Part.Ⅳ
∬
それからアリサは、カウンターの席に美優と美優の父を招き入れると今までの事を話した。
「……幽霊の依頼を聞く…ですか…」
「幽霊の依頼だけじゃありません。美優ちゃんみたいな人の依頼も受けます。」
美優の父は、ポカンとしていた。
美優は父の膝の上に乗って、オレンジジュースを飲んでいた。
「本当に……その…智恵に会えるんですか?」
「智恵?」
隣にいる神崎が言った。
「あ、はい。美優の母親です。桜庭智恵と言います。旧姓は相澤です。元々、身体が弱く…美優を産むと同時に亡くなりました…」
「そうか…」
「あの…ところで、貴方は?」
美優の父が言うと、神崎は懐から警察手帳を取り出した。
「警察の神崎透だ」
「警察ですか?!」
「まぁ、俺も霊関係で、よくここに来るんだよ」
「…はぁ」
美優の父は、ポカンとして曖昧な返事をした。
すると、神崎は、財布を取り出し小銭をカウンターの前に置いて立ち上がった。
「さてと、それじゃ、俺は仕事に戻る。」
「有り難うございました。また、お越し下さいませ」
と、アリサが一礼すると神崎は扉の取っ手を握り扉を開けようとした。
「神崎さん。」
「あ?」
アリサは、出て行こうとする神崎を止めて、ニコリと微笑んだ。
「次は、DEMELのチョコレートをお願いしますね♪」
「…………………」
―カランカラン
―バタン
神崎はジト目でアリサを見た後、黙って店を出たのだった。
「あの…二人はどういう関係ですか?」
「ただの、常連客とバリスタですよ」
アリサは、美優の父ニコリと微笑んだ。
「そ、そうですか」
美優の父は、アリサの美しい微笑みに少しドキリとし頬を掻いた。
「あの、でも、どうやって智恵を探すんですか?そもそも、智恵はまだここにいるんでしょうか?」
アリサは、顎に手を当て、うーんと考え始めた。
「いると思います。勘ですけど。」
「勘、ですか?」
「はい。私の勘は、よく当たると言われるんですよ」
「…はぁ。」
「美優ちゃんのお父さんには、智恵さんとの思い出の場所を全てこちらの紙に書いて下さいますか?」
そう言うと、アリサは小さなノートとボールペンを美優の父に渡した。
「わかりました」
美優の父は、それを受け取ると今までの行った智恵との場所、思い出が詰まった場所をノートに書き留めた。
「いっぱいだね~ぇ」
美優は、父の書いたノートを見た。
父は、美優の頭を優しく撫でた。
「あぁ。身体が弱く、あまり外の景色を見たことがないって言うから、父さんが母さんを沢山連れ回したんだよ」
「みゆも行きたい!」
「ははっ…じゃ、今度、母さんとの思い出の場所に行こうか」
「うんっ!」
一通り書き終えたノートを、美優の父はアリサに渡した。
「有り難うございます」
そして、今度は店のメールと電話番号が記載されているマッチを、父に渡したのだった。
「これは?」
「当店の連絡先です。智恵さんを見つけ次第ご連絡させていただきます。」
「わかりました」
そう言うと、父は紙ナプキンにボールペンで自分の電話番号を書いて、それもアリサに渡した。
そして、ふと、思った。
「あの…依頼費なんですけど」
アリサは、紙ナプキンを受け取るとニコリと微笑んだ。
「依頼費ですが………」




