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5.それだけじゃないよね

「仕込みは計画的にしろ! このアホ鳥!」

 ルディが怒鳴ると、私の右肩に止まっていたガルダは拗ねたようにそっぽを向いた。そして、短い足をちょこちょこと動かして左肩の方へ移動。どうやらトリモチの件を根に持っているらしい。

「…まあ、出来たものは仕方が無いか」

 はあ、とルディはため息をついた。いつの間にか、ガルダに対して慇懃な話し方をしなくなってる。

 ふーん。

「ねえ、これからどうする?」

 質問の形になったけど、本心ではガルダを警吏府に連れて行くのは反対だ。ルディの目的は果たせなくなるけど、生まれてくる命には代えられないから。

「分かってるよ」

 ルディは微苦笑する。

 私ははっとした。

「…ごめん!」

「なぜ謝るんだ?」

「だって私、〈言読〉を逆手にとったから」

 敢えて言葉にしないことで圧力をかけた。言い換えると、甘えだ。

「それなら尚更、謝らなくていい」

 多分これも、声に出した言葉じゃなく思ったことへの返事だろう。

「どうして?」

「分からないか?」

 質問に質問で返し、ルディはじっと私の目を見つめた。深遠を思わせる漆黒の目が、探るように閃く。

 私は知らない場所に連れてこられた子供みたいに、落ち着かない気持ちになった。次にどうすればいいか分からない。

 視線を外したのは、ルディからだった。

「ま、長期戦は覚悟してるさ」

「?」

 話の展開が読めない。〈言読〉の方だと思ったのは勘違いだったのかな。……ああ!

「そっかー。王子でも平等に試験をするくらいだもんね。警吏府って入るの大変なんだー。知らなかったよ」

 そう言った途端、ルディが前につんのめって倒れた。

「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」

「……くっ。こいつのアホは因果過ぎる」

「えっ? なに、悪口言った!?」

「黙れ。勘違いするなよ」

 ルディは立ち上がり、服に付いた土を払った。

「今回の任務を諦めたわけじゃない。俺は、どうしても警吏府に認められなければならないんだ」

 虚空を睨む目は強い光を宿している。端正な横顔がいつになく精悍に見えた。

 ルディがこっちを見た。全然そんな間合いじゃなかったのに、不意打ちを喰らったように肩がぴくっと跳ねる。

 何この過剰反応!? どうしたんだ、自分!

「といっても、ガルダを警吏府に連れていけなくなった以上、認められるには相応の要件を満たさなければならないだろう」

「ええと…つまり、ガルダを連れて行かない代わりに、何かするってこと?」

 にまり、とルディは笑い、

「密売組織を潰す」

「はあっ!?」

 思わず素っ頓狂な声が出た。

「実を言えば、お前に偶然会った時から、この考えは頭の中にあったんだけどな」

 お前は護衛としては最強だからな、とルディは楽しそうに付け加える。

「お、お、お…」

「どうだ?」

「面白そう!」

「だろうっ!」

 私たちは、それぞれ右手を上げ、掌を叩き合わせた。ぱんっ! と小気味いい音が誰もいない路地裏に響く。

「で、早速、本拠地を攻めるの?」

「いや。その本拠地を探すために、ガルダの捕らわれていた家屋に忍びこんで手がかりを見つけないとな」

「で、私が見張り兼護衛ってわけだね」

 正解でしょ! とばかりにルディに笑顔を向ける。

「こういう話に限っては、理解が早いな」

「何で素直に褒めないかなー」

「褒めてない。ただの感想だ」

 はいはい、そうですか。

「で、ガルダの捕まってたとこに行くんだよね。どこにあるの?」

「ダルリドルラ」

「ええっ!?」

 予想外だった。いや、と言うより、衝撃だった。

 ダルリドルラ。

 それは寄る辺なき異民族、すなわち不可触民(アチュータ)が暮らす貧民区の呼び名だった。

「まさか……貧困のあまりガルダを…?」

 もしも養父に引き取られなかったら、私も不可触民(アチュータ)として生きていただろう。

 そう思うと、心中は複雑だった。

 しかし。

「早とちりするな。ダルリドルラには、ガルダを隠すための家屋があっただけだ」

「そう…」

 何となくほっとする。

「ただし、小金で雇われた不可触民(アチュータ)がいる可能性は高いと思う。覚悟はしておいてくれ」

 私はきょとんとした。

 そっか。この人は、こういう事に関してだけは真っすぐな優しさを見せてくれるんだ。

「……何が可笑しい?」

「へっ?」

 どうやら無意識に顔が緩んでいたらしい。私は慌てて取り繕った。

「だって、ルディが見当違いなことを言うんだもん」

「なに?」

 ルディの目が細まる。読まれたかな? いや、読まれてもいいんだけど。

「覚悟なんて要らないよ。だって、ガルダをひどい目にあわせた連中なんか、不可触民(アチュータ)だろうが、王族(クシャトリア)だろうが、平等に仕留めてやるんだから!」

 平等、を強調して言うと、ルディは、ふっと笑った。

「アホ」

「んなっ!」

「さっき、忍びこむって言っただろうが。目的を仕留める事にすり替えるなよ、アホ」

「そうだった…」

 しかも自分で、「見張り兼護衛ってわけだね」なんて、得意満面で言ったのに。

 いや、でも、だけど。

「やっぱ襲撃して、拘束して、口を割らせた方が手っ取り早くない? ちょっとした拷問なら出来るよ」

「ちょっとした料理なら作れる、みたいな言い方するなよ」

 ルディが顔を顰める。

 半分冗談なんだけど、深層の王子様には刺激が強すぎたかな。

「……大事(おおごと)にしたくないんだよ」

 ぽつり、とルディは零す。

「神鳥ガルダは王の象徴だ。それを侮る人間の存在を、世間に広めたくない」

 私は首を傾げた。

「王の威信に関わるから?」

「いや、むしろ矜持の問題だ」

 なるほど、ルディは王子だから、父王の沽券に関わることは見過ごせないだろう。

「でも、それだけじゃないよね」

「は?」

 ルディは怪訝な顔をする。

「ガルダのこと、結構気に入ってるでしょ」

「なっ」

 言葉遣いが変わったことがその証拠だ。

「照れない照れない。私もガルダのこと好きだよ。偉そうなくせして、些細な事で落ち込むとことか可愛いし」

 首を回し、肩の上にいるガルダを見た。何を言われたのか理解できないように、ぽかんと嘴を開けている。

「…そんな呑気なことを言ってられるのも今のうちだからな」

 押し殺すようなルディの声。頬が赤くなっている。

「あ、話を逸らそうとしてるー」

 からかうような口調で返してやる。こんな機会は滅多にない。

「逸らしてないさ、ガルダの事だからな」

 しかし、ルディは勝ち誇ったように口元を歪めた。

「お前は失念しているようだが、これでもう、確実に水輪の彼方の国への道を開かなければならなくなったんだぞ」

 卵を孵すためにもな、と駄目押しのように付け加える。

 その意味をはっきりと理解した時、私の背中を、たらーっと一筋の汗が流れた。

 ルディがにっこりと笑った。

「責任重大だな、輪環の巫者(サーダナ)



 因みに。

 ルディが言った『長期戦』が、結局何だったのか。私が知るのはずっと先の事になる。


 読んで頂いてありがとうございます。

 いやまさか、ラブコメ要素を入れられるとは思わなかったw アホの子ラクシュ相手に、よく頑張ったよ、ルディww

 それはともかく、この話は中編くらいのボリュームにするつもり書いています。ただ、登場人物たちが想定外の行動を取り始めたので、確定ではありません。予定枚数だけで密売組織を潰せるか!?

 では、この先もお付き合い頂ければ嬉しく思います。ありがとうございました!

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