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【番外編】変わらぬ友情

ここからは番外編です!


今回は、3人娘の番外編となります(≧∇≦)



 アキが異空間から奇跡的な生還を果たした、その日の夜。

 ユニヴァース魔法学園では、たくさんの懐かしい…感動的な再会があった。


 その中の一つに…かつて寝食を共にしていた3人の女性たちの姿もあった。


 エリス=カリスマティック。

 ティーナ=カリスマティック。

 バレンシア=ラバンテ。



 彼女たち三人が一堂に集うのは、実に1年ぶりのことだった。





 ---






「いやー、お風呂気持ち良かったねぇ!さっすが天下の魔法学園だわ!」


 部屋に戻ってきて開口一番そう声を上げたのは、以前はショートカットだった髪を肩口まで伸ばして女性らしさの増したバレンシアだった。


 そんな彼女にウンザリした視線を向けながら、ティーナが冷たく返事を返す。


「…まったく、いくら広いからって浴槽で泳がないで欲しいよ。もうすぐ20歳なんだろう?恥ずかしくないの?」

「げっ、それを言わないでよ…」


 そんな二人のやりとりを、髪の毛を乾かしながらクスクスと笑って眺めていたエリスが、ふいにバレンシアの腕に触れた。


「それにしてもバレンシア、なんだか筋肉質になった?元々スタイル良かったのに、すごいウエストとか細くなって…」

「へへん、すごいでしょ?腹筋なんてバキバキよ?」


 バレンシアが風呂上がりに着ていたシャツをめくり上げると、下からは…六つに割れた腹筋が現れる。


「うわー、すごい!」

「ちょっと前から騎士学校のほうに顔を出しててね、シリウスたちと一緒にたまにトレーニングしたりしてたのよ」


 そんなバレンシアの逞しくも均整の取れたスタイルを見て、ティーナがあからさまに大きなため息をつく。


「前から脳みそに行く栄養を全部胸に取られてると思ってたけど、とうとう完全な脳筋になったんだね…」

「うっさいわね!あんたも少しは自堕落な生活は治ったの?」

「うっ!べ、別にいいだろう?ここだと誰にも迷惑かけてないんだからさ」

「もっと言ってやってよバレンシア!ティーナってばね、一人暮らしを良いことに私が学園に入学するまでほんっとに酷い生活を送ってたみたいなんだよ!」

「なっ!?エリス、そこで裏切る!?」


 こんな感じで、3人の明るい声がユニヴァース魔法学園のティーナの部屋の中に響き渡っていた。








 ---







「ふぅぅ、やっぱエリスの淹れた紅茶は美味しいね!」


 自分が淹れた紅茶を嬉しそうに飲むバレンシアを見て、エリスはなんだか幸せな気分になった。無意識のうちに微笑んでしまう。


「…なによエリス。そんなにあたしが美味しそうに紅茶を飲んでるのが嬉しいの?」

「うんっ!」


 即答で返事を返すエリスを、バレンシアは破顔して胸に抱きしめる。大きな胸と引き締まった肉体で抱きしめられながら、エリスは幸せを感じていた。

 こうして彼女に抱きしめられるのも、本当に久しぶりだった。嬉しかったものの…なんだかガッチリとホールドされている感じで、だんだん息苦しくなっていく。


「んー!やっぱエリスはかわいいね!女の子してて良いわぁ」

「バ、バレンシア、苦し…いよ…」

「あ、ごめんごめん!嬉しくてつい。…ったく、あっちの子も少しは可愛らしくなってくれないかしらねぇ?」


 あわててエリスを開放しながら、チラリと横を見やるバレンシア。


「…首にタオルを巻いて言うセリフかなぁ。もう少し女子力をアップして欲しいよ」


 バレンシアの横には、嫌味を言いながらも顔は笑っているティーナ。まるでこれまで背負っていたものを全部降ろして大きなものが落ちたような雰囲気になっているのが、エリスにとっては何よりも嬉しかった。






 この三人が、一堂に会するのは本当に久しぶりだった。

 以前は毎日のように一緒にいたのだから。

 エリスは思い出す。3人で泣き笑いしながら過ごした日々を。




 彼女たち3人は、今から2年ほど前にブリガディア王国の王都イスパーンの町にある魔法屋『アンティーク』で出会った。


 出会った当時、ティーナは魔法屋アンティークの店主であり、バレンシアはティーナの幼馴染、そしてエリスは…偶然訪れたただの客だった。

 それが様々な運命のイタズラにより、彼女たちは互いに親交を深め…やがてエリスは姓を捨ててティーナと同じ【カリスマティック】姓を名乗り、ティーナの魔法屋で働き始めることとなる。



 今でもエリスは、あの頃が一番楽しかったと思うことがある。

 毒キノコのような外観の狭くて奇妙な魔法屋アンティークと、お店に集うたくさんの人たち。そして…誰よりも大切な親友たちと過ごしたあの時間を…







「それにしても、よくみんな無事でこうして会えたわね。聞けば聞くほどとんでもない状況だったじゃない?」


 バレンシアがしみじみとそう口にする。エリスも彼女の言う通りだと思った。それくらい…危険な状態に、エリスとティーナは居たのだから。



 解放者ミクローシアとの激闘のあと、サトシの攻撃により意識を失っていたエリスは、しばらく昏睡状態に陥っていた。

 エリスがアキの措置により再び目を覚ました時、彼女の目に飛び込んできたのは…久しぶりに会う赤毛の親友の号泣する姿だった。



「エリスッ!!」


 泣きながら自分に抱きついてくるバレンシアに、エリスは…自分がどこにいて何をしているのかがわからなかった。一緒にいたカレンがなだめなければ、意味がわからないままバレンシアに絞め落とされていたかもしれない。


 落ち着きを取り戻したバレンシアからようやく開放されて、カレンから事情を聞くことで…エリスは初めて自分が置かれた状況を把握することができた。同時に、意識を失う前のことをやっとのことで思い出す。


 する今度は…バレンシアに思いっきりビンタされてしまった。


「エリスのばかっ!無理ばっかりして!」


 次の瞬間、再び抱きしめられて…エリスとバレンシアは抱き合いながら思いっきり泣いた。そんな二人を、髪を切って一気に男らしくなったカレンが優しい眼差しで見守ってくれていたことを、エリスは気付いていた。




 次に泣いたのは…ティーナが生還したときだった。

 正直エリスは、ティーナがサトシに体を奪われて邪神となったことを聞いた時点で、ティーナの生還は絶望的なのではないかと思っていた。


 ところが…彼女は無事に帰ってきた。




 少し照れ臭そうに片手を挙げて、アキたちと一緒に帰還したティーナに、今度はエリスとバレンシアが飛び付いた。


「なんだい。二人そろって…」

「ばかっ!!ティーナのおおばかっ!」

「おかえり!ティーナ」


 涙を流しながら固く抱きしめあう三人。最初は困ったような表情を浮かべていたティーナであったものの、二人にギュッと抱きしめられて、ホロリと涙を流した。


 ティーナが人前で涙を流すのは、本当に久しぶりのことであった。決して感情を表に出さないティーナの涙を見て、エリスは堪え切れなくなってまた泣いてしまったのだった。





「…それもこれも、ぜんぶアキのおかげだよね」

「…あぁ、そうだね」


 エリスの言葉に、ティーナも頷いた。




 アキは本当に不思議な少女だった。

 エリスが彼女にはじめて出会ったとき、アキのことを普通の…平凡な女の子だと思っていた。気軽で話しやすい、ちょっと落ち着いた雰囲気の目立たない少女。それが…アキに対する、エリスの第一印象だった。



 ところが、その認識が大間違いであったことに、エリスはすぐに気付かされることになる。


 アキは、『勇者の妹』スターリィの親友だった。それだけではない、悪魔との戦いでは彼女が非凡な戦闘能力を持っていることを知らされた。


 気がつけば、物事の中心はアキを中心に回り出した。カレンやミアでさえ、アキという輝く恒星を取り巻き、輝きを際出させる存在となっていったのだ。



 そして…アキは自分とティーナを救ってくれた。邪神に乗っ取られ、永遠に奪われてしまったと思っていたティーナを取り返してくれたのだ。


 …落ち着いたら、ちゃんとお礼を言いに行かなきゃね。

 エリスはずいぶんと姿が変わってしまった友人アキの姿を思い浮かべながら、ニッコリと微笑んだのだった。



「アキって、あの派手な髪の女の子?なんかあたしたちと変わらない歳なのに、すごいオーラ持ってたよね。あの子も…やっぱり“天使“だったりするの?」


 バレンシアの問いかけに、エリスとティーナは顔を見合わせて…同時に吹き出してしまった。


「な、なによ?あたし変なこと言った?」

「あはは、ごめんバレンシア。そうじゃないんだけど…」

「いやー、いいねバレンシア。キミはそのままで居てくれよ」

「なにその言い方、気になるじゃない!」


 だけど結局二人がバレンシアにアキのことを詳しく伝えることはなかった。きっと、アキは伝説の存在になる。ミーハーなバレンシアはいつかアキのことを知ることになるだろう。

 そのときどんな反応をするのか、エリスは楽しみで仕方なかった。











 エリスが紅茶のおかわりを二人に注いでいると、ティーナがふとバレンシアに尋ねた。


「そういえば、バレンシアはなんでまた騎士学校の生徒たちと一緒にここに来たわけ?というか、どうやったら騎士学校と接点ができるんだい?」

「それがね、もともとのきっかけはガウェイン師匠なのよ」

「ガウェインさんが?」



 以前、彼女たち3人はとある件で冒険者チーム『明日への道程ネクストプロムナード』一行と旅をする機会があった。

 その際にバレンシアが臨時的にガウェインに弟子入りし、鍛えてもらった経緯があったことをエリスは思い出す。


「そう、突然レイダーさんたちとうちの店アンティークにやってきてね。『シリウスを紹介しろ』って言ってきたのよ」

「へー、それで一緒に騎士学校に?」

「うん。ガウェイン師匠を連れて行って、一緒に鍛えてもらううちに…なんだかんだであの学校の連中と仲良くなっちゃってね」


 きっとバレンシアはすごくモテたんだろうなぁとエリスは思った。なにせ彼女はスタイル抜群で魅力的で…なにより気配りのできる優しい女性なのだから。自分が男だったら絶対に放っておかないだろう。

 でも、バレンシアには本命がいるのだ。幼なじみである騎士学校の生徒…【剣聖】シリウスがいたから、バレンシアも学校に顔を出してたのだろう。シリウスのほうも満更ではなかったはず。



「それで、今回の騎士団遠征試験のときにユニヴァース魔法学園のほうまで行くって聞いたから、せっかくだってので一緒に着いて行っちゃったってわけ!その間はお店は臨時休業でね、へっへーん」

「おいおい、お店の売り上げは大丈夫なのかい?オーナーとしてはなんとも複雑な気分なんだけど…」


 ワザとらしく嫌味な表情を浮かべるティーナに、バレンシアは胸を張った。


「ふっふっふ。それがね、聞いて驚くな…現時点で、売り上げが去年の1.5倍なのさー!」

「「ええーっ!?」」


 完全に予想外の数字に、エリスとティーナは驚きの声を上げてしまう。


「どうしてどうして?なんでそんなに売り上げが上がるの?」

「うふふ、エリスさんよ。この天才商売人であるバレンシア様のなせる技さ」

「そんな…バレンシアに負けるなんて…」


 ガックリと項垂うなだれるティーナの肩をポンポンとバレンシアが慰めるように叩く。


「そんなわけで、あたしにもう舐めた口をきかないようにね」

「…うぐぐ」


 悔しげに歯をくいしばるティーナを横目に、バレンシアはコッソリとエリスに耳打ちした。


「…ま、といってもチェリッシュの力も大きいんだけどね」

「あ、チェリッシュさんってそんなに凄いの?」


 エリスは、自分たちの後釜として魔法屋アンティークで働き始めた金髪の魔法使いの女性のことを思い出す。

 明るく前向きで元気いっぱいな今時の女性のチェリッシュの制御に、バレンシアがずっと苦労していたのは知っていたのだが、いつの間にか十分な戦力になっていたようだ。


「けっこうドジの多かったんだけどね、なんかお客さんにはウケてるのよ。まー新しいうちの看板娘ってとこね」


 そういえばチェリッシュさんもこの学園のOBだったな。どうやら『明日への道程ネクストプロムナード』のベルベットとも旧知の仲のようで、今回バレンシアの旅に同行してこの学園に来ていたし、明日にでもゆっくり彼女と話してみようかな。

 エリスは自分の淹れた紅茶を飲みながら、そんなことを考えていたのだった。







 ---






 結局この日は、三人でティーナの部屋に泊まることになった。


 まだ病み上がりで回復しきれてないエリスは、早々とベットで寝息を立てている。そんな彼女を優しい瞳で見つめるバレンシアに、窓際の椅子に座るティーナが話しかけた。



「なぁバレンシア。ボクは…キミに話さなきゃいけないことがある」



 意を決したかのような表情のティーナ。バレンシアが顔を上げて口を開く。


「それは…どんな内容?」

「ボクの過去…いや、正体についてだ。本当は話すべきか迷った。だけど、以前ボクは約束しただろう?過去の記憶を取り戻したら話すって」



 そう、ティーナは以前バレンシアとエリスに約束をしていた。失われていた過去の記憶を取り戻したら、必ず二人に話すと。

 既にエリスはティーナの過去を知り、受け入れ、そして解き放ってくれた。

 今度は…バレンシアに話す番だった。




 だけど、決意を込めたティーナの申し出に、バレンシアは首を横に振った。


「…いや、話さなくて良いよ。ティーナ」

「は?どうしてさ?前はあんなに聞きたがっていたじゃないか」

「ああ、そうだね。でも聞きたがったのはね、そうでもしなきゃあんたが勝手にどこかに行ってしまいそうだったからだよ」


 真剣な表情でそう語るバレンシアの言葉に、ティーナはハッとした。


 確かに…彼女はバレンシアたちを自分の運命に巻き込みたくないという気持ちが強くあった。だから、他の誰よりも大切な二人を…自分の揉め事に巻き込みたくないと思っていたのだ。



「だけど、今のあんたは違う。もう…過去の呪縛から解放されてるんでしょ?だったらもうあたしが聞くべき話は無いわ」

「…バレンシア」



 もうそれで話は終わり、とばかりにバレンシアは立ち上がると、ティーナの頭をそっと撫でた。

 ティーナは目を細め、彼女の好きにさせている。その様子は、まるで体を撫でられる猫のような仕草であった。



「…それでティーナ、あんたの問題はぜんぶ解決したのかい?」

「…あぁ、心配かけたね。ボクは…もう過去から解放されたよ」

「そっか…よかったよ」


 そう言うと、バレンシアはティーナの身体を後ろからギュッと抱きしめた。

 自分の身体を包み込むその手を、ティーナはそっと触れる。



「…で、あんたはこれからどうするのさ?」

「そうだね…とりあえずちゃんと学園を卒業するよ。ロジスティコスのジジイにはずいぶんと世話になったしね。そのあとは…そのとき考えるさ」

「そうだね。時間はたっぷりあるからね。その間…あたしがあんたたちの帰る場所・・・・は守り続けてるからね」


 そう言うと、バレンシアはティーナからゆっくりと離れていった。ティーナは頭をぽりぽりかきながら頷く。



「…今度エリスと一緒に帰るよ」

「そうしなさい。待ってるよ」



 エリスやティーナの帰る場所。


 それは…下街にある不思議な外観のお店、魔法屋【アンティーク】。

 ティーナは長い月日を過ごした我が店のことを、懐かしく思い出したのだった。たくさんの思い出のある、あの魔法屋アンティークを。




お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、この3人は前々作『私、魔法屋でアルバイト始めましたっ!』の主要登場人物たちです。


もし興味が湧いて頂いたら読んでいただけると幸いです(≧∇≦)



そしてそして…なんと、エリスさんが主人公の『私、魔法屋でアルバイト始めました』が、マイナビ出版さんの『お仕事小説コン』で予選を突破してしまいました!

おまけに、今後の展開も何かあるかもしれないので、そちらは活動報告のほうをご参照ください(≧∇≦)


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