積読ラノベ中毒の俺に救いの女神が現れた件!
「終わらない! ストーリーが全く終わらない!」
俺は山積みのなろう系ラノベ書籍を眼の前にして頭を抱えた。ゴロゴロと畳の上を転がり、ウンウン苦悶する。とある夜更け過ぎの中年の薄汚いオタク部屋。ラノベと漫画とホコリだらけのコレクションルームである。
「どいつもこいつもラノベ10巻超えがデフォとか、他の作品読む暇が全く無え!」
古参オタにありがちな新作の消費が追いつかない病。往年の名作もどんどん電子で復刻するので、ますます拍車がかかる。しかも最近は最新漫画もたいがいWEB更新で連載が読めてしまうのだ、余計な時間などあるわけがない。ゲームに関しては攻略する時間すらないので、ここ数年はもっぱらゲーム実況動画に頼る人間になってしまった。RPGの総集編とか便利だね!
「なんかこう、やればやるほど底なし沼にハマる気がする。そのわりに三年くらい前に読んだ本の結末とか余裕で忘れるし!」
俺は読書の方法というものを、根本的に間違えているのではあるまいか? 加齢と共に、常々そう思うようになってきた。いくら積読の読了を必死に目指したところで、作家本人のような自己実現につながるわけじゃなし、感想アフィリエイトで稼ぐのは有名人ばかり、貴重な余暇が作業ゲー化してしまってるような感覚が常々している。
「どうしたらいいんだ・・・・・・昔みたいにストレスフリーの読書に戻りたい」
電子氾濫時代の大洪水にわからせられている俺が、重い切実な溜息を漏らす。もちろん読書する本を吟味して、数を減らせばいいのだが、長年どっぷりハマっていただけに執着を断ち切れずにいるのだ。とくに10年長期連載のやつとか、飽きても完結するまで今さら切れねえYO!
「ククク、どうやらお困りのようアルな」
その時、部屋の隅でボソリと声が響いた。中国訛りのある若い女の声。甘ったるいハスキーヴォイス。
「なにやつ!?」
俺は目を剥いて、自分の汚部屋を慌てて見回した。本と段ボールだらけの雑然としたその部屋には、やはり己一人しか人間はいない。外の話し声でも聞こえたのか?
「ここアル」
すると書籍をたっぷり詰めた段ボールの一つが開き、ドバっと中身のラノベ類がこぼれだした。さらに段ボールの奥からは、ヌッと細く白い手が伸びてきた!
「ひぃっ!?」
「アイヤーっと」
怪奇現象に心臓が止まりそうになり、思わず悲鳴を上げた俺。大きな段ボールの中から動きづらそうに出てきたのは、お団子頭の黒髪美少女である。
中華仙女の衣装に身を包み、ツリ目に朱のアイシャドゥを塗っている。天の羽衣のような布を肩にかけ、右手首に数珠、額に孫悟空風の金輪をつけた典型的な中華美女であった。
「おま、おまえ・・・・・・は?」
「ワタシ、なろうの守護女神。北極那牢娘娘ヨ。よろしくアル」
にっと八重歯を見せて、微笑する少女。状況的には明らかに人外。そもそも彼女が入っていた段ボールは、中身の本と一緒に人間が隠れるのはサイズ上無理がある。まるで奇術の箱トリックだ。
「北極那牢娘娘?」
「ハイ、由緒正しき北極星は天皇大帝のお隣さんの弟子の知り合いの者。あなた達なろう中毒者の精気を糧に、なろう黎明期より生きる書の神アル」
「後半やや聞き捨てならない発言があったような気もするが・・・・・・それはさておき」
俺は気を取り直しゴホンと咳をした。こういう異常事態には、長年のなろう読者としていくらか耐性がある。ふん、よくあるパターンだぜ。いわゆる異世界逆召喚系か。でもどうせ夢オチとかだ!
「そのなろうの女神とやらが、一体俺に何のようだ?」
「あなた、なろうマニアとして理想的信者。模範的な読み専これとても大事。そこでワタシ、あなたの助け求める声耳傾け、願い叶えにきた」
「願いと言うと・・・・・・さっきの有意義な読書に戻りたいという?」
「是的」
「マジで!」
「なろうの女神様嘘つかない」
「そうだっけ?」
「是的」
とにかく俺は、積年の悩みが解決するかもしれないこのチャンスに目を輝かせた。なにせ相手は自称・神様。どんな奇跡や魔法も期待できる。即座に姿勢を直し、正座モードで身を慎む。
「じゃあお願いします! 快適なる読書のベストアイデアを教えて下さい!」
北極那牢娘娘に対し、額を畳にこすりつけて頼み込む。
「うむ、好的。ちょうど良き方法あるアル」
「良き方法。それは一体!?」
「アナタ、毎日の読書に確実な利を持たせたい。そうアルな?」
「そりゃあそうです」
「そんな時こそ・・・・・・筋トレアル!」
「・・・・・・は?」
俺はしばし目が点になった。いきなり体育会系? 神の奇跡は? 偉大なるチート魔法は?
「では、この高貴なる宝貝を授けるのコト」
女神は長い衣の中から、一本のメタリックに煌めく棒状のアイテムを取り出した。両端の取っ手は黄色で、黒いベルトが二本左右に張られている。長さは野球のバットくらい。こっちの期待とかなりイメージが違う。
「なんです?」
「これはティアアル◯ナロッドある」
「うん、100%ティアアル◯ナロッドではないね」
俺は気を落ち着かせながら、やんわりと否定した。絶対に違う。
「冗談アル。これは天界大ヒットのブルブルマスター・ライトという宝具ヨ」
「ブルブルマスター? どっかで聞いたような?」
「あなた、これから軽小説一章、漫画一巻、アニメ1話など見るたびに、これ1セット鍛える。それからはあなた、読み専の勝ち組ルート確定ネ」
にっこりと微笑み、北極那牢娘娘はぐぐっとそのアイテムのベルトを両手で掴み、弓のように引き絞る。ギ~っと軋む音がしてブルブルマスター・ライトは半分くらい縮まった。袖から見える彼女の白い腕は意外と筋肉質だ。
「おいちょっと待て・・・・・それ読書と関係ないじゃん! 普通の筋トレやんけ!」
「ものは考えようネ。あなた今まではただ本だけ読んでた、脳の精気私にくれてただけ。これからは等価交換。読めば読むほど筋肉がもらえる。目的を筋トレ第一に。やって損無しヨ」
「いやでもそれさあ、なんかしんどくね?」
「無問題。ブルブルマスターは一回五分以下でジム並の効果・・・・・・ニンゲン、力が欲しいカ?」
「言い方」
「なんと哪吒様のお墨付きアル」
「通販でよく見る推薦文のやつ」
「実は私はこれ、天界のふるさと納税で手に入れた」
「天界にもいまやふるさと納税ブームが!?」
「あれ寄付分1万円くらい儲けるネ♡ 使うが勝ち組」
女神は胸を張り、上から見下げるドヤ顔になる。
「そのマウントは別にいいんだけど・・・・・・うーん、まあくれるというなら、とりたて断る理由もないか」
そう言う俺に、美少女神はすっと手を出してにんまり言った。
「一万五千円アル」
「金取るの!?」
「なにしろ宝具あるからナ」
「いや、1万以上するなら別にいいかな」
「ぬ・・・・・・では今なら、このハンドグリップ三色セットもつけるアル!」
すげなく拒否され、太めの眉をひそめた女神様は、懐からカラフルなハンドグリップ数点を追加してきた。
「あ、これダ◯ソーで見たことあんぞ。お前、百均で買ってきたな!?」
「これでもまだ不足アルか、守財奴・・・・・・ならば、この霊験あらたかな天界の数珠もセットのコト! もはや文句ないアルな?」
今度は自らの手首に巻いた琥珀色の数珠を出してくる。なんかいい感じに艶がある小さい数珠だけれど。
「いきなりそれっぽい神様アイテムが・・・・・・ってこれもダ◯ソーにあるやつじゃねえか!」
百均マニアでもある俺にはひと目でそれらがダ◯ソー商品であると、看破できてしまった。女神の信頼度というか神々しさが一気に下落していく。なんか急にコスプレイヤーもどきに見えてきたぞ。
「百均だろうがなんだろうが、ようは効果の有る無しが大事。文句ばかり言わずに手動かすネ!」
北極那牢娘娘は猛禽の眼光で怒鳴り、俺にブルブルマスター・ライトをぐいぐい押し付ける。角が擦れて痛い。
「さああなた、筋トレいつするノ? 今デショ!」
「今日からはちょっと・・・・・・」
「これ以上我儘言うなら、あなたのPCに表示される色狼漫画バナーの量が三倍になる呪い発動ヨ!」
「ああもう、わかった買うよっ。買うからそれはやめろ!」
あまりのウザさに俺は天界の筋トレアイテム購入を承諾した。運良く月初めで財布には余裕があったんで、即金で一万五千円支払う。あー、これで今月買う新刊減らさなきゃだめだわ。
「非常感謝」
女神はそそくさと蛇革財布に万札を入れて、ほくほく顔で礼を言う。さらに袖からチラシを一枚出し、開いてつきつけた。そこにはブルブルマスターの色違い品(黒)が描かれていた。
「もしもライトで負荷が物足りなくなったら、今度はこのブルブルマスター・ヘビーを授けるアル」
「有料で?」
「ヘビーは二万円あるナ」
「もういいから帰れよ!」
イラッとした俺は怒鳴り散らし、北極那牢娘娘を段ボールの方へ押しやる。羽衣効果か相手はふわふわ浮いているんで、風船を押しているような異質感覚だ。
「哈哈哈哈哈哈哈哈! それでは再見♫」
愛想よく手を振って、女神は段ボールの中に足首を突っ込み、うざい高笑いでするすると消えていく。どうも中が四次元空間に繋がっているらしい。上から覗き見ると、一瞬ドロドロした黒い沼のような光景が見えたが、すぐにただの段ボールの底に変わる。無事に本国世界へ送還されたと見える。
「やれやれだ」
俺はがっくりと脱力してなんだか疲労感を覚えた。結局一万五千円むしり取られただけのような気がしなくもない。全然目覚めないし白昼夢でもないのか。
「ふう・・・・・・しかしせっかく買ったんだからもったいないし、この際ちょっとは鍛えてみるか?」
思えば長いオタクライフで、筋トレらしい筋トレはほとんどやってこなかった。たまに思いついてなにか始めても、大概筋肉痛に負けて三日坊主だ。
一万五千円を無駄にしたくないと思えば、今回は多少長く続くかも知んない・・・・・・そう思って、俺はブルブルマスターを手に取った。
その約二ヶ月後・・・・・・・
「うぐぐぐ~、最初は負荷きつかったけど最近余裕が出てきたなー。これなら近いうちに完全に縮められるようになりそう」
俺は毎日ブルブルマスターを使用することで、わずかづつ筋力を向上させていた。例えば何かで時間を無駄にしたなーと思っても、そのたびに軽く筋トレすることで、等価交換できたように錯覚できる。
だからこのアイテムを購入したことも、悪くはなかったと思えるようになっていた。そうなると欲が出てきて、世の中の他の筋トレグッズも色々物色したくなるのが人情。
俺はPCで有名筋トレグッズを検索し始めた。超重量級ダンベルやら、ぶっといゴムチューブやら様々ある。すると・・・・・・
「あ、ブルブルマスター・ライトって、オクなら五千円で中古あんの!? しかもこっちのが説明書付属だし。天界の宝具どころか純国産品じゃねえか! ちくしょー騙された!!」
(1万円くらい儲けるネ♡)という北極那牢娘娘のいやらしい言葉が、俺の脳裏に末永くリフレインしていた・・・・・・なんか微妙に悠木碧ヴォイスだったのが余計腹立つ!
(完)




