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33.魔迷宮

 デインさんとクリスさんに連れ出されたのは、次の日の朝だった。

 本来であれば『魔迷宮』は遠く離れてて、たどり着くまでにかなりの月日を必要とする。

 だけど…さすがは七大守護天使。特別な移動方法を持ってたんだ。


「…出でよ、『招来インバイト天空竜スカイドラゴン』」


 デインさんが何かの魔法陣を宙空に描くと、魔力を注ぎ込んだ。

 すると空間が裂け…何かがゆっくりと姿を現わす。

 初めて見た…これは契約した魔獣を呼び出す招来魔法だな。


 出現したのは、全長10メートルを超える巨大な翼を持ったドラゴン

 背中には俺たち全員が乗れるような荷台が背中に乗っていた。


「あら、エリザベート!お久しぶりですわ」


 スターリィが嬉しそうに天空竜に駆け寄っていった。

 こいつエリザベートって言うのかよ、すげぇ似合わない名前だな。

 竜のほうもなんか「きゅるるーん」とかって愛想の良い声を出しながらすりすりしてる。


「これは、俺が使役してる天空竜だ。懐いてるから噛んだりすることはないぞ?」

「竜を使役するなんてすげぇ…さすがパラデイン様」


 ボウイが口をポカーンと開けて、スターリィとじゃれあっている天空竜エリザベートを眺めていた。

 …正直俺も、でかすぎるペットにあっけに取られていた。


 それにしてもドラゴンを使役するとか、さすが七大守護天使だな。

 そういえば前にフランシーヌから教わったことを思い出す。

 たしか、龍と竜は別種なのだそうだ。

 その大きな違いは知能。

 龍は高い知能と魔力を持つ…人間と同等かそれ以上の存在で、竜のほうはあくまでただの魔獣で知能も犬程度なのだとか。


 でもさ、全長10メートルの犬とか居ないよなぁ。

 いくら懐いてるからって、ちょっと怖いんだけど…


 でも結局、この天空竜エリザベートに乗せてもらって空を飛んで行くことになった。

 最初はビビってたんだけど、乗ってみるとこれが予想以上に快適だった。

 おかげで道中メチャクチャ楽できたんだけどね。





 空旅の道中、俺はこれから向かう場所について思い描いていた。

 グイン=バルバトスの魔迷宮。

 名前からも、そこが普通の場所でないことは判かる。

 まぁでも一人で想像してても仕方ないから、とりあえずなんでも知ってそうなスターリィに聞いてみることにした。


「スターリィ、『グイン=バルバトスの魔迷宮』ってどんなところなのか知ってる?」

「ええ。魔迷宮は、かつての『魔王』グイン=バルバトスの本拠地で、お父さんたちが『魔王』と最後の決戦をした場所ですわ」


 うわぁ、やっぱり最終目的地ラスダンじゃんか。

 しかし、なんでまたそんな場所に向かうんだ?


 その疑問に応えてくれたのはクリスさんだった。


「あのね。魔迷宮は今はもう魔物や怪物は居ないただの迷宮ダンジョンなんだけど、あそこには…今のあなたたちにぴったりのものがあるのよ」

「ぴったりなもの?」

「ええ。実は魔迷宮は、わたしたち七大守護天使の『図書館』になってるのよ」


 図書館?

 このひとたち、かつてラスボスが居たラスダンを本置き場にしてんのかよ。


「この世の中にはね、あんまり人の目に触れさせたくない書物がたくさんあるの。

 危険なものや、禁忌に関するものとか…ね。

 だけど、書物は人類の宝でもあるから、簡単に捨てるわけにはいかないでしょう?

 そんな古今東西の曰く付きの本を集めているのが…”魔迷宮”にある【図書館ライブラリー】なのよ」


 あー、なるほどね。

 要は…危険だけど処分するには惜しいものを、絶対に普通の人が近寄らないような魔迷宮ばしょに安置してるってわけか。

 それであればすごく納得できる。


「アキ、【図書館ライブラリー】ならもしかしたら…あなたが求めている情報もあるかもしれませんわね?」


 たぶんデインさんたちは、そのことを考慮して魔迷宮の【図書館ライブラリー】に俺を連れて行ってくれるんだろう。

 正直、今までろくな手がかりもなかったから、すごくありがたい。

 こりゃ本当に感謝しなくちゃいけないな。



 でもさ、”図書館”と”講師”ってのがイマイチ繋がらない。

 もしかして、新しい”講師”っていうのは、勉強を教えてくれる人なのかな?

 ってことは、この一年は机上の勉強ばっかりさせられたりして…


 そんなことを考えてたら、クリスさんに袖を引っ張られて端っこのほうに連れて行かれた。

 なんだろう、オススメの本でも教えてくれるのかな?


「ねぇアキちゃん。あなたは…スターリィとカノープスくん、どっちが本命なの?」

「はい?」


 聞かれたのは、わけのわからないことだった。

 おいおい、あなたは何てこと聞いてるくるんですかい。


「えーっと、言ってることの意味がわかんないんですが」

「だーかーら、スターリィとカノープスくんのどっちのほうが好きかって聞いてるのよぉ〜。もしかして両天秤?」


 いや、俺いま女の子の身体なんですけど…どう答えろと?

 しかも、両天秤のうち一人はあなたの娘なんですが…


「わたしが言うのもなんだけど、我が娘ながらスターリィは可愛いでしょ?どう?」

「どうもなにも、今の私は女の子の身体なんですが…」

「その解決策が、もし【図書館ライブラリー】にあったら?あなたどうするの?」

「えっ!?」


 放り投げられた爆弾は、静かに俺の心の中で爆発した。

 …おいおい、そんな方法あるのかよ。


「も、もし…そんな方法があるなら…」


 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。

 そりゃスターリィはすごく可愛いと思う。

 仲もすごく良い。

 だけどそれは俺が女の子だからであって…あぁでもスターリィには自分が男だってことは常々言い聞かせてるし…あぁでも…


「ウソよ?」

「へっ?」


 なんだよ、ウソかよ。

 クソッ、マジで真剣にあるかと思ったじゃねーかよ!

 俺のトキメキを返してくれよ!


「でも…わたしが知らないだけで、世の中にはそんな方法もあるかもしれないわ」

「あーはいはい、そうですねー」

「だから…アキちゃんには、目的のその先のことも、少しは考えて欲しいの」


 クリスさんのその言葉に、俺はハッとさせられた。

 思わず彼女の顔を見返してしまう。


 …確かに俺は、ずっと目的のことばかり考えてきた。

 サトシを探すこと。魔本【魔族召喚アポカリプス】を全て焼くこと。ゾルバルの遺品の行き先を探すこと…

 だけど、目的のために歩もうとする俺のそばには、たくさんの人たちが居てくれた。力になってくれた。

 そのことに、改めて気付かされる。


「あなたはずっと、目の前の問題ばかりに囚われてるわ。だけど…あなたのことを大切に想う人たちが身近に居ることも忘れないであげてね」


 クリスさんの言葉が、俺の心にゆっくりと染み込んでいった。


 あぁ、この人は本当に『聖女』なんだな。

 俺の薄っぺらな心の内なんて、簡単に見透かされてたんだ。

 そのうえで、あえて変な話を振ることで、大切なことを思い出させてくれた。

 …ほんっと、この人にはある意味一生敵いそうにないな。


「でもね、スターリィを泣かしたら許さないからね?」


 笑いながらそう言うクリスさんの目は、全く笑ってなかった。

 …超怖ぇよ!









 天空竜エリザベートの背に揺られて丸一日くらい。

 俺たちは…『グイン=バルバトスの魔迷宮』にたどり着いた。

 ちなみに役目を終えたエリザベートは、一声鳴くとそのまま飛んで行ってしまった。

 あぁ、欲しいなー。エリザベートみたいな移動手段。



 降り立ったのは、決して普通の人たちが来れないような山の奥。

 そこは、崖の斜面に大きな扉が付いている不思議な場所。

 扉の周りには巨大な四体の像が建っていた。


「ここが…最終決戦の地、『グイン=バルバトスの魔迷宮』かぁ」


 ボウイが考え深げに辺りを見渡していた。

 彼にとってここは、英雄たちが最後の決戦を行った憧れの地なんだよなぁ。

 なんとなく気持ちは分かるよ、そういうのに興味がない俺でも厳かな気持ちになるし。

 …でもさ。この固く閉ざされた扉、どうやって開くんだ?


「はははっ。それにはな、アキとカノープスの協力が必要なんだよ」

「私とカノープスの?」

「ぼくとアキの力を合わせれば百人力だね」


 さりげなく俺の肩を抱いてきやがったカノープスを蹴っ飛ばしながら、デインさんに理由を聞いてみた。


「この魔迷宮に入宮エントリーするには、最低四人の天使の力が必要なんだ」


 なんでも、門の前に建っている四体の像に、それぞれ天使級の魔法使いの魔力を注入することで、魔迷宮への扉が開くのだそうだ。

 あー、それだと一般人は絶対に入れないな。

 確かに色々なものを隠すには打ってつけだ。


「それじゃあ早速やってみようか。カノープスは右手奥の像に、アキは右手前の像にそれぞれ魔力を与えてくれ。左側は俺たちがやるから。あ、アキは『流星』を使ったほうが良いかな?」


 よく分かんないけど、とりあえずデインさんの言う通りにしてみることにした。



 ーーー


 個別能力アビリティ:『新世界の謝肉祭エクス・カニヴァル

  【右腕ライトハンド】…『シャリアール』起動


 ーーー


 今回は…『星銃デネブ』で良いかな?

 右手を銃の形にして、目標の像に狙いを定めた。

 いつものように、右手首に小さな”天使の翼”が具現化する。


「全員準備は出来たか?」


 すぐ横で、デインさんとクリスさんが一気に魔力を解放した。二人の背中に光り輝く白い”天使の翼”が具現化している。

 …そこに在るのは、これまでに見たことが無いくらい、神々しく力強い天使の翼。

 さすがは七大守護天使、とんでもない魔力量だぜ。


「よし、それじゃあいくぞ!」


 掛け声に合わせて、俺とカノープスが一気に魔力を解放した。

 人差し指の先に魔力が集中し、小さな魔法陣が指先に現れる。


 シューティングスター:【星銃デネブ

 …3.2.1.shotショット!!


 俺の人差し指の指先から、レーザービームが解き放たれ、指定された像に吸い込まれていった。

 デネブの直撃を受けて、像が虹色に輝く。

 どうやら他の3つの像も同様に虹色に輝いているようだ。

 これで…上手くいったのか?



 次の瞬間。


 ごごごごごごごご…



 地の底から湧き出るような地響きの音とともに、魔迷宮への入り口の扉がゆっくりと開き始めた。

 ふぃぃい、なんとか成功したみたいだ。


「よし、それじゃあいこう」


 デインさんの掛け声を合図に、俺たち6人はついに…『グイン=バルバトスの魔迷宮』に入宮エントリーしたのだった。









 突入したグイン=バルバトスの魔迷宮の中は、文字通り『迷宮』になっていた。

 かなり広い地下空間だ。まさにラストダンジョンといった雰囲気を醸し出している。


「普通に歩いてたら時間がかかるから、ちょっと裏技使うよ?」


 そう言うと、デインさんが何かを呟いた。

 すると、俺たち6人の身体が光に包まれる。

 …気がつくと、全く別の場所に立っていた。

 なんだこれ?テレポートか?


「これは…瞬間移動テレポーテーションですわね。お父さんはそんな規格外の魔法が使えたの?」

「いや、これは魔迷宮の中だけで使える特殊な瞬間移動テレポーテーションさ。しかも行き先は一箇所だけ。

 それがこの…地下4階にある【図書館ライブラリー】だ」


 デインさんが指差す先に、扉が見えた。

 どうやらこの先が図書館ライブラリーになってるみたいだ。

 しかし、この図書館ライブラリーにだけ行ける瞬間移動って…変なの。

 まぁ広いラストダンジョンの中でわざわざ図書館ライブラリーに寄るのに、毎回地下4階まで降りるのは面倒だよな。

 あー、だから4階だけなのかな?


「そうよ。”七大守護天使”には面倒くさがりやが多くてね、特別に”禁呪”で瞬間移動の方法を作ってもらったのよ」


 禁呪…初めて聞く単語だな。

 なんだか禍々しさしか感じないんだけど…まぁ俺には関係ないかな、魔法使えないし。




 そんなことを考えていると、目の前にある図書館への扉がゆっくりと開きだした。

 どうやら向こう側から誰かが開けてくれているようだ。


「お、お迎えが来たな」


 扉から現れたのは…なんとびっくり、かなり若い女性だった。


 おそらくは20代半ばくらいだろうか。

 長い黒髪に真っ白な肌、整った顔立ち。ロングのワンピースを着たその姿に、なんとなく図書館の司書をイメージした。


 その女性は、俺たち6人の姿を見て少し驚いたようだ。

 目をまん丸にしてこちらを見ている姿が、なんとなく愛らしい。


「…パラデイン様。こんなに大勢でお越しになるなら、事前に教えて頂きたかったです」

「すまんな、でも面白いのばかり揃ってるぞ?」


 デインさんのこの言い方、もしかして…俺たちの講師になるのはこの女性なのかな?

 すらっとした細身で、とても華奢な印象の人だ。剣など握ったことも無さそうに見える。とてもではないけど、戦闘術とかを教えれそうには思えない。

 でも、こんな若い女性が、こんなオドロオドロしい魔迷宮ラストダンジョンで、たった一人で過ごしているんだろうか。

 入宮エントリー方法を考えると、外と自由に出入りできるような場所ではないしなぁ。やっぱり定住してるんだろうなぁ。



「あのー、もしかして…あなたが私たちの講師になる方ですの…?」


 完全に状況についていけてない俺たちを代表して、スターリィが恐る恐る確認してくれた。

 さすが我らがリーダー、こういうときは頼りになる。


 それにしてもこの女性、なんとなく見覚えがある…というか、この人の特徴がある人の特徴と似ていたのだ。

 まっ黒い髪に、透き通るような白い肌。

 まさか、この女の人は…俺の予想が正しければ…


「皆さん、初めまして。わたくしの名前は…」

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで…あなたがこんなところにいるんだ?」


 女性が自己紹介をしようとするのを慌てて遮ったのは、なんとカノープスだった。

 こいつ、この女性のこと知ってるのか?

 しかもこの慌てよう…こんなに焦っている姿は見たことがない。


 ただ、俺の予想が大外れしてないんであれば、その理由も想像がつく。


 そう。きっと彼女は…魔族だ。

 髪や肌の色の特徴が、カノープスとそっくりなのだ。


 それであれば、カノープスが彼女のことを知っていることに理由が立つんだが…それにしても、こいつがこんなにも震えているのは何でだ?

 もしかして…この女性のことが怖いのか?


「カノープス、お久しぶりね。元気そうでなによりです」

「いや、そんなことよりも…あなたはどうして生きているんだ?ずっと前に死んだって聞いてたんだけど…」

「ふふっ。それが何の因果か、こうして生き永らえているのですよ」

「…ねぇねぇカノープス、この人のことを知ってるの?」


 顔面蒼白のカノープスの袖を強引に引くと、ハッと正気に戻った彼が…震えながらなんとか答えてくれた。


「知ってるも何も…この人の名前はパシュミナ。

  『魔王』グイン=バルバトスの七魔将軍の一人で、20年前の魔戦争で戦死したはずの魔族、『凶器乱舞デスペラード』のパシュミナその人なんだよ」



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