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40.受け継がれる魂

 


『…届かぬのなら、喰ってしまえ』



 突如心の奥から響いてきた声に、俺戸惑っていた。

 まさか…ここでこいつが出てくるとは思っていなかった。


 相手の魂を喰らい、その能力を俺の身に着ける固有能力アビリティ…『新世界エクス・の謝肉祭カニヴァル』。

 こいつが、この状況で出てきやがったのだ。


「…こんなときに出てきやがって…何の用だ?」

『…我の力【すべてを喰らうものザンジヴァル】は、決して防ぐことはできない。あやつの障壁でさえ突き破って届くぞ?』


 それは、俺を堕とそうとする誘惑。いや違う。こいつが…この能力自身が"喰いたがって"いやがるんだ。


「なにを言ってやがる?俺はそんなこと望んじゃいない」

『…貴様は分かっているのか?目の前のこやつの能力を喰えば、貴様は完成するのだぞ?この能力を手に入れれば…貴様は”神”にすら手が届くだろう』


 なるほど、確かに『絶対物理防御アルティメット・ディフェンス』や『絶対魔法防御アルティメット・ディスペル』を手に入れれば、俺はものすごい力を手に入れるだろう。

 でもな、そんなことをしてまで力を手に入れてどうする?



『貴様は…力を欲していないのか?』


 あぁ、力は欲しいさ。

 でもな、俺は…人の命を、魂を奪ってまで、力を欲しいなんて思っちゃいない。

 俺が欲しいのはな、大切な人を守る力なんだ。それは、誰かから奪うもんなんかなじゃないんだよ!



『…愚かな』


 ふん、愚かで結構。

 分かったら、さぁ…消えな。もう邪魔すんじゃねぇ。

 キサマなんかの出番は…無いんだよ。



 それでも必死に俺の中から出て行こうとする【すべてを喰らうものザンジヴァル】。その状況は、ゾルバルを無理やり喰ってしまったときに似ていた。


 だがなぁ…俺はもうあのときの俺じゃない。

 何も知らない、無力な存在だった俺。


 今は違う。

 たくさんの人たちに出会った。たくさんのものを貰った。大切な…存在もできた。



 俺はなぁ…

 もう絶対に、キサマの勝手になんかさせないんだよ!!






「うおぉおぉぉぉぉおおおぉおぉ!!!」



 気がついたら、俺は吼えるように絶叫していた。

 そして全身から、魂から、力を振り絞ると、全霊を込めてヤツを振り払った。





 きぃぃいぃいぃぃいん!


 その瞬間。耳障りな音が鳴り響き、俺の身体からにじみ出ていた…気色の悪い魔力が消滅した。

 俺は、なんとか自分自身を取り戻すことに成功したんだ。











 はぁ…はぁ…

 全身を貫く疲労感。くそっ、あいつを撃退するのにえらい体力を使っちまった。

 肩で息をしながらレイダーさんのほうを見ると、ひどく驚いた顔をしていた。あれ?なんでだ?



「アキ。きみは…いまの"力"を使わないのか?もしあれを使っていれば、俺に"届いた"かもしれないぞ?」


 へぇ…【すべてを喰らうものザンジヴァル】が"届く"ことに気づいてたんだ。さすがだな。

 でも俺は…あんなクソみたいな力、今後使うつもりはさらさら無い。頼まれたってお断りだ。


「あれは…もう二度と使わない技なんだ。期待させて申し訳ないんだけど、忘れてもらえないか?」

「そうか…分かったよ」


 そう言いながら微笑むレイダーさん。なにが嬉しいんだか。


 だけど、状況は変わったわけではない。俺はボロボロ、レイダーさんはピンピンだ。はたしてここから逆転の手はあるのか…





 そのとき、ふいに俺は…あることに気づいた。それは、新たな力の可能性。今まで思いつかなかったのが不思議な行為。


『単体でしか使ってこなかった固有能力アビリティを、【同時に起動】させたら…どうなるんだ?』



 これまで俺は、無意識のうちに能力の【同時起動】を避けてきた。たぶん、俺の身体が耐え切れないと直感的に感じてたからだと思う。

 だけど今回、あのくそったれ【すべてを喰らうものザンジヴァル】を撃退してから、自分でもなにか…限界のようなものを超えたような気がするんだ。



 今なら、やれる気がする。

 だったら…やってやる!やるしかないだろう!



 俺は痛む右腕を軽くなでると、改めてレイダーさんに向き合った。右眼は血が入ってあまりよく見えない。隻眼隻腕…か。

 ふふっ、ゾルバルと同じだな。思わず笑みがこぼれた。


 ゾルバル、見ててくれよ。

 これが俺の…本当の"全力"だ。


 そして俺は…覚悟を決めると、一気に固有能力アビリティを発現させたんだ。






 ――――<起動>――――

 個別能力アビリティ:『新世界の謝肉祭エクス・カニヴァル

 【魔眼マジカルアイ】…『スカニヤー』発動。


 ――――<平行起動>――――

 個別能力アビリティ:『新世界の謝肉祭エクス・カニヴァル

 【右腕ライトハンド】…『シャリアール』発動。


 ――――<平行起動>――――

 個別能力アビリティ:『新世界の謝肉祭エクス・カニヴァル

 【左腕レフトハンド】…『ゾルディアーク』発動。




 ずんっ!

 想像を絶する激痛と凄まじい圧迫が、俺の脳を稲妻のように突き抜けた。


 これは…すげえやばい!メチャクチャ脳に来てやがる!頭が焼き切れそうだ。でも…ギリギリ持った。少しの時間であれば、戦える!!



 同時に、俺の身体が劇的に変化していることにも気づいた。


 まず…いつものとおりの獣耳ケモミミ尻尾しっぽ。おまけに両手両足も白いフサフサの毛が生えていた。なんじゃこりゃ?

 さらに、俺の周りをくるくると回りはじめたのは、魔法陣を備えた四つの"光球ビット"。いつでもこいつから『流星シューティングスター』を放てそうだ。

 そして最後は…目、というか”魔眼”。こいつのおかげで、あらゆるものの動きが手に取るように分かるようになっていた。たぶん…俺の目はいま、変な感じに光り輝いてるんじゃないかと思う。自分の目だからハッキリとは分かんないんだけどさ。厨二かよ。



 全体的によく分からない姿になっちまったなぁ。だけど、ついにたどり着いた。


 これが…今の俺の『最終形態ウルティメイトフォーム』だっ!








 ――――――――――――







 めまぐるしく変わる状況の中で、ついに『最終形態ウルティメイトフォーム』にたどり着いたアキの姿に、その場に居た全員が目を奪われた。


「アキ、てめぇ…すげぇの持ってるじゃねーか!まるでケダモノだな!」

 歯をむき出しにして、嬉しそうに笑うのは『野獣ワイルド』ガウェイン。


「"魔力覚醒"もしてないのに、あれだけの状態になれるなんて…。フランシーヌが"加護"するだけのことはありますね」

 同調するように頷くのは、『氷竜アイスドラゴン』ウェーバー。


「なにあれ…信じられないわ!」

 そんな二人の反応についていけないベルベット。比較的常識人の彼女は、目の前の光景を簡単に受け入れられない模様。


「アキ…どんな怪我をしても、わたしが治療しますからね。だから、悔いがないようぶつかってくださいね」

 その横で、アキをよく知るパシュミナが、祈るように両手を握り締めながら呟いた。




 一方、アキが所属する冒険者チーム『星覇の羅針盤ヴァルハラ・コンパス』のメンバーはというと…


「アキ…がんばれよ、がんばってくれ!」

 激闘に惹きつけられたボウイが、拳を握り締めながらアキを応援していた。



「あぁ、アキ。君は本当に最高だよ…

 ぼくはきみのその…魂の輝きに惹かれたんだ。

 きみのためなら、ぼくは…」

 うっとりとした瞳で、カノープスがアキの姿を追いかけていた。


「アキのバカ!こんなムチャして…終わったら許しませんからね。でもいまは…がんばって」

 スターリィは涙を流しながら、アキの一挙手一投足を一生懸命見つめていた。





 そして…戦況は、4度目の変化を迎える。








 ――――――――――――――――







「アキ。きみは本当に面白いね。終わりだと思っても、何度も姿を変えて再び挑んでくる」

 …『最終形態ウルティメイトフォーム』に姿を変えた俺を見て、呆れたような、それでいて嬉しそうに語りかけてくるレイダーさん。


「…もうたぶんこれで最後だよ。悪いんだけど…最後まで"俺"に付き合ってくれないか?」


 そんな俺のお願いを、ニヤリと笑って受けいてくれた。ほんっとこの人も大概、脳筋だよなぁ。でもまぁ…そういうの嫌いじゃないよ。


 それじゃ、いくぜ!!

 俺の…全力だっ!







 発動しろっ、【闘神の咆哮】!

「うぉぉぉおぉぉ!」


 先制とばかりに、ビリビリと空気を震わせる雄叫びを放つ。うしっ、相手の動きを少しだけ鈍らせたぞ。

 そのスキに全身からみなぎる力を弾かせると、俺は一気にレイダーさんに襲いかかったんだ。





 実は、レイダーさんの固有能力アビリティに対するもう一つの仮説があった。それは…『二つの能力を同時に発動できないんじゃないか』ということ。実際さっきまでの俺がそうだったしね。

 だから、もし…魔法による攻撃と肉弾による一撃を同時に食らわすことができれば、レイダーさんの身体に届くんじゃないのか。そう考えたんだ。


 おそらく俺が能力の【平行起動】できる時間は1分くらいだ。他のことを試している暇などない。だから俺は…この可能性に賭けて、一気に攻撃を叩き込んだ。





「発動!【流星雨シューティング・ノヴァ】!」

 …『流星シューティングスター星銃デネブ』を、俺の周りをくるくる回る四つの『光球ビット』から同時に発動させた。幾筋ものレーザービームが光のシャワーとなって襲いかかる。


 その動きすら読んだレイダーさんが、最小限の動きで縦横無尽に飛んでくるレーザービームを躱していた。

 さすがは『勇者ヒーロー』だぜ。だけどな…今の俺は"魔眼"も発動してるんだ。そんなのお見通しなんだよ!



「なっ!?」


 レイダーさんが驚くほどのスピードで、一気に彼の懐に飛び込んだ。左の拳をギュッと握りしめて、全身の筋肉を収縮させる。

 さぁ…ここからが最後の決戦だ!



「ゾルディアーク格闘術、奥義…『闘幻郷とうげんきょう』!」


 俺の肉体の全を刃と化し、超至近距離からレイダーさんに目にも留まらぬ速さで打撃を加えた。同時に…4つの"光球ビット"が、絶え間なく『星銃デネブ』を撃ち続ける。繰り広げられるのは…光と打撃の競演。



 俺の猛攻に耐えかねたのか、さすがのレイダーさんも背中に"天使の翼"を具現化させ、『絶対防御アルティメット』系の能力を使い始めた。それでも…”魔眼”の恩恵もあり、レイダーさんの動きの一歩先を突いて、突いて、突きまくる。


 …どうやら俺の予想通り、レイダーさんは同時に『物理防御』と『魔法防御』を展開できないみたいだ。これなら…俺の"牙"も届くのではないか!?


 ”魔眼”での先読みが功を制し、僅かながらではあるが徐々に…レイダーさんの動きを上回り始める。

 よし、いけるぞ。このままいけば…必ず届く!



「アキ…きみはすごいね。正直ここまでとは思わなかったよ」

「!?」


 凄まじい攻防の応酬の中、レイダーさんが不敵に笑った。これまで一度も俺に対して攻撃を仕掛けてこなかった彼が、腰の剣に手を添える。

 ヤバい…来るっ!



「きみのその想い、そして魂に敬意を表して…俺の本当の力を見せよう。きみなら…耐えれるよな?」


 ぞわっ。レイダーさんから初めて発される殺気に、俺の本能が全力で警報を鳴らしはじめた。慌ててレイダーさんから距離を取る。

 こいつは…とんでもない攻撃が来るぞ。そのことを本能的に理解した。


 笑みを浮かべたままのレイダーさんが、剣をスラリと抜き放つと、ゆっくりと上に持ち上げる。凄まじいまでの魔力が、その全身を包み込んでいった。


「いくぞ、アキ……剣技、『極・天・衝ごくてんしょう』」




 次の瞬間、レイダーさんが光の塊になって俺に襲いかかってきた。






 ふふっ。

 目の前に迫ってくる絶対的な攻撃を前にして、俺は思わず笑みを漏らした。

 そう、俺は待っていたのだ。レイダーさんが攻撃を仕掛けてくるこの瞬間を…ずっと狙ってたんだよ!


 左拳に、残されたすべての力を注ぎ込む。

 獣化したこの拳は…ゾルバルの魂の化身だ。その全部を、カウンターでレイダーさんにぶつけてやる。

 俺自身はどうなっても構わない。全身全霊を込めた一撃。”魔眼”で完璧にタイミングをとると、俺は左拳を突き出した。


 ゾルバル、見ててくれ。

 俺が…あなたの魂の強さを……証明してやるっ!!




 そのとき…俺は確かにレイダーさんと目が合ったような気がした。彼は…嬉しそうに笑っていた。





 ぐんっ。


 それまで"魔眼"が捉えていた未来予測を超えたスピードで、レイダーさんの剣が加速した。それは、俺の全力の左拳でも捉えられない速度。

 まじかよ…あそこからさらに加速してくるのか。さすがにこれはダメだ、間に合わない。



 ごめん、ゾルバル。俺…届かなかったよ。

 でも精一杯がんばったんだ、許してくれるかな?


 レイダーさんが降る剣の輝きの中に、ゾルバルの顔が浮かんだような気がした。





 ……そして俺は、光の中に包まれた。











 --------









 …気がつくと俺は、真っ暗闇の中をさまようように歩いていた。

 あれ?此処はどこだ?こんなところでなにしてるんだっけ?


 すると…ふいに俺の行く先が、ぽっと明るく照らし出された。浮かび上がる、一人の人物。


 そこに立っていたのは、ゾルバルだった。



「あっ!ゾルバル!!」


 だけど、ゾルバルは無言のまま俺を見つめていた。まったく返事をしてくれないゾルバルに、俺は必死になって呼びかけた。


「ゾルバル!俺は…あなたに謝りたかった!俺は弱かったから…力が無かったから、あのときあなたを喰ってしまった。もしあのときの俺に力があれば…」


 すると、ゾルバルはふっと笑みを浮かべたんだ。ゆっくりと首を横に振る。

 なんだ?俺の言うことは違うっていうのか?


 そして、ふいに気づく。

 …そうか。もうそのことは振り返るなって言いたいんだな?自分は恨んでもいないと。


 そうだよな、ゾルバルはそんな男だったよな。本当の…漢。

 わかったよ、ゾルバル。俺はもう、過去を振り返らない。


「なぁゾルバル!教えてくれよ!俺は…俺は、役目を果たせたかい?」


 その問いにゾルバルは左腕の親指を立てると、ニヤリと笑いながら頷いたんだ。



 そうか…ゾルバル。俺は……俺は……








 -------









「アキッ!!」


 ハッと目を覚ますと、目の前にスターリィの泣き顔があった。びっくりして、なにが起こったのかまったく頭がついていかない。

 あ、あれ?ここは?なにがどうしたの?


 そうこうしているうちに、ゆっくりと…自分の身に何が起こったのかを思い出した。

 そうか、俺は…レイダーさんの技を喰らって倒されたんだな。



 気がつくと、俺の周りをスターリィ以外の人たちも心配そうに見守ってくれていた。

 カノープス、ボウイ、パシュミナさん…は治癒魔法をかけてくれてるのかな?それにガウェインさん、ウェーバーさん、ベルベットさんまで居る。


「…スターリィ。私は…負けたんだね」

「あぁ、よかったぁ!目を覚ましたんですわね!」


 ボロボロ泣きながら、スターリィが俺にしがみついてきた。

 あぁ、心配かけちゃったんだな。ごめんよスターリィ。



 俺の胸で泣きじゃくる彼女の頭を撫でようと右腕を動かそうとして…激痛が走った。あ、そういえば折れてたんだっけ。

 左腕一本でなんとか上半身だけを起こすと、改めて自分の身を確認してみた。

 …あれ?思ったよりダメージを受けてないな。


 そこでようやく最後の瞬間を思い出す。あぁ…たぶん俺は最後の最後で『手加減』されたんだな。まいったな、こりゃ完敗だよ。

 そういえば、レイダーさんはどこにいるんだろう?




 慌てて周囲に目を向けると、向こうに一人ぽつんと立っている人物がいた。レイダーさんだ。

 片手には『退魔剣ゾルディアーク』を持っている。が、まだその刀身を抜いてはいない。


「やぁ、目を覚ましたかい?アキ」

「あ…ども……」


 …もしかして、俺が目を覚ますのを待っててくれたのかな?俺に勝ったっていうのに、律儀な人だ。

 しかも彼は、手に持っていた『退魔剣ゾルディアーク』をわざわざ俺に返してくれた。キョトンとしている俺に微笑みかけながら尋ねてきたんだ。


「なぁアキ。…俺は、きみに認められたのかい?」


 その言葉が、ぐっと胸を突く。



 あぁ…俺は負けたんだよな。だったら、この人を認めなきゃならないんだよな。

 レイダーさんは実力を以って俺に示してくれた。ゾルバルの剣を、受け取るべき資格があるということを。


「はい…。失礼なことをしてすみませんでした」

「…なぜ謝るんだ?この剣は、きみがゾルから託されたんだろう?だったら、誰に渡すかを君が決めても何もおかしくないじゃないか」


 うっ…。

 その言葉が再度俺の胸を…魂を揺さぶった。そうだ、これは俺が決めたことなんだ。

 だったら俺も、それに応えなければならない。



「改めて聞こう。ゾルディアークからこの剣を託されたアキは、新たな持ち主としてこの俺、レイダー=スターシーカーを選んでもらえるだろうか?」



 俺はそっと目を閉じた。そして…瞳の裏に居るゾルバルに問いかける。


 なぁ、ゾルバル。もう良いだろう?

 彼は本当に素晴らしい男だ。剣を託すに足ると、確信できる。

 俺は認めた。彼のその強さも、心も。


 だから俺は…ゾルバルの魂を、この男に預けるよ。





「…はい。この剣の持ち主は、あなたこそ相応しい。よろしく…お願いします」

「ありがとう。たしかに受け取ったよ」


 改めて剣を受け取ったレイダーさんが、俺の目の前で『退魔剣ゾルディアーク』をゆっくりと抜きはなった。

 鈍く光を反射する刀身が、その姿を現す。




 …次の瞬間。

 レイダーさんの全身から、魔力が一気に噴き出した。それはまるで龍が登る姿のよう。

 あらたな"天使の器オーブ"に選ばれたレイダーさんが、3つ目の固有能力アビリティに覚醒した瞬間だった。


「…俺は今、この『退魔剣ゾルディアーク』によって、3つめの固有能力アビリティを手に入れた。その名は…『絶対防御無視アルティメット・ストライク』。あらゆる防御を貫く退魔の剣となるだろう」


 背中に天使の翼をはためかせ、直立するレイダーさんは、本当に美しくてカッコよかった。

 それにしても、新しい固有能力アビリティが『絶対防御無視アルティメット・ストライク』かよ。最強の防御に加えて最強の剣まで手に入れたんだな。マジで凄いや。

 ゾルバルの剣が選んだのが彼で、本当によかった…





 そんなことを考えていると、今度はレイダーさんが俺に対して剣の刀身を突き出してきた。


 え?な、なに?まだ何かあるの?

 意味が分からずに狼狽えている俺の目を、真剣なまなざしで見つめてくるレイダーさん。そして…声高らかに語り始めた。


「アキ。俺はこの剣と…お前の誇り高き魂に賭けて誓う。新たに手に入れたこの力を、【魔族召喚アポカリプス】をこの地上から滅するため、これ以上不幸な魔族を増やさないため、そして…この世界の人々を守るために使うと!」


 それは、レイダーさんの口から発せられた”誓い”だった。こんな俺に捧げられる…魂の誓い。


「レイダーさん…あなたは……」

「アキ。俺はこの戦いで、君の覚悟を確かに受け取った。この剣に対する想いと、そして…君自身がこの剣に込めた魂も、ね。だから俺もその気持ちに応えよう。俺の誓い…受け取ってもらえるか?」


 そうか…俺の想いは、彼に伝わったんだな。俺がゾルバルから受け取った魂は、この瞬間、この偉大なる勇者に受け継がれたんだ。


 あぁ…よかった。

 気が付いたら、俺は涙を流していた。



「同時に、俺はこの剣に遺されたもう一つの想いも受け取った。この剣はな…アキ、お前を守ることを望んでいるんだ」

「私を…守ること?」

「そうだ。だから…俺はもう一つここに誓おう。アキがピンチの時は、必ず駆けつける、と。そのときは、俺が…お前の"剣"になる」


 …なんということだろうか。ゾルバルが遺してくれたものは…この剣だけじゃなかったんだ。

 最後の最後まで、俺のことを心配してくれて…その想いまでも託してくれたんだ。




「うぅぅうぅう…うぅ…」


 俺はもう我慢できなかった。涙で前が見えなくなる。俺の涙腺は完全に限界を超えていた。



「アキ…」

 俺の横に居たスターリィも泣いている。ボロボロ涙をこぼす俺を、優しく抱きしめてくれた。

 堪らなくなって、スターリィにしがみつきながら…堤防が決壊したかのように泣いたんだ。



「ゾルバルぅぅうぅぅうぅう。うわぁあぁぁああぁ!!」








 こうして、俺は…一つの区切りを迎えることができたんだ。


 偉大な戦士の魂を、次世代の勇者へと受け渡すことで。






 ゾルバル…いままでありがとう。

 これから俺は……自分の足で、俺自身の新しい道を歩き出すよ。



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