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45.プレゼント

 

 フランシーヌとは、時間の許す限りたくさんの話をした。だけど、時は無情にも過ぎていき…あっと言う間に集合時間がやってきたんだ。

 すごく名残惜しかったんだけど、フランシーヌとはここでお別れすることになった。



 去り際に、フランシーヌが俺の手をとると、なにかが入った小袋を渡してくれた。中に入っていたのは、虹色に輝く小石ほどの大きさの小さな玉だった。

 …なんだこれ?宝石かなにかかな。


「うふふ、それはね…アメよ」

「アメ?アメって…空から降ってくる?」

「違うわよ。飴よ、あーめ、食べる飴」


 へぇぇ、これ飴なんだ。そう言われてみると、なんとなく美味しそうに見えるから不思議だ。

 それにしても、虹色に光る飴なんて初めて見たよ。


「珍しいでしょ?苦労したのよぉ、手に入れるのに。あとで小腹が空いたときにでも、食べてみてね。とっても美味しいから」


 フランシーヌがそう言うくらいだから、よっぽど美味しいんだろうな。どんな味がするんだろう…楽しみだぜ。



 そんな感じでギリギリまで別れを惜しんだんだけど、とうとうフランシーヌに抱かれていたゲミンガが起きて、ギャン泣きしはじめてしまった。


「よーしよし、ゲミンガ。大丈夫よ。…それじゃあ元気でね、アキ」

「うん。フランシーヌもね」


 結局、のんびり別れを惜しむこともできないまま、俺は慌てて部屋から出て行ったのだった。










 部屋を出たあとも、フランシーヌと久しぶりに会えてすごく満ち足りた気分だった俺は、少し浮ついた状態のまま、貴賓室がある建物から出て行こうとした。

 すると、そんな俺の前に立ちふさがる三人の人物がいた。少し怒った顔のスターリィ、および取り巻き連中カノープスとボウイだった。

 …しまった、こいつらのこと忘れてた!


「ちょっとアキ、どこに行ってたんですの?探してたんですわよ」

「あ、ごめん。ちょっと珍しい人に会えたから…」


 慌てて、先ほど久しぶりにフランシーヌに会えた事や、彼女と積もる話をしていたことなどを正直に伝えたところ、スターリィはすぐに機嫌を直してくれた。

 ふぅ、良かった。どうやら正しい対応ができたみたいだ。だてにスターリィ歴長くないから、最近彼女が切れたときの対処方法が、なんとなくわかるようになっちまったんだよなぁ…とほほ。



「そっかー、その人はアキの恩人なんだろ?会えてよかったなぁ!」

 あまり詳しい事情を知らないボウイが、のんきに喜んでくれた。こいつ、単純だけど良いヤツだよな。


 一方カノープスは…特に反応を見せずに黙ったままだった。だけど、俺にはわかる。あいつは少しだけ嬉しそうだった。

 それはそうだろう。だって、天涯孤独となってしまったはずのゾルバルに子供が居たんだから。

 カノープスが抱える複雑な気持ちが、俺にはなんとなくわかる。なにせ…ことゾルバルに対しては、世界中で俺とこいつだけが同じ想いを共有しているから。



「ところでスターリィ、さっきは凄く良い答辞だったよ。あの『天使』になる演出はレドリック王太子の発案?」

「ふふっ、驚いたでしょ?そうなんですの。レドリック王太子は思ってたより気さくな人でして……」


 そんな感じでスターリィの答辞秘話を聞きながら、俺たちはオリエンテーションが行われる場所へと向かったのだった。










 ユニヴァース魔法学園の新入生向けオリエンテーションは、場所を講堂から学園内にある広い教室に移して行われることになっていた。

 新入生のしおりに記載されていた教室に入ると、そこは扇状に広がった形の教室だった。後ろの座席に向かうにつれて地面が高くなっているその形は、俺になんとなく大学の教室を連想させた。



 教室の中に入ると、既にたくさんの生徒たちが集合していた。スターリィの姿が現れたとたん、他の生徒たちが少し騒めくのがわかる。


 やっぱスターリィは、みんなから注目を浴びる存在なんだよな。改めてそんなことを思いながら、真ん中あたりの空いている席に、俺たちは腰を下ろした。



 ふと周りを見渡すと…前方にエリスとよく似た紅茶色の髪の毛が見えた。

 一瞬エリスかなって思ったけど、よくよく見てみると、それはレドリック王太子だった。

 その証拠に、横に金髪のイケメン…ブライアントだったかな?が座っていて、近くの女の子たちと和気藹々わきあいあいと談笑している。

 けっ、イケメンはモテモテで羨ましいことで。


 ハインツの双子の姿は一番後方にあった。まるでそこだけ別空間になったみたいに、白銀髪シルバーブロンドの美少年美少女が、圧倒的な存在感で鎮座している。

 そのすぐ近くには…ミーハー筆頭のナスリーンの姿も垣間見えたものの、遠慮しているのか話しかけるそぶりはなかった。

 あいつ、あんだけ積極的な性格しているくせに、こういうときはモジモジしてんのな。変なやつだなぁ。



 そのあとも引き続きエリスの姿を探したものの、人数も多いので見つけることが出来なかった。

 やがて、教室の前のほうにある扉が開いて、そこから講師だけが着ることを許される赤いローブを纏った男の人が入ってきた。


 教室の一番先頭にある教壇に登ると、その人物はそのまま自己紹介を始める。彼はフローレスという名前の男性講師だった。

 自己紹介が終わると、講師フローレスさんはオリエンテーションの説明を開始した。



「…あの講師も天使なんだよ」

「…そうなんだ?」


 長い説明に飽きたのか、横に座っていたカノープスが、俺に向かってぼそっとつぶやいた。

 へー、カノープスは天使か否かを見分けることができるんだ?


「んー、全員が全員ってわけじゃないけどね。彼みたいに隠そうともしていない相手については、ぼくでも分かるよ」

「ふーん。じゃあさ、この教室には何人の天使が居るかわかる?」


 俺の質問に、カノープスは少しだけ顔をしかめたあと…こう口にした。


「…そうだねぇ。隠しているやつも多いからよく分からないけど、アキやぼくを含めて…天使クラスが10人以上いるね」

「はぁっ!?」


 驚きのあまり、思わず声を出してしまった。一気に周りの視線が俺に突き刺さる。


 やばっ!

 慌てて俺は自分の口を塞ぐと、すぐに机に突っ伏して顔を隠した。くそっ、やっちまったぜ。


「ちょっとアキ、静かにしてください」


 ちぇっ、スターリィにまで怒られちまったよ。それもこれも、わけのわからない冗談ことを言うカノープスのせいだ。

 ほとぼりが冷めたところで、俺はカノープスの耳を引っ張りながら小声で怒りをぶつけた。


「おいカノープス、お前のせいで怒られちゃったじゃないか。いくらなんでもこの教室に10人も天使がいるわけないだろう?」


 たしか…この部屋に居る天使クラスの人間は、壇上にいる講師フローレスさんに、レドリック王子、ハインツの双子、ギャルっ子ナスリーン、スターリィ。あとは…俺とカノープスを入れたって8人だ。なのに、天使が10人いるとか意味が分からない。

 ったく、タチの悪い冗談だよ。そんなにホイホイ魔力覚醒者がいてたまるかってんだ。


「…10人じゃなくて、10人以上ね。拡散しすぎて、ぼくにはもうはっきり測れないんだ」

「…おいおい、冗談にしては笑えないぞ?だいたいそれが真実だとして、なんで他のやつらはスターリィたちみたいに『自分は天使だ』って名乗らないんだ?」

「そんなこと、ぼくに聞かれてもわからないよ。ぼくらみたいな事情でもある人が他にもいるんじゃない?

 それにしても…ふふふ、ここでの生活はつまんないかと思ってたけど、なかなか面白そうだね」


 一人で勝手に愉悦に浸るカノープス。どうやらこいつはウソをついているわけではなさそうだ。

 だとすると…この教室には、まだ知られていない天使が最低でも二人以上存在していることになる。そんなことがありうるのか?


 そもそも、10代の天使なんてすごく希少レアケースだって聞いてたのに、10人以上とかどういうことだ?

 いったいどうなっていやがるんだよ、この学園は。









 講師フローレスさんの長いお話…1~2時間くらい講義や単位の取得方法などの説明を受けたあと、俺たちはいよいよ寮に案内されることになった。


 講師フローレスから、なにやら一枚の紙が配布される。それを見た学生たちが、わっと歓声を上げた。

 遅れてこちらにも配布されてきた紙に目を通すと、それは…寮の部屋割りだった。



 ここ魔法学園の寮は、男女で建物が別れているのものの、基本的には相部屋だった。だから、ここでのパートナーが今後の学園生活を左右するといっても過言ではない。

 なるほど、これを見てみんな一喜一憂してたのか。


 とりあえず自分の部屋を確認してみると…ほうほう、三階の301号室か。パートナーは…よかった、スターリィだ。

 心から安堵しながら横のスターリィの表情を伺うと、やっぱり彼女も嬉しそうだった。

 …いくら俺が今は女の子の身体をしているとはいえ、さすがに他の知らない子と一緒に過ごすのはちょっと厳しいと思ってたからなぁ。スターリィで本当に良かったよ。


「ふふっ、一緒のお部屋ですわね」

「うん。スターリィでほんとに良かったよ。これからもよろしく」

「…本当ですの?他の…エリスとかって子の方が良かったんじゃありませんの?」


 げっ!?

 いやいや、そんなこと考えてなかったし!あぁでもそれも…アリっちゃアリだったかな?

 一瞬だけ浮かんだそんな考えを、慌てて頭の片隅に追いやった。


「そんなことより…スターリィはイヤじゃない?」

「え?なんでですの?」


 なんでって、そりゃ俺は身体は女の子でも、中身は男の子なわけで。しかも、これまでみたいに1〜2日泊まる訳ではなく、ずーっと一緒の部屋になるからね。さすがに年頃の女の子としてはキツいんじゃないかなぁって、さ。


「アキったら、そんなこと気にしてましたの?」

「う、うん…まぁ…」

「…ふふっ、変な人」


 な、なんだよ変な人って。せっかく人が気を遣ってるっていうのにさ!

 変な人と言われて少し憮然とした俺に対して、誰にも聞こえないような小さな声で笑いながら、スターリィはこう言ったんだ。


「あたしも、アキと同部屋でよかったですわ。でも…」

「…でも?」

「ちゃーんと、責任取ってくださいね?」


 最高に悪戯っぽい笑みを浮かべるスターリィ。そんな彼女の顔が眩しくて。


 くっそー、なんだかスターリィの手玉に取られてる気がするな…

 いかんいかん。余計なことを考えるのは止めよう。


 俺は正面からまともに見ることができず、誤魔化すように…手元にある部屋割りの紙に視線を落としたのだった。






 さーて、他のメンツはどんな部屋割りになっているのかな?気を取り戻して、部屋割りの確認に戻ることにする。

 改めて確認してみると、これがなかなか面白い組み合わせだった。



 まずカノープスとボウイ。彼らもやはり同じ部屋だった。ってことは、この部屋割りには誰かの意図が入っていることがわかる。そもそも、偶然でこの組み合わせはあり得ないしね。


 レドリック王太子や、その友人で上級貴族のブライアント、それからハインツの双子なんかのVIP組は、やはり個室が充てがわれていた。

 いくら平等の精神とはいえ、さすがに王侯貴族に相部屋は厳しかったんだろう。


 あと知ってる人でいくと、エリスは…プリシラという名前の子と相部屋になっていた。きっとエリスなら、このプリシラって子とも仲良くやるだろう。

 そしてナスリーンは…リグレットという名前の子が相部屋のパートナーだった。可哀想に、リグレット。きっと苦労するだろうなぁ。

 俺は会ったこともない少女に、心の底から同情した。



 そんなこんなで教室のざわめきが収まらない中、講師フローレスさんと…遅れてやってきた講師クラリティさんの掛け声に追い立てられ、俺たちはいよいよ寮に向かうことになった。








 ---------------------------------







 学生寮は、広大な学園の敷地の一角にあった。

 男女および学年で寮は別れており、職員寮も含めて全部で10以上ある建物の中で、俺たち女子組が入るのは、築100年はゆうに超えていそうな五階建てのボロアパートだった。

 まるで幽霊でも出そうなその佇まいに、新入生たちからは悲鳴に近い声が上がる。


「さぁ、ここが貴女たちが入る『黒百合寮』よ」


 講師フローレスさんから、女子寮への先導役をバトンタッチしたされた講師クラリティさんの声が、あたり一帯に響き渡った。

 しかし、寮を前にして誰一人中に入ろうとしない。どうやら『黒百合寮』の不気味な外観に、みんなビビっているようだ。


「…仕方ありませんわね、あたしたちが先に入りましょうか」

「うん、そうだね」


 結局、俺とスターリィが一同の先陣を切って『黒百合寮』へと入っていくことになったのだった。







「うわぁ…」

「ほぉ…」


 思わず声が出る。

 それほどに…『黒百合寮』の内装は、外観からは想像できないようなものだった。


 しっかりと磨かれた床。張り替えられたばかりの壁紙。辺りに灯る魔道具の灯り。そして建物内を彩る数々の調度品たち。

 ここはちょっとしたホテルじゃないかと思うくらい、しっかりとした内装だった。正直俺たちが『街道の街ヘイロー』でよく泊まっていた宿より、はるかに上等に思えるくらいだ。



 続けて入ってきた他の生徒たちも、皆一様に驚きの声をあげていた。


「なんや、なかなかやるやんか!メッチャ綺麗やなぁ!」


 お、この声はナスリーンだな。どうやら彼女もこの寮をお気に召したようだ。




 そして、最後に寮に入ってきたのは、白銀色プラチナブロンドに輝く美少女…『ハインツの月姫』ことミア姫御一行だった。


 なぜ御一行なのかというと、ついさっきスターリィから聞いたばかりなのだが…『ハインツの双子』は、特別に二人の『侍女メイド』を連れて入学することを許可されているのだそうだ。

なんでもミア姫は身体がとても弱いらしく、あまり一人にはできないらしい。


 まぁ…あんだけの超絶美少女だから、仕方ないよな。俺だって死ぬ気で守ってあげたいと思うもん。



 そんなわけで、ミア姫を護るように先導して入ってきたのは、長い黒髪で背の高いオリエンタルな顔つきの少女と、彼女とは真逆に背の低くて軽い天然パーマ髪を持ったの少女だった。

二人はメイド服みたいな特別な制服を着ていたので、侍女なんだとすぐにわかった。


 ちなみに彼女たちは、本来であれば学園に入学する年齢ではないらしい。だけど、特別に『聴講生』という名目で入学を許可されているのだそうだ。

二人ともそれなりに可愛らしい娘だったんだけど、いかんせん…彼女らのご主人様が別次元すぎたので、あまり目立たなかったのは、ちょっと可哀想だなって思った。


 そんな二人に続いて寮に入ってきたのは、彼女たちのご主人様である、可憐な美少女ミア姫だ。

 んー、やっぱり凄まじい美貌だな。こんな子と同じ寮に寝泊まりするってことを想像するだけで、なんだかクラクラするよ。


 そんな中、一つだけ予想外のことがあった。

それは、一人だと確信していたミア姫の横に…彼女と談笑する別の少女の姿があったことだ。


 あれ?侍女は二人って聞いてたんだけど、他にも居たのかな?

 そう思いながら、深く考えずにミア姫の横に立つ少女の顔を確認して…


俺は驚きのあまり固まってしまった。




 ミア姫の横にいたのは、紅茶色の髪を持った、愛らしい雰囲気の少女。


 それはなんと…エリスだったのだ。




「エリスの知り合いって、ミア姫のことだったんだ…」



 この寮にやってきて最初の驚きが、俺の胸に突き刺さったのだった。









 ---------------------------------









「ふぅー、なんだか疲れましたわね」


 ようやく俺たちに充てがわれた寮の部屋…『黒百合寮』の301号室に荷物を入れ終わって、スターリィがベッドに横になりながらそうボヤいた。


「スターリィは朝から緊張の連続だったから、さすがに疲れただろう?少し寝てなよ。夕食の時間になったら起こすからさ」

「…ええ、ありがとうございます。お言葉に甘えてそうさせていただきますわ」


 そういうが早いか、スターリィはまくらを抱え込んですぐに寝息を立て始めた。

 よっぽど疲れてたんだろうな。おつかれさま、スターリィ。

 可愛らしい寝息を立てて眠るスターリィの頬を軽く撫でると、風邪を引かないようにと布団をかけてあげた。






 一通り荷物を片付け終わると、俺は大きく一つ息をついた。

 さて、これからどうしようかな。

 大した荷物も持ってきていない俺は、すぐにやることがなくなってしまった。


 とりあえず少し古びた窓枠を開けてみると、外の空気が一気に入り込んできた。初春のまだ冷たい風が、一瞬で室内に行き渡る。

 …んー、空気が澄んでいて綺麗だ。ただ、ここはなかなか良いところなんだけど、調子に乗っていると凍死しそうだな。


 一通り換気が終わったところで、スターリィが風邪を引いたらまずいので、すぐに窓を閉めることにした。



 急に冷え込んでしまった室内に、ぶるっと軽く身震いしながら椅子に座ると、ふと荷物に入れっぱなしになっていた『あるもの』もののことを思い出した。

 それは…フランシーヌから貰った飴玉のこと。


 そういえば小腹が空いていた。お昼ご飯を食べる暇もなかったしな。

 よし、せっかくだから食べてみよう。

 そう思い立つが早いか、俺は荷物の中を漁り始めた。



 袋から取り出した飴は、小石くらいの大きさで虹色に輝く不思議なものだった。どう見ても宝石のように思える。本当に食べれるのかな?フランシーヌがくれたくらいだから、たぶん珍しい飴なんだろう。


 ま、いいや。いただきまーす。


 ばくっ。

 躊躇なく、その大きな虹色の飴玉を一息に口に入れた…次の瞬間。

 虹色の光が、俺の口の中で爆発した。





 な、何が起こった!?

 口の中に入れたはずの飴玉の感覚が、一瞬で消え去った。それはまるで、俺の身体に吸収されたかのように。



 戸惑う俺に追い打ちをかけるかのように、続けて俺の全身を…電撃のような衝撃が貫いた。まるで全身の骨や筋肉がバラバラになりそうなくらい強烈な激痛が走る。


 ぐぅわぁぁ!?なんだ、これは!?

 こいつは…飴玉なんかじゃない!


 最初に考えたのは『毒』。しかし、すぐにそんなことを考える余裕すらなくなる。あまりの激痛に声すら出ない。


「…がっ…ぐぅ…」


 辛うじて口からそれだけが漏れ出るが、ぐっすりと寝ているスターリィは気付かない。

 やばい、俺は…このまま死ぬのか?



 激痛が永遠に続くかと思われた、そのとき。


 ふいに…全身の痛みが和らいだ。



 それはまるで、これまで身体中を巡っていた猛毒が、ゆっくりと吸収されていったかのように…




 がくっ。

 すべての波が通り過ぎたあと、俺はその場に崩れ落ちた。全身から汗が、まるで滝のように吹き出ていく。


 お、俺は助かったのか…?

 徐々に体調が回復していくのを実感して、ようやく俺は安堵のため息を漏らした。

 少しずつ、荒かった呼吸も落ち着いていく。


 それにしても、とんでもない飴だったな。さすがにフランシーヌが俺に毒を盛るとは思えないから、もしかして龍族専用のヤバいやつとかだったのかな?


 呑気にそんなことを考えながら、飴玉の入っていた袋を改めて確認すると、そこには…先ほどまで無かったはずの一枚の紙切れが入っていた。

 なんだ、これは?

 急いで中身を確認してみると、そこにはこう書かれていた。





『アキへ。


 きっとあなたはビックリしたでしょうね。

 でも、この手紙を読んでいるということは、無事に“試練“を乗り越えたようね。おめでとう。


 あなたが口にしたのは、“龍の涙“というものです。これは、古龍族が自分の力を誰かに分け与えるときに使う…いわば魂の塊なの。


 ただ、人間が受け入れるにはちょっときついんだけど…アキ、あなたなら大丈夫よね?



 ゾルバル様があなたに力を託したように、わたしもあなたに“古龍族“の力を…ほんの一部だけど授けます。

 これで、あなたは“古龍族“の血と、龍魔法と、それからわたしの【龍の英知メロウブライト】を使うことができるようなるでしょう。


 あなたならきっと、その力を大切なことのために使ってくれると信じています。


 これからも色々なことに負けることなく頑張ってね。



 フランシーヌより。』




 手紙を読み終わったあと、俺は自分の右手を見てみた。そこには、これまで無かったはずの龍の鱗みたいなものが、まるでかさぶたのように存在していた。





「…うっそーん!?」





 俺は天を仰ぎながら、思わずそんな声をあげてしまったのだった。



本編では触れていませんが、ミア姫お付きの侍女の名前はベアトリスとシスルです。


第6章はこれにて終了になります。



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