魔のダメージの深さを物語っている。
でも…まだだ。まだあいつは意識を保っていやがる。
なかなか頑丈じゃねーか。だけど俺が…引導を渡してやるよ。
「プリムラッ!」
「はっ!」
俺はプリムラに声をかけると、たった一度きりの攻撃に全てを注ぐために、意識を集中させたんだ。
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「はぅぅっ」
爆煙に包まれて吹き飛ばされるミザリーは、全身を貫く苦痛に顔を歪めながら、今の自分の状況を振り返ていた。
どうして?どうしてこうなったの?
途中までは…上手くいってたはずなのに。
普通の人間のフリをして試験官を欺いたミザリーは、名前をリグレットと偽って魔法学園に入学することに成功した。
しかもラッキーなことに、寮で同室になった子は『天使』として目覚めているナスリーンだった。
【解放者】から様々な洗脳の技を伝授されていたミザリーは、ナスリーンの飲み物や食事に怪しげな薬を混ぜるだけでなく、眠っている間にも【魔傀儡】の能力を仕込むことで、徐々に彼女を【解放者】の使徒として洗脳していった。
上手くいけば、ナスリーンは新たなる仲間…いや仲魔になるはずだった。
ミザリーが本来与えられていた任務である『鍵』の探索は上手くいっていなかったものの、”天使”を一人”悪魔”に堕落させたとなれば、きっと【解放者】様は褒めてくれるだろう。そう思っていた。
ところが…ナスリーンが必須科目の授業中に突然暴れ出したあたりから、少しずつ歯車が狂ってきた。
どうしてあのとき、ナスリーンは暴走してしまったのか。投与した『魔薬』の濃度が濃すぎたのか、それとも元々乱暴な性格だったのか、理由はハッキリとわからない。
しかもそのあと、ナスリーンが完全に制御不能になってしまい、いつ壊れてもおかしくない状況になってしまった。
本来、ミザリーに与えられていた任務は”隠密行動”だ。このような事件を起こしてしまっては、任務は失敗といってよかった。おそらくあれだけの暴挙をしでかしてしまったナスリーンにはなんらかの事情聴取が行われるだろうし、その追求の手は同室の自分にも及ぶだろう。
ナスリーンという手駒を失うのはもったいなかった。だけどこうなっては仕方ない。適当にやり過ごして、またやり直せば良いや。
潮時を悟ったミザリーは、ついに…強制的に全女生徒を麻痺させるという暴挙に出る。全女生徒を麻痺させた上で、一人一人『鍵』ではないかを確認することにしたのだ。
かなり強引なやり方であったが、壊れてしまったナスリーンは切り捨てるしかなかったし、どうせ切り捨てるなら…少なくともこの場にいる女生徒たちに『鍵』は居ないことはハッキリさせたかったのだ。
かなり強引なやり方ではあったものの、とりあえず目的は達成し、この場にいる女生徒たちに『鍵』が居ないことは判明したので、ミザリーは十分満足していた。
あとは、適当に被害者のふりをしてやり過ごせば良い。そう思っていた。
それなのに…
ティーナ。
全部あいつのせいだ。
あいつのせいで…全てが台無しになったんだ。
ギリッ。ミザリーは歯ぎしりをしながら、自身が抱くティーナへの怒りを思い出していた。
もともとあたしは、ティーナのことが気に入らなかった。
事の発端は、【解放者】様がティーナのことを『扉』として選んだことだ。まぁそれは良い、能力の問題だ。実際この目で見て、ティーナが『扉』を発動させたのを見たし。
それであればさっさと洗脳すれば良いのに、何故かは分からないけど【解放者】様はティーナのことを放置した。あたしには、それがまず気に入らなかった。
でも、それで終わりじゃなかった。
【解放者】様はティーナのことを…『器』として認定してしまったのだ!
なにが『器』だ!あたしのほうが『器』に向いているのに。どうして…ティーナのほうが選ばれるんだ。
あたしはとっても悲しかった。同時に、怒りが湧いてきた。いやだ、絶対認めたくない。
あんなヤツを…裏切り者なんかを、『器』だなんて認められない!
あたしががんばっていれば、【解放者】様は、いつかあたしのほうを新たなる『器』として選んでくれるはず。
そう信じて…これまでがんばってきたんだ。
なのに…今のあたしはティーナの手下の双子なんかに打ちのめされている。
そんなの…そんなの…受け入れられないっ!
カッと目を見開いたミザリーが、再び気力を取り戻してティーナたちに襲いかかろうとした…そのとき。
「うぉぉぉぉぉ!!」
ミザリーの背後から、まるで獣のような雄叫びが聞こえてきた。
「えっ?」
想像すらしていなかった方向からの声に、ミザリーは慌てて上方に視線を向けた。その視界に映ったのは…信じられない光景。
悪魔の目に飛び込んできたのは、右腕を完全に『龍化』させたアキが、自身に向かって流星のように突っ込んでくる姿だった。
「うっそぉぉ!?」
ミザリーは信じられなかった。
完全に、想定外の方向からの突撃。そもそもどうして、さっきまでほとんど身動きすらままならなかったアキが、真上から襲いかかってくるのか。
その理由はすぐに判明した。
アキの後ろに見えるのは…”黒き忍者”プリムラの姿。
なんとプリムラが、アキを抱えたまま爆煙を突き抜けてミザリーの真上まで飛び上がり、完全に悪魔の死角に入ったところで、アキを全力でぶん投げたのだ。
ありえない!
そんなのありえない!
どうしてよっ?
どうしてあんたがあたしの邪魔をするのよっ!
迫り来るアキを眺めながら、悪魔が抱いた気持ちは…“戸惑い“。
あたしは…あたしは【解放者】様の一番の寵愛を受ける存在なのよっ!?
それを…それを…
「アキぃぃぃい!」
ミザリーの絶叫。
それを打ち消すかのように、アキの咆哮が響き渡った。
「ミザリーィィ!これでも喰らって…反省しろぉぉ!!【龍化特攻】ッ!!」
パリィィン!響き渡る、ガラスの砕けるような音。それは、慌てて悪魔が張り巡らせた…幾重にも重なる物理障壁を、アキの拳が粉々に打ち砕いた音だった。
そしてそのまま…アキの右拳が、悪魔ミザリーの背中へと突き刺さった。
「がふっ!?」
アキの一撃のあまりの凄まじい威力に、悪魔ミザリーの黒い翼が爆散した。さらに、強烈すぎる一撃を受けたミザリーの口から、盛大に血を吹き出す。
そのまま二人は…もつれ合うように、地面へと落下していったのだった。
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ミザリーの背中に”会心の一撃”をお見舞いして、俺は心の中で「やった!」と歓声を上げた。周りには、無残にも飛び散る悪魔の黒い羽根。まるで翼を根元から根こそぎ引き抜いたかのよう。
さすがにこの一撃は、悪魔に深刻なダメージを与えたようだ。だけど…もはや俺には欠片も体力が残っていなかった。そのままこいつと一緒に落下して地面に叩きつけられる…はずだった。
でも、床に打ち付けられる直前に、黒い風にスッと俺の体だけが持ち上げられるのを感じた。ピンチに颯爽と現れて俺を救ってくれたのは…やはりというべきか、”忍者”プリムラだった。
プリムラに抱き抱えられ、俺は無事に地面に降り立つことができた。そのまま一人で立とうとするものの、まったく力が入らない。バランスを崩してしまい、あわててプリムラにもたれかかってしまった。
お、プリムラって結構スタイル良いな。そんな俺の心の声に気付く事なく、プリムラは優しく支えてくれた。
「あ、ありがとうプリムラ…」
「いえ、拙者は大したことはしておりません。それよりも…アキ様の魂のこもった一撃、実に見事でございました。拙者、感服いたしました」
いやー、そう言われると照れるね。でも、もう動けない。正直俺の身体は限界だよ…
「ごめんプリムラ、もう体が言うこと聞かないんだ。悪魔が…ミザリーがどうなったのかを確認したいんだ。見せてくれないか?」
「はっ、承知しました」
プリムラに体を支えてもらって悪魔の落下した地点を確認すると…悪魔はひび割れた床に半分めり込んだ状態で、プスプスと煙を吹き出していた。どうやら真正面から床に激突して、埋もれてしまったようだ。
完全に意識を失ったミザリーは、すでに悪魔の翼も吹き飛んでいて、動き出す気配もない。
あちゃー、ちょっとやり過ぎたか?あいつ死んでないよな?
「アキッ!大丈夫?」
それまで黙って戦況を見守っていたエリスが、心配そうな面持ちでこちらに近寄ってきてくれた。心配かけてゴメンね、エリス。ボロボロだけど…敵にやられた訳じゃないし、俺は大丈夫だよ。
「…やるじゃないか。まさかパンチ一発で悪魔を沈めるなんてさ。そんなに小さくてか細い身体なのに、よくがんばったよ。女の子とは思えない馬力と根性を持ってる」
そう言いながら、いつの間にか側に来ていたティーナが、ポンっと肩を叩いてきた。ぶっきらぼうな口調ながら、どうやら俺のことを褒めてくれているようだ。美人に褒められていやな気はしない。
ティーナの後ろに控えたカレン王子とミア姫も、嬉しそうに頷いている。
あぁ、これで決着したんだな。
頼もしい“同級生“たちが、穏やかな表情で集まってくる様子を見て、そんな思いが俺の中にようやく湧いてきた。
さて、これからどうしようかな。問題は山積みだった。まず、あられもない姿で倒れている他の女生徒たちにどんな風に説明しようか。スターリィにはどう説明しようかな。ウソつけないしなぁ…
完全に終戦モードになった俺が、気軽にそんなことを考えていたとき。
「…ふふっ。ふふふっ…」
俺の耳に…不吉な笑い声が飛び込んできた。
ん?笑い声?いったい…誰の笑い声なんだ?
「うふっ、うふふふっ…」
笑い声が聞こえてくるのは、どうやら誰もいない方向からだった。いや、正確には一人いる。床にめり込んだ状態のままの…悪魔ミザリーが!
「…まいったわ、あたしの完敗よ…ゲホゴホッ」
ガクガク震えながら、悪魔ミザリーがその身を起こそうとして…すぐにまた崩れ落ちた。あの攻撃を食らってまだ起き上がろうとするなんて、なんという凄まじい生命力と精神力なんだ。さすがはまともな人間ではないだけある。
だけど、もはやミザリーには反撃する余力は残って無いようだった。悪魔の翼はもぎ取られ、口からは吐血し、全身に力は無く、吐く息も荒い。
「ミザリー、その生命力には敬意を表するけど…もうお前は終わりだ。諦めろ」
「そうね…もうあたしは終わり。ゲホッ…それはよくわかってるわ」
「えっ?」
予想外にも、すんなり終わりを認めるミザリー。んー、なんか様子が変だぞ?まだなにか隠してたりするのか?
「あはっ。さすがのあたしも、もう空っぽよ。指一本動かすのもキツイくらいだわ。…ゴホッ。
あたしはね…自分はそれなりに強いと思ってた。だけど、世の中は広いって思い知らされたわ。まさかあたしの敵わない相手が、こんなにも身近に居たなんてね」
なんなんだ、この悪魔の一人語りは。負け惜しみとも思えない…妙に悟ったような言葉の数々に、違和感を感じる。
「あたしは、あんたたちの力を見誤った。その結果がこのザマよ…ゴホッ。
今までのあたしだったら、ここで終わりだった。だけどね、アキ…あんたに教えられたんだぁ。どんなに打ちのめされて、身体すらまともに動かない状況でも…決して諦めてはいけないってね」
妙に清々しい表情を俺に向けながら、ミザリーは胸元から何かを取り出した。
それは…青い色をした、一冊の本。奇妙な柄が革表紙に刻み込まれたその本を、ミザリーは大事そうに胸に抱えこむ。
あの青い本は…まさかっ!?
「今日までのあたしは、なんだかんだ言って自分の身が可愛かった。たとえ負けても…自分だけは無事でいたいって思ってたの。でもね…それが甘かったんだ。自分よりも強い相手に、そんなんじゃ通じないってことを痛感したの。…ゲホゲホッ。
自分を上回る力を持つ相手を越えようとするには……それなりの覚悟が必要になる。
だからね、あたしは…全てを投げ打つ覚悟を決めたんだ」
ミザリーは青い魔本…『魔族召喚』を開くと、狂ったようにケタケタ笑いながら前に掲げた。
「さぁ魔本よ、『禁書・魔族召喚』よ!今こそ秘められた力を解放して、“魔族“を…いや、最ッ高にイカれた“魔王“を召喚してちょうだい!
そのためならあたしは…この命を捧げるわ。
だから、あたしの魂をエサにして、とびっきりのやつを喚び出して…そして、あの最高にムカつくやつらを…ティーナをぶっ殺してっ!」