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【アナザーサイト】ボウイの日常



 


 俺の名前はボウイ。ボウイ=バトルフィールド。山奥にある『ノーザンダンス村』に住んでいる。もし誰かに「あなたの出身地は?」と聞かれたら、俺は迷わずノーザンダンス村の名前を答えるだろう。




 この村は、数年前に冒険者によって造られた新しい場所…いわゆる開拓村だ。元々人間が立ち寄り難いと言われていた『魔樹海』のすぐそばにある。

 そのせいで、狂った獣や魔獣なんかの襲撃もしばしば発生していたことから、それなりの実力…最低Dランク以上の冒険者しか住むことが許されていなかったんだ。



 ほんとうに辺鄙で何もない、辺境の村。だけど、ノーザンダンス村にはひとつだけ、他に誇れるものがあった。

 それは…”七大守護天使”が二人もこの村にいることだ。


 へっへー、すごいだろ?

 これってとんでもないことなんだぜ?

 だって、世界を救った英雄のうちの二人が、こんなちっぽけな村にいるんだから。



 剣と魔法の達人、『聖道テスタメント』パラデイン。

 女神の生まれ変わり、『聖女ジャンヌ』クリステラ。



 そもそも、この村を創立したのがこの二人の英雄なんだ。理由は詳しくは知らない。だけど、そのおかげでこんな辺鄙な場所にあるのに、知る人ぞ知る有名な村になっちゃったんだ。


 もっとも、パラデイン様とクリステラ様は、この村で静かに暮らすことを望んでた。

 実際、まったく英雄ぶらずに、他の村民たちと同じような生活をしてたしな。本当にすごく謙虚な人たちだよ。


 ただ、やっぱり英雄は忙しいみたいで、家を不在にすることはすごく多かった。そんな彼らを温かく迎えることが、俺たちノーザンダンス村の人たちが申し合わせることなく誓った想いなんだ。




 例えばこんなことがあった。一時期、パラデイン様やクリステラ様に弟子入りしたい冒険者の移住希望者が殺到したんだ。


 まぁ…七大守護天使のすぐそばに居たいと思う彼らの気持ちは分からないでもないけどね。

 だけど、そのあたりは村長たちがうまくあしらったのだそうだ。実際問題あんまり人口が増えすぎても、食料不足になるだけだからな。






 そんな冒険者村であるノーザンダンス村に、なぜ子供である俺がいるかというと…実は俺、ここの村長に拾われたんだ。




 今から7〜8年ほど前。身寄りのなかった俺は、とある町でスリや乞食まがいのことをして食いつないでいた。

 日々食うものもなくて、奪い傷つけ、ときには命さえ危ぶまれるような、最低な生活。あの頃の俺は、たぶん最低な状態だったと思う。


 そんな俺を、殴り飛ばして引きずって連れ帰って…育ててくれたのが、ガイルのオヤジだった。

 俺は今でもオヤジには感謝している。彼がいなければ、俺は今頃スラムで死んでたかもしれないから。



 ノーザンダンス村の村長であり、俺の育ての親でもあるガイル=バトルフィールドは、かつては魔戦争で名を馳せた冒険者だったらしい。そんなオヤジの腕や人徳を見込んで、開拓村の村長を依頼してきたのがパラデイン様だ。


 今でもあのときのことを思い出すと、鳥肌が立つ。






 今から5年ほど前のある日の夜。俺が居間で

『魔戦争』を題材にした絵本を読んでいると、玄関のドアをノックする音がした。


「おーい、ボウイ。誰か来たみたいだ。見てこいや」

「はいよー、オヤジ!」


 片付けものをしていたオヤジに頼まれてドアを開けると、そこに立って居たのは…まさに今読んでいた『物語』の中に居た、憧れの存在そのものだった。


聖道テスタメント』パラデイン。


 そう。なんと…驚くべきことに『英雄』パラデイン様がオヤジを訪ねてウチに来たんだ。



 完全に想定外の来客に呆然と立ち尽くしていると、怪訝に思ったオヤジが後ろからやって来た。


「どうしたぁ?ボウイ、誰が来たんだ?」

「やぁガイル、久しぶりだな。この子は?」

「ん?なんだ、パラデインか。この子は…拾った」

「くくっ、拾ったか…かつて『鬼蜻蜓』と呼ばれたガイルが人助けに子育てか?なかなか面白いな、似合わないにも程があるだろう」

「ふん、ぬかしやがるぜ”英雄様”がよ。それで、英雄様が壊れたオレに何の用だ?」


 鬼蜻蜓おにやんまとは、また大層な名前でオヤジは呼ばれてたんだな。そんなことを思いながら、写真でしか見たことがなかった英雄とオヤジが対等に話している姿に身震いしたものだった。


「実は今回、子育てなどしてる優しいガイルさんにぴったりの仕事を持ってきたんだ」

「…はぁ?大ケガ負ってろくに剣も振れねぇ俺に仕事だと?」

「あぁ。…お前、村長にならないか?」


 唐突な申し出に、オヤジは顔を歪ませた。


「はぁ?お前バカじゃないのか?なんでオレが…」

「ふん、お前のことはよく知ってる。昔から面倒見が良くて、たくさんの冒険者から慕われていた。実際、こうやって身寄りのない子を育ててまでいる。

 …そんなお前は、こんなとこで収まってるようなタマじゃないだろう?」

「だがオレは、ケガで…」

「そんなことでお前の魂は折れたのか?そんなことないだろう?」


 英雄の言葉に、オヤジの心がグラグラと揺れてるのがわかる。無言で、唇を噛み締めていた。そんなオヤジに、パラデイン様が決定的な一言を放った。


「さっさと出てこい、ガイル。力を貸してくれ。俺にはお前の力が必要なんだ。

 そして…次世代のための礎となれ。これこそが、お前に示された『道』なんだよ」


 オヤジが俺を見る。俺はとにかく頷いた。だって英雄がオヤジのことを必要としてるんだぜ?そんなの…最高じゃないか。


「…条件がある。こいつを連れて行きたい」

「かまわないさ。だってこの子は…お前の息子なんだろう?」


 その言葉に、オヤジは満面の笑みを浮かべて頷いたんだ。




 こうして、オヤジはノーザンダンス村の村長になった。それ以来、すごく生き生きして頑張っている。

 だから俺は、そういう意味でもパラデイン様を尊敬し、感謝しているんだ。







 俺が尊敬してやまないパラデイン様とクリステラ様だけど、若く見える外見とは裏腹に、立派な息子と娘が居た。レイダー様とスターリィ様だ。


 レイダー様については…深くは語るまでもない。今をときめく超有名冒険者チーム『明日への道程ネクストプロムナード』のリーダーとして大活躍している『勇者ヒーロー』だ。

 残念ながら、ノーザンダンス村が『村開き』したときにはレイダー様は既に独立していたから、俺との接点はほとんど無い。でも、一度だけ村に遊びに来てくれたことがあったんだ。


 いやー、カッコよかったね!まさに現役最高の冒険者!って感じだったよ。もっとも、緊張しすぎてほとんどマトモに話すことができなかったんだけどさ。



 確かに、レイダー様については『雲の上の存在』だった。だけど、もう一人の『英雄の子供』であるスターリィ様は違う。

 俺とスターリィ様は同じ歳だ。そんでもって10歳のときからこの村で一緒に育った…幼馴染みなんだ。






 スターリィ様との初めての出会いは衝撃的だった。あのときのことは今でも忘れない。


 開拓村にやっとこさたどり着いた俺とオヤジの前に、クリステラ様に連れられて現れたスターリィ様。その姿を視界に収めた瞬間、俺の全身は震え上がったんだ。


 太陽の光に反射して輝く栗色の髪。

 綺麗に整った顔立ち。

 透き通るような肌。

 薔薇のような唇。

 まさに地上に舞い降りた天女とは、彼女のことを指すのではなかろうか。そう思った。


 見た目という意味では、確かにスターリィ様より綺麗な人はいるかもしれない。実際、街にいるときにはそれなりに小綺麗な人たちを見てきたと思う。…もっとも、その美人たちのほぼ全員が、俺のことを汚らしいものでも見るような目で見やがったんだけどな。


 でも、スターリィ様は違う。俺のことを『一個の人間』として見てくれたんだ。俺みたいなスラム崩れを、だぜ?

 それだけじゃない、俺に対して「良かったらお友達になりませんか?」なんて言ってくれたんだ。あまりに嬉しくて、思わず泣きそうになったよ。


 この瞬間から、俺はスターリィ様の虜になったんだ。




 スターリィ様の優しさは、俺以外にも分け隔てなく与えられた。

 ノーザンダンス村は開拓村だから、俺たち二人の他に同年代の子は居なかった。だけど、この村で産まれた幼い子たちはそれなりに居た。

 そんな子たちに、スターリィ様は分け隔てなく接してくれた。優しくて、慈愛のこもった笑みを浮かべながら、小さな子たちの遊び相手をしてくれたんだ。


 それだけじゃない。スターリィ様はとても気高かった。『英雄の娘』であることを強く意識していて、誇り高く振舞っていた。

 だからかな?気品…ってやつが、他の村のヤツらとは違ってたんだ。

 スターリィ様と接していると、まるで高貴な貴族や王族を相手しているみたいな気分になって、より一層スターリィ様のことを尊く思うようになった。




 そんなスターリィ様は、教養や能力についてもずば抜けていた。


 他の追従を許さないほどの魔法の才能を持っていて、出会った頃の10歳のときには、既に他の村人の魔力を軽く凌駕していたんだ。文字通り『別格』だった。


 スターリィ様の素晴らしい素質を伸ばすために、村人たちは協力を惜しまなかった。ノーザンダンス村にはたくさんの冒険者が居るんだけど、その中でも上位の人たちは、率先してスターリィ様に英才教育を施したんだ。


 スターリィ様のほうも、その期待に応えるように、まるで乾いた大地に水が浸透するかのごとく、彼らの教えを吸収していった。


 俺もそれなりには頑張っていたとは思うんだけど…残念ながら魔法も戦闘のセンスもスターリィ様には全く太刀打ちできなかった。



「ボウイは…全てが一直線すぎますわ」


 あるとき、模擬戦を終えたあと、スターリィ様からそんなことを指摘されたことがある。

 残念ながら、あの頃の俺にはその言葉の意味をイマイチ理解することができなかった。今なら少し分かるんだけどな。

 まぁ…あの頃はスターリィ様のそばにいれるだけで満足しちゃってたからね。深くは追求しなかったんだよ。だから、適当に頷いて「さすがはスターリィ様です、ありがとうございます!」って言っちゃったんだ。

 少しだけ、スターリィ様が寂しそうな顔をしていたのが印象的だった。


 たぶん、俺のそんな『スターリィ様を別格として扱う』ような行為が…いつしかスターリィ様との間に距離を作ってしまってたのかもしれない。





 才能だけじゃなく、スターリィ様は努力も厭わなかった。いつも全てに一生懸命だった。

 そんなスターリィ様のことを、彼女の家の家令であるプッチーニさんがいつも心配してた。


「スターリィ様はマジメすぎるのです。いつも偉大なご両親や兄上を意識なされて…あれではいつか壊れてしまいますぞ」


 正直、俺にはその言葉の意味がよくわかってなかった。スターリィ様は凄いんだから、上を目指すのは当たり前じゃないかって考えてたくらいだ。


 そんな感じで…いつしか俺はスターリィ様のことを崇め尊敬するようになっていた。友達なんてとんでもない!そう思ってたんだ。


 だから、あの頃の俺は…スターリィ様の寂しさに気付くことが出来なかった。



 そのことに俺が気がついたのは、あいつ・・・が現れてからだった。







 アキ。


 あいつは、突然村にやってきた。







 最初現れたときは、パラデイン様とクリステラ様に連れられてやってきた…というか、運ばれてきた。スターリィ様が怪我をして帰ってきたのも驚きだったけど、他に二人も…大怪我を負った子供が担ぎ込まれたときには、村中大騒ぎになったものだ。


 それだけでも大ニュースなのに、あろうことかスターリィ様が、毎日看病のためにアキにつきっきりになったんだ。


 正直、俺にとっては衝撃的な出来事だった。

 どうして…?なんでスターリィ様は、会って間もないこいつの看病を、こんなに親身になってするんだ?

 確かにスターリィ様は優しい。だけどこれは…優しさから看病しているにしては、親身すぎるように思えた。


 気になってスターリィ様に聞いてみたら、「アキはあたしのことを助けてくれた大切な友達ですの。だから当然ですわ!」と返ってきた。


 正直…俺はショックだったね。

 だって、俺のほうがはるかに長い時をスターリィ様と過ごしてきたんだよ?なのに…会って間もないアキのことを『大切な友達』と言ったのだから。


 それからもスターリィ様は、何かあると一言目には「アキはね」「アキが」「アキの」と口にした。まるで恋い焦がれる相手の話をしているみたいだった。

 それが…俺にはものすごく気に入らなかったんだ。


 だから…俺のアキへの最初の印象はすごく悪かったと思う。今思うと、それは…幼稚な嫉妬心だと思うんだけどね。






 一週間ほどしてやっと起き上がって外に出てきたアキ。果たしてどんな奴なのか。期待と不安とがごちゃ混ぜになった気持ちのまま部屋から出てきたあいつの姿を見て…俺は驚きのあまり言葉を失ってしまった。


 ガリガリに痩せこけた身体。なのに目だけは、まるで宙に浮き出るように爛々と光り輝いていた。しかもその光はただの光じゃない。暗く濁った…ドブみたいな色。


 俺はこれと似たような色をした目を見たことがあった。それは…俺が拾われる前に住んでいた街のスラム街にいた子供たちの目。未来になんの希望も持てないヤツの瞳の色だった。


 あぁ、こいつはなにか大切なものを失って、ここにやってきたんだな。そう思った。




 俺に、何か力になれることは無いだろうか。

 一瞬そんなことを考えたんだけど、女の子の扱い方なんて知らない俺にはなすすべがなかった。なによりアキはずっと堅く心を閉ざしていたし、スターリィ様がどんなに親身に話しかけてもほとんど変化が無かったくらいだから。




 そんなアキが、唯一その目に光を取り戻す瞬間があった。それは…大切そうに抱えていた魔法剣に関してのことだった。魔法剣に関わる話が出ると、こいつの目の色は七色に変化した。

 あるときは怒り、あるときは希望、あるときは…悲しみ?

 理由は分からない。だけど、俺にはそれで十分だった。


「なぁ、俺と勝負しろよ!俺が勝ったらその剣を貰ってもいいか?」


 そう口にしたのは、アキに対するモヤモヤした気持ちが為したものかもしれない。

 変化は劇的だった。俺がその言葉を発した瞬間、あいつの目に…まるで焔が爆発したかのように強い光が灯ったんだ。


 間違いない。このとき俺の言葉は、こいつの心に初めて届いたんだと確信した。




 歪んだ思いから産まれた、偶然の産物。初めて行った模擬戦で、俺はえらい目に遭うことになる。


 一言で言うと、アキはメッチャクチャ強かった。

 これでも近所に住む、現役バリバリのCランク冒険者であるヤニさんに「ボウイ、お前は十分Eランク…下手すりゃDに届く実力があるぜ」って言われてたのに、まったく歯が立たなかった。


 それでムキになって何度も挑んで、跳ね返され打ちのめされ…気がついたら、”目的のための手段”が”目的”になっちまってた。スターリィ様がどうとか、アキの目がとうとか、そんなものはもう関係なくなっていたんだ。


 だってあいつ、こっちが新しい手を編み出しても、すぐその上を返してくるんだぜ?

 一体どうすれば裏をかけるのか。どうすれば一本取れるのか。そんなことを考えて戦うのが…なんだか楽しくなっちまったんだよ。



 んまぁ、あいつもそれなりに元気に対応してくれるようになったから、結果的にオーライってやつかな?






 そんなアキだったけど、ヘイローの街での悪魔との一戦をきっかけに、少しづつ変わっていった。

 それまでは無造作で無頓着で、まるで男の子を相手にしているような感じだったのが、少しづつ…なんというか、女らしくなっていったんだ。

 化粧をする。スカートを履く。女っぽい仕草をする。

 …おかげでやりにくいったらありゃしない。



 しまいにはあいつ、スカート履いたままケリとかしてきやがるんだぜ?パンツ丸見えなんだよ!


 しょっちゅう観戦してくれてたヤニさんが、「なぁボウイ。どうせならアキに蹴りを出させて、なるべく俺たちにもパンチラ見せるようにしてくれよ」なんてことを頼んでくるようになるしさ!たまんねぇぜ!


 それにしても…あのパンチラだけはいかん。

 勘弁してくれって何度も言ったんだけどさ、アキのやつ言うに事欠いて「なに?もしかして私なんかのパンチラで欲情してんの?いやー、スケベー」とか切り返してきやがったんだぜ?


 いやもう、なんも言えなくなっちまったよ。おかげでアキのパンツの種類を覚えてしまったのは、俺が墓場まで持っていく秘密なのさ…


 だいたい、観衆の半分くらいはアキのパンチラ狙いのスケベ共じゃないか?あとは…華麗に戦って俺を打ちのめすアキのファンか?


 俺?俺は…ただの引き立て役かパンチラ誘導要員さ。だってヤニさんには「ありゃお前なんかが敵うわけないぜ?だって…アキは恐らくBランク、下手すりゃAランクくらいの実力があるんだぞ?」なんて言われてるくらいだしな。


 …あぁわかってるよ。でもさ、女の子に負けっぱなしじゃあこっちの立つ瀬も無いじゃないか。でも結局、俺は最後まで一矢報いることはできなかったんだ。






 そして、あの『魔迷宮』での出来事。そこで俺は、アキの…あの魔法剣に対する想いを知ることになる。


 憧れのレイダー様とアキとの戦い。俺は…魂を揺さぶられた。


 圧倒的なレイダー様の実力。その前に打ちのめされるアキ。それはまるで俺とアキの模擬戦を見ているようだった。決して超えることのない実力差、無力感。

 腕を取られた時点で終わったと思った。俺なら間違いなく、そこで負けを認めていただろう。

 だけど、アキは俺とは違っていた。あいつは…そこから腕を折りながら挑みかかったんだ!


 なんなんだ、あいつは…

 俺は、戦うアキの姿に釘付けになった。



 何度やられても、あいつは立ち上がった。

 腕が折れようが、激しく打ち倒されようがお構いなし。どんなに傷付いても再び立ち上がって、挑んでいった。

 そして、その度に…あいつは強くなっていったんだ。


 信じられるか?あいつは…戦いの中で進化していったんだ。それも、一度じゃない。4度もだ!


 特に最後の姿を見たとき、俺は全身が震えるのを抑えることが出来なかった。

 白毛の魔獣のような姿に半ば変化し、白色に輝く魔力を身に纏いながら、クルクル回る“光球ビット“から光線を放つその姿は、まるで武神か闘神の化身のようだった。





 戦いに敗れたあと、魔法剣をレイダー様に託して泣き崩れるアキの姿は、俺の心に深く刻まれた。


 あいつは…いったいどれだけの想いをあの剣に込めていたのか。

 あの…どんなときも決して涙など見せることのなかったアキが、号泣していたんだぜ?

 果たして俺は、そこまで何かに思い込むことが出来てただろうか。何かに憧れるだけで、強い想いなど持ててなかったんじゃなかろうか。そんな考えが頭を過ぎった。


 そして、アキの想いに見事応えたレイダー様が、また素晴らしかった。

 俺は確信したね。これは…これから先も語り継がれることになるであろう、物語のワンシーンだってな。



 同時に痛感した。アキにとってそんなに大事なものを「くれ!」なんて簡単に言っていた俺の、なんとちっぽけなことか。

 落ち着いたところでアキに謝ったんだけど、あいつは「気にしてないよ」と笑ってくれた。それどころか「ボウイ、ありがとな」と感謝までしてくれたんだ。



 俺は…こいつには敵わない。このとき初めて実感した。同時に、何か新しい感情が湧き上がってくるのがわかった。

 それがなんなのかはイマイチよく分からない。ただ、『俺もこいつの力になろう』って…そう強く思ったんだ。










 そんな俺たち4人も、いよいよ『ユニヴァース魔法学校』に行くことになった。

 あそこは…選ばれた魔法使いしか通うことが許されない特別な場所。世界中の魔法使いが憧れ、そこを卒業するだけで将来が約束されたも当然な…そんな学園。

 もちろん、俺も魔法学校に行くことを夢見て、ずっと憧れてたんだ。


 だから、パラデイン様から推薦をもらったとき、天にも昇る心地だった。




 俺はこの学園でたくさんのことを学び、スターリィ様と…アキのためにも強くなる。これからもっともっと努力する。

 あいつが、もう泣かないように。



 ん?アキのことが気になってるのかって?

 アキは…うぅん、その…

 まぁ気にならないって言ったらウソになるけど、なんというか…仲間だな、仲間!


 だからさ、なんかあったら…俺が力になってやるさ。

 だって、同じ冒険者チーム『星覇の羅針盤ヴァルハラ・コンパス』の一員なんだから。


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