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じぇんとるまん=まつやま

作者: 守屋 薫

 我らが松山先生は、赴任してきて間もない中年の日本史教師である。温厚で生徒ともすぐに馴染んだ彼だが、控えめに言ってツルッパゲで、磨き込まれているのかと思うほどに光り輝いていた。


 ある日の授業のことだった。教科書に「いちごパンツの織田信長」などと落書きしていた覚えがあるから、おそらくあれは梅雨ごろだっただろう。雨が降りしきりジメジメと暑い中、我々は松山先生の授業を受けていた。本能寺の変について先生が語っていた頃だろうか、廊下からパタパタと足音が近づいてきた。足音の主はガラリとドアを開け、ズカズカと入ってきた。

「すいません、遅刻しました。」

 走ってきたのか息は絶え絶えで、激しい呼吸音に皆が驚いていた。しかし、我々にはそんなことはどうでも良かった。重要なのは、入ってきたのが女子生徒で、この雨の中を走り抜けてきた、ということなのだ。言うに言われぬ姿に我々は息を飲んだ。そして、この光景を目に焼き付けるべく外聞も忘れジロジロと見ていた。


 しかし、松山先生は我々の眼光に一切構うことなく、タオルを渡して、

「大変だったでしょう。僕はまだ使ってないから、これで拭くといい。」

 と優しく微笑んだのだ。その微笑みには、我々の浅ましい性欲など微塵も感じられず、品格とか人格だとか、そもそもの人間の違いをまざまざと見せつけられたのだ。我々は息をつくほかなかった。

 その日から松山先生のあだ名が「和尚」となったのは言うまでもない。

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