Part.Ⅰ
~最期の家族絵~
幽霊喫茶探偵事務所という喫茶店は、赤い看板と共に今日も建っていた。
そして、相変わらず人はいなかった。
カウンター前で、嫌気を指したかのような目で神崎透はアリサを見ていた。
「…お前…よく、そんな甘い物一気に何個も食うよな…」
カウンターの中で、小さな動物カップケーキを頬張るアリサは
「ふぁっへぇ、ほいふぃんへふよ」
と言った。
「だから、食ってから言えっての!ったく」
「ぷは~、美味しかったぁ~」
と、満足な顔で言うアリサ。
神崎は、カウンターの前に置いてあるナプキンを一枚取ると、アリサの生クリームで汚れた口元を拭ってやった。
「お前は子供か…。ほら、クリーム付いてるぞ」
「む…むむう……」
「よし」
「………。神崎さんって、変な所でお母さん気質ですよね」
と、そっぽを向いて言ったアリサに
「誰がお母さんだっ!!せめて、お父さんにしろっ!」
というツッコミを入れた神崎だった。
(え、そこ?)
神崎は、頬杖をついて隣でスヤスヤ寝ている看板兎こと,黒兎の紅葉を優しく撫でた。
紅葉も、また、相変わらず寝てばかりだが、神崎が撫でると小さな鼻をピクピクと動かした。
神崎は心が癒されると、同じカウンターで自分の席の二つ隣にいるだろう幽霊をチラリと見た。
神崎は幽霊が見えないのに、何故、解るのか?
それは、珈琲が入っているカップが勝手に動き、そして、中身が減っているからだ。
(相変わらず、謎な店というか…ホラーな店だな…)
と、神崎は内心思った。
そして、アリサにコソッと言った。
「なぁ、アリサ。あの人、お前の祖父さんか?」
「いいえ、違います。祖父は、今は幽霊会合というものに行っていますね」
「ゆ…幽霊会合??なんじゃそりゃ…てか、幽霊にも会合あったのかよ」
(そこに驚きだわっ)
「さぁ?」
と、アリサは小さな頭をコクリと傾げた。
「……ぐ……」
心の癒しの小動物を愛している神崎は、渋い顔になった。
何故かというと、アリサは中身は甘党、時に関西弁を喋る女だが、見た目は16歳の美少女…いや、20歳だから美女だ。
そして、大好きな甘党を食べる様は、まるでリスやハムスターが無理矢理頬に詰めて食べているように見え、そして、首を傾げる仕草は小さな動物に見えるのだ。
(……くそ…俺の目も腐り始めたか…)
そう思い、自分の目の間をグリグリと揉む神崎だった。
「あ~…それなら、あそこにいる奴は誰だ?」
「あの人は、常連さんです」
「常連いんの?!」
「はい。幽霊ですけど」
「人の常連を増やせよ…」
「え?いますよ?前も言いましが、ここのビルのオーナーですよ。因みに、その人、来てくださるとお菓子もくれるんです!!なんて心の優しい方!!」
ほわ~、嬉しそうに空を見つめるアリサ。
「お前……お菓子くれるからって変な人について行くなよ…」
「失礼ですね!そこまで子供じゃありませんっ!」
「あー、そうそう。お前に言いたいことがあっ…」
- カランカラン
神崎の言葉を遮るように、喫茶店の扉が開き鐘が鳴った。
アリサは、開かれた扉に向かってニコリと笑った。
「ようこそ、幽霊喫茶探偵事務所へ」




