77.一つの決着の形
【大通信網】の設置されている部屋のとなりにある会議室で、管理要員たちからの報告を聞いたロジスティコス学園長は、うーんとうなり声をあげながらヒゲを何度も手でしごいていた。
「ベルトランド、ハインツ、ブリガディアに同時に異変発生、か…」
「ロジスティコス学園長、我々は如何致しましょうか」
そばに控えて一緒に報告を聞いていた講師フローレスの問いかけに、ロジスティコス学園長は少しだけ思案する。目を閉じて何事かを考えたあと、意を決したかのように指示を出した。
「まあ…事態が起こっているのは遠方ではあるものの、警戒していてしすぎることはないじゃろう。せっかくの創立記念祭の日に申し訳ないんじゃが、講師の中で”天使”級のものは全員警戒態勢に付くようにしてもらえるか?」
「はい、わかりました」
「あと…わざわざ祭りを中断させる必要はないが、学園への入場者については特に警戒を強めて欲しい。ワシはとりあえず学園の”障壁レベル”を【警報機】から【防御壁】まで高めておく」
ロジスティコスの言葉に頷くと、フローレス講師は足早にその場をあとにした。
一人残されたロジスティコス学園長は、もう一度各国から送られてきたメッセージに目を通した。
第一報のあとも引き続きメッセージは届いており、最新の各国の状況は以下のようになっていた。
《ベルトランド王国》
現在は近隣にいた”七大守護天使”パラデインとクリステラが応援に駆けつけてくれたおかげで、壊滅的被害は免れている状況。
《ハインツ公国》
ヴァーミリアン公妃不在により一時悲観論も出たものの、近くにいた冒険者チーム【明日への道程】一行により、敵の第一波を跳ね返した状況。
《ブリガディア王国》
最初こそ悪魔軍団に遅れをとっていたものの、騎士団が善戦をしているところにジェラード王が到着。七大守護天使としての力を発揮し、一度は悪魔軍団を撃破。現在は悪魔軍団は拡散して地下に潜り、ゲリラ戦を展開中。騎士団が各個撃破にて対応中。
どうやら戦況は、最初にメッセージがきた時点と比較して大分落ち着いているようだった。一見すると、偶然パラデインやレイダーたちが近くにいたことで危機的状況を免れているように見える。
しかし…そのことにロジスティコス学園長は違和感を抱いていた。
これは果たして、本当に偶然なのだろうか。偶然強力な戦力が近くにいる場所で敵は蜂起したのだろうか。
もし自分が敵だったら…絶対にパラデインやレイダーたちが近くにいる場所で蜂起などしない。あえて避けて蜂起するならともかく、わざわざ近くで蜂起するなど自殺行為としか思えなかった。
しかし、これを偶然だと言うには条件が整い過ぎていた。
ゆえに、ロジスティコス学園長は違和感を抱いていた。
これは…わざと実力者たちのそばで蜂起したのではないか、と。
では何のためにそのようなことをしたのか。
「まさか…これらの蜂起は『陽動作戦』ではないじゃろうな?」
ロジスティコス学園長は、誰もいない部屋の中で無意識のうちに一人で声に出してそう呟いていた。
もしこれらの一斉蜂起が『陽動作戦』なのだとしたら…本命は他にあるはずである。
それでは本命とは…?
「やはり、学園の警戒度は高めておいたほうがよさそうじゃのう」
ロジスティコスはそう呟くと、会議室から出て行ったのだった。
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アキがレドリックと対峙したときより、少しだけ時は遡る。
場所は…リクシールの街の中心部にある、とある倉庫の二階。短期的に借り受けられたその場所に、今回の『”創立記念祭”実行委員会』の拠点があった。この実行委員会が中心となって様々な進行管理などの業務がなされるおかげで、これだけの規模の創立記念祭が滞りなく進んでいた。
もっとも、実行委員会と言いながらも実体はユニヴァース魔法学園の生徒会メンバー、及び彼らが集めた臨時の助っ人で構成されているのであったが。
ユニヴァース魔法学園の生徒会は、アークトゥルス生徒会長以下6名で運営されていた。通常の業務内容であればその人数でも十分回せるものであったが、創立記念祭だけは別だった。さすがに人手が足りなくなる。
そこで”実行委員会”なるものを作り、将来有望な下級生を巻き込むことで、なんとか毎年うまく運営していたのだった。
すなわち創立記念祭とは、生徒会にとって次期会長候補たちをスカウトする場となっていた。
今年も生徒会長であるアークトゥルスや、副会長ルードリットらの尽力により、レドリック王太子、ブライアント、スターリィといった将来の生徒会を背負って立ってくれるであろうメンバーを集めることに成功していた。
「…だいたいこれで最後までの段取りは出来たわね。みんな、お疲れ様。新入生たちはここまでで良いわよ?」
一通り調整が片付いたところで、副会長のルードリットが一回生全員に声をかけた。それまで激務に振り回されていた一回生の生徒たちが安堵のため息を漏らす。
その中の一人、レドリック王太子が窓の外を見ながら呆然としていることに、スターリィは気付いた。
「レドリック王太子、どうしたんですの?」
「…あっ、スターリィ!いや、今窓の外に見覚えのある人の姿が見えたから…」
「そうなんですの。どちら様で?」
「えっ?あ、いや。大した知り合いではないですよ。そんなことより、これで私たちの仕事は終わりですよね?であれば、私はちょっと急用ができたので、これにて失礼します」
そういうが早いか、レドリック王太子は足早に実行委員会の部屋から立ち去っていった。
「おい、レッド!待ってくれよ!」
レドリックに置いていかれて取り残される形となってしまったブライアントや、レドリック王太子目当てで手伝いに入った女の子たちが、突然の彼の退場に混乱して悲鳴に近い声を上げていた。
そんな彼らの姿を横目に、スターリィもこの場所から出る支度を始めていた。
結局彼らも諦めてしまったのか、他の一回生たちと同様に互いに挨拶を交わすと、一人また一人と足早に実行委員会本部をあとにしていく。レドリック王太子の退出を契機に、一回生たちは解散の流れになっていった。
「アキとの待ち合わせまではもう少し時間がありますわね…」
このあとスターリィは、アキと待ち合わせのうえイベントを見て回る予定となっていた。彼女にとって何よりも楽しみな時間であり、自然とお化粧にも気合が入る。
着替えも終わり準備も整って、いよいよ出発しようという段になって、最後にアークトゥルス生徒会長に挨拶するために、スターリィは彼に声をかけた。
「アークトゥルス生徒会長、お疲れ様でした。あたしはこれにて失礼させて…」
「あ、スターリィ。すまないんだが少しだけ時間を貰えないか?君と…少し話したいことがあるんだ」
しまった。彼に告白されて回答を保留していたことを完全に忘れてた。
スターリィはアキと良い感じになったことに心浮かれ、肝心なことを失念していた自分に、思わず心の中で舌打ちをしたのだった。
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生徒会長であるアークトゥルスは、小さい頃から神童と持て囃されていた。
彼の家系は魔獣の出現の多いベルトランド王国に代々続く【魔獣使い】の家系で、天使に目覚めていない彼でも小さい頃から心通わす魔獣たちを操ってきた。今では彼が操る魔獣は三体に及ぶ。その中でも生後間もないときから仲魔にしている【剣牙狼】は、高レベルでありながら従順であることから、特に彼の自慢だった。
魔法学園に入ってからも、ルードリットと共に『魔法使い上級コース』に所属し、さらには今年から生徒会長に就任した。まさに順風満帆な人生と言えた。
自身が生徒会長となった今年の創立記念祭も、ここまでは順調であった。その成果に満足しつつも、ただ一点においてアークトゥルス生徒会長はまったく満足していなかった。
それは、彼が一番重要視していた…今年の一年生の中でも目立つ存在であるスターリィ=スターシーカーのスカウトに失敗していた点だ。
実行委員会の部屋の中で他の人に指示を出しながら、アークトゥルスは落ち着かない気持ちでいた。それもそのはず、先日スターリィに告白したものの、未だに色よい返事が貰えていなかったからだ。
スカウト失敗だけならまだ良い。だけど彼女に振られてしまうのは…これまで大きな挫折もなくこの地位まで上り詰めた彼にとって、耐え難い状況であった。
そんなとき、スターリィが足早に帰ろうとしている姿が目に入った。
「アークトゥルス生徒会長、お疲れ様でした。あたしはこれにて失礼させて…」
「あ、スターリィ。すまないんだが少しだけ時間を貰えないか?君と…少し話したいことがあるんだ」
アークトゥルスは、慌ててスターリィに声をかけたのだった。
二人は、実行委員会本部のある建物の会議室に場所を移した。この部屋には、アークトゥルスが調教している自慢の【剣牙狼】が床に丸まって眠っていた。
アークトゥルスは【剣牙狼】を優しく一撫ですると、手に持ったコーヒーをスターリィに手渡した。スターリィは礼を言って受け取ったものの、コーヒーに口をつけることはなかった。
「すまないねスターリィ、引き止めたりして。もしかして待ち合わせでもあった?」
「…いいえ、待ち合わせにはもう少し時間があるので大丈夫ですわ」
待ち合わせ…その言葉がアークトゥルスの心を抉る。もしや別に男が…?いやいやそんなはずはない。彼女の周りにいる男どもは、なんだかんだで別の女性とくっついているように見える。スターリィの周りにいるのは、あのメガネをかけたチンチクリンの小娘だけだったのだが…
「その…この前の返事の件なんだけど…」
「その件ですわね。アークトゥルス先輩、大変申し訳ありませんが…お断りさせていただきます」
その言葉は…ある程度予期していたとはいえ、アークトゥルスの心に軽くヒビを入れた。
「そ、そうか…一応理由を聞いても良いかな?」
気力を振り絞って確認したその質問は、結果的にアークトゥルスをさらに苦しめることになった。
「あの…あたしには好きな人がいるんです。ですので、申し訳ありませんが、アーク先輩のお気持ちに応えることはできません。このあとも、その人との約束がありますので…」
「バカなっ!?君にはほとんど男っ気はなかったのに…まさかあのハインツの王子か!?」
「あはは、違います。その人は…いつも自分一人で背負いこんで、そのくせ抱えきれなくて壊れそうになって…それでもまた立ち上がって、気がついたらあたしたちを引っ張ってくれる、そんな人です」
スターリィは、アークトゥルスがこれまで見たこともないような魅力的な笑顔を浮かべながらそう言うと、最後に一礼して部屋を出て行ったのだった。
残されたアークトゥルスは、怒りなのか屈辱なのか、はたまた違う言葉に出来ない何かに襲われて、一人部屋で崩れ落ちて震えていた。そんな彼に…【剣牙狼】が心配そうに鼻を擦り寄せた。
「うぅぅう…」
【剣牙狼】の優しさに思わず呻き声のような声を出すと、アークトゥルスは【剣牙狼】をギュッと抱きしめたのだった。
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リクシールの街の住人たちは、年に一度の"創立記念祭"に浮かれているようだった。目の前を行きかう人々は、次のメインイベントである『特設ステージ』に興味が移っているようだ。
特にカレン姫の返送する【アフロディアーナ】の登場については注目の的のようだった。俺はまったく知らなかったんだけど、どうやら若者たちにはけっこう人気があうようだった。やるじゃん、カレン姫。
でも今の俺には、そんなことにかまけている余裕がなかった。なにせ俺の横にはレッド…レドリック王太子が居たのだから。
「どうして…レッドがここに?実行委員会のお手伝いなんじゃなかったの?」
「ちょうどさっき終わったんだけど、ふと会議室から外を見たらアキが一人でプラプラしているのが目に入ってね。思わず追いかけて声をかけたんだよ」
目をキラキラさせながらそう語るレッドは、なんだか無邪気な笑顔を浮かべていて…思わず気圧された俺は完全に出鼻を挫かれた格好となった。
「アキ、何を食べてたの?」
「へ?これ?これは…焼きとうもろこしだよ」
「へーそうなんだ。私は食べたことがないかも。どんな味がするんだい?」
これは…もしかして食べさせてほしいという意味だろうか。
背筋にぞわっとしたものが走ったので、俺は速攻でとうもろこしを喰ってやった。ぐふふ、これではどうしようもあるまい!
「そ、そんなにお腹が空いてたのかい?別に私は食べたりしないよ」
そういう意味じゃない。俺はおまえさんなんかと間接キスになっちまうのを恐れてたんだよ。
なんとなく俺が警戒しているのを察してか、レッドがふぅとため息をついた。
「ねぇアキ、私は君と話をしたいと思ってるんだけど、もしかしてそれは…迷惑なことなのだろうか?」
…くそっ、エリスに似た表情でそんなこと言ってくるなんてズルいだろう?
結局俺はレッドのことをこれ以上無下にすることも出来ずに、少しの間だけという条件付きでレッドとお祭り見物をすることになったんだ。
夕焼けに染まり始めたリクシールの街は、それまでと違った顔を見せてきた。その中で俺とレッドは並んでベンチに腰掛けると、レッドが買ってきた綿菓子みたいなお菓子を齧っていた。
「こんなの生まれて初めて食べたよ。不思議な甘さがあるね?」
これまで温室育ちだった王太子殿下は、このようなジャンクフードはこれまで食べたことがなかったようだ。不思議そうな顔をしながら、綿菓子に噛り付いている。
「そうなんだ?けっこうどこのお祭りでも売ってるもじゃないの?」
「あぁ、アキ。私はこれまでこういったお祭りに参加させてもらったことは無いんだよ」
王太子だもんな、そりゃそうだよな。そう考えると、王太子ってのも楽じゃないんだよなぁ。
「お祭りっていうのは、こんなにも明るく楽しいものなんだね。初めて知ったよ」
「…レッドの国には、こんなお祭りはないのかい?」
「…ブリガディア王国にも魔法学園に匹敵するくらいの大きな『騎士学校』というのがあってね、そこの生徒たちが毎年この時期に修行のための遠征に出るんだ。今ごろはたぶんこの近くに居るんじゃないかな?それで、彼らが一ヶ月にも及ぶ遠征から帰ってきたときに、盛大なお祭りをするんだ。【帰還祭】って名前がついてる。…創立記念祭に負けないくらい、盛大なお祭りだよ。アキにも…見せてあげたいな」
レッドの訴えかけるような言葉にも、俺は頷くことはなかった。それでもレッドはめげること無く話題を変えてくる。
「アキがその…被ってるものは何なんだい?」
「これ?これはネコのお面だよ。お祭りにお面って言ったら定番でしょ?」
「すまないアキ、私は…」
「あぁ、そっか。参加したことが無かったんだったな」
仕方ないな。
俺は自分の頭に着けていたお面を取り外すと、レッドの頭に着けてやった。
「…こ、これは?」
「私からのプレゼントだよ、今日の記念に」
「…ありがとう、すごく嬉しい」
夕日に染まるレッドの表情は、夕日のせいなのかはたまた違う理由かは分からないけど、少し赤く染まって見えた。
…これが相手が女の子だったら別なんだけど、目の前にいるのが男だからイマイチ盛り上がらない。だけどまぁ、こいつにとって良い思い出になったなら良かったと思う。
「さて、それじゃあレッド。悪いんだけど私は待ち合わせしてるから、そろそろ行くよ」
「あ、待ってくれアキ。君にお願いがあるんだけど…」
そう言うが早いか、レッドはすっと立ち上がって俺の前にやってくると、じっと俺の目を見つめてくる。
「…今夜のダンスパーティ、私と踊ってもらえないだろうか?」
あぁ、やっぱりその話だったか。
薄々感じていたこととはいえ、さすがに一国の王太子であるレッドが、俺みたいな素性もしれない平民なんかにそんなことを言ってくることはないだろうと高を括ってた。だけど今回はそれが裏目に出た格好だった。
レッドには悪いことをしたな…それが正直な最初の印象だった。
多分彼は、ものすごく色々な意味で純粋なんだと思う。真っ直ぐで誠実で…同性である俺から見ても、悪印象を持ちようが無いくらい良い奴だ。
だからこそ、彼に誘いの言葉を言わせてしまったことを申し訳なく思った。だって、答えは明確なのだから。
「レッド。ありがとう。だけど…その気持ちには応じることはできない」
「…どうしてか、教えてもらえるかな?」
たぶん彼は、断られるのが分かっていたんだろう。さほど動じた様子もなく、俺に理由を聞いてきた。
なるほど、レッドは…理由が聞きたかったんだな。そのことに気付かされて、俺も腹をくくることにした。
「レッド、私は…心が『男』なんだ。だから、レッドのことをそういう対象として見れない」
俺の言葉に、レッドは目をパチクリさせた。そりゃそっか、こんなことを急に言われたらビックリするよな。だけど俺は、誠実なこいつにウソは吐きたくなかった。
「心が…男?それはどういう?」
「文字通りの意味さ。私は男性に対して友情は感じることはできても、愛情を抱くことはできない。これまでレッドに言わなくてすまなかった。私にも…色々な事情があったんだ」
俺の言葉に、レッドはすぐに首を横に振った。
「いや、それは構わないよ。誰にだって言えないこともあるし…だけどアキ、そんな大事なことを私に教えてくれてありがとう」
「ううん。こっちこそ本当に悪かった。それじゃあ私はそろそろ行くよ」
「あ、アキ。最後にもう一つ教えて欲しい」
レッドの最後の言葉に、俺は足を止めた。
「アキ、君が愛してるのは…スターリィかい?」
その言葉に、俺は軽く振り返って笑顔だけを返したんだ。
レッドは、俺の表情を見て何かを察したのだろうか…それ以上追求してくることはなかった。ただ、なんだか眩しそうに俺の顔を見つめていた。
そのまま、俺はその場をゆっくりと後にした。もうそれ以上レッドが俺を呼び止めることはなかった。
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俺はスターリィと待ち合わせしていた場所に向かっていた。待ち合わせ場所は、リクシールの街の中心部近くにある、初代学園長の銅像の前だ。
じいさんの銅像を作るなんて趣味が悪いよな。そんなことを思いながら目的の待ち合わせ場所に着くと、そこにはすでに私服に着替えたスターリィが到着していて、一人でポツンと立っていた。
「おまたせスターリィ、待った?」
「あ、アキ。ううん、あたしも今着いたところですわ。…それにしてもアキの今日の格好、可愛いらしいですわね?」
カレン姫チョイスの水色ワンピをお褒め頂き光栄です。でも俺からすると、スターリィの私服のほうがよっぽど可愛く見えた。
今日のスターリィは、俺と同じワンピースではあるんだけど、チェック柄で膝上までの丈の…思わず魅入ってしまいそうなほど可愛らしいデザインのものだった。んー、こんな子とデート出来るなんて、俺マジで幸せ者!
「あ、そうだアキ。あなたに先に言うことがありますの」
「…ん?」
一瞬だけ寂しげな表情を浮かべたあと、すぐに元の表情に戻ると、言葉を選ぶようにして…スターリィは口を開いた。
「…アークトゥルス先輩とは、決着を付けましたわ。キッパリとお断りさせていただきましたの」
堂々とした表情でそう宣言するスターリィは、なぜかとても誇らしげな表情を浮かべていた。
「そっか……あ、そういえばこっちも決着がついたよ。レッドからダンスのお誘いがあったんだけど、断った」
「えっ?一国の王太子の申し出を断りましたの?普通でしたらすごい玉の輿ですのに…」
「冗談でも意地が悪いよ?分かってるくせに。ちなみに彼には『私は心が男なんだ』って伝えたから、もうレッドが来ることはないと思うよ」
「あら、そこまで言って良かったんですの?」
「うん。むしろもっと早く伝えるべきだったとおもったよ」
俺の言葉に、スターリィは嬉しそうにケラケラと笑っていた。
ひとしきり二人で笑いあったあと、スターリィがびょんっと俺の横に飛びついてきた。
「それじゃあアキ、行きましょう!」
そう言いながら、スターリィが俺の腕をまるで抱え込むようにして引っ張りながら歩き始めたんだ。
あぁ、スターリィさん。当たってます……
それからのお祭り巡りは、本当に楽しかった。
二人で射的みたいな手裏剣投げをして景品を取りまくったり、お好み焼きみたいなのを買って半分ずつにして食べたり、一緒に【アフロティアーナ】のショーの見学に行ってヤジを飛ばしてみたり…
ちなみにアフロティアーナのショーは、魔力をそのまま飛ばして光らせる『光のイリュージョン』のショーだった。なんでもアフロティアーナは【光の女神】などとか呼ばれてるそうで…どんだけ魔力を無駄遣いしてるんだか。
そんな感じで楽しい”創立記念祭”の時間もあっという間に過ぎ去っていき…いよいよ学園の中で開かれる『ダンスパーティ』の時間がやってきた。
創立記念祭のダンスパーティは、学園内にある最も広い体育館のような場所…入学式も行われた”講堂”で実施されることになっていた。今日の学園はなぜか妙に厳戒態勢が引かれていたので、ダンスパーティのメンバーは学園の生徒に限られていた。
それでも…たくさんの生徒たちがこの場所に集まっていた。
会場に入って観察してみると、まず目に入ったのは…ボウイとナスリーンの『ボウナスコンビ』だ。どうやらボウイは完全にナスリーンに捕まっちまったみたいだな。肩紐だけのタイプの赤いドレスに身を包んだナスリーンに擦り寄られ、顔を真っ赤にしながら必死に相手をしていた。
次に目に入ったのは、カレン姫とエリスのコンビ。このダンスパーティはカップルだけじゃなくて友情を確かめ合う意味もあったから女の子同士のペアは決して珍しくはないのだけれど、あの二人…というよりカレン姫はさすがに目立っていた。
…それにしてもがんばったんだな、魂の同士よ。だけど残念なことに、側から見ると『超絶美少女姫とそのお友達』って感じにしか見えないんだけどね。
あと会場には、プリムラとカノープスの姿があった。彼女たちは残念ながら別にカップルとしてここにいるわけではない。祭りといえども異変が発生しないか、ずっと警戒してくれていたのだ。この場にいるのも、俺たちの警備の一環らしい。せっかくなんだから楽しめば良いのにな。
『みなさま、大変お待たせしました!それではいよいよユニヴァース魔法学園毎年恒例の…ダンスパーティを開催させていただきまーすっ!!』
生徒会の誰かの…顔だけ見覚えのある人による開始の宣言により、いよいろダンスパーティがスタートした。
「スターリィ、私と…踊ってもらえますか?」
「ええ、よろこんで!」
こうして俺たちは向かい合って、互いに手と手を取り合う。
そして、いよいよ踊り出そうとした…そのとき。
まるで地域一帯を丸ごと吹き飛ばしてしまうかのようなとてつもない轟音が、学園全体に突如鳴り響いた。




