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47.初授業と…

 

 魔法使い初級の講師は、クラリティさんだった。

 彼女はちょっと面長だけど、優しくニコニコしていて感じの良い女性だ。不安たっぷりの新入生たちには打ってつけの講師だと思う。



「それでは皆さんに、魔法の基礎をお教えしていきます。もしかしたらご存知の方も多いと思いますが、復習と思って聞いてくださいね」


 そんなクラリティさんの講義も…最初のうちは半分以上俺の耳には入って来なかった。

 その理由は、俺のふたつとなりに座っている人物…『ハインツの月姫』ことミア姫に、釘付けになっていたためだった。


 ミア姫はまっすぐに前を見つめたまま、鉛筆を手に持って、講師クラリティさんの話を聞いていた。

 長いまつ毛。ときおり落ちてくる白銀色シルバーブロンドの髪をかきあげる仕草。その横顔がなんとも魅力的で、つい目を奪われてしまう。


 あかーん、こんなの授業に集中できないって!


 周りにいる他の生徒たちも俺と似たり寄ったりで、こちらをチラチラ見ては、顔をポッと赤く染めている。


 そんな周りの様子に気付くことなく、ミア姫はとなりに座っているエリスに楽しげに話しかけていた。応じるエリスも、少し笑いながら頷いたりしている。


 あぁ。可愛い子が並んで授業を受けてる風景って、なんか絵になるよなぁ。

 そんなことを思いながら、俺は二人が楽しそうにしている様子を目に焼き付けたのだった。




 それにしても、エリスとミア姫はどうやって友達になったんだろうか。

 前に聞いた話の限りでは、エリスはごく普通の女の子だ。それが、どうやったら王族と知り合うんだろうか…


 俺が色々と考え事をしている間も、二人は仲よさそうに話していた。ありゃもう、地位とか立場とかを超越した『友人同士』って感じがする。


 その事実を象徴するような会話を、ついいましがた二人がしていた。


「ねぇ。本当はどうして出てくる気になったの?あんなに人が多いところに出てくるのを嫌がってたのに…」

「えーっとね、それは…エリスに悪い虫が付かないように見張るためだよ」

「…えっ?わ、私に?」

「うん」


 いやいやミア姫、悪い虫が付くとしたらあなたの方でしょうよ!

 …ってか今の言い方だと、もしかして俺のことを警戒していたのか?それで様子を探るために、わざわざ初級コースに…なーんて、そんなばかなことあるわけないよな?


 もちろん俺には、ミア姫の真意を質すことなど出来ない。だから俺は、エリスのことをまるで保護者のように心配している様子のミア姫を、ただ漫然と見つめていたのだった。





 いつの間にやら講義は進んでいて、講師クラリティが興味深い内容の授業を始めた。今彼女が講義をしているのは、魔法の基礎である『魔力』の在り方についてだった。


「よいですか、みなさん。私たちが持っている魔力とは、分かりやすく言うと『燃料』です。それ自体に火を起こす力は無いんだけど、すでに火がついているものに加えたら、その火力が増します。

 同じように、今ある現象に魔力を注ぎ込むことで、その現象の威力を増強するのが『魔法』なのです」


 あー、そういえば魔力ってそんな感じだったな。

 俺にとっての魔法は【流星シューティングスター】と【禁呪】だったから、なんか普通の魔法とか忘れてたよ。


 横を見ると、エリスがウンウン頷きながら熱心に説明を聞いていた。その姿に一生懸命さを感じて、なんだか好感が持てる。


 それにしても、この子はそんなことも知らなかったのか?異世界歴短い俺でも最初に習ったんだけど…


「実は私、魔力が自分にあるって知ったのが、比較的最近なんです。それまで魔法に縁のない生活をしていたもので…」


 なるほど、そういうことだったのか。それだったら基礎を知らなくて当然だよな。

 そう思ってたら、今度はミア姫が少し驚いた様子でエリスに確認していた。


「えっ?エリスって、基礎あまり知らなかったの?」

「え、ええ…。私の師匠は、なんというか『直感型』だったから、あまりそういうのは教えてくれなくて…」

「エリスの師匠って、あの人・・・だよね?まぁそれなら分かる気がするけど…よくそれでぼくたちの家庭教師を引き受けたよね?」


 今のエリスとミア姫の会話の中に、俺が驚くべき内容が幾つかあった。その中でも一番の驚きは、ミア姫が『ボクっ娘』だったこと、じゃなくて……エリスが『ハインツの双子』の家庭教師をしていたってことだ。

 それであれば、エリスが彼女らと懇意であった理由が分かる。でも、エリスは少し前に魔法屋でアルバイトをしてたって言ってたのに、それがどうやったら一国の姫様の家庭教師になるんだ? んー、エリスはなかなか謎の多い子だな。こと今に至って、俺はエリスに対して初めてそんな思いを抱いていた。


 そのとき、不意に白銀色の光が揺れるのを感じた。エリスの横にいたミア姫が、こちらに顔を向けてきたのだ。

 まるで芸術家の絵画から飛び出してきたかのような美少女に見つめられて、思わずドキッとしてしまう。


「それにしても…アキさんが感じの良い人で良かったです」

「え、ええっ!?あ、ありがとう、ござい…ます」


 急にミア姫に話しかけられて、慌ててどもって返事してしまう。うわーっ、恥ずかしっ!


「ふふふ、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。わたくしはそんなにたいした存在ものではないので…」


 いやいや、一国の姫様だろ?たいしたもんに決まってるっちゅうねん。

 そう思っていたのが顔に出てしまったのだろうか。俺の表情を見るなり、ミア姫は微笑みながら首を軽く左右に振った。まるで真珠を溶かし込んだ海の波のように、シルバーブロンドの髪が踊る。


「ハインツ公国は本当に小国なのですから、王族といってもそんなに偉くはありません。格で言ったら、ブリガディア王国の上級貴族のほうが上位なくらいですよ?」


 へー、そうなんだ。でも、たとえそうだとしても、『人としての格』が桁違いな気がするんだけどな…





 変な話題で盛り上がっている俺たちを無視して、いつのまにか授業は別の説明に進んでいた。


「……なので、魔法を使うときには『触媒』が必要になります。この触媒を使うことで、初めて魔法は具体的になるのです。

 たとえば、火の魔法を使うときには『マッチ』や『ライター』なんかで火を起こします。この種火が触媒となるのです。引火した種火に魔力を注ぎ込むことで、火の魔法は初めて具現化します。よく勘違いされがちなのですが、火のないところに炎は起こらないのです」


 話の内容的に、講師クラリティさんは、どうやら今は触媒の話をしているようだった。



 俺はあんまり触媒を使った魔法は使わない。だって触媒を手に入れるのがめんどくさい…というわけではなく、そもそも普通の魔法をほとんど使えないからだ。

 あとはなんとなく…『触媒を使うような魔法は邪道』ってイメージがあって、食指が動かなかったってのもある。たぶんこのイメージは、前の世界のテレビゲームの影響だろう。



「同様に、水の魔法は水筒を、大地の魔法は石を、風の魔法はうちわや扇子なんかを触媒とします。

 こう聞くと、火の魔法が一番大変で、風の魔法なんかは気軽に使える気がしますが、威力という意味では手間をかけたほうが圧倒的に上です」


 講師クラリティさんの説明はとても分かりやすい。俺みたいなど素人でも、言ってることの意味はちゃんと理解できた。

 なるほど。やっぱり火の魔法が、威力的には一番なんだな。スターリィが得意としてるだけあって、手間がかかる分その効果も高いみたいだ。


「ただし。普通の人の魔力では、すべての魔力を使ってもたいした変異は起こせません。あななたちは高い魔力の才能によって選ばれた人たちですが、それでも爆発を起こすような炎を作るのは大変でしょう。

 でも…今は平和な世の中、そんなものに魔力を注ぎ込む必要はありません。魔力は、人々の生活を向上させることに使うのが一番なのですから。

 ここの授業では、みなさんに『魔力』と『魔法』とは何なのかをキチンと理解してもらいます。魔力の本質を知ることが、正しく使うための第一歩なのですから。

 なので、最初あなたたちに知ってもらいたいのは、『魔力は、武器にも便利にもなる“諸刃の剣“である』ということです」


 んー、そういうことか。

 俺なんかすっかりファンタジー脳になってたから、『魔法=敵を倒す』みたいなイメージが出来上がってたんだけど…この世界の魔法の位置付けはちょっと違うんだな。


 人間に与えられた『魔力』という資源を有効に活用して、生活を便利で豊かにしていく。そのために『魔法』が存在している。


 魔法=戦闘だと思っていた俺にとっては、目からウロコが落ちるかのような話の内容だった。



 ここの生徒たちも目を輝かせながら話を聞いている。きっと彼らは、これから先のこの世界を担う人材になるんだろう。

 願わくば彼らが、自分が持つ『才能(魔力)』を、平和のために使って欲しいと思う。



 そのためにも…俺みたいな存在が、やらなきゃいけないことは多そうだな。


 



 エリスが間に入ってくれたおかげで、少しずつミア姫とも話をするようになった。多少眩しさを感じながら、ミア姫といろいろ話してみたところ、彼女は想像していたよりもはるかに気さくな人だった。

 人間離れした美貌に目がくらみがちだけど、その点を除けば、話しやすい普通の女の子のように感じたんだ。


 なんとか俺は危険人物ではないと分かってもらえたからだろうか。授業が終わると、ミア姫とエリスに声をかけられて…驚くなかれ、なんと彼女らと一緒に昼食を取ることになったのだ!


「よかったら、わたくしたちと昼食でもどうですか?」

 なーんてミア姫に言われたときは、さすがの俺も心臓バックバクさ。


 いろいろ準備があるとかで、ミア姫とエリスは先に引き上げて行った。実はミア姫らVIPには、特別に部屋が与えられていたので、そこで昼食を取ることになったのだ。


 あとで迎えが来るそうで、それまで俺は一般生徒向けの食堂で待機することになった。





 それでも、二人と別れる途中まで一緒に歩いたんだけど、廊下での他の生徒からの注目の視線ったら…まぁ物凄いこと。

 あるものは羨望。あるものは嫉妬。でもほとんどの生徒たちがミア姫に見惚れていた。

 そりゃそうだよなぁ、こんな綺麗な姫様と一緒に歩くとか、俺自身夢みたいだもんな。横にいるのがこんなメガネっ子で申し訳ないと思う。


 そんな…たくさんの視線が集中する最中。俺は一般の視線とは全く異質な視線を感じた。

 例えるならば、それは…魔樹海で感じた魔獣の視線。


 ハッとして、その視線のほうに目を向けると、そこには…少し変わった格好の人物が、こちらをじっと見つめていた。




 その人物は、おそらく女性だった。


 おそらくと言うのは、その女性が女子用の制服を着ていたからだ。加えて、腰くらいまである黄金色のウェーブがかった髪が、彼女が女性であることを示しているようであった。

 彼女が極めて異質な点は、その顔部分にあった。

 目を引くのは、顔に装着された『仮面』。無機質なそれが、顔全体のうちの上半分…目や鼻の部分を覆っていた。それ故にどんな顔なのか分からなくなっているけど、唯一晒された口元は魅惑的で整った形をしていた。


 リボンの色が赤い色なので、おそらく2回生だろう。そんな人物が…なぜあんな視線でこちらを見ているのか。


 エリスとミア姫は、周りの喧騒にかき乱されて視線には気づいてないようだ。

 明らかに羨望や嫉妬とは違うあの視線は…一体なんなんだ?なんのために、こちらを見ている?


 どうしたものかと判断がつきかねていると、俺の視線に気づいたのか、仮面の女生徒がサッと視線をそらして、そのまま立ち去ってしまった。


 …なんだったんだ、あれは?








 エリスたちと別れたあと、俺はとりあえず一般生徒向けの食堂で時間を潰すことにした。


 この食堂はかなり広く、全生徒が収まっても席が余るくらい十分なスペースがあった。なので俺は、端っこのほうの誰も来なさそうなスペースに座って水を飲んでいた。

 …なんかお金がない人みたいでイヤだな。でも決して俺はビンボーだってわけじゃないぜ?何か食べたり飲んだりしたら、せっかく招待してもらう昼食会で食べれなくなっちゃうから、水でガマンしてるだけさ。


 一応待ち合わせの目印に、ミア姫から渡されたハンカチを手に持っている。ちょっと匂いを嗅いでみると、洗いたての洗剤の香りがした。…匂いを嗅ぐのはお約束だよね?



 食堂では、たくさんの学生たちが昼食を取っていた。青や赤のネクタイやリボンも見えることから、全学年の生徒たちがここで昼食を取っているのだろう。

 ああ、あちらの方では黄色いタイやリボンの子達…同級生が、すでに何人かひとかたまりになって食事をしている。もう仲良くなるなんて、コミュニケーション能力高くてすごいな。…って思ったものの、よくよく考えたら俺もミア姫たちと昼食取るんだった。ってことは、俺もコミュニケーション能力高いのか?まったくそんな気がしないんだが…まぁ深く考えるのはよそう。


 聞いた話だと、街の方にも食堂はあるので、たまにそちらで食事することもあるのだそうだけど、基本的には『安い』『早い』『近い』の三拍子揃ったこの食堂で食べているのだそうだ。

 …ちなみに、三拍子のなかに『美味い』は含まれていない。




 ずびずび。

 学生たちが食事している様子を、水をすすりながら眺めていると、向こうの方から誰かがこちらの方に近寄ってくるのが見えた。

 ピンク色の髪に、ド派手な化粧。見間違えようがない、『西のコギャル』ナタリーンだ。

 彼女は、今日の日替わりメニューが載ったトレーを手に持ち、少し大人しそうな女の子を一人引き連れて、俺の方にやってきた。なんでこっち来るんだよ、めんどくさいなぁ。



「おおっ、あんた昨日の子やないか!こんなとこにおったんやな、探しとったんやでぇ」


 嬉しそうにそう言いながら、なんの断りもなく俺の横にドーンと座る。

 いやいや、許可してねーし。そもそも俺はあんたのことなんか探してねーし。


「ほれほれ、リグレットもここに座りぃ!あぁ、この子はリグレットっつうて、ウチのルームメイトな!よろしゅう!」

「あ、あの…リグレットです…」


 リグレットと呼ばれたメガネをかけた少女は、少しオドオドしながら俺に頭を下げてナスリーンの横に座る。メガネといい三つ編みといい、なんとなく俺とキャラが被る子だ。もっとも俺は三つ編みなんかしてないが。

 それにしても、この子がナスリーンと同室になった『不運な子』だな。さっそく振り回されてるみたいで可哀想に…


「で、あんたの名前聞くのわすれてたわぁ。名前教えてくれへんか?」

「(こいつ、絶対忘れないとか言いながら早速俺の名前忘れてるじゃねーかよ)……あー、アキだよ」

「アキか、ええ名前やな!アキはなんで水飲んでてメシ食わへんの?もしかしてお金無いんか?オカズ一個くらいあげたろか?」


 大きな声で余計なことをベラベラ喋りまくるナスリーン。人の名前は簡単に忘れるくせに、意外にも妙なところで優しさを見せてくる。

 ってか、俺のことはほっといてくれよ。なんか俺が、メシ食う金も無い可哀想な子みたいじゃないか。できればその優しさを『遠慮』って形で見せて欲しいんだけどな。


「ところでアキ、あんたスターリィ=スターシーカーと同じ部屋やろ?」

「ん?そうだけど…」

「あんな、アキに折り入ってお願いがあるねん」


 そう言いながら、両手をついてくるナスリーンを、俺はウンザリしながら眺めていた。

 正直こいつのお願いとか、ろくなものである気がしないんだが。


「あんな…ウチ、スターリィと仲良くなりたいねん。よかったら紹介してくれへんか?」

「…やだ」

「えー、なんでや!?あ、もしかしてオカズ欲しいんか?二個までならこの唐揚げあげるけど、それ以上は堪忍なぁ…」


 いやいや、唐揚げとかどうでも良いし!


「仲良くなりたいなら、自分から声をかけたら良いだろう?」

「いややわ!そんなん恥ずかしゅうて、ウチにはようできへんわぁ!」


 …おいおい、誰が恥ずかしいだって?

 身悶えしながらそう口にするナスリーンを、俺は冷めた目で見つめてしまった。横にいるメガネっ子リグレットも、困ったような表情を浮かべてアタフタしながら、ナスリーンの袖を引っ張っていた。


「…ほら、ナスリーンさん。やっぱりご迷惑ですよ?だから…」

「あかんて、リグやん。ここで引いたらチャンスが無くなるんやで!リグやんかて、スターリィと仲良くなりたい言うてたやんか?」

「そ、そうですけど…」


 俺のことを完全に無視して盛り上がっている二人。


 さて、どうしたもんかな。

 どう対処したものか決めかねて、二人の漫才のようなやり取りを眺めていると…


 ふわり。

 俺の後ろに、誰かがやってきた気配がした。






 振り返ろうとする前に、俺の肩に手が置かれた。すらっと伸びた、綺麗な指だった。

 同時に、白銀色シルバーブロンドの光が俺の目の端に飛び込んでくる。


 これはまさか…ミア姫!?

 慌てて振り返ると、そこには…ミア姫によく似た人物が立っていた。



 夜の月が溶けたかのようなシルバーブロンドの髪に、大きな瞳と長いまつげ。世界中の最高のパーツを集めたかのような、整った顔立ち。

 ただ、ミア姫と大きく違っていたのは、少しだけ勝気に見えるその瞳と、着ている制服が『男性用』のものだったことだ。


 ということは、この人物は……




「やぁ君たち。お取込み中申し訳ないんだけど、ちょっと良いかな?」


 俺の後ろから聞こえてきたのは、ミア姫とは少し違う、男性にしては甲高い声。

 その声にハッとしてこちらに顔を向けたナスリーンとリグレットは、俺の後ろに立つ人物を視界に入れて…絶句した。


「うわぁ、カレン王子…」


 絞り出すように、かろうじてそれだけを口にするナスリーン。一気に落ち着きをなくして、恥ずかしそうにピンクの髪を一生懸命撫でていた。


 そう。俺の後ろに立っていたのは、ミア姫の双子の兄である絶世の美少年、カレン王子だったのだ。



「オレはこの子に先約があるんだ。連れて行って良いかな?」

「へっ?」

「ふわぁ!?」

「ほぇ!?」


 俺を含めた三人が、異口同音に変な声を上げてしまう。そんな様子にお構いなく、カレン王子は強引に俺の手を取ると、サッと立ち上がらせた。『きゃー!?』という黄色い悲鳴が、周りの女子たちから放たれるが、カレン王子はお構いなしだ。

 なんだ?なにが起ころうとしてるんだ?



「きみがアキだよね?さぁ、行こうか」

「うぇっ!?あ、はい…」


 俺はカレン王子に強引に手を引かれ、茫然自失するナスリーンとリグレット、それから女子たちが上げる金切声を背に、食堂を後にしたのだった。









「あ、あのっ?」


 食堂を出たところで、やっとこさそれだけ声をかけると、カレン王子はそれまで引っ張っていた手を離してくれた。そして、どんな女の子でもイチコロで落ちてしまいそうな蕩ける笑顔を浮かべると、俺にこう語りかけてきたんだ。


「強引にしてゴメンね、困ってたみたいだからさ。わた…オレの名前はカレン。エリスとおと…妹から君のことは聞いてるよ。昼食に迎えに来たんだけど、なんか大騒ぎになっちゃったね」

「は、はぁ…」


 いたずらっ子のようにペロッと舌を出すカレン王子を、俺はあっけにとられながら眺めていたんだ。


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