Part.Ⅺ
そして、落ち着いた頃にお互いテーブル席に座った。
壁側に美優。隣には晃。
そして、晃の前には智恵が座っていた。
アリサは、智恵の前にコトリとオレンジジュースを置いた。
「お待たせしました」
「オレンジジュースだ!!」
「え?」
智恵は首を傾げた。
「ははっ、美優もね、オレンジジュースが好きなんだよ。だから、言っただろ?智恵にも似てるって」
その言葉に智恵は、ふふふと笑った。
「ほんとね。ほら、美優にあげるわ」
「いいの?!」
「えぇ、勿論。でも、ママも好きだから半分こよ??」
「うん!」
そう言うと、美優は赤いストローでオレンジジュースを飲み始めた。
晃も智恵も、お互いが幸せそうに微笑んでいた。
◆◆◆◆◆
それからの三人は、他愛ない会話をして笑いあったりした。
それは、本当に幸せな家族の構図だった。
ケーキで口元を汚した美優を、智恵が拭ってやったり。
お互い、あーん、をしたり・・・。
アリサから見ても、とても、微笑ましい光景だった。
「ねぇ、美優」
美優は、眠たそうな目を擦って智恵を見た。
「なに、ママぁ?」
「学校は楽しい?」
「うん」
「友達は出来た?」
「うん。えっとね、あきちゃんでしょ、後、ゆいちゃんに、たけしくん、それからぁ~」
と、美優は友達を指で数えた。
しかし、やはり眠いのか、小さく欠伸をした。
「ふふ…眠いのね。」
そんな、美優の頭を智恵は優しく撫でた。
「美優、これだけは覚えていて。ママは、美優が大好きよ。ママの1番の宝物。だから、ママはいつも美優の心の中にいる。守ってはあげないけれど…いつも、美優を見ているから。」
「う…ん…美優もね…ママ…大好き……」
そう言うと、美優は晃にもたれて寝てしまった。
「智恵…」
晃は少し悲しそうな表情をして、智恵を見た。
智恵も、同じくそんな表情をして晃を見つめ返した。
「行くのか…?」
智恵は、黙って頷いた。
「…………」
「あの」
横から、アリサが現れた。
そして、少し汚れたスケッチブックを智恵に渡した。
「これ…」
智恵は少し驚いて、そのスケッチブックを懐かしそうに触った。
「まだ、あったのね…」
「懐かしいな。それ」
「えぇ。どうして、これを?」
智恵はアリサに言った。
「智恵さんを探す時に、大学まで行きました。そして、それをたまたま見つけたんです。
厚かましい事を言うのもあれなんですが…最後に、絵を描いたらどうでしょう?」
「絵を?」
アリサは頷いた。
「はい。家族の絵です。」
「…家族の絵」
智恵がそう言うと、アリサは鉛筆を智恵に渡した。
智恵は、晃を見た。
晃は黙って頷いた。
そして、今度は美優を見た。
美優は、幸せそうに眠っていた。
智恵は、優しく微笑んで鉛筆を受け取ると
「そうね。描こうかしら」と言って、スケッチブックに最期の絵を書き始めたのだった。




