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④怒髪天日和

 意外な事にLIGHTNING(ライトニング) SLUGGER(スラッガー)が来日する件に関しては現時点では思った程盛り上がっていない様子だった。

 解散する直前の1996年に一度だけ来日ライヴを行った事があり、当時はそれなりに盛り上がったらしいのだが、今回実に30年振りの来日だと言うのにSNS上では知人達も古参勢も思った程話題に挙げていない。

 オープニングアクトを務める梅酒(うめき)サン所属のスラッシュメタルバンドDREDGE(ドレッジ) WURM(ワーム)の公式アカウントからもライヴ情報が公開されてはいるが、拡散状況は微妙な雰囲気で個人的には「LIGHTNING SLUGGERだよ?もっと皆こう、喜ぶとか無いの?」と言った感想だ。まぁ確かに客観的に見ても華のあるバンドとは言い難く頑固職人な感じのバンドではあるけれども、その渋さが魅力的でもあるのに。今はまだ盛り上がっていないだけで今後爆発的な盛り上がりを見せる可能性もあるのであまり悲観的にはなりたくは無いのだが、もう少し関心を持つ人がいても良いのにとは思う。

 やはり初代ヴォーカルでは無いのが話題性の低い原因なのだろうか?確かにGraham(グラハム)Jabberjaw(ジャバージョー)Walkyier(ウォルキアー)は初代ヴォーカルであるVinsent(ヴィンセント) Vulgore(ヴァルゴア)に比べるとグロウル技術では劣る面もある気がする。Grahamはグロウルと言うよりはスクリーム系に近く迫力に欠ける面もあるが、個人的にはそこまでLIGHTNING SLUGGERの音楽的水準を下げる要因にはなっていないと思う。

 一方でVinsentの方は現在はフューネラルドゥーム/デスメタルバンドMORBID(モービッド) LIGER(ライガー)のヴォーカルとしてLIGHTNING SLUGGERとは趣の異なるグロウル歌唱にシフトしており、これはこれで魅力的ではあるが音楽性を総合的に評価する場合、LIGHTNING SLUGGERに比べると物足りなさを感じてしまう。やはりVinsentのグロウルはLIGHTNING SLUGGERでこそ映えると思うので再結成に合流しなかったのは残念な気持ちだ。将来的にはゲスト参加する可能性も有り得るのだろうか?

 色々考えながらSNSをチェックしていたら雨は大分小降りとなり、雷音も収まって来たので市役所に様子を見に行こうと考えたが既に時計は9時50分を指しており、今から家を出ても10時までに着く事は不可能であり、行くだけ無駄足になる可能性もある。

 やはりここは少し気が進まないが電話で市役所に注意喚起するしか無いかと重い腰を上げようとすると、


 ピコンッ


 母からメッセージが届いた。

 一瞬開くのに躊躇した。

 悪い報告内容だったらどうしようかとメッセージを確認するのが怖くなった。まだ10時にはなっていないし、【これから市役所に行って来ます】的な内容かも知れないが、それでも確認するのが怖かった。

 脳内の血が一気に引き、心臓周辺が冷える様な感覚に陥ったが、最終的には理由はどうあれ確認しないとならないのだから、覚悟を決め大きく深呼吸をして冷静さを取り戻す事にした。

 そして恐る恐るメッセージを開いてみた。


【婚姻届無事に受理されました♪今から二人でお父さんの墓前に報告に行って来ます】


……物凄くホッとした。ああ良かった。悪い報告ではなくて。取り越し苦労で済んで良かったと心の底から安堵した。流石にビッグフットさんも着ぐるみで婚姻届提出に付き合うような非常識さは持っていなかったようで本当に一安心した。


 ピコンッ

 

 続いてメッセージが送られて来たので開いてみた。

 絶句した。

 そこに添付されていたのはビッグフットの着ぐるみに嬉しそうに頬ずりする笑顔の母の姿だった。



 ……え?……着ぐるみで……行ったの?……



 ……え?……嘘だろ?……マジで!?……



 暫く思考停止した後我に返り、市役所の電話番号を入力し始めていた。



「ハイ、霧ヶ崎(きりがさき)市役所です」

「……あの、先程婚姻届を提出した鵺岡春海(ぬえおか はるみ )の身内なのですが……」

「……あー鵺岡さんの。この度は御結婚おめでとうございます」

「……ハイ???」

 職員からの電話越しからの第一声がこれだったので一瞬狐につままれたような気分になった。全く動揺を感じさせないハキハキとした声に逆にこちらが動揺した程だ。その後落ち着きながら、

「……えっとあの、なんか変な格好で来たと思うので……その節は誠に申し訳ないと言いますか……」

「変な格好とは?」

「……いやまぁそのビッグフットと言うか……ゴリラっぽい着ぐるみでお邪魔したと言うか……」

「?ゴリラ?…いえ?特に変な格好ではなかったと思いますが……」

 !!アレを変な格好ではないと!?普通の人が見たら怪しさMAXだろあんな着ぐるみ姿!!

「あの……気を使って頂かなくて結構ですんで。どう考えてもおかしい格好だったでしょ?」

「いえ?ごく普通の格好でしたけど?それは兎も角この度はおめでとうございます」

 !!普通の格好!?イヤイヤ!!お姉さん!!貴女の感覚おかしいんじゃないの!?あんな着ぐるみが窓口に現れたら俺なら速攻で110番する勢いだよ!?普通の格好な訳ないでしょーが!!


 ……そうか……分かったぞ?あまりにも現実離れし過ぎていて逆に普通な格好に見えてしまったに違いない。脳が思考を拒否してしまったのかも知れない。

 だがある時ふと我に返って思うに違いない。「アレって絶対普通ではなかった」と。そして得体の知れない恐怖が時間差で襲って来るのだ。こんな恐ろしい事があるだろうか?


 ああ、お姉さん申し訳ない。もしかしたら貴女の心に大きなトラウマを残す事になってしまったかも知れない。本当に申し訳ない。


 母よ、どうやら貴女の再婚相手はとんでもなく非常識なヤツだったみたいだな。少しでも好意的になってしまった俺が馬鹿みたいだ。

 墓前に報告?勝手に行けば良いさ。親父が認めてくれるとは限らないけどな。草葉の陰で泣いてるよ絶対に。「ああ、俺の嫁はこんな下らない男に引っ掛かってしまったのか」ってな。親父に同情するよ。

 ああでも、弟妹には罪は無いからな。その辺はちゃんと分けて考えるよ。俺は兄貴としての責務は果たすつもりだからな。アンタ達の事は今後は基本的にノータッチの方向で行くので宜しくな馬鹿夫婦。

 

 怒りと落胆で感情がゴチャ混ぜになっていると、


 ピコンッ


 今度は梅酒サンからだった。


【突然だけど今日の夜ヒマか?久々に飲まね?】


 間髪入れずに返信した。


【無問題です】


 ……飲もう。今日はとことん飲もう。飲んでこの感情全て洗い流してしまおう。今日は飲まずにいられない。


(続)

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