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46.学園生活のはじまり

 

 きゃはっ。

 あたしの名前は【悲惨ミザリー】。


 本当の名前は別にあるんだけど、あたしはこの呼び名が気に入ってるんだー。

 こんなステキな名前をつけてくれた【解放者エクソダス】様には感謝だねっ!ついでに…あのクソみたいな地獄からあたしを救ってくれたのも、エクソダス様だし。



 だからあたしは、エクソダス様のためだったら、なんだってするんだー。

 別にあの方が何をしようとしているのかなんて、興味なっしんぐ!




 さて、そんなわけであたしはいま、魔法学園に潜入してるの。

 ここでのあたしのミッションは、エクソダス様の望む『鍵』を探すことなんだよ。


 ほんとはね、こんなめんどくさいことイヤだったんだ。だって学校に通うとなったら、勉強とかしなきゃいけないでしょ?あたし勉強とかどうでもいいしー。


 だけどね、実際に潜入してみたら…これがまた、なかなか面白そうなんだ!



 まず、あたしの同級生たち。

 なんと天使が5人もいるそうなんだ!


 これまであたしと同じ歳の天使なんて見たことなかったから、ちょっと嬉しかったな。

 だって…同じ歳だったら、なんの気兼ねもなく『狩れ』るしねっ!



 それから…授業。

 あたしはこれまでまともに系統だった勉強なんてしたことなかったんだけど、ここはなかなかしっかりしてるみたい。

 ここの授業は、大きく分けて『魔法使い基礎』『魔道具師』『薬師』『魔法使い上級』の4つのクラスに分かれるんだ。

 それで、全コースに共通の講座と、それぞれのクラス専門の講座に分かれて受講していくみたい。もちろん自分のコース以外の講座も受けれるんだけど、あたしはそんな無駄なことしない主義だしー。


 ちなみにあたしは、今いろいろ誤魔化しちゃってるから、とりあえず『薬師』コースになっちゃった。

 でも、毒とか使えたら楽しいかもね?ふふっ。



 そして…寮。

 あたしは同年代の子と一緒に寝泊まりするのは初めてだから、なんだかワクワクするんだぁー。きゃはっ。


 そんな感じで、あたしは案外この生活を愉しんでる。

 やりたいことはいろいろあるんだぁ。


 たとえば、エクソダス様から貰ったこの魔本【魔族召喚アポカリプス】も使ってみたいしぃ。魔族とか召び出したら、どうなっちゃうのかなぁ?うひひっ。


 ちなみに、エクソダス様には言われたけど、あたしは【暗号機エニグマ】なんかに頼るつもりは毛頭ない。

 だってあいつ、なんかクソマジメで面白くないんだもーん。




 さーてと。それじゃあまずは手始めに、寮で同室になった『この子』から…”弄っちゃおう”かなぁ…


 あーでも、目的は忘れてないからね。『鍵』を見つけるんだよね、かーぎ。



 うふふ。うふふふっ。



 たーのしいなぁー。たーのしいなぁー。









 ---------------------








「あぁー、疲れたぁー!」


 初日の授業が終わって部屋に戻ってきた瞬間、俺はベッドにパタリと倒れこんだ。なんかいい匂いがするなぁと思ったら、スターリィのベッドだった。確信犯じゃないよ?


「お疲れさま、アキ。あなたのベッドはこっちですわよ?」

「うぅ、もう動きたくないー。眠いー」

「だめですわ。まだお風呂入ってないでしょう?」

「そんな硬いこと言わずにぃ…」


 こうやってスターリィに甘えてしまうほど、初日からなかなかにハードな魔法学園の生活だった。




 結局入学式の日は、フランシーヌのプレゼントのおかげで全身の力を使い果たしてしまったようで、なんとか夕飯を食べて湯浴みだけすると、そのまま眠ってしまった。

 本当はフランシーヌのプレゼントしてくれた龍魔法とかを調べてみたかったんだけど、そんな気力かけらも残っていなかったんだ。

 ちなみに手にできたウロコは、朝起きたらポロポロ落ちてしまった。ケモノ女の次はトカゲ女とかならなくて、心から安堵したよ…


 あ、湯浴みで思い出したんだけど、そういえばここの寮、なんと各部屋に小さな浴室が付いているのだ。ただこれは女子寮だけで、ボウイに聞いたところ、男子寮のお風呂はVIP組を除いて共同らしい。

 くそっ、なんで女子も共同じゃないんだよ!



 っとまぁ、そんな話は置いておいて…翌朝から、いよいよ本格的に学園生活がスタートしたのだけれど、これがまぁ、なかなかハードなものとなってしまった。





 まずここで、改めて俺のこの学園での目的を整理したい。


 俺のそもそもの大目的は、『サトシを探すこと』だ。そのための手段を手に入れるために、この学園に来たと言っても過言ではない。

 目的達成のために必要なことだったら、なんでもやっていこうというのが、学園ここでの俺の基本的なスタンスだった。


 そう思っていたところ、最初に『コース分け』が実施された。これは、それぞれの適性に沿った授業を受けられるように、学園側が個々の素質をチェックしたうえで、進むべきコースを振り分けるというものだ。一応コースは、『魔法使い基礎』『魔道具師』『薬師』『魔法使い上級』の4つがあった。


 ここで俺は『魔法使い上級』に振り分けられたんだ。…というより、どうやら最初から決められていたらしい。たぶんロスじぃが裏で手を回したんだろう。

 まぁ贅沢言える立場じゃないし、なによりコースを振り分けられても、他のコースの授業を受けることが可能だったので、そんなに問題にはならなかった。

 ただ、上級の授業だけは上級に在籍するものしか受けれないらしい。だったら上級が良いに決まってる。


 俺個人としは、いろいろな勉強をして不測の事態に備えられるようにしておきたかったので、貪欲に勉強する気概はあった。とはいっても時間は限られるし、他にも空いた時間では極力図書館で文献を漁ったり、フランシーヌから与えられた『龍の力』の解析もしたかった。

 …一言でいうと、いくら時間があっても足りない状況だった。


 検討に検討を重ねた上で、仕方なく…断腸の思いで実利がもっとも薄そうな『魔道具師』と『薬師』の授業はパスすることにした。

 あーあ、『魔道具師』とか憧れるんだけどなぁ…魔法剣とか造りたかったのに。ガックシ。

 でも、調子に乗ってやり過ぎると『落第』とか『除籍』もあるらしい。というか、卒業できるのは半分くらいらしいので、まったく油断はできないのだ。


 だから、ここでの俺は、すべてのことを効率的にこなしていくことが求められた。







 いろいろ検討した結果、俺がとりあえず最初に受けることにしたのは、『魔法使い初級』の講座。やっぱ基礎は大事だもんね。俺の場合『フランシーヌ流』だし。


 本当は、上級の授業があれば優先して受けるつもりだったんだけど…上級は授業数がすごく少ないんだ。

 というのも、もともと『上級』は、ごく限られた人たちしか在籍することができないそうで、下手すると学年で生徒数0なーんて事態もあるのだとか。

 それくらい選ばれたメンバーしか在籍できないので、そもそも普通の授業なんかはしないのだそうで…


 じゃあ『上級』の人たちはどうやって日々を過ごすのかというと…『自主勉強』するのだそうだ。いやー、すごいね上級は。


 誰が上級かは知らないんだけど、少なくともスターリィとカノープスは上級だった(ボウイは『魔道具師』だった。ぷぷぷ)ので、ハインツの双子やレドリック王太子なんかも上級なんじゃないかなって思う。




 さて、そんなわけで参加した『魔法使い初級』の講義。教室にいる生徒数は、入学式で見かけた新入生の半分以上はいるような気がした。

 他のコースの授業を受ける物好きはそんなに多くないらしい。なにせ『落第』の危機もあるしな。

 ということは、新入生の過半数がこのクラスに配置されたことを意味している。


 スターリィやカノープス、ボウイも初級の授業は受ける気が無いみたいで、結局俺は一人でこの講義を受けることになったんだ。




 知り合いもいない俺は、後ろのほうに空いていた席にぽつんと座ることにした。

 べ、別にボッチなんかじゃないんだからねっ!


 他の生徒たちは、高いコミュニケーション能力を発揮しているようで、積極的に近くの席の人に話しかけている。そんな様子を、俺は感心しながら一人でポツンと観察していた。



「おとなり、空いてますか?」


 ふいに声をかけられた俺は、慌てて顔を上げて相手の顔を確認する。そこに立っていたのは、紅茶色の髪の少女…エリスだった。


「わぁ!エリス!」

「こんにちわ、アキもこの授業を受けるんですね?」

「そうそう!良かったら横に座って!」


 俺は喜びを隠しきれないまま、となりの席の椅子を引いた。ニッコリと微笑みながら席に座るエリス。

 いやぁー、まさかここでエリスに会えるなんて思わなかったよ。なんとかボッチ解消できそうだぜ、ラッキー。


 それにしても、エリスは『魔法使い初級』コースになるようだ。『魔法屋』で働いていたんだから、違うコース…たとえば『魔道具師』コースあたりかと思ってたんだけどな。まぁ過半数が初級なんだから、仕方ないとは思うけど。




 そんな失礼なことを考えていた俺の思考に気付くことなく、エリスが嬉しそうに話しかけてきた。


「良かったです、知ってる人がいて。一人だとなんだか寂しくて…」

「いやいや、それはこっちのセリフだよ。エリスがいてくれて心強いし」

「あははっ、大げさですよ。私なんて、どちらかというと『頼りない』って、友人からは言われてるんで」


 頼りあるとかないとか、俺にとっては関係ない。君がいてくれることが重要なのさ!


 なーんてキザなセリフを言うわけでもなく、俺はルンルン気分のまま授業の準備を整え始めたんだ。





 ざわ、ざわざわ。

 急に教室周りが騒がしくなりはじめたのは、エリスと当たり障りのない会話をしながら、カバンの中から筆記用具を取り出していたときだった。


 気になってふと顔を上げてみると、生徒たちは廊下のほうを気にしているようだった。しばらくすると、教室の後ろの扉が開いて、そこから3人の人物が入ってきた。



 突如差し込んでくる、白銀色の光。

 その光を纏いながら、入ってきたのは…天から舞い降りてきた女神の化身。


 なんと、シルバーブロンドの髪をなびかせた、天の女神のような超絶美貌の『ミア姫』が、二人の侍女を引き連れてこの教室にやってきたのだ。


「うそだろう…なんで『ハインツの月姫』が、この教室に?」


 前の席に座っていた男子生徒が、驚きを隠せずにそう呟いた。おそらくこの言葉は、教室にいるすべての生徒の心の声を代弁しているのではないだろうか。

 それくらい…彼女がここに現れたことは、驚くべき出来事だった。


 だけどミア姫は、そんな生徒たちの反応を気にする様子もなく、侍女二人に礼を言うと、たった一人でスタスタと教室の中に入ってきた。


 …こちらの方に向かって。




 そしてミア姫は、迷うことなく歩みを進めると、俺の隣にいるエリスのところにやってきたんだ。


 …おいおい、マジかよ。





 にこやかに微笑みながらエリスの横に立つ姫様に対して、エリスは少し苦笑いしながら声をかけた。


「カ…じゃなくてミア、どうしてここに?」

「エリス、私もこの授業受けてみることにしたんだ」

「ええっ?あんまり人前に出たくないって言ってたのに…」

「うん。でも、いつまでも引きこもってばっかりじゃ、なんにも進歩ないでしょ?」


 そう言いながらミア姫がいたずらっ子のような表情を浮かべると、エリスも諦めたかのようにため息をついた。


「…まぁ、カ、じゃなくてミアが良いならかまわないんだけど…」

「ふふっ」


 ミア姫は、見ているこちらがウットリしてしまうような魅惑的な表情を浮かべ、小さく微笑んだ。




 二人の間ではそれで話がついたのだろうか、今度はミア姫が俺の方に視線を向けてきた。


 間近で見るミア姫は、写真集や遠目で見るよりも何十倍も綺麗で可憐だった。

 太陽の光を反射して、白く輝く白銀色シルバーブロンドの髪。大理石みたいな白い肌。零れ落ちそうな大きな瞳と長いまつ毛。スッと伸びた鼻に、薔薇のように赤く魅惑的な唇。


 こんな美少女、間近で見たら目が潰れてしまいそうだよ。



 そんな超絶美少女が、俺に向かって軽く会釈しながら声をかけてきたんだ。


「初めまして、エリスの友人のミリディアーナです。よかったらミアって呼んでくださいね」

「ええっ?あ、はい。おれ…じゃない、私はアキです。よろしくお願いします」


 若干テンパりながら、なんとかそれだけを返す。ミア姫のほうは、俺の名前を聞いて少し驚いたような表情を浮かべた。


「まあ、あなたがアキさんなんですね。エリスから話は聞いてます、気さくな方と仲良くなったって。良かったら私とも仲良くしてくださいね?」

「ひ、ひえぇ。こちらこそ…」


 ミア姫の『美少女&王族』オーラに圧倒された俺はあわてて立ち上がると、無我夢中でウンウンと頷いた。


 そんな俺たちを、エリスは苦笑しながら眺めてたんだ。



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