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37.明日への道程

 

 ここは…『グイン=バルバトスの魔迷宮』の四階にあるトレーニングルーム。


 今、俺たちの目の前にいるのは”完全武装”のパシュミナさん。赤黒い甲冑を身に付け、手には一抱えもある大きな剣を軽々と持ち上げている。


 対峙している俺たちも負けちゃいない。完全・全力モードだ。


 火力は劣るものの陽動役としては抜群の性能を誇るボウイが、先日の探索で発見した魔法剣【羽根風ウィンディ+1】を握りしめながら、いつ飛び回ろうかと構えていた。


 俺も既に【ゾルディアーク】を発動させて、いつでも状況に応じて格闘術を叩き込む準備を整えていた。

 最近じゃ獣耳けもみみだけじゃなく、白い尻尾しっぽまで生えてきたんだけど…そこはスルーで。


 カノープスも右手に剣の形をした【消滅空間デーレーティオーニス】を用意しているだけでなく、左手には黒い魔力の塊が見える。あれはたぶん…禁呪かなにかだな?


 そして、俺たち3人の背後に控えているのは…巨大な”天使の翼”を具現化させ、背にはためかせているスターリィ。その姿は、マジで神々しい。

 彼女の突き出した右手にはまっているのは、先日の探索で発見した指輪オーブ…【フレイヤの指輪】。


 この指輪の名前を知ったとき、パシュミナさんが少しだけ悲しそうな顔をしたのが印象的だった。たぶん…旧知の人の変わり果てた姿だったんだろう。

 パシュミナさんは言葉にしてはなにも言わなかった。でも、少しだけ満足げな顔もしていたから、旧知の存在がスターリィの力になることが嬉しかったんじゃないかな?って俺は推測していた。


 …話を戻そう。

 戦闘モードにはいったスターリィは手に魔力を一気に集中させ、彼女の固有能力アビリティを具現化させた。

 スターリィの背後にゆっくりと現れたそれは…スターリィを大人にしたような姿をしていた。

 これが、彼女の固有能力アビリティ…【天翼の女神ブリュンヒルデ】だ。

 その手に、光り輝く槍のようなものが何本も具現化している。【天翼の女神ブリュンヒルデ】の能力の一つ『光の聖槍ヴェルダンディ』だ。


「さぁ、みなさん。行きますわよ!」


 スターリィの掛け声を合図に、俺たちは一斉に…完全武装のパシュミナさんに襲い掛かったんだ。







 ーーー







「…参ったわ、わたしの負けですね」


 がらんがらーん。

 手にしていた大剣を地面に落として降参の意を表するパシュミナさん。鎧の大部分は吹き飛び、落ちた大剣も半ばから折れていた。


 ついに…パシュミナさんから一本取った。

 苦節半年、ボコボコにされることは一度や二度では無い。そんな彼女から一本取るのは並大抵のことではなかった。


 それでも…俺たちはついに成し遂げたのだ。

 これが、感動せずにいられるか。


「やったー!勝ったー!」

「やりましたわねっ!今日はお祝いですわ!」


 歓喜の渦に巻き込まれる俺たち3人。手を打ちあい、歓声を上げながら大騒ぎする。

 ついにこの日、俺たちは…ここ魔迷宮に来て一つの目標となっていた『パシュミナさんから一本取る』というものを、ようやく達成することに成功したのだった。




 そんな歓喜の輪から一人離れていたカノープスが、魔装を解除しながら汗を拭いているパシュミナさんに近寄っていく。


「…パシュミナ、きみはまだ全力は出していないよね?」

「いまのわたしには、これが限界ですわ。それに、わたしにはもう大きな力は必要ありませんし…」

「そっか…ま、別にいいんだけどね」


 完全に魔装が解除されたパシュミナが、ゆっくりとカノープスに近寄っていき、その手を頭に添えようとした。その手をカノープスは優しく払いのける。


「…ぼくはもう、あの頃のような子供じゃないよ」

「そう…ですね。あなたはもう、立派な大人です」

「届くかな?あの頃のパシュミナや兄貴に」

「…ええ、あなたならすぐに届きますよ。わたしたちがたどり着けなかった場所へ…」


 そう話し合う二人は、本当に打ち解けた姉弟のようだった。









 その日の夜。いつものように俺は図書館で調べ物をしていた。目の前には山のような書物。それでもあらかたは読み終わっていた。


 …今日はこれくらいかな。

 大きく伸びをすると、スターリィに灯してもらった灯りで照らされている本を横に置いた。

 メガネを外して目頭を軽く揉む。んー、さすがに目が疲れたわ。

 パサリ。後ろで無造作に纏めていた髪の毛が一房落ちてきたので指でゆっくりと後ろにかきあげた。あぁ…髪も随分伸びたなぁ。


「…そろそろ寝ませんの?」


 後ろを振り向くと、既に寝巻き姿に着替えたスターリィが立っていた。あぁ、もうこんな時間か。そろそろ寝ないとな。

 メガネを外して机の上に置くと、言われた通りに今日は寝ることにした。




「…それにしても、ここに来て随分時間が経ったものだね」

「そうですわね…もう半年くらいは経ちましたでしょうか」


 一緒に寝室まで戻る道すがら、スターリィに言われて気づく。俺たちがこの『グイン=バルバトスの魔迷宮』に篭ってから、気が付けば半年近くが経過していた。

 地下にいると、なんとなく時間的感覚が薄くなるんだよなぁ。

 太陽の光を浴びなくても大丈夫なように、人工的に太陽光に似せた光を、パシュミナさんが禁呪で造ってくれている。これすごいんだよ、昼には明るくなって夜には暗くなる優れものなんだ。そのおかげで体内時計が狂うことは無いはず…なんだけどなぁ。


 ちなみに、この間の出来事からスターリィとの関係は…実はあんまり変わってない。

 まるでキスをしたことがウソだったかのように、普段と変わらないスターリィに戻ってしまったんだ。

 たぶんあれは、天使になれたハイテンションでついやっちゃったやつなんだよ。ほら、仲のいい女の子同士がやっちゃうだろ?

 …まぁ、俺がヘタレだってだけかもしんないけどさ。でも、それでいいんだよ。


 ただ、以前よりかは少しだけ親密になったような気がする。こうやって同じ時間を過ごすことも多くなったしね。



「…それにしても、スターリィはそうとう強くなったね。とうとうパシュミナにも勝てちゃったし」

「なにを言ってるんですの?アキの能力アビリティと”禁呪”の使い勝手が良いからですわ」

「いやいや、『光の聖槍ヴェルダンディ』が効いてたんだよ。すごいよね、あの威力。無属性攻撃だっけ」


 確かに…この半年で俺たちはずいぶん強くなった。特にスターリィの成長が著しい。なにせ…”天使”に目覚めたのだから。



 正直いまのスターリィの強さは、以前と比べて…文字通り”桁違い”だ。彼女を見てると、”天使”と”人間”の間には、越えられない壁があるというのがよく分かる。


 天使となったスターリィには、正直いまの俺でも真正面からやりあったら勝てないだろう。

 完全に肉弾戦に持ち込めば勝機はあるだろうけど、たぶんそんなスキを与えてくれるほど彼女は甘くはない。なにせ…戦術の天才なんだから。


 ぶっちゃけいまの彼女なら、パシュミナさんと1対1でもそれなりにやれるんじゃないだろうか。それくらい、彼女は強くなっていたんだ。



「…それじゃあ明日は、9階の探索でもしてみましょうか?」

「そうだね。まだ北西地区の探索が終わってなかったから、そうしようか」


 明日のやるべきことを決めて、俺たちは自分の部屋へと戻っていった。

 明日からまた気分を改めて頑張ろう。そう思って……



 だけど…結果的に俺たちは、この後”魔迷宮”から出て行くことになってしまう。

 それは…まったくもって予想外の、外的な要因のために。














 翌日。

 それは突然やってきた。


 いつものようにトレーニングや食事を終えて、スターリィと9階の探索を行っていたときのことだった。


 ジリリリリリリリリ。


 耳をつんざくような鋭い音が、突如魔迷宮の中に響き渡った。思わず耳を塞いでしまうほどの、大きなベルの音。


「な、なんですの?」


 突然鳴り響いた警報音に、一気にスターリィの表情が引き締まった。

 これは…なんとなく前の世界で聞いていた”非常ベル”の音に似てるな。おそらく、なんらかの非常事態が発生したんだろう。


「わからない。とにかく【図書館ライブラリー】に戻ろう」

「ええ、そうですわね。戻りましょう」





 急いで4階に戻ってみると、すでにカノープスたちは到着していた。中心にいるのはパシュミナさん。どうやら二人のことを宥めているみたいだ。


「パシュミナさん、これは何の音ですの?」

「なにか起こったんですか?」


 わぁわぁ騒いでいるボウイたちに便乗して、畳み掛けるように質問攻めにする俺たち。パシュミナさんはいつもと同じように優しげな…俺たちを安心させるような笑顔を浮かべたあと、この音の理由について説明してくれたんだ。


「大丈夫ですよ。これは…警報アラームの音です」

「アラーム?」

「ええ。誰かが”門の試練”を突破したときに鳴るようにセットしていたものです。つまり…どなたかが、この『魔迷宮』に入宮エントリーしてきたことを意味しています」


 なんと、この魔迷宮に侵入者がやってきたというのだ。

 しかも、ここに入ることができるということは…最低でも4人の”天使”級の魔法使いがいるということを意味していた。

 ちょっとこれ、大丈夫なのか?


「大丈夫ですよ、今回の侵入者からは悪い魔力を感じませんから。それに…どうやら一直線にこちらに向かってきているみたいです。ということは…おそらくお知り合いの誰かですね」


 どうらやパシュミナさんは、常時展開している魔迷宮監視用の仕組みなどで確認してるようだ。

 だったら大丈夫なんだろうな。だけど…こんなところに来るなんて、いったいどんな人なんだろう。もしかして、デインさんたちが来たのかな?


「あっ。転移テレポートを使うようです。ということは…」


 パシュミナさんがそう口にした瞬間、俺たちの目の前の空間が歪み出した。まぶしく光輝く、目の前の空間。

 俺たちが驚きを隠せないまま状況を見守っていると、光の中がゆっくりと切り開かれ……そこから4人の人物が出てきた。



 現れたのは、男性3人に女性1人の計4人組だった。パッと見、冒険者のように見える。もちろん見覚えは…無い。


 その中でも先頭に立っている背の高い男性が、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。おそらくは名のある戦士なのだろう、その身から放たれる闘気は凄まじい。

 ただ…ひとつ気になることがあった。彼の顔に…既視感デジャヴがあったんだ。


 似てる…俺のよく知る人物に。

 それもそのはずだった。彼は…



「お、お兄ちゃん!!」

「あれ?スターリィ。こんなところにいたんだ」


 そう、やってきたのは…スターリィの兄であるレイダーだったのだ。








 ーーーーーー








 突如この魔迷宮に姿を現したのは、なんとびっくり…スターリィの実兄レイダーと、彼が率いる冒険者チーム『明日への道程ネクストプロムナード』の一行だった。


「よう、スターリィ。ずいぶんべっぴんさんになったな」

 赤髪を逆立たせ、全身筋肉の塊のような肉体を持ったこの男性は、ガウェイン。1対1なら人類最強と言われている彼の放つオーラは、まるで野生の獣のようだ。


「こらこらガウェイン、そんなことばかり言ってるから女性に嫌われるんですよ?」

 青い色の髪の毛の、微笑むような表情を浮かべたこの美青年はウェーバー。スターリィから事前に聞いてなかったら、とても人間じゃないとは思えないようなスマートな人物だ。


「は、はじめましてスターリィさん。あたしは…最近メンバーになったベルベットというの。よろしくね」

 そして最後の一人は、勝気な瞳を携えた金髪の女性。たぶん…20歳を少し超えたくらいだろうか。少しつり上がったその瞳からは強い意志を感じられる、魔法使いの女性。


 この4人が、今をときめく現役最強の冒険者チーム『明日への道程ネクストプロムナード』のメンバーだった。






 今はパシュミナが準備してくれた部屋で、彼女が淹れたお茶を飲んでいる。なんというか…のほほんとした空気だ。

 もっとも、ボウイはガチガチに緊張していた。なにせ『あこがれ』の存在が目の前に在るのだから。


「それにしても、なんでスターリィたちはこんなところにいるんだ?」

「それはあたしのセリフですわ。なんでお兄ちゃんたちがここに来るの?」

「いや、いろいろと俺たちにも事情があってだな…」


 ちょっとちょっと、そこ二人だけで勝手に話を進めないでくださいな。

 とりあえずいつもの眼鏡っ娘モードになった俺があわてて仲裁に入り、仕方なく場を仕切ることにした。



 まずは俺たちの方の事情をレイダーさんたちに説明する。

 半年ほど前に、修行をするためにデインさんやクリスさんにここに連れてこられたこと。それからおよそ半年ほど、ここで修行と探索をしていたこと…などを。


 スターリィが天使に目覚めたことを聞いたときは、さすがの彼らも大いに驚いたものだった。

「そりゃお祝いしなきゃだな!」ガウェインさんは大笑いし、「あの小さかったスターリィが…感無量ですね」ウェーバーさんは嬉しそうに頷き、「あぁ…また先を越されたわ。でも彼女はレイダーの妹なんだから仕方ないか…」ベルベットはなぜか少し凹んでいた。

 …それにしても、"また"ってどういうことだろう?他の誰かにも先を越されたのかな?



 さて、こっちの事情は話した。今度はそっちの番だ。

 彼らはとっても有名な冒険者チームだ。観光や暇つぶしでこんな場所に来るような暇な人たちじゃないはずだ。ではどうして、こんな魔迷宮にやってきたのか…

 まさか、妹が天使に目覚めたのを祝いに来たとか、スカウトに来たとか、そんなんじゃないよな?


「それで…レイダーさんたちはどうしてこちらへ?」

「えーっと、君はアキだったね。なかなかしっかりした子だね、仕切ってくれてありがとうね。助かったよ。

 …さて、俺たちがここに来た理由だが…実はパシュミナに用があってきた」

「え?わたしに…ですか?」


 完全に部外者気分でお茶配りをしていたパシュミナさんが、予想外の申し出にその手を止める。いつも落ち着いている彼女の声に戸惑いが感じられた。

 そりゃそうだろう。俺だっててっきり【図書館ライブラリー】に調べ物に来たか、あるいはこの魔迷宮ダンジョンに探索にでも来たのかと思っていたのだから。

 でも…実は違っていたらしい。それにしても、まさかパシュミナさん本人に用があるとは思ってなかったなぁ。


「パシュミナ、突然で申し訳ないんだけど、俺たちと一緒に旅に出て欲しい。俺たち『明日への道程ネクストプロムナード』の一員に加わって欲しいんだ」

「「ええーっ!?!?」」


 完全に予想外の、爆弾発言。俺たちの驚きの声が、魔迷宮の中にこだました。









「ちょっとちょっとレイダー!さすがにそれじゃ意味が伝わらないわよ。ちゃんと説明しなさいよ」

「あ、そうだったな」


 ベルベットさんに窘められて、レイダーさんが頭を下げる。ベルベットさん、ナイスフォロー!

 こうしてして改めてレイダーさんが話してくれた内容は、なかなかに深刻なものだった。






 レイダーさんたちは世界中を回る冒険者だ。

 ふつうの冒険の旅はもちろん、時には困った人たちを助けたりしている。


 そんな旅の最中で、とある団体の話を聞いたのだそうだ。その団体の名は…『五芒星ペンタグラム』という、悪魔団体。

 彼らはどうもどこかで魔本【魔族召喚アポカリプス】を手に入れたらしい。

 その上で…魔族を召喚したのだそうだ。


 そこで召喚されたのが…


「プリムラ、という名を知っているな?」

「!!??」


 プリムラといえば、魔界に居るはずのパシュミナの妹の名前だ。どうして…ここでその名前が出てくる?

 だけど、俺以上に激しい反応を示した人がいた。それはもちろん…パシュミナさんと、カノープスだ。


「どうやら喚び出されたのは、プリムラという名前の魔族のようなんだ。…いや、おそらくはまだ”魔人”かな。悪魔どもに操られているようだからはっきりしていないんだが…

 その名前が、以前聞いていたきみの妹の名前と同じだと気付いてな。それで…確認するためにも、俺たちと一緒に来て欲しいんだ。既にオヤジたちにも許可は取ってある」

「…わかりました。そういうことであれば、ぜひ行かせていただきます。いえ、行かせてください」


 パシュミナさんは迷う暇もなく、二つ返事で了解した。その目に灯るのは、強い意志の光。

 それはそうだろう、自分の妹が召喚サモンドされたかもしれないんだから。

 きっと居ても立ってもいられないんだろうな。パシュミナさんの気持ちを察すると、俺まで胸が苦しくなってくる。


 でもそんな事情なんだったら、俺たちも力になりたいな。そう思って横のスターリィを見ると、どうやら同じ気持ちのようだった。俺の目を見て頷き返してくる。

 …視線だけで会話なんて、なんかすごくね?


「ぼ、ぼくもいくよ!」


 しかし、最初にそう声を上げたのは…意外にもカノープスだった。

 いつもはクールなこいつがどうしたってんだ?こいつ、そんなキャラだったっけ?


 だけど、普段見ることは絶対にないような決死の表情で立ち上がったカノープスを…パシュミナさんはそっと手で制したんだ。同様に、同じようなことを言おうとしていた俺たちに対しても目で制してくる。


「いいえ、カノープス。あなたは必要ありません」

「だって…プリムラが召喚サモンドされたかもしれないんだろう?だったら…」

「だめです。あなたにはやるべきことがあるのでしょう?これは…わたしの戦いなのです」

「でも…プリムラはぼくの…」

「大丈夫です。わたしが、何があっても絶対に取り戻してみせます。

 ただ…それには時間がかかるかもしれません。あなたはもうすぐ魔法学園にいくのでしょう?いまのあなたは、そちらを優先すべきです」

「……そんな…」


 きっぱりと言われてガックリと肩を落としたカノープスを、慈愛のこもった瞳で見つめるパシュミナさん。優しく肩に手を添える姿は、なんだか年下の弟を愛おしんでいるように見えた。


「カノープス、ありがとう。あなたの気持ち、確かに受け取ったわ。あとは…わたしに、わたしたちに任せて」


 それだけを言うと、ぎゅっとカノープスを抱きしめた。





 ひとときの間カノープスを抱きしめたあと、今度はパシュミナさんが俺たちのほうに向きなおった。



「みなさんも、もしかしたら彼と同じような思いを抱いていただいているのかもしれませんが…大丈夫ですからね」

「あぁ、俺たちに任せてくれ。パシュミナのことは俺たちが守るし、プリムラのことは…必ず俺たちが救い出す」


 胸を張って宣言するレイダーさんの姿は、強い意志とそれを貫く強さを持ったものだけが発する"安心感"があった。さすがは『勇者ヒーロー』とまで呼ばれてる人だな、ものすごく心強い。

 プリムラのことは、彼に任せておけばきっと大丈夫だろう。そう思えた。


 同時に…彼にそこまで言われてしまうと、俺たちから『手伝います!』とは言いづらくなっちゃったな。



「中途半端な形になってしまって申し訳ないのですが…わたしの講師役はこれでおしまいみたいですね。みなさんと過ごせて、本当に楽しかったです」


 少しだけ悲しそうに…だけど晴れやかな笑顔でパシュミナさんはそう言った。

 本当はさみしいし、もっと一緒に修行したかったんだけど…状況が状況だ。背に腹は変えられないよな。




 残念だけど、俺たちは…パシュミナさんとお別れしなくちゃいけないみたいだ。

 そのことは同時に、俺たちがここ『魔迷宮』を立ち去ることを意味していたんだ。



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