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【番外編】宿命の戦い 〜前編〜

 

 土煙が舞う中、巨大な黒い透明な物体が大きく揺れる。暗黒スライムと化したミザリーは、まるで水をぶち撒けたかのように空に向かって広がると、そのまま一気に前の方へ雪崩れ倒れてきた。

 その先に居るのは…二人の男女、ボウイとナスリーン。


 これまで何度も見せてきた、ミザリーの攻撃手段である“体当たり“。一度、避けきれずに巻き込まれた魔獣がミザリーの体内で溶かされている姿を見てから、致命的な攻撃だと知らされた。


 迫り来るミザリーのボディプレスを前に、周りで見ていた他の学生たちから沸き上がる悲鳴と歓声の中、ボウイは手にした剣を前に突き出した。



空気箱エアボックス!」


 素早く展開された魔法により、彼の目の前に…目に見えない空気の箱が複数出現した。均等に配置された空気の箱は、気付かないままのしかかってきたミザリーの巨体を見事中空でせき止めた。



「よしっ、上手くいった!今だ!」

「オッケーやでっ!」


 ボウイの掛け声に合わせて、ナスリーンが遠距離から触媒を用いて『火炎球ファイアーボール』の魔法を放った。

 これまでナスリーンは、ミザリーに対して水と風の魔法を放ってきたものの、まるで効果が無かったことから、今回は彼女があまり得意でない火魔法を試みていた。ミザリーの黒い液体ゲル状の身体に、複数の火の玉が襲いかかる。


 赤く輝く光がミザリーの黒い身体に炸裂した瞬間、爆炎とともにゲル状の肉体が爆散した。辺りを包む生ごみが燃えたときのような刺激臭。



「よっしゃ!喰らえっ!」


 煙を上げて飛び散る肉片の間を縫うようにして、剣を手にしたボウイがミザリーに肉薄した。目の前には、巨大な黒いゲル状の壁。まるでこんにゃくやゼリーで出来た壁のようなミザリーの身体に、ボウイは手に持った剣を…文字通り叩きつけた。

 まるで水面に剣を叩きつけているかのような微妙な感触を覚えながらも、ボウイは何度も何度も切りつける。



「あかんっ!来るでっ!」


 ナスリーンの声に合わせるかのようにミザリーが激しく身震いすると、暗黒スライムの表面で燃え広がっていた炎が、表面の肉片とともにぼたぼたと垂れ落ちていった。それまで巨体を支えていた空気の箱も、まるでミザリーに溶かされたかのように侵食され消え去る。

 身体の自由を取り戻したミザリーは、その全身を液状化させて一気にボウイに襲いかかってきた。


「ちっ!『風走りエアウォーク』!」


 黒い波が襲いかかってくるような様子を目の当たりにしながら、ボウイは素早く魔法を展開した。自分の身体の周りの空気抵抗が弱まり身軽になったのを肌で感じながら、ミザリーの“体当たり“から全力で逃れる。

 大量の液体が地面に叩きつけられるような音が聞こえる中、ボウイは間一髪で黒い液体ゲルの波から脱出に成功した。



「ふうぅ、今のはギリだったな!」

「ほんまやで!あんま無茶はあかんで!」


 地面を転がりながら体制を整えたボウイと、すぐ側にサポートにやってきたナスリーンが素早く会話を交わした。






 ボウイとナスリーンがミザリーと戦闘を行うのは、これで3回目だった。

 最初の一回は様子を見ながら無理をせず戦って、攻撃が効かないことを確認してすぐに撤退。2回目はもう少し踏み込んだ形で様々な攻撃を放ったあと、無理せず撤退。そして3回目の今回は…いよいよ本格的にミザリーの弱点を探し出すために、本腰を入れて攻撃を仕掛けていた。



「いまんとこ、剣での攻撃が一番効いてる気がする。そっちはどうだ?」

「うーん、魔法のほうはぜんぜんアカンわ。効いてる気がせーへん」


 これまでのところ、今の二人の会話が表す通り状況は芳しくなかった。しかし、ミザリーの注意を引きつけているだけでも、学園側の他の講師や生徒たちにとっては非常に大きな意味があった。





 この二人が戦線に参加するまで、ユニヴァース魔法学園の講師や生徒はミザリーに相当苦戦していた。なにせ魔法が一切効かない相手なのだ。魔法が得意な彼らには相性最悪の相手と言えた。

 ミザリーが出現しては逃げることを繰り返し、その際に魔獣たちの追い討ちを受けてかなりの損害を出していた。


 ところが、そのミザリーをボウナスコンビが引き受けてくれたことで戦況は大きく変わった。二人がミザリーを相手することで、他の人たちは魔法が通じる魔物だけを相手すれば良くなったからだ。

 講師チームはフローレスとクラリティが、生徒チームは主にレドリック王太子が率いて戦線を保っていた。見事に運営されたそれぞれの部隊およびボウナスコンビの活躍により、戦況は…徐々に学園側有利へと変化していた。


 それでも…ミザリーが存在している限り、彼らの勝利は無かった。なにせ相手は魔法が通じないのだ。今の彼らの戦力では、いずれジリ貧になることは目に見えていた。







「くそっ、せめて戦士か騎士がいてくれたらな…」


 舌打ちしながら、ボウイたちは3度目の撤退を開始しようとしていた。


「ナスリーン、引くぞ。また準備を整えて仕切り直しだ」

「はいよ!」


 嬉々として返事を返しながら、撤退するために暗黒スライムであるミザリーに牽制用の『魔法の矢マジックアロー』を数発放った。



 …ミザリーの動きが急激に変化したのはそのときだった。

 これまでアメーバのような形を保ち続けていたその身を、突如…触手を持ったイソギンチャクのような形に変化させると、うねうねと蠢く複数の触手をナスリーンに向かって一気に放射する。


「うそやっ!?」


 どうやらミザリーのほうもこれまでの戦闘で学習していたようだ。ボウイたちの作戦を理解した上で、これまで一度も見せてこなかった動きをいまこのタイミングで仕掛けてきたのだ。



 予想外の動きに、ナスリーンは完全に付いていくことができなかった。ミザリーの黒い触手を必死に回避したものの全てを躱すことができず、そのうちの一つが…ナスリーンの右足に巻き付いた。

 ジュウゥッ!という音とともに、肉の焼けるような臭いが一気に辺りに拡がった、


「あうっ!?」

「ナスリーンッ!!」


 ナスリーンの足を掴む触手を切断しようと、ボウイが直ぐさまナスリーンの元へと駆け戻った。勢いそのままに触手を一刀両断すると、素早くナスリーンを抱き上げた。


「大丈夫かっ!?」

「あっ。う、うん…おおきにな、ボウイ」



 だが、全てはミザリーの罠だった。


 ボウイが助けに入ったことで、二人は完全にミザリーの攻撃範囲に入ってしまったのだ。暗黒スライムはこれまで見せたことのなかった攻撃を満を持して仕掛けてきた。



 ミザリーの身体から、さらに無数の触手が飛び出してきた。溢れ出る水のように次々と産み出された触手は、空に向かって放射されると、ボウイたち二人の頭の上で絡み合うように交差し合う。

 まるで蜘蛛の巣のように網目状となった触手が二人を覆うように降りかかってきた。これまでのミザリーの攻撃とはスピードと範囲がまるで違う本気の攻撃を前に、追い込まれたボウイたちに出来ることは限られていた。



「くっ!?」


 ボウイは必死に剣を振るって網状の触手を切断しようと試みた。これまでの彼の鍛錬の賜物か、なんとか触手の網を切り裂くことに成功する。


 だが…それすらミザリーの攻撃の第一陣でしかなかった。

 切り裂かれた触手の網の向こう側に見えたのは…さらなる触手の網。なんとミザリーは、三重に網を放っていたのだ。

 たとえボウイが次の網も斬り裂けたとしても、さらに続く二重三重の網をも突破できるとは思えなかった。


 二人は完全にミザリーに追い詰められた。捕らわれ、溶かされる運命を決定付けられた攻撃を躱す術は…すでに二人には残されていなかった。



 ボウイは覚悟を決めると、ナスリーンを自分の胸に力いっぱい抱きしめた。せめて彼女の顔が溶かされないように…そんなささやかな想いからの行動だった。

 そんな彼の想いに応えるかのように、ナスリーンもギュッとボウイの身体を抱きしめた。




 折り重なるように抱き合った二人の身体を、ミザリーの”触手の網“が…ゆっくりと襲いかかっていった。











 ******










忍法ニンジャスキル、【一・刀・両・断スペツナズ・ブレイド】」

『がぅるるるるっ!』



 きぃいぃぃぃん。



 鋭い金属音とともに、プリムラの持つ小刀『夜桜一文字』と“白い霊獣“と化したエニグマの爪が交錯した。互いに傷を与えるには至らず、一度距離を取った上でもう一度ぶつかり合う。




 二人が交戦している間、少し離れたところではカノープスが両手に黒い色の剣を持ったまま魔力を集中させていた。己の技…【消滅空間デーレーディオーニス】をエニグマに見舞うために。


 カノープスの能力は【消滅空間デーレーディオーニス】という、巻き込まれたあらゆるものを消滅させる空間を作るものだ。その威力は強大で、ことごとくを消滅させる様はアキの【全てを喰らうものザンジヴァル】に匹敵する理不尽さを持っていた。


 しかし、強力に見える彼の能力にも欠点はあった。絶大な威力を誇るが故に単調になりがちだった彼の能力デーレーディオーニスは、膨大な魔力を込めた指先を当てることによって比較的容易に方向を変えることが出来たのだ。


 防御不能であるがゆえに回避可能な能力。


 戦闘の天才であるゾルバルによって編み出されたこの回避方法によって、カノープスはゾルバルやアキに遅れをとることとなる。




 だが、二度破れたカノープスは自身の能力の弱点をそのまま放置しなかった。弱点は弱点として受け入れた上で、密かに特訓を行うことでさらなる能力の向上を図っていたのだ。


 彼自身、今であればゾルバルやアキに決して遅れを取らないと確信していた。彼が密かに鍛え上げ、さらなる高みへと昇華させた新しい【消滅空間デーレーディオーニス】が、今ここで産声を上げる。






「切り刻め、ブラッディソード。…【消滅空間デーレーディオーニスざん】」


 静かな声とともに、カノープスは暗黒色の剣…ブラッディソードを振るった。黒曜石のように暗く輝く剣身から、無数の黒い刃がエニグマに向かって放たれる。


 消滅の効果を持った、防御不能の刃の嵐がエニグマの白い肉体に襲いかかった。



『ぬぅっ!?』


 エニグマが目の前に迫り来る刃の危険性を察知し、素早く背後に飛び退いた。目にも留まらぬスピードは、対峙していたプリムラにアキと同等くらいのスピードではないかと思わせるほど。

 しかし、カノープスの放った黒い刃は簡単に躱せるほど甘いものではなかった。カノープスが構えた剣先を軽く動かすと、その動きに合わせてエニグマを追尾していく。


 まさか自在に操れるとは思わず、エニグマは驚愕の表情を浮かべた。


『くそっ、しつこいな!【獣王の叫びスキャットハウル】!』


 魔力を込めたエニグマの雄叫びが、カノープスの放った刃の動きを狂わせる。同時に肩口に魔力を集中させて上手に黒い刃を弾くことで、なんとか大半の刃の向きをずらすことに成功していた。


 …だが、全ての刃を回避できたわけではなかった。刃のうちの幾つかを躱すことができず、エニグマの身体に届いていたのだ。


 肉体を消滅させる刃により、エニグマは血すら流さずに身体を刻まれていた。



『ぐるる…やりやがったなキサマァァ!!』

「…獣が吠えるな。息が臭い」



 危険な攻撃を放つカノープスを強敵と判断したエニグマは、ターゲットをプリムラから切り替えた。目を血走らせながら牙を剥いて襲いかかる。


 しかし、それは悪手だった。



「拙者から目をそらすとは良い度胸だな。自らの甘さを悔いるが良い!忍法ニンジャスキル分身の術ドッペルゲンガー】!」


 プリムラから視線を逸らしたエニグマの横っ腹に、五体に分身したプリムラが急襲した。渾身の攻撃が一斉に直撃し、エニグマの肉体に深い傷を負わす。


『がうっ!?』

「いまだ!カノープス!」


 苦悶の表情を浮かべバランスを崩したエニグマの姿に、対峙していたカノープスは口元をニヤリと歪めた。手に握っていた暗黒の剣ブラッディソードをゆっくりと天に掲げる。



「…消えろ、ニセモノ。【消滅空間デーレーディオーニスえん】!」



 カノープスが剣を上から横、そして下へ“円“を描くように回転させた。

 剣の軌道に沿うように彼の前に現れたのは、楕円形の黒い円盤。突如出現したあらゆるものを切り裂く円盤は、カノープスの指示に従って高速に回転しながら、エニグマへと一気に襲いかかった。


 目の前に迫り来る回避不能の攻撃に、エニグマな驚愕の表情を浮かべた。だが、体勢を崩したエニグマに回避する術はない。



 ガンッ!という鈍い音とともに、白い獣が真っ二つに切り裂かれた。

 空中で、血すら流すことなく…顔の真ん中から両断されたエニグマは、左右二つに分割されて地に落下していった。



 カノープスは勝利の笑みを浮かべながら、白い獣が地に落ちていく様を眺めていた。







 …本来であれば、今のカノープスの攻撃は致命傷となるはずだった。

 だがエニグマは…あらゆる意味で生物の常識を超越していた。



 最初に変化に気づいたのはプリムラだった。

 半分に分断されたエニグマの半身が、落下しながら…わずかずつではあるが膨張してることを見抜いた。


「カノープス、気をつけて!あいつ…変だ!」

「…ん?」



 プリムラの警戒の声が響く中、エニグマの真っ二つに両断された身体が地面に衝突した。

 強烈な閃光、そして激烈な爆裂音。

 なんと…地に落ちたエニグマの体が大爆発を起こしたのだ。



 さらに、ビュウン。という音ともに、今度は巻き上がる土煙の中から正体不明の黒い物体が飛び出してきた。

 強烈な爆発音と共に飛び散る岩の破片の中、慌てて距離をとって様子を見ようとするカノープスとプリムラに、その黒い物体は襲いかかった。



「っ!?」


 神速を誇るプリムラですら躱すことのできない猛烈なスピードで、黒い物体はプリムラの肩を貫いた。


 もしこの場にアキがいたらこう思ったことだろう。「これはもしかして…銃撃?」と。

 もちろんこの世界の人たちは銃を知らない。ゆえに一体何が襲いかかってきたのか、当のプリムラでさえ気づかないうちに肩を貫かれていた。


「あうっ!?」

「大丈夫かっ、プリムラ!?」

「油断するな!まだくるぞっ!」


 プリムラの言葉の通り、土煙の中からさらに黒い弾丸が飛び出してきた。

 その数、降り注ぐ雨のごとく無数。



「【消滅空間デーレーディオーニスきょう】!」


 カノープスが手に持つ剣を大きく振るった。黒い剣は動きに合わせて巨大化し、迫り来る鉛の弾を全て吸い込んでいく。

 併せて、弾丸の発信元となるエニグマの落下地点の土煙をも吹き飛ばした。それまで爆発の煙で隠されていた攻撃元の正体が、ようやく白日の下に晒される。


 そこに現れたのは…全身ハリネズミのような形をした…竜?いや、獣?



 激しい攻撃の最中にカノープスが放った能力が晒しだしたのは、全身を金属の針で覆われたかのような巨大なハリネズミの化け物だった。


 そのハリネズミが身体を震わせると、全身の針をカノープスのほうに向ける。ガガガガッという衝撃音とともに、針のように見えた部分から鉛の弾が発射された。なんと全身を覆う針のように見えるそれは、すべて砲身だったのだ。


 ようやく特定できた、攻撃元。その正体は…全身を砲身と化したハリネズミ。




 新たに変化したエニグマの姿に、カノープスとプリムラは完全に意識を奪われていた。


 …ゆえに気づけなかった。

 自分たちの真後ろに、なにかが回り込んでいたことを。






 ずずずんっ。


 真正面から激しく降りそそぐ鉛の雨を防いでいる間に、突如背後からカノープスに黒い弾丸が襲いかかった。

 その数、全部で10発。


 その全てが、カノープスの全身を貫通した。



「うがっ!?」

「カノープスッ!?」



 突然の背後からの攻撃に吹き飛ばれたカノープスは、勢いそのままに地面に叩きつけられた。全身を貫いた傷跡から血が吹き出る。


 慌てて駆け寄ったプリムラがカノープスの傷を確認したところ、全部で10箇所あった。

 貫通した弾痕が、右腕に2発、左腕に1発、右足3発、左足1発、胴体が…3発。

 辛うじて致命傷は避けているものの、気軽に動けるほど生易しい傷ではなかった。



『…くくく、まさか俺にこの戦術を使わせるとはな。大したやつらだ』

「なっ…エニグマ!?なぜ背後にっ!?目の前のハリネズミじゃなかったのか?」


 プリムラが叫んだ通り、背後に回り込んで攻撃を仕掛けてきたのは、白いたてがみ…いや白い髪の毛を持つ少年と化したエニグマであった。両手を前に突き出したままの格好で、プリムラたちのほうを勝ち誇った表情を浮かべて見下ろしていた。


 カノープスにはエニグマのいまの姿に見覚えがあった。その姿は、彼がこの世界で最高の戦士だと思う人物…ゾルディアークが人型に変化したときの姿によく似た姿だったからだ。



『くくく、どうだ?鉛の弾が貫通した気分は。

 …こいつはな、かつて世界を震撼させた七魔将軍の一人【魔獣王モンスターキング】ガーガイガーの技さ。その名も…【獣王弾丸ゴルディオンバレット】。

 どうだ?苦しいだろう?』


 エニグマは笑いながら突き出していた両手を元に戻した。どうやら指先からも目の前のハリネズミが飛ばしてきたのと同じ弾丸…【獣王弾丸ゴルディオンバレット】を飛ばしていたようだ。



 ハリネズミ状の物体と白い少年姿のエニグマを見比べていたプリムラが、エニグマの言葉に一つの解を導き出した。


「エニグマ、お前まさか…“分離“したのか?」

『…そう、俺は身体を分離させることができるのさ。ちなみにそこにあるのは【獣王の発射台ゴルディオンカタパルト】。この姿はかつてのガーガイガーそのものだ。なかなか禍々しいだろう?

 そして俺たちは一心同体、連携しながら攻撃を仕掛けることができる』


 プリムラの認識通り、エニグマは身体の一部を「攻撃専用の部品」としてを分裂させることができたのだった。いま目の前にあるハリネズミ状の砲台は、かつて【魔獣王モンスターキング】ガーガイガーと呼ばれていたものの姿に酷似していた。



「お前…ゾルディアーク様だけじゃなく、ガーガイガーの身体まで組み込まれていたのか?」

『…くくく、そうだ。知らなかっただろう?…まぁ知ったところでどうにかなるわけじゃないだろうけどな。あーはっはっは!』


 プリムラの問いかけに、エニグマは高笑いしながらそう答えたのだった。







「…ゲホッ。弱いやつほど…よく吠えるってやつか?」

『…なんだと?』



 小馬鹿にしたようなカノープスの言葉に、エニグマが目の色を変えた。


 ぐふっ。

 プリムラを押しのけるようにして、血を吐きながらカノープスが立ち上がった。



『くくっ…死にかけのやつが何をほざく?』

「カノープス、無理するな!その傷は…まずいぞ」

「ふっ、プリムラ。大丈夫。この程度の傷なんて痛くも痒くもないよ。それにね…」


 カノープスは両目に暗い光を宿らせながら、次の言葉を続けた。


「それに…ぼくは、死ぬことは怖くなんかない。むしろ…望むところなんだよ」



 全身から血を流しながら、カノープスが壮絶な笑顔を浮かべて微笑んだ。



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