未来が視えなくなった私は『役立たず』と婚約破棄されました。でも、辺境で待っていたのは、昔から私だけを想ってくれた幼なじみでした
「未来も視えない女に、もう用はない」
ジェラルドは、ミレイユを一瞥もせずに言った。
大国アルデンの、第一公子。ミレイユの、婚約者だったはずの男。
「婚約は、破棄する。お前のような役立たず、もうこの国には必要ない」
広間に、貴族たちの嘲笑が広がった。
ミレイユは、何も言い返さなかった。言い返したところで、無駄だと知っていたから。
少し前まで、この国は、ミレイユを「聖女」と持ち上げていた。
未来を視て、災いを言い当てる娘。誰もが、彼女の言葉に、すがるように耳を傾けた。
それが、力を失ったとたん、これだ。
「最後に、何か言い残すことは?」
ジェラルドが、せせら笑う。
ミレイユは、ただ静かに、首を横に振った。
この人たちは、わたしを見ていたのではない。わたしの力を、見ていただけ。
そんなこと、とっくに、わかっていた。
◇ ◇ ◇
ミレイユは、もともと、貧しい家の娘だった。
大国アルデンの、ずっとはずれ。忘れられたような、小さな村。畑は痩せ、暮らしは苦しかった。
けれど、ミレイユには、ふしぎな力があった。
ときどき、これから起きることが、視える。
明日、嵐が来る。あの井戸は、じきに涸れる。北の森で、山くずれが起きる――。
断片的で、いつ起きるかまではわからない。それでも、その力は、村を救った。
嵐の前に作物を取り入れ、涸れる井戸を見限り、新しい水を掘る。ミレイユの言葉を、村のみんなで分け合い、そのとおりに備えた。
すると、どうだろう。
ほかの村が、嵐や日照りで作物を失う年でも。ミレイユのいる村だけは、損らしい損を出さずに済んだ。災いで失いさえしなければ、実りは、おのずと残っていく。
やがて、貧しかった村は、近くでいちばんの蓄えを持つようになった。誰ひとり、飢えることが、なくなった。
その噂は、やがて、国の中枢にまで届いた。
「辺境の村に、未来を視る娘がいる」と。
アルデンは、ミレイユを村から召し上げ、城へと連れていった。そして、第一公子ジェラルドとの婚約を、勝手に決めた。
貧しい村娘が、大国の公子の婚約者に。誰もが、玉の輿だと言った。
はじめのうちは、力も、ちゃんと使えていた。
ミレイユの予知は、アルデンに富をもたらした。凶作の年を見越して蓄えを増やし、訪れる災いを、起きる前に防ぐ。国は潤い、ミレイユは「聖女」と呼ばれた。
けれど、ミレイユ自身は、ずっと、息が詰まっていた。
ここでは、誰も、ミレイユを人として見なかった。
ジェラルドでさえ、彼女に向ける言葉は、いつも同じだった。
「次は、何が視える?」
愛されているわけでは、なかった。便利な道具として、置かれているだけ。
それでも、ミレイユは、自分に言い聞かせていた。
この力で、誰かを救えるなら。それでいい、と。
◇ ◇ ◇
すべてが変わったのは、あの日だった。
ミレイユは、視てしまった。
国境の町を、大きな災いが襲う。たくさんの人が、死ぬ。
ミレイユは、すぐにジェラルドに伝えた。町の人を、逃がしてほしい、と。
ジェラルドは、面倒くさそうに、報告書から目も上げなかった。
「あの町か。たいした産業もない、貧しい土地だろう」
ミレイユの予知が当たることは、ジェラルドも、知っていた。だが、それでも。
「住人を逃がすにも、移すにも、金がかかる。あんな、何も生まない町のために、私が出費をしてやる意味が、どこにある」
ジェラルドにとって、人の命は、損か得か。それだけだった。
「放っておけ。どうせ、たいして惜しくもない連中だ」
救えると、わかっていて。金を生まない町だから、見殺しにする。
ミレイユは、必死に訴えた。それでも、聞き入れてもらえなかった。
そして――視たとおり、災いは、現実になった。
救えたはずの命が、たくさん、失われた。
ミレイユの力は、確かに届いていたのに。その言葉を、握り潰されて。
その日から、ミレイユの中で、何かが切れた。
いくら目を凝らしても、もう、未来は視えなくなった。
まるで、心ごと、凍りついてしまったように。
◇ ◇ ◇
「お逃げください。あなたは、消されます」
婚約破棄の、その夜だった。
部屋にひとり残されたミレイユに、年老いた侍女が、そっと耳打ちした。
ミレイユは、息を呑んだ。
「……どういう、こと」
「力を失ったあなたは、もう用済みです。ですが、あなたは知りすぎている。この国の、弱みを」
侍女の声は、震えていた。
「使えない上に、危ない。だから、消す。――それが、あの方たちの答えです」
ミレイユの背に、冷たいものが走った。
捨てられるだけでは、済まないのか。
「でも、どうして、あなたが、それを……」
「わたしは、頼まれたのです。あなたを、必ず逃がすようにと」
侍女が、声をひそめた。
「――アーサー様に」
その名前に、ミレイユの心臓が、跳ねた。
アーサー。
貧しい村にいた頃の、幼なじみ。いつも、ミレイユの隣にいてくれた、あの少年。
数年前、アルデンのやり方に怒って村を出ていったきり、消息の知れなかった――あの、アーサーが。
◇ ◇ ◇
その夜、ミレイユは、わずかな荷物だけを抱えて、城を抜け出した。
侍女の手引きで、裏の通用門へ。そこに、一台の馬車が待っていた。
扉を開けると、中に、ひとりの男が座っていた。
深くかぶった頭巾を上げた、その顔を見た瞬間、ミレイユの目に、涙がにじんだ。
「……アーサー」
「久しぶりだな、ミレイユ」
昔より、ずっと背が高くなって、肩幅も広くなって。けれど、その穏やかな目は、村にいた頃のままだった。
「乗ってくれ。ここを離れる」
差し出された手に、ミレイユは、迷わず掴まった。
御者が手綱を鳴らし、馬車が、走り出す。眠る大国の街を抜けて、闇の中へ。
張りつめていたものが、ようやく緩んで、ミレイユは、小さく息をついた。
「……お前が、あの国で道具みたいに使われてるって聞いて、ずっと、気が気じゃなかった」
隣で、アーサーが、ぽつりと言った。
「だから、人を置いて、見張らせてたんだ。何かあったら、すぐ動けるように」
「……どうして、そこまで」
「俺さ、お前が城に連れていかれたあと、すぐに村を出たんだ」
アーサーの声に、苦いものが滲んだ。
「お前が、聖女だなんだと祭り上げられて、道具みたいに扱われてるって、噂で聞いた。あの国は、お前を人として見ちゃいない。ただ、便利な力としか、思ってない」
「アーサー……」
「あんな場所に、お前を置いておきたくなかった。けど、村育ちの俺じゃ、城に囚われたお前に、手も届かない。連れ出すどころか、会うことすら、できなかった」
前を見たまま、アーサーは、ぽつりと続けた。
「だから、決めたんだ。力をつけて、いつか必ず、お前を迎えにいくって」
その言葉の意味を、ミレイユは、まだ深くは考えられなかった。
ただ、凍りついていた心の隅が、ほんの少し、温かくなった気がした。
◇ ◇ ◇
二人がたどり着いたのは、辺境の小国――レンフィールだった。
大国アルデンの、ずっと西。痩せた土地の広がる、小さな国。
けれど、ミレイユは、すぐに気づいた。
この国の人たちは、よそ者のミレイユを、じろじろ見たりしなかった。素性も聞かず、ただ「腹は減ってないか」と、温かいスープを差し出してくれた。
アーサーは、この国の、将になっていた。
村を出たあと、流れ着いたこの国で、いくつもの武功を立て、今では、辺境の軍をまるごと束ねる立場にまで、上り詰めていた。よそ者の身ひとつから、実力だけで。
「ここは、貧しいけどな」
アーサーが、城下を歩きながら言った。
「人を、出身や肩書きで測ったりしない。困ってるやつがいたら、手を貸す。それだけの国だ」
ミレイユは、その言葉を、噛みしめた。
アルデンでは、力がすべてだった。視えなくなったとたん、ミレイユは「無価値」になった。
でも、ここは、違う。
「アーサー。わたし、ここに、いてもいいのかな」
「あたりまえだろ」
アーサーは、即答した。
「お前は、もう何も視えなくていい。役に立たなくていい。ただ、ここで、普通に暮らせばいい」
その言葉に、ミレイユの目から、また涙がこぼれた。
力があるから、価値がある。ずっと、そう思って生きてきた。
力がなくても、いていい。
そんなふうに言ってくれた人は、生まれて初めてだった。
◇ ◇ ◇
レンフィールでの日々は、おだやかだった。
ミレイユは、城下の小さな家を借りて、暮らしはじめた。畑を手伝い、子どもたちに文字を教え、近所の人と笑い合う。
アーサーは、忙しい合間をぬって、よく顔を出した。
重い荷物を運んでくれたり、こっそり果物を置いていってくれたり。多くは語らないけれど、いつも、さりげなく、ミレイユを気にかけてくれる。
凍りついていた心が、少しずつ、溶けていった。
そして――あの日が、来た。
その朝、ミレイユは、ふと、胸騒ぎを覚えた。
空は晴れていた。なのに、いやな予感が、拭えない。
夕方、川の様子を見にいったミレイユは、息を呑んだ。
上流の山に、亀裂が走っている。土の色が、おかしい。
――山くずれが、来る。
その光景が、まぶたの裏に、はっきりと視えた。村を呑み込む、土砂の濁流が。
視えた。
ミレイユは、その場に、立ちつくした。
失ったはずの力が、戻っていた。
なぜ、今。理由は、考えるまでもなかった。
守りたい、と思ったのだ。この国を。ここの人たちを。アーサーを。
誰かに命じられたからでも、道具として求められたからでもない。心から、守りたいと願った。
その願いが、凍りついていた心を、溶かしたのだ。
ミレイユは、駆け出した。
「アーサー! みんなを、川の近くから逃がして! 山がくずれる!」
息を切らして叫ぶミレイユを、アーサーは、一瞬、見つめた。
そして、何も聞かずに、頷いた。
「わかった。お前が言うなら、間違いない」
アーサーは、すぐに隊を動かした。川沿いの家から、人々を高台へ。
その夜、山は、くずれた。
濁流が、村のあった場所を、呑み込んだ。
けれど――誰ひとり、欠けなかった。
ミレイユの力が、今度こそ、間に合ったのだ。
◇ ◇ ◇
それから、ミレイユは、レンフィールのために、その力を使った。
日照りを先に読んで、水をためる。不作の年を見越して、蓄えを増やす。病の兆しを察して、広がる前に手を打つ。
痩せていた辺境の国が、少しずつ、豊かになっていった。
でも、ミレイユのやり方は、アルデンにいた頃とは、まるで違った。
ミレイユは、視たことを、独り占めにしなかった。みんなに伝えて、一緒に備えた。力を、分け合った。
レンフィールの人々は、ミレイユを「聖女」とは呼ばなかった。
「ミレイユ」と、ただ名前で呼んで、仲間として、迎えてくれた。
それが、どれほど嬉しかったか。
「お前、最近、よく笑うようになったな」
ある日、アーサーが、ぽつりと言った。
ミレイユは、はっとした。
言われてみれば、そうだった。アルデンにいた頃は、笑った記憶など、ほとんどない。
「……うん。わたし、今、しあわせなのかも」
そう答えると、アーサーは、ふっと、優しく笑った。
その笑顔に、ミレイユの胸が、とくん、と鳴った。
◇ ◇ ◇
けれど、しあわせな日々は、長くは続かなかった。
レンフィールが豊かになったという噂は、やがて、大国アルデンの耳にも届いた。
そして、アルデンは、気づいてしまった。
その豊かさのもとが、かつて自分たちが捨てた「予知の女」だと。
「あの女……力を、取り戻したのか」
報告を受けたジェラルドの顔が、険しくなった。
予知の力。その厄介さは、誰よりも、ジェラルドが知っていた。失われたはずのあの力が、今は、敵の手の中にある。
放っておけば、辺境の小国は、予知を使って力をつけ、いずれ、アルデンの脅威になりかねない。
「芽のうちに、摘んでおくべきだな」
ジェラルドは、冷たく笑った。
「だが――しょせんは、未来が少し視えるだけの女だ。先が読めたところで、何ができる。こちらには、その何十倍もの兵がある」
予知は、万能ではない。ジェラルドは、それを、よく知っていた。
いつ、何が起きるか。そのすべてを、正確に視られるわけではない。ぼんやりとした凶兆が、断片的に視えるだけ。
ならば、先を読まれたところで、覆せぬほどの大軍で、押し潰せばいい。
「あの女ごと、辺境の小国を、踏み潰してくれる」
ジェラルドは、自ら、軍を率いることにした。
捨てたはずの女に、よその国で輝かれた屈辱。それを、自分の手で晴らさずには、いられなかった。小国ひとつ潰せば、確実な手柄にもなる。
アルデンの大軍が、レンフィールへと、押し寄せた。
国力の差は、歴然だった。小さな辺境国に、勝ち目などないように見えた。
城は、重い空気に沈んだ。
その中で、ミレイユは、静かに立ち上がった。
「わたしに、考えがあります」
ミレイユは、レンフィールの王と、アーサーの前で、告げた。
「アルデンの弱みなら、わたしが、誰よりも知っています。あの国で、ずっと、視てきましたから」
ミレイユの目に、もう、迷いはなかった。
「それに――これから何が起きるかも、視えます。今のわたしには」
◇ ◇ ◇
戦が、始まった。
けれど、レンフィールは、ただ攻められるだけでは、なかった。
ミレイユの力が、戦のかたちを、変えていた。
「明日の夜明け、東の谷で、待ち伏せに遭います。あの道は、通ってはいけません」
ミレイユが告げると、アーサーは、軍を、そちらへ向けなかった。
はたして、東の谷には、アルデンの伏兵が、ひそんでいた。獲物が来ないまま、その罠は、むなしく空を切った。
「次は、北から、火矢が来ます。川を背にして、陣を敷いてください」
ミレイユが視た凶事を、レンフィールは、ことごとく避けた。
待ち伏せを、よけ。奇襲を、読み。罠を、踏まない。
降りかかるはずだった不幸を、起きる前に、すべて、かわしていく。
村にいた頃、嵐を避け、山くずれを避けたように。
ミレイユの力は、未来の災いを、未然に防ぐ力だった。それが今、戦場で、味方の命を、ひとつも散らさずに、守っていた。
アーサーは、その読みを信じ、迷わず動いた。
傷つくことなく、アルデンの攻め手だけを、空振りさせていく。寡兵のレンフィールは、ほとんど被害を出さぬまま、大軍を、じわじわと、消耗させていった。
アルデン軍は、混乱した。
仕掛ける罠が、ことごとく、かわされる。奇襲は読まれ、伏兵は、空を切る。まるで、こちらの手が、すべて、先に知られているかのように。
「ばかな……あの女の予知、ここまでとは」
ジェラルドの余裕が、少しずつ、削られていった。
国力の差で、押し潰せると、踏んでいた。だが、いくら兵を繰り出しても、その刃が、相手に届かない。届く前に、よけられてしまう。
数の力が、まるで、活かせなかった。
やがて、攻めあぐねたアルデンの大軍は、足並みを乱し、総くずれになった。
そして――陣の奥で指揮を執っていたジェラルドが、アーサーの手で、捕らえられた。
◇ ◇ ◇
縄を打たれたジェラルドの前に、ミレイユは、静かに歩み出た。
かつて、自分を「役立たず」と嘲笑った男。広間で、嘲りの的にした男。
ジェラルドは、ミレイユを見上げて、憎々しげに、顔を歪めた。
「貴様……よりにもよって、私を、こんな目に」
「あなたが、捨てたからです」
ミレイユの声は、おだやかだった。怒りも、勝ち誇りも、なかった。
「あなたは、わたしの力を、独り占めにして、握り潰しました。自分のためだけに、使おうとした。だから――失ったのです」
ミレイユは、まっすぐに、ジェラルドを見つめた。
「わたしの力は、独り占めにするものでも、握り潰すものでもありませんでした。分け合うものだったんです。あなたには、最後まで、わからなかったようですね」
ジェラルドは、何も、言い返せなかった。
かつて道具として見下した女に、今、すべてを見透かされ、敗れている。その事実だけが、重く、のしかかっていた。
ジェラルドは、引き立てられていった。
二度と、ミレイユの前に、現れることはないだろう。
◇ ◇ ◇
総大将を失ったアルデン軍は、戦う気力をなくし、敗走していった。
第一公子を捕らえられたという痛手は、大きかった。アルデンは、その身柄と引き換えに、多くの賠償を呑まされ、当分のあいだ、レンフィールに手を出せなくなった。
むろん、大国が、これで完全に牙を抜かれたわけではない。いつ、また何が起きるかは、わからない。
それでも――今は。
戦が終わり、レンフィールに、つかのまの平穏が戻った。
ミレイユは、城の見える丘で、ひとり、風に吹かれていた。
たくさんのものを、取り戻した。失った力も。
でも、それより、もっと大切なものを、手に入れた気がした。
人として、扱われる場所。心から、守りたいと思える国。そして――。
「こんなところにいたのか」
声に振り向くと、アーサーが、立っていた。
ミレイユは、微笑んだ。それから、ずっと、聞きたかったことを、口にした。
「アーサー。ひとつ、聞いてもいい?」
「ああ」
「あなたは、どうして、わたしを助けてくれたの。命がけで、村を出てまで」
アーサーは、しばらく黙っていた。
いつも即答する彼が、めずらしく、言葉を探すように。
そして、ようやく、口を開いた。
「……昔から、お前が、好きだったからだ」
ミレイユの、息が止まった。
「貧しい村にいた頃から、ずっと。でも、お前は、大国に望まれる娘になって。俺なんかじゃ、釣り合わないって、諦めてた」
アーサーの頬が、わずかに赤い。
「でも、お前が、道具みたいに扱われて、捨てられかけてるって聞いたとき。もう、諦めるのは、やめた。何があっても、お前を守るって、決めたんだ」
ミレイユの目に、涙が、あふれた。
アルデンでは、誰もが、彼女の力を求めた。力がなくなれば、ミレイユは、無価値になった。
でも、アーサーは、違った。
力があってもなくても。聖女でも、役立たずでも。
ただ、ミレイユだから。
そばに、いてくれた。
「アーサー」
ミレイユは、涙を拭って、笑った。
「わたしを、未来が視えるからでも、役に立つからでもなく……ただ、わたしだから、想ってくれたのはあなただけよ。」
ミレイユは、一歩、アーサーに近づいた。
今度は、自分から。
「わたしも、あなたが好き。ずっと前から、きっと」
アーサーが、目を見開く。
それから、そっと、ミレイユを抱き寄せた。
大きくて、温かい腕の中で、ミレイユは、思った。
もう、力で、自分の価値を、はからなくていい。
ここには、ありのままのわたしを、見てくれる人がいる。
この先、また、大国が牙を剥く日が来るのかもしれない。
それでも、もう、こわくはなかった。
隣に、この人がいてくれる。それだけで、どんな未来だって、きっと、乗り越えていける。
――視えない未来も、ふたりでなら。




