Part.ⅩⅣ
∬
もぐもぐと、バームクーヘンを咀嚼するアリサは、ふと、思った。
「もぐもぐ…そういえば、この前何か言おうとしてませんでしたか?」
「あ?あぁ、あれか」
「なんなんですか?」
「この前の事件の犯人が捕まった事。そして、あの廃屋の工場の地主が、有り難うだと」
「??」
アリサは首を傾げた。
「もうずっと前から、あそこで変な物音やら、姿が見えるって噂になっていたらしい。ま、所謂、幽霊スポットだな。それを、お前あの時、遺体を引き上げるのと同時に祓っただろう。それから地主の方も、空気が何か変わったような気がするとか言って、あれから何も起こらなくなったんだと」
「なるほど。もぐもぐ…もぐもぐ」
「大変だったんだぞ…あの遺体を調べるのも」
「それが警察の仕事じゃないですか」
「………」
―プルルルルル
プルルル
と、神崎の携帯が鳴った。
「もしもし、何だ?」
「もぐもぐ…」
「は?!またか?!~っ」
「もぐもぐ…もぐもぐ」
「あぁ、あぁ、解った。俺も、直ぐ向かう」
―ピッ
「何か事件でふか?もぐもぐ…」
「あぁ。ったく、めんどくせえなぁ」
そう言いながら、神崎は頭を掻くと財布から小銭を出した。
「金は置いとくから。じゃぁな」
「あ!神崎さん、DEMELのチョコレートは?!」
「!!!!!す、すまん、急いでるからっ!!」
―カランカラン
バタバタバタッ
と、逃げるようにして神崎は喫茶探偵事務所を出たのだった。
アリサは、フルフルと振るえるフォークをバームクーヘンに刺した。
「また、忘れたなぁぁ?!?!」
―カランカラン
アリサは、ハッとして、鬼のような形相を一瞬にして天使のような微笑みに変えた。
「ようこそ、幽霊喫茶探偵事務所へ」
END