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【番外編】古代遺跡の探索(カレン編)

番外編第二弾です!


今回は前編後編に分かれています。まずは前編の『カレン編』です(≧∇≦)




「霊山ウララヌスの古代遺跡を探索しようっ!」


 そう言いだしたのは、白銀色シルバーブロンドの腰まである長い髪を振り乱すミアねえさまだった。






 邪神サトシとの決戦を終えたぼくたちは、思っていたよりも退屈な日々を過ごしていた。

 というのも、ぼくたちが在籍するユニヴァース魔法学園の授業が休講になってしまっていたからだ。


  『第二次・魔戦争』と呼ばれた各地の戦乱と、のちに『神々の最終決戦ネオ・ラグナロック』と呼ばれることになる邪神サトシとの戦いの爪痕は世界中にハッキリと残されていて、各地が復興のために慌ただしく動いていた。

 ここ魔法学園も例外ではなくて、なんとか大怪我から復帰したロジスティコス学園長を筆頭とした複数の講師が世界各地に飛んで復興を支援したり、残った講師たちも学園の回復に努めていたんだ。



 残された生徒たち…つまりはカレンぼくたちは学園に残っていた。正確には残されてたんだ。

 なんとか復興の支援をしたいって申し入れたんだけど、学園長や一時期滞在していたヴァーミリアンおかあさまに「子供は学ぶことが仕事!」と言われて、学園に残ることになった。




 こうしてぼくたちは『自習』という形で学園に残って勉強をしていたんだけど…そんな状況に真っ先に耐えられなくなった人がいた。

 …言わずと知れたぼくの姉さまだった。




「たーいーくーつー!ねぇーねぇー、相手してよー」


 足をジタバタさせながらブーブー文句を言うミアねえさま。その最大の理由は…やはり”女装”させられていることだろう。


 ぼくが”呪い”を断ち切って髪をバッサリと切ったことで、否応なしにぼくたちは元どおりに『入れ替わる』必要が発生した。

 つまりぼくは…数年ぶりに『男』として生活することが可能となり、代わりに姉さまが『女』として生活することを余儀なくされることになったんだ。


 それがとてつもないストレスだったらしい姉さまは、それはもう荒れた。手がつけられないくらい荒れたんだ。



 姉さまは、最初はぼくに対して怒り倒した。


「あーもう!なんで髪なんて切るのさっ!」

「だって…それは勢いというかなんというか」

「なにが勢いよ!だったらあたしは勢いでボウズにするよっ!?」


 それだけは止めてとエリスに涙ながらに説得されて渋々諦めた姉さまは、まったく意に介さないぼくの態度に怒鳴り散らしても無意味だと悟ると、今度は泣き落としにかかってきた。



「ねーねー、カレン?ちょっと入れ替わろうよー?ね?別に減るもんじゃないでしょ?」

「いーやーだ!ぼくはもう女装なんてしないって決めたんだ!」

「なにさっ!ケチ!どケチ!お前のかーちゃん性格チョー悪いー!」


 いや、ぼくの母親はあなたの母親でもあるんですけどね…?



 結局、ぼくがまったく入れ替わろうとしないことを悟った姉さまは、ついにはふてくされて”白銀の間”に籠るようになってしまったんだ。

 …まったく、迷惑な人だよホントに。


 それで、仕方なくぼくとエリスで姉さまを慰めようとお菓子と紅茶を持って入っていったところ、飛び出した言葉が…冒頭の『霊山ウララヌスの古代遺跡に行こう!』だったんだ。








 ---






 結局ぼくたちは、霊山ウララヌスに登っていた。

 だって、あれ以上姉さまを刺激してたらどうなるかわかんないし、古代遺跡を探検するくらいで気が紛れるなら他の人にも迷惑かけないしね。


 …だけど、一つだけ想定外のことがあったんだ。


「…大丈夫かい?ね…エリス。足場が悪いから気をつけて」

「大丈夫だってば!心配しすぎだよ、レッド」


 …なぜか、レドリック王太子がついてきてしまったことだ。




 学園を出て霊山ウララヌスに登ろうとするぼくたち3人に気付いたレドリック王太子が、なぜか「きみたちだけで行くなんてとても心配だから私も付いていく!」と言って勝手についてきちゃったんだ。


 ぼくたちは天使…しかも『超越者イクシード』だ。七大守護天使級の魔力を持っているぼくたちが遅れを取るなんて事態は万に一つも考えられない。

 だから最初は断ろうとしたんだけど…


「私も連れて行ってはくれないだろうか、カレン王子」

 そう面と向かって言われて、ぼくは一瞬返事出来なかったんだ。


 なぜなら…彼はぼくのことを『カレン王子』って呼んだんだよ!?

 これまでぼくのことを『ミア姫』と呼んでたやつがだよ!?

 つまりぼくは…彼の目から見て見間違いようもなく『男』に見えたってことなんだ。16年間生きてきて、こんなことは無かったんだからね??


 正直、ぼくは嬉しくて舞い上がった。

 だから嬉しくてつい…レドリック王太子の同行をオッケーしちゃったんだ。


 そんな残念な自分を殴りたい…ガックシ。



 あー!もー、なんでこいつが付いてくるんだよっ!

 しかも、なんかやたらエリスにベタベタしてるしっ!

 しかもしかも、エリスもなんだかイヤそうじゃないしっ!!


「…くくく、なんだか楽しくなってきたじゃない?」


 横にいる姉さまがなんだか邪悪な笑みを浮かべているのに、このときのぼくは気付かなかったんだ。











 ---






「わぁ…すごい」


 ぼくの横で、エリスが額の汗を拭いながら可愛らしい声で歓声をあげた。


 たどり着いた古代遺跡は、遠く眺めていたときのイメージとは違って案外不気味だった。

 何で作られたか分からない建物にはビッシリと苔が生えていて、一見すると緑の塊みたいに見える。だけど…よく見ると、所々白い壁が苔の間から見え隠れしている。


 遠くから見たときにこの白い部分が見えていたんだなと、近づいてみてようやく気付いた。まるで森に覆われた箱のような雰囲気だったんだ。



「入口は…あっちみたいね」


 姉さまの声につられて確認してみると、建物の壁にポッカリと空いた出入り口らしい場所を見つけた。ぼくたちは恐る恐るそこから建物の中に進入してみることにしたんだ。




 建物の中は、やっぱりたくさんの植物や苔に覆われていた。霊山ウララヌスはずっと霧に覆われていたから、こんなに苔があるんだろうなって気がする。


こけは湿気を吸って滑るから気をつけてね」

「はーい」

「へいへーい」


 まるで引率の先生みたいに声をかけてくるレドリック王太子。この人、基本的には良い人なんだけどなぁ…どうしてあんなにエリスと距離が近いんだろう?





 建物の中は少し暗かったから、ぼくは明かりを灯す魔法を使って建物の中を確認しやすくする。


「…ちぇっ。あたしたち一番じゃなかったんだ」


 明るく照らされた室内の様子を見て、姉さまが舌打ちしながら残念そうな声をあげた。


 どうやらぼくたちはこの遺跡に入る第一号じゃなかったみたいだ。その証拠に、大量の足跡…しかも真新しいものが建物内の至る所に見受けられる。


「…あぁ、そういえばたしか学園の講師の何人かが、霧が晴れたあと真っ先にここを探索してたよ」

「なんだよそれ、先に言ってよ!つまんないの!」


 レドリック王太子の言葉に姉さまがいつもの調子で悪態をついて、レドリック王太子がギョッとした顔をした。それはそうだろう、これまでお淑やかだと思っていた『ハインツの至宝』ミア姫さまが、こんなにも口汚く悪態を吐くのだから。


「えっと…ミア姫?だよね?あれれ?なんとなく…これまでと印象が違うような?」

「へ?あー、き、気のせいじゃないかな?あたしは変わらないと思うけど?おーほっほっほ」

「そ、そうよ!ミアはずっとミアだよ!」


 戸惑うレドリック王太子に必死に誤魔化す姉さまと、慌ててフォローするエリス。…正直無駄だと思うけどなぁ?どうせすぐボロが出て本性バレるだろうし。


「ほ、ほら!つい先日死闘を繰り広げたばかりだから、やっぱり一回り大きくなったんじゃないかな?違うかな?ねぇカレン?」

「え?あ、うん。そ、そうだね?」


 ムチャぶりしてきたエリスに、ぼくもとりあえず同調してみた。ちょっとその論理は無理があるんじゃないかなぁ?

 でもレドリック王太子は、ぼくたちの説得?を受けて「そ、そう言われてみるとそうかもね。でも…あんな人だったかなぁ?もっと…いや、もう何も言うまい」などと独り言を言って首を捻りながらも無理やり納得したみたいだった。


 …あ、この人案外単純かも?





 レドリック王太子の誤解?も溶けたあと、見るに耐えられなくなってぼくは姉さまに苦言することにした。


「…ちょっと姉さま、もう少しお淑やかにしなよ?」

「えー?なんでよ?」

「なんでって…ほら、姉さまはぼくにずっと『ミア姫のイメージを落とさないように可愛らしくしなさい』って言ってたじゃない?」

「イヤよ、めんどくさい。だいたいあんたのせいであたしまで巻き添えになったんだから、そんなに気になるならあんたがまた女装しなさいよ!」


 …この言葉を聞いて、もうぼくは姉さまに対して何かを言うのを止めた。

 あー、もー知らないっ!姉さまなんて好きにすれば良いさっ!





 ---





 ぼくたちはしばらく探索を続けたんだけど、やっぱりめぼしいものを見つけることは出来なかった。

 仕方なく、一度広い部屋のところで休憩することにしたんだ。



 エリスは用意していたポットに魔法で火をかけて湯を沸かしながら、紅茶を淹れる準備をきている。なんというか…魔法の無駄遣いだと思うのはぼくだけだろうか?


 レドリック王太子は、そんなエリスの様子を見ながらなんだかニヤニヤしてる。なんだあいつ、やっぱり気持ち悪いな!

 その横では、姉さまがぼくの顔を見ながらニヤニヤしてる。

 …こっちもこっちで最悪っ!



「どうしたの、カレン?なんか怖い顔して」


 頭にきたぼくがプンスカしながら姉さまを睨みつけていると、エリスが淹れたての紅茶を手にぼくの横に座ってくれた。

 あー、やっぱりエリスは可愛いな。紅茶を一口すすって、鼻を抜ける優しい香りに心が癒されるのを感じる。



「そういえばさ、エリスはなんだかレドリック王太子と旧知の仲みたいだけど、どこで知り合ったの?」


 思い切って問いかけたぼくの質問に、エリスは思わず紅茶を吹き出しそうになっていた。

 え?どういうこと?ぼく変なこと聞いたかな?


「大丈夫?エリス」

「けほけほ、ごめん…」


 ポケットからハンカチを取り出しながら、少し涙目になって口を拭うエリス。落ち着いたところでレドリック王太子とのことを話してくれたんだ。



「…私がハインツに来る前にブリガディア王国の王都イスパーンの魔法屋で働いてたのは知ってるよね?」

「うん」

「…そこに、お忍びで来てたのがレッドだったんだ」


 なんでもエリスの話によると、レドリック王太子の友人であるブライアントがティーナに一目惚れしてお忍びでお店に通っていたそうで、その縁でレドリック王太子と知り合ったんだとか。

 ブライアントといえば、以前ぼくと姉さまを口説こうとしてコテンパンにされたあのスケベ野郎だ。あいつ…ティーナにもちょっかいかけてたんだな。



 …それにしても、まさか天下のブリガディア王国の王太子がお忍びで街に繰り出すなんてねぇ?


 そう思って口に出すと、エリスから「それ、変装してお忍びで街を散策してたカレンが言う?」と言われちゃった。


 あー、ごもっともで。



 そんな感じで廃墟となった古代遺跡でまったりと寛いでいるとき…



 ふいにぼくは、魔力の小さな“ゆらぎ“のようなものを、この廃墟の中で感じたんだ。




後編へ続く(≧∇≦)



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