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59.百花繚乱



 


「一旦こっちに戻ってきて、プリムラ」

「承知しました、【大天使】様」


 ティーナが油断なく悪魔リグレットに睨みを利かしながら、プリムラをこちらに呼び寄せる。その上で悪魔の退路となる…この部屋唯一の出入り口を一同で完全に塞ぐ形に体制を整えた。


 あっという間に、悪魔を逃さないための陣形が出来上がった。

 ティーナ、プリムラ、カレン王子、ミア姫、エリス、そして…俺。6対1だ。昏倒しているナスリーンとスターリィを抱えてたり、たぶん戦力としてはカウントできないティーナやエリス、ボロボロの俺を除いたとしても3対1…数の上ではこちらのほうが上だ。


 この時点で、形勢が完全に俺たちのものになったのを感じた。




 それにしても驚くのは、エリスの落ち着きっぷりと、ティーナの余裕ある態度。

 なにせエリスは「初級コース」に通う“普通の女の子“だし、ティーナは…俺の持つ【覇王の器レガリア】に選ばれていることから、かなりの素質はあることは間違いないにせよ、天使に目覚めていないはずの今は、“ただの魔法使い“のはずだ。それなのに…暗黒の翼を背に具現化させた悪魔リグレットを見ても、恐れおののく様子が全く無いのだ。

 どうして二人は、悪魔を目の前にしてこうも落ち着いていられるのか。


 さらには、プリムラからなぜか【大天使】とまで呼ばれているティーナの、この圧倒的なまでの威圧感。まるで『明日への道程ネクストプロムナード』のメンバークラスと対峙しているような気分になる。

 プリムラから聞いてた話の内容から判断すると、ナスリーンが暴走した時点で、今のこの状況を想定して裏で手を回していたのだという。相手が悪魔と分かっていて、真っ向から戦いを挑んでいたのだから、その胆力や相当なものだと思う。


 すごく頭の切れる奴だな…。悪魔をあぶり出すことに見事成功したティーナに対して感心すると同時に、恐れにも似た感情を抱いたのだった。




 あと…ついでにもう一つ気になったのは、龍変ドレイク化した俺に、ティーナたちがまったく驚いていないことだ。

 普通さ、自分で言うのもなんだけど…こんな“爬虫類“みたいになった人を見たら、めちゃくちゃ驚くと思うんだけどなぁ?


 俺の怪訝そうな表情に気付いたのか、ティーナがあっさりと俺の疑問に対する答えを教えてくれた。


「あぁ、アキ。キミのその身体のことだったら気にしなくても良いよ。プリムラから随時聞いて・・・・・いる」


 は?随時聞いている?

 それは…どういう意味だ?


「アキ様、申し訳ございません。拙者の持つ能力…『忍法ニンジャスキル』のなかに、【以心伝心テレパシー】というのがございます。これを以って、戦況を【大天使】様ほかプリンスやプリンセス、さらにはエリス様と随時情報共有を行っていたのです」


 なんと、そんな手段を持ってたのかよ!便利すぎだろーよ、忍法!ニンニン!








 俺がプリムラの忍法の便利さに衝撃を受けていた一方、退路を断たれた形となった悪魔リグレットのほうはというと…


 ティーナたちの突然の乱入に、最初こそ怒りに震える表情を見せていたリグレットだったけど、落ち着きを取り戻したのか…ペロッと舌を出して話しかけてきた。


「きゃはっ、失敗しちゃった。ちょっとだけ取り乱しちゃったわ」

「…てめぇ、リグレット!」


 クソッ、悪魔リグレットのふざけた態度に改めて怒りが込み上げてきたよ。改めて怒鳴りつけてみたものの、動じた様子はない。


「残念ながら、あたしの名前はリグレットじゃないんだ。あたしのことはさ、『悲惨ミザリー』って呼んでね?」


 リグレット…改めてミザリーのこの物言いに、それまで黙って眺めていたティーナが失笑を漏らす。


「…キミはバカじゃないのか?なんでボクたちがわざわざそんな変な名で呼ばなきゃならないんだよ、面倒くさい。別にリグレットのままでいいじゃないか」

「黙れっ!あたしの名前『悲惨ミザリー』はなぁ…あのお方・・・・に与えられた、最高に素敵な名前なんだよっ!」


 ティーナの言葉に突然キレだすミザリー。

 なんだこいつ、二重人格か?特にティーナに対しての対応が酷い。なにか恨みでもあるんだろうか。

 あと気になるのは、今のこいつの発言。どうやらこいつの背後には…さらに別の親玉ボスがいるようだ。


「ったく、面倒くさいヤツだなぁ。で、ミザリーとやら。その…『あのお方』とかってのが、ボクのことを『扉』って呼んでたのかい?」

「っ!?」


 明らかに動揺した表情を見せる『悲惨ミザリー』。そういやさっき「扉」がとうとか叫んでたな。聞き間違いかと思って聞き流してたんだけど、もしかして…なにか意味があったのか?



「大丈夫だよ、ミザリー。別にキミは失言なんかしてないからさ。心配しなくてもボクは既に知ってる・・・・んだ。キミが…あのババァの手下だってことをね」

「ティーナ、きさまっ!『解放者エクソダス』様のことをバカにするのかっ!?『解放者エクソダス』様は…とてもお美しい方なんだぞっ!!」


 その発言を聞いた瞬間、ティーナの口元がニヤァっと吊り上がった。どっちが悪魔だ?と思ってしまうような邪悪な笑み。


「…へぇ、キミのボスの名前は『解放者エクソダス』って言うのか。クククッ…初めて知った・・・・・・よ」

「なっ!?」

「っ!?」


 ティーナのトンデモない発言に、悪魔ミザリーだけでなく、俺たちまで絶句してしまう。

 こ、こいつ…とんでもねぇ!悪魔にカマをかけやがった!


 悪魔を出し抜くことに成功したティーナが、してやったりといった感じで、ケタケタ笑いながらこちらを振り返る。


「いやー、ほんとバカが相手で助かったよ。あははっ」


 言われた方のミザリーは、悔しそうに唇を噛み締めながら、暗黒の鎌を持つ手をプルプルと震わせていた。




 なんかこいつは…こいつだけは敵に回したくないな。

 この僅かな邂逅で相手の性格を見抜き、的確に弱みをついて情報を聞き出す“悪魔的“なまでの交渉術。うーん、まさに…外道!


 横をチラッと見ると、カレン王子やミア姫も俺と同じように…苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。ただ一人、エリスだけが困ったような表情を浮かべている。


「ティーナってば、ちょっとやりすぎ」

「ん?エリスは…ティーナと知り合いなの?」


 この場にティーナと一緒に現れたくらいだから、知り合いではあるんだろう。でも今の態度は、親しい相手に見せるそれだった。

 俺の問いかけに、エリスは満面の笑みを浮かべながら頷いた。



「はい!ティーナは…私の魔法の師匠で、大親友なんです」


 し、親友ですか。

 友達は選んだ方が良いと思うんだけどな。特に仮面をつけた怪しい人なんかは…


 今にもそう口から出かけたんだけど、無邪気に誇らしげな表情を浮かべるエリスを見てると、結局俺は何も言えなくなってしまったんだ。










 その間にも悪魔ミザリーと、悪魔よりも邪悪な笑みを口元に浮かべるティーナによる会話が続けられていた。



「いやぁ、キミが頭が悪い子で本当に助かったよ。ははっ」

「…うっ…うぐっ…」

「ボクのほうに張り付いてるもう一匹のほうは、なかなかボロを出してくれなくてねぇ…ちょっと困ってたんだ。まぁあっちのほうはなかなか手強そうなんだけど、キミは本当に単純だから楽で良いよね。ふふっ」

「あたしを…あたしを…『暗号機エニグマ』以下だって言うのかーっ!?」


 ついに涙を流しながら、そんなことを絶叫するミザリー。

 その言葉を聞いた瞬間、ティーナはこれまでで一番の会心の笑みを浮かべた。逆にミザリーは「しまった!」という表情を浮かべる。


「…ほーら、やっぱりキミはバカだね。おかげでさらに貴重な情報が手に入ったよ。へー、ボクをコソコソ見張ってたやつのほうは『エニグマ』って名前だったんだ」

「あ、あぁ…」

「これはボクの予想だけど、キミはエニグマとやらに『役立たず』扱いされてなかったかい?もしそうだとしたら…今度ボクがエニグマに会ったら、ちゃんと否定しておいてあげるよ。『ミザリーは、ちーゃんとボクの役に立ちました』ってね」


 プチンッ。

 まるでそのような音が聞こえたのではないかと思うくらい、激しくミザリーがぶち切れた。まぁ気持ちは分からないでもない、もし俺があんなこと言われたら、たぶん立ち直れないだろう。

 むーん。【大天使】ティーナ、恐ろしい子…





「ティーナ、きさまはぁ…きさまだけはぁ!」


 ミザリーは絶叫しながら、手に持つ暗黒の鎌を振り上げた。目からは血の涙を流している。たぶんティーナの精神攻撃が、よっぽど応えたんだろうな。敵ながら思わず同情してしまうよ。


「もう、もう絶対に許さないぞぉぉぉ!あたしの『悪魔の叫び』で苦しめっ!

『千々の道、その欠片を運べ。

 一つとなること叶わず、永遠に…』

 飛べっ!【悲しみの鎌スケアクロウ・サイス】!!」



 ミザリーが真っ黒な翼を羽ばたかせたかと思うと、彼女の周りに暗黒色の小型鎌が複数出現する。ミザリーが手に持つ鎌の動きに合わせて、小型の鎌もグルグルと回転し始める。



 プリムラがサッと俺たちの前に立って、悪魔ミザリーと対峙しようと小刀を突きつけた。

 でも…その動きを制する人物がいた。


「プリムラ、ここは任してくれない?」

「プ、プリンス!?」


 プリムラの肩に手を置いて一歩前に出てきたのは…なんとカレン王子だった。ミア姫と同じ白銀色シルバーブロンドの髪を後ろで束ねたその姿は、実に絵になっていた。チラリと妹であるミア姫のほうに視線を向ける。


「あいつにばっかり活躍されるのはシャクに触るからね。今度はこっちの出番さっ!」


 どんな女の子でもイチコロで落ちてしまいそうな甘い笑みを見せると、カレン王子は右手を上に掲げた。右手首に嵌められた、ミア姫のものとよく似たプレスレットが銀色に鈍く輝く。

 あれが、カレン王子の『天使の器オーブ』かな?


「いくぞっ!…変…身っ!」


 続けて、掛け声と共に右手を振り下ろし、カッコよくポーズを決める。おいおい、あんたは特撮もののヒーローかよ!?


 次の瞬間、カレン王子の全身が魔力の発する淡い光によって包まれていった。光はゆっくりと集約していき…やがてカレン王子の背に真っ白な『天使の翼』が具現化される。


 おお、これが…カレン王子の天使化した姿か!

 なんとなく観衆と化してしまった俺は、のんきに華麗なるカレン王子の天使姿に思わず見入ってしまったのだった。






「ねぇ、大丈夫?無茶はしないでね?」


 カレン王子を心配するエリスの声に、呆れ顔のミア姫がゆっくりと首を横に振った。


姉さま・・・には言うだけ無駄だよ。エリスも分かってるでしょ?」

「でも…」

「エリスも知ってるでしょ?それに姉さまの『天使の歌』は…けっこう凄いからね」


 少し呆れた口調で話すミア姫の表情は、少しだけ誇らしげだった。

 …ところで今「姉さま」って呼んだように聞こえたんだけど……「兄さま」の聞き間違いだよね?






 一方ティーナの方は、既に必要な情報が得られたことに満足したからか、ミザリーに対する興味を完全に失っていた。一人でブツブツ呟きながら、自身の思考の世界に浸かり込んでいた。

恐らくはカレン王子を信頼しているが故の行動であろうけど…敵を目の前にしてなんという胆の太さだろうか。


「…あの悪魔ミザリーはボクのことを『扉』と呼んだ。ということは、背後にいるヤツはたぶんボクのことをある程度知っている・・・・・と思っていいだろう。

 悪魔の背後にいるもの。間違いなく悪魔かそれ以上の存在。…『解放者エクソダス』。しかも…女。

 もしかすると…ようやく本命が釣れたのか…?」


 得られた情報を真面目な様子で検討しているティーナの表情は、着けている仮面のせいで残念ながらよく分からない。ただなぜだろうか、そんなティーナの姿を見ていると、えも言えぬ不安が押し寄せてきた。

 こいつは一体…何者なんだ?


 そのとき、絶妙のタイミングでティーナの側に、心配そうな表情を浮かべたエリスが近寄って行った。


「…ティーナ?」

「ん?ああエリス、大丈夫だ。そうだね、今は目の前のあの悪魔に集中しようか。考えるのは…あとからでも出来るからね」


 そういえばエリスはティーナと親友だって言ってたな。エリスが傍にいるなら、こいつは大丈夫かな。




 そして…親密な二人の様子を目にして、ふいに俺はある一つの事実を認識することができた。


 おそらく…彼女たちには、俺の目指しているものとはまったく異なる目的がある。

 そこには戦うべき敵もいて、俺とは違うゴールも存在しているのだろう。


 そしてその物語の主人公は…もちろん俺ではない。


 ここには、俺が主人公じゃない別の物語が存在しているんだ。



 落ち着いて、もし彼女たちが話してくれるのであれば、彼女たちの物語を聞いてみたい気がするな。彼女たちが目指す物語の行き着く先が、俺と対立する場所でないと良いんだけど。

 心配そうにティーナの手を引くエリス。その優しげな表情と二人の間に流れる空気に、なんとなく他者には近寄りがたい親密さを感じながら、そんなことを考えていた。


 …でもまぁいい。いろいろと気になることは多かったものの、今はエリスの言う通り…悪魔ミザリーの相手をするのが先決だ。

 俺は今感じた想いを一度心の奥に引っ込めて、改めて意識を悪魔の方に引き戻したのだった。









「きゃはっ!素敵な王子様があたしの相手をしてくれるの?嬉しいわ、うふふっ」

「…あんまり女の子を傷つけるのは趣味じゃないんだけどな。大人しくしてくれないかな、お嬢さん?」


 わざとらしくキザな口調で純白の翼をはためかせるカレン王子。まぁ残念なことに、悪魔そいつは厳密には“女の子“では無いんだけどな。さっきの【龍魔眼ドラゴヴィジョン】のおかげで知ってしまったミザリーの肉体の秘密…ナスリーンの毒が効かなかった理由があるんだけど、今は戦闘中だし黙っておくことにする。


 対する死神のような姿のミザリーは、さっきまでのうろたえた姿も何処へやら、再び裂けそうなほど大きく口を拡げて嬉しそうにニヤついていた。


「きゃー、ステキ。王子様にそんなこと言われるなんて夢みたい。じゃあ…あたしの代わりにあなたが傷ついてくれないかなっ?」


 ミザリーがゆっくりと手に持つ鎌を前にかざすと、周りを旋回していた複数の小型の鎌が、一気にカレン王子に襲いかかっていった。

 あれは…よくないぞ。鎌の一つ一つにナスリーンの【魔法の矢マジックアロー】なんかとは桁違いの魔力を感じる。なにより、込められた暗黒の魔力が、俺を不安な気持ちにさせた。


「よっと!」


 だがカレン王子は、気軽な掛け声一つでほいほいと鎌を躱していった。ずいぶんと身軽な動きだ、正直さっき模擬戦の時に見せていた動きとは、まるで別人のように感じる。

 どういうことだろう、あのときは手を抜いていたのか?あるいは…天使化することで動きが強化されたのだろうか。


「もうっ!チョロチョロと…あなた虫みたいねっ!」

「ははっ、ひどい言い方だな」

「ふんっ!そんな軽口、叩けないようにしてあげるわっ!…【悲しみの鎌スケアクロウ・サイス】、爆破ブレイクアウト!!」


 ミザリーの叫び声に合わせて、カレン王子の周りを飛び回っていた小型の鎌が突然爆発した。

 弾け飛ぶ、黒い閃光。続けて響き渡る轟音。


 どうやら黒い魔力を増幅させていき…そのまま大爆発を巻き起こしたようだ。

 ちょっと…カレン王子は大丈夫か?




 だが…俺の心配は杞憂だった。

 黒い煙が辺りを包みこもうとする中、まるで太陽の光のような眩しい光線が、黒い煙を突き破るように溢れ出てくる。


 やがて…雲間から太陽が見えた時のように、黒い煙は晴れていき、そこから…無傷のカレン王子が現れたのだった。

 その手に、太陽の化身ともいうべきオレンジ色に輝く光の玉を持って。



 なんだあれは…?ミア姫の能力に似ているようだが、まるで正反対のもののようにも感じる。



「うっそ!?あれで無傷なの?」

「残念だったね、お嬢さん。この【太陽神の微笑みアポロニアン・スマイル】の前では、どんな悲しみも…雨後の太陽のように晴れやかに澄み渡るんだ。…って、あれ?今のはちょっとキザすぎたかな?」


 軽口を叩きながら、軽くウインクを飛ばすカレン王子。その姿に安堵するとともに…カレン王子たちの凄まじさを思い知った。


 ナスリーンといいミザリーといい、どちらも簡単な相手ではない。特にミザリーに関しては相当な魔力を持った悪魔だ。

 それを、見ての通り“子供扱い“だ。

 強い、強すぎる。それが俺の感じた率直な感想だった。

 魔力もそうだが、固有能力アビリティが凄まじい。カレン王子もミア姫もそうだが、相手の能力をほぼ完全に無効化する力を持っているなんて、正直反則すぎる。

 まいったな…おそらくスターリィと互角くらいの実力があるのではないか。

 感心すると同時に、すごく心強く感じる自分がいたんだ。





 傷一つ負っていないカレン王子の姿に、ミザリーはかなりのショックを受けているようだった。


「はぁっ!?どうなってんの?あたしの能力がまったく効かないなんて…」

「ふふ、まいったかい?できればこのままギブアップして、素直に捕まって欲しいんだけどな」


 ぺっ。

 カレン王子の申し出に、悪魔ミザリーは唾を吐き捨てながら拒否する。


「へんっ。ふざけたこと言わないでちょうだい。まだまだ終わりなんかじゃないんだからねっ!」



 そういうと、ミザリーは懐からなにかを取り出した。そこにあるのは…黒い玉?


「あれはまさか…」


 その玉を見たティーナが、無意識に言葉を漏らしている。なんだ?あの玉の正体を知っているのか?なんとなく俺がフランシーヌに貰った『龍の玉』に似ているようだけど…


 黒い玉を指に挟んだミザリーが、ウインクしながらカレン王子に問いかけてきた。


「ねぇ、王子様。なんであたしが『悲惨ミザリー』って呼ばれてるか知ってる?」

「…さぁ?」


 ミザリーはクスッと笑うと、その黒い玉を口の中に放り込んだ。


「それはねぇ…あたしに関わった人がみーんな”悲惨”な目にあっちゃうからだよ!!」


 黒い玉を…まるで飴玉のように舌で転がすミザリーの姿に、それまで大人しくしていたティーナがハッとして急に声を張り上げた。


「プリムラ!あいつの口からあの黒い玉を吐き出させろっ!」

「はっ!【大天使】様っ!」

「きゃはっ!遅いわよ!」


 ゴクリ。プリムラが動き出すよりも早く、ミザリーは一気にその黒い玉を飲み込んだ。





 次の瞬間、ミザリーの体から、一気に黒い魔力が噴き出してきた。これまでとは比べ物にならない…強烈な悪魔の魔力。


 やばい、こいつ…なにか増強ブーストしやがったな!!


 ビキビキッ!

 酷い音を立てながら、ミザリーの顔に血管が浮き出てくるのが見える。さらに目の周りが黒く変色していき…少しずつ人間離れした姿へと変貌していく。


 やがて…全身から今の俺たちを凌駕するほどの魔力を発する死神が、その場に再臨したのだった。


「さぁ…ここからが本番よ?あんたたちを…『悲惨』な目にあわせちゃうんだからっ!」



 きゃはっ。

 そういうと、全身を黒く染めた悪魔ミザリーは、大声で笑いだしたのだった。

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