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9.来客たち





 そんな感じで月日は過ぎていき…気がつくと、この世界に来て3か月ほどが経過していた。

 本当に毎日が忙しく、色々なこともあったので、あっという間だった気がする。


 …ちなみに、俺にとってこの3ヶ月で最大のビッグイベントは、『俺が風呂に入っているときに、間違ってフランシーヌが入って来ちゃった事件』だ。

 思わずフランシーヌのナイスバディを凝視してしまった俺に対して、特に身体を隠そうともしない彼女。「あーら、アキが入ってたのね。ごめんなさいね」と言いながら、目の前で、フランシーヌのたわわな胸が露わになる場面が、俺の脳裏に焼き付いて今も離れない。

 いやー、素晴らしいものを拝むことが出来ましたよ。眼福、眼福!

 しかも、「せっかくだし、一緒に入っちゃおうか!」と笑いながら、一緒の湯船に入ってきたのだ。オマケに、背中まで流してもらったのは、本当に最高の思い出だった。

 …ぐへへ。






 この3ヶ月で、俺の知識と体力はどんどん増えていった。

 まずは体力。

 鬼軍曹のスパルタのおかげで、だいぶん体力がついた。感覚的には、前の身体を凌駕してるかもしれない。さすが成長期の14歳だ。


 格闘技のほうは…残念ながらサッパリだった。未だにゾルバルの影を踏むことすら叶わない。

 彼からは「センスがない」とキッパリと言われていた。だったらほっといてくれよって思うのだが、「何もやらんよりはマシだろう」と言ってトレーニングは続けられていた。

 …もっとも『おとうさま』という“魔法の言葉“を覚えてからは、たまーにやり返しているのだがね。


 魔力については、正直よくわからない。

 ゾルバル曰く「おまえには魔力はあるが、魔法を使うセンスが無い」とのこと。こっちもセンスなしかよ。

 でもまぁ実際、彼の言うとおりだった。魔力を用いて魔法を使うこと…すなわち、『魔力をエネルギー源とした現象を起こすこと』が、本当に苦手だったのだ。ほとんどできないと言っていい。

 魔力操作は覚えたんだけどなぁ…なんでだろうか。


 そのかわり、例の【レーザービーム】…正式名称【流星(シューティングスター)】という"天使の歌"については、いろいろと改良を施した。なにせ、魔法も戦闘力もろくに無いんだ。だからこそ、“切り札“は必要だ。


 その結果、【流星(シューティングスター)】はかなり使いやすく進化した。今の俺は、この“固有魔法“を…用途に応じて3タイプに使い分けることができる。


 まず一つめ。

 自分の魔力を100として、そのうち20くらいを使って放つ″ピストル″型ビーム。これを【星銃デネブ】と名付けた。

 デネブなら、今の俺で5〜6発は放つことができる。

 指をピストルみたいに構えて撃つ技だ。かっこいいだろう?

 とはいえ、これだけでも大概のものは貫通する威力がある。今のところ無理だったのは、真の姿を現したときのフランシーヌの鱗くらいだ。

 汎用性の高さから、星銃こいつが俺のメインウェポンとなる。


 次が、5〜10くらいの魔力を込めた弾を、まとめて同時に何発かを放つ【散弾星アルタイル】。

 威力はデネブに劣るけど、素早い敵などを足止めするための技だ。

 ちなみにこれは手をパーにして撃つ。指1本1本から放たれるから、『最大同時5発、かつ2回まで使用』が今の限界だ。

 ショットガンみたいでいかしてるだろう?


 そして最後が…【星砲ベガ】だ。

 こいつは…ほぼ全部の魔力をつぎ込んで放つ、俺の最終兵器になる。

 撃つときには、手はグーにして左手で手首をつかんで放つ。いけてるだろう?


 これらの技のネーミングセンスについては、異論反論は受け付けていない。つけた俺も後悔していない。

『なんでここで夏の大三角形が出てくるんだー?』とか言わないでね、泣いちゃうから。だってさ、好きなんだよ…星の名前とかが。


 ちなみに【星砲ベガ】を使うことで、なんとかフランシーヌの鱗を少しだけ溶かすことに成功した。

 …どんだけ固いんだよ、フランシーヌの鱗。


 もっとも、ゾルバルに至っては、指先パチンで弾かれてしまった。

 規格外の威力を持った技だと思ってたんだけど、ゾルバルたちににかかるとその程度のもののようだ。

 …ガッカリだよ。


「…まぁでも、筋は悪くないな。雑魚相手ならこの程度の能力でもなんとかなるだろう」


 これは…褒められた?それとも、慰められた?

 正直、この世界の強さの基準が分からないから、どう判断して良いか分からない。

 でも、めったに褒めないゾルバルが褒めてくれたのだから、良しとしよう!




 ずっと一緒に居れば薄々と感じられるのだが…ゾルバルとフランシーヌは、なにかの目的のためにこの場所に住んでいるようだった。時折、どちらかが外出することもあったし。

 その目的がなにかは、分からない。

 ただ…俺には内緒にされていることだけは分かった。


 一度、夜遅くに二人がヒソヒソと会話をしていることがあった。

 いかにも怪しかったので、なにを話しているのか聞いてみようとしたのだけれど…耳をそばだてたときから、会話がまったく聞こえなくなった。

 どうやらフランシーヌが【消音】の魔法をかけたようだった。

 …うーん、やっぱり何かを隠してるな。

 この人たちを、どこまで信用して良いのか…


 でも、ゾルバルとフランシーヌは、俺に対してものすごく親切にしてくれた。

 もちろん、ゾルバルのスパルタはきついし厳しい。だけど、それが俺のためだってことは十分わかっていた。

 ふつう、見ず知らずの…あかの他人に対して、ここまで親切にはしてくれないだろう。

 どうして俺のようなやつにここまで優しいのか、その理由は分からない。一度フランシーヌに聞いてみたのだが、「子供は黙って甘えてれば良いのよ」と誤魔化されてしまった。


 そんなわけで、謎の多い二人ではあったけれども…俺は彼らにものすごく感謝していた。何も知らずにこの世界に放り出されたら、たぶん酷い目に遭っていただろうから。

 それ以前に…彼らは俺のことを自分の息子、いや娘のように育ててくれた。

 本当に優しくて…その優しさが、身に沁みた。


 もしかしたら俺は、前の世界でも手に入れることができなかった『親の愛情』のようなものを、この地で…生まれて初めて受け取ったのかもしれない。

 ドラゴンの女性と、“魔族“といわれる種族の隻腕隻眼の戦士によって…







 そんな感じの日々を過ごしてきたわけだけど、これまでの期間…ずっとゾルバルとフランシーヌとだけ話していたわけではなかった。

 こんな森の奥にある小屋なのに、意外にも来客はあったのだ。

 …恐らくは、ゾルバルたちが話してくれない彼らの仕事・・に関係した人なのだろう。実際ときどきゾルバルとフランシーヌは外出することもあったから。

 この人たちがとても特徴的な人たちだったので、個別に紹介していこうと思う。



 一人目は…『ロスじいさん』と呼ばれている、長い髭を蓄えたおじいさんだ。正真正銘、人間らしい。一応人間かどうか確認したら、怪訝な顔をされちゃったよ…。だってしょうがないじゃん、俺の周りには"非人間"しかいないわけだし。


 このロスじいさんだが、フランシーヌの話によると、どうやら高名な魔法使いなのだそうだ。確かに見た目は『これぞ魔法使い!』って感じだし。

 ただ、大変残念なことに…このじいさん、まれにみる“俗物“だった。

 どのあたりが俗物なのかというと…この歳にして『巨乳好き』なのだ。

 なんでも、特にフランシーヌがお気に入りらしく、たまにちょっかいかけては龍化したフランシーヌに怒られてた。

 …おいおい、良い歳してどうなっちゃってんのよ?


「なぁアキよ。やっぱり女性は胸じゃろう。そう思わんか?」

「は、はぁ…」


 すでに俺の中身が"男"であることを知っているロスじいさんが、嬉しそうに『いかに巨乳が素晴らしいか』を語りかけてきた。

 まぁたしかに俺も胸は好きだ。巨乳談議もやぶさかではない。…というか、どちらかというと大好物だ。

 だけどさ、今の俺は見た目は"14歳の女の子"なんだぜ?そんな俺に対して、巨乳について熱く語るのは、さすがにいかがなものかと思うんだけどなぁ…


「おぬしも胸がでかくなると良いのぅ。まぁ、わしとしては30代くらいの熟成した女性の胸が好みなんじゃがな」

「…そ、そうですか……」


 あぁ、もうこのじいさんにかかわるのやめようかな。


 そんな俗物ジジイであるロスじいさんなんだけど、本当に魔法の腕は確かなようで、ある日俺に…なぜゾルバルに【デネブ】が弾かれるのかを教えてくれた。


「それはな、おまえの魔力がゾルの魔力より低いから、対魔力障壁を破れないだけじゃよ」


 ふーむ、【対魔法障壁】?これは初めて聞く話だ。

 ロスじいさん曰く、魔法が相手に効くかどうかは、基本的に″魔力″と″魔力″の力比べとなるのだそうだ。たとえば…10の魔力と30の魔力がぶつかれば、差し引き20の魔力分の効果が発現する。極めてシンプルな引き算だ。

 これに対して“魔法“とは、この魔力を増幅させるものなのだそうだ。掛け算と言っていい。

 ロスじいさんの見立てによると、俺の【星銃デネブ】は、だいたい元の魔力に100倍くらい上乗せされるのだと教えてくれた。

 逆に言うと、俺の…100倍増幅された魔力を、ゾルバルは指先一つで弾いたことになる。

 …ったく、あのオッサン、どんだけの魔力を持ってるんだか。




 次は、『デイズばあさん』と呼ばれている、これまた絵に描いたような魔女風のいでたちのおばあさん。

 彼女は1回しか訪問しなかったが、とても印象に残っていた。

 なぜなら彼女は…ものすごい毒舌の人だった。


「おやまぁ、ゾルやフランまで無駄な食い扶持を養ってるのかい。まったく、くだらないことするねぇ」


 俺の話を聞くなり、第一声がこれだ。

 さすがの俺もびっくりするぐらいの猛毒。

 ただ、よくよく話を聞くとデイズばあさんも身寄りのない子供を一人育てているらしい。

 見た目によらず、案外優しい人のようだ。ただ、この毒舌でその子の性格がゆがんでなければよいのだけどなぁ…


 意外だったのは、このデイズばあさん、なんとロスじいさんの別れた奥さんなのだそうだ。

 あんなエロジジイと結婚してたなんて、さぞかし大変だったことだろう。そりゃ毒舌にもなるだろうさ。



 そして…最後が、『デインさん』と『クリスさん』という壮年の夫婦だ。

 30代後半くらいに見える、いかにも戦士風の人が夫のデインさん。口ヒゲにオールバックの髪型、これがまたすげぇカッコイイ。

 30代前半…それこそフランシーヌと同年代くらいに見える、上品なたたずまいの女性が妻のクリスさん。ぶっちゃけ胸がでかい。…フランシーヌより上かも。

 ただ、彼女の真骨頂はそこでは無かった。全身から漂う優しい人オーラ。顔は物凄い美人ってわけじゃないのに、逆にそれがなんというか…癒し系の頂点にいるような感じの人だった。

 ちなみに、『ゾルバルの住処』への訪問回数は、彼ら二人が一番多い。

 その関係で、一番仲良くなったのもこの二人だった。

 それもそのはず、この人たちには子供が二人もいるそうだ。うち一人は既に成人して独立しているとのこと…見た目がすごい若いから、ビックリしたよ。


「あらあら、アキちゃんは14歳なの?それじゃあうちの娘と同じ年ね?」

「あ、でも…中身は19歳でして…」

「あらあら、そしたらアキちゃんはうちの息子のレイと近いわねぇ。あの子は21歳だったかしら?ねぇあなた?」


 クリスさんは、こんな感じの…のほほんとした雰囲気の人だった。なんというか、ふわふわしているというか…人の話をちゃんと聞かないというか…

 ただ、そのほんわかさは『ザ・癒し系』という感じで、話しているだけで優しい気持ちになることができた。


 対してデインさんは…


「ほう…君がゾルの新しい弟子か?いっちょ手合せでもしてみるかい?」

「ちょ、勘弁してください…」

「そうか、つまらんな。仕方ない、久しぶりにゾルとでもガチンコでやりあってみるか」


 なとど平気でおっしゃられる脳筋さんで、ちょっと相手するのが疲れてしまうタイプだ。

 でも、あのゾルバルとまともに戦えるというのだから、おそらくは相当の腕なのだろう。


 性格が独特な人たちとはいえ、基本的にはとても優しくて良い人たちなので、すぐに仲良くなった。




 そんなある日のこと。

 クリスさんが突拍子もないことを言い始めた。


「ねぇゾル、それにフラン。今度娘をここに連れてこようと思うんだけど、どうかしら?ほら、うちらちょっと家を空けなきゃいけなくなるでしょ?年頃の娘を一人にしておくのは不安でね」

「あらクリス、それは良いアイディアね!アキの良いお友達になってくれないかしらね?」


 すぐに食いついたフランシーヌに、デインさんも頷きながら同調してきた。


「おお、そいつは良い案な!なぁゾル、ついでにうちの娘も一緒に鍛えてくれよ。どうにもあの子は兄貴の方を意識しすぎててな、最近伸び悩んでるみたいなんだよ」

「ふむ、まぁアキの相手ばかりで飽きてきてたからな。別に構わんぞ」


 なーんていう会話が繰り広げられ、トントン拍子に話が進んでいき…あっという間にデインさんとクリスさんの娘が、三日後から一週間ほどここに泊まりにくることに決まってしまった。


「フランシーヌ、よかったらあなたもうちの娘にもいろいろ教えてあげてね?」

「まかせといて、クリス。アキ、よかったわね。いっしょに勉強するお友達が出来るわよ。あなた友達居ないから嬉しいでしょ?」

「まぁアキちゃん、あなた友達居ないの?可哀想にねぇ…。でも大丈夫よ、うちの娘はある意味開けっぴろげだから、すぐに仲良くなれると思うわよぉ」


 …おいおい、何勝手に人のことロンリー呼ばわりしてくれてんだよ。

 俺だって友達の一人くらい…まぁ居ないけどさ。

 ってかそれ以前に俺、一応中身は『19歳の男』なんですけど…良いのかねぇ?

 まぁでも、この世界で同年代の人をまだ見たことがないから、それはそれでちょっと興味あるかな?


 それにしても、デインさんとクリスさんの娘さんかぁ…

 一体どんな感じの子なんだろうな?

 クリスさんは“開けっぴろげ“って言ってるけど…


 ところで、娘さんの名前は何ていうんだろうか。

 クリスさんに尋ねてみると、「あらあらあら、まあまあまあ!うちの子に興味持ってくれたのね?嬉しいわぁ!」と満面の笑みを浮かべながら教えてくれた。


「うちの子の名前はね…“スターリィ“っていうのよ」


 ふーん、スターリィっていうのか。

 ちょびっとだけ、会うのが楽しみだな。

 仲良くできたら良いな。


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