ヴィーラの語る魔法論
この作品は拙作『転生者なんて負け組だ』の世界で使用される魔法について登場人物達が語る形式の読み物です。
本編を読んでいなくても独立した読み物としてお楽しみいただけます。
(たまに本編のネタが入っておりますが…)
魔法について説明するわ。
ダンカンが魔法のことを偉そうに語っていたけれど、彼の説明は支離滅裂よ。
あれでは魔法のことが益々わからなくなってしまうわ。
しかも、精霊魔法のことしか言ってないじゃない。
彼、自分でも開き直っているけれど精霊魔法以外は苦手なの。
許してあげて。
それでは私から魔法について説明するわね。
私はライオスエルフだから使う魔法はヒト族とは少し違うのだけれど、できるだけヒト族やドワーフ、ノームが使う魔法を中心に説明して、時折、エルフの魔法や私の知っている限りのオークやゴブリンの魔法についても注釈をつけるわ。
まず魔法の分類ね。
魔法には二つの分け方があるの。
一つは古代魔法と現代魔法。
古代魔法というのはその名の通り、古の時代の魔法よ。
もっと詳しく言うと上古の時代と芽吹きの時代に神々が諸族に教えた魔法ね。
神々の魔法はとても強力だけど、人間にとっては難解すぎるの。
神々も人間達が自分達と同じことができるとは思っていないでしょうから、できるだけ簡単にして教えたのだと思うのだけれど、それでも難しいわ。
現在、古代魔法を正確に使えるのは私の父、アルベリッヒ上級王くらいね。
古代魔法を正確に使える者はほとんどいないけれど、古代魔法を込めた呪符物ならごく稀にだけどあるわ。
例えばソニアが使っている変身のネックレスね。
ソニアは黒髪に黒い瞳だけど、あのネックレスをつけているおかげで、銀髪に灰色の瞳に見えるのよ。
あんな変身をさせるような魔法を使える者はいないけれど、上古の時代にはいたのね。
古代魔法が難しいのは理解できないことなの。
無責任なこと言うようだけれど、本当に全ては理解できないのよ。
そう言えば、ダンカンが『古代魔法って、なんだかわからないけど、こう動きながら、こう唱えて、こう魔力を使えば、何故かはわからないが実現しちゃう感じの魔法だよね』なんて言ってたわ。
気持ちはわかるけれど、流石にあれは暴論ね。
私達エルフはずっと研究をしてきて、少しは古代魔法のことを理解しているつもり。
そして理解できたことを活かして上古の時代の魔法に及びもしないけれど私達なりの古代魔法を曲がりなりにも使っているわ。
現代魔法は難解な古代魔法を人間に分かりやすいよう論理的に整理して体系化した魔法ね。
ヒト族やドワーフ、ノームの使う魔法は現代魔法ね。
彼らが発明したんだもの。
オークやゴブリンの魔法も現代魔法ね。
歴史的に交わりがなかったから、それぞれで作り上げたわけだけど、両者の現代魔法はよく似ているわ。
結局、人間の理解できる範囲は種族が異なっても同じなのよね。
私達、エルフも現代魔法を使うわ。
簡単で便利だから。
エルフの古老の中にはヒト族が発明した魔法を使うなんて恥だ、という考えを持つ者もいるけれど、私達はこう見えて功利的なのよ。
例えヒト族が発明したものでも便利であれば、使わせていただくわ。
それにヒト族が現代魔法を編み出す過程では私達エルフもかなり関わっているのよ。
現代魔法はわかりやすく論理的に体系化されている代わりにできることが大きく制限されることが欠点ね。
例えばさっきのソニアの変身のネックレス。
あのような変身を実現する魔法は現代魔法には存在しないわ。
現代魔法であれば大気の精霊と水の精霊を使役して光の屈折を利用して、本来と少し違う見え方にするのが精一杯ね。
ダンカンがたまに使っている遠見の術なんか、まさにそれね。
遠見の術は大気の精霊と水の精霊を使役して遠くのものをはっきり見る魔法よ。
ダンカンが転生前の『レンズ』がどうとか言っていたけれど、『レンズ』って何よ?
彼、転生者だから私達にはわからないことをたまに言い出すのよね。
魔法のもう一つの分類は、真魔法、身体魔法、精霊魔法の三つね。
これは現代魔法における分類よ。
古代魔法にはそんな論理的な分類は適さないわ。
真魔法は魔力そのものを使用する魔法よ。
ヒト族の魔法で言えば、魔法封じや探知魔法ね。
魔法封じの術は魔力を膜状にして対象の人物や物にかけることで他社の魔法から守る術ね。
探知魔法は魔力を放射状に飛ばして、魔力が触れたものを感じることで探知する術よ。
どちらも魔力そのものを操るでしょ?
それが真魔法ね。
ね?
論理的でしょ?
これが現代魔法の特徴よ。
まったくもってヒト族らしいわ。
ちょっとおかしいのはあれだけ理屈っぽいくせにダンカンがこの理屈っぽい真魔法が全く苦手ってこと。
彼、理屈っぽいだけで、結構いい加減だからかしら?
ソニアも苦労するわ。
他にも呪符魔法も真魔法に属するわ。
呪符物を作る魔法ね。
呪符物というのは魔法を封じ込められたものよ。
例えば発火の術を石や鉄に封じ込めてできたものが魔法の火打ち石ね。
これも発火の術は精霊魔法だけれど、それを封じ込めるのは魔力を用いて操作するので真魔法なのね。
因みに真魔法が苦手なダンカンが唯一と言っても良いくらいうまく作れるのが『煙玉』よ。
普通は火の精霊を使役して発煙の術を水の精霊も使役することで大量の煙を起こせるようにしたのよ。
これでソニアが一度命拾いしているのだから、彼の傑作ね。
但し、結局すごいのは彼オリジナルの発煙の術なわけで、真魔法の方は苦手だから一回しか使えないのよね。
私が使うエルフの矢も真魔法と言えるわね。
エルフの矢は古代魔法だけれど魔力そのものを成型して攻撃するわけなのだから。
次に身体魔法。
これは治癒魔法ね。
治癒魔法は魔力を対象の傷口から侵入させて回復が早まるように魔力で促進する魔法なの。
これも魔力そのものを使うわけだから真魔法に近いのだけれど、どちらかというと魔力を用いて人体の一部を使役する魔法ね。
人間は例えば腕や脚を欠損してしまえば、また生えることはないけれど、開いた切り傷を閉じて皮膚を再生する能力はあるわ。
折れた骨をもう一度引っ付ける能力もね。
そんな人体の自己修復する能力を魔力で促進させるのが治癒魔法ね。
そして欠損した腕や脚は魔法でも治せないわ。
治癒魔法にできることは人体ができることの促進だけなんだから。
それでも出血多量による死なんかは傷口をすぐに閉じることで防げるわね。
そう。
治癒魔法は主に外傷を治す魔法なの。
風邪を治す治癒魔法はほとんどないわ。
人体には風邪に抵抗する能力だってあるのだから、魔力でそれを促進すれば風邪を治す魔法ができそうなのだけれど、まだ成功した者はいないわ。
毒に抵抗する力を促進する毒消しの術は存在するわ。
但し、難しいし、人体の力では抵抗できない毒には無効よ。
ヒト族の中にはエルフが古代魔法で風邪をなおしてしまうという俗説があるけれど、私達エルフでも風邪を治す古代魔法なんて使えないわ。
ただ、古代魔法の中に人体に魔力を送り込んで薬の効きをよくする魔法はあるわ。
例えば血の巡りを良くする薬があるのだけれど、私達の使う古代魔法にはこの薬の効果を高める術があるわ。
勿論、軽い風邪ならそれで治ってしまうわ。
そのあたりから出た俗説ね。
古代魔法も万能ではないのよ。
最後に精霊魔法ね。
精霊魔法はその名の通り精霊を使役する魔法ね。
古代魔法にも精霊魔法は存在するわ。
ただ、そんな呼び方や分類がないだけ。
原理は同じよ。
精霊魔法は精霊の使役の方法で色々な術に分かれるわ。
精霊魔法が得意なダンカンがよく使う炎の玉や稲妻の術などね。
精霊は火の精霊、大気の精霊、水の精霊、大地の精霊の四大精霊がいるわ。
例えば、炎の玉の術なら火の精霊を使役するし、真空の刃の術なら大気の精霊を、放水の術なら水の精霊を、重力の術なら大地の精霊を使役するの。
精霊魔法も魔力を使うのだけれど、使い方が少し真魔法や身体魔法とは異なるの。
精霊を使役するのは、人の想いによって使役するの。
魔力によって使役するわけではないわ。
魔法の使い手が精霊にこうして欲しいと強く想うことに精霊が反応して魔法が成立するのよ。
この時、魔力も使うのだけれど、『魔力を使って想いを精霊に伝える』というよりは『強く想うことで精霊に伝わるとき自然と魔力も消費する』という感じなの。
魔力を操作するというより想いを精霊に伝えると自然に魔力が消費されるのよね。
要は魔力そのものを操作するわけではないから真魔法と身体魔法が苦手なダンカンでも使えるのよね。
よく考えたら、あの人、本当に魔法使いなのかしら?
精霊に想いが伝わる時に魔力が消費されるといったけれど、精霊魔法でもっと魔力を消費するのは精霊の活動よ。
精霊が自然にない行動をすれば大量の魔力を消費するわ。
その魔力は精霊が術者から吸い取ってしまうの。
例えば、火打石で火花を起こして乾いた藁に火をつける時、魔力は一切消費しないわ。
それは自然な精霊の活動だから。
でも炎の玉の術を使用して、虚空に炎の玉を作り出せば、それは自然なことではないから魔力を消費するの。
だから精霊魔法で起こす事象が大きければ大きいほど魔力消費は激しくなるわね。
精霊魔法は真魔法よりも身体魔法よりも魔力を大きく消費するわ。
精霊は大食漢なのよ。
精霊魔法は精霊の使い方で千差万別の術が存在するわ。
ヒト族やノーム、ドワーフ達はそれを決まった術に限定することで簡単に学べるようにしているわ。
その枠を超えて自分で考えた術を喜んで使いたがるダンカンは少し変わりものね。
ソニアも先が思いやられるわ。
でもダンカンのやり方こそが本来の精霊魔法のやり方なのよ。
精霊は本来、なんでもできるのよ。
無限の可能性があるの。
だからヒト族やドワーフ、ノームのように簡単だからと言って限定してしまうのはもったいないわ。
ダンカンはよく複数の精霊を組み合わせて使役するけれど、それも良いやり方よ。
精霊魔法は単体の精霊を使役するよりも複数の精霊を組み合わせる方がより多くのことができるわ。
稲妻の術は最初から大気の精霊と水の精霊を使役する術として確立されているけれど、火の精霊だけを使役する炎の玉の術で大気の精霊も使役すると更に強力な術になるわ。
もっともそれだけ魔力は多く消費されるのだけれど。
その点、私達エルフは古代魔法の考え方で精霊魔法を使うけれど、この方が現代魔法の精霊魔法よりも少ない魔力で大きな効果が得られるわ。
古代魔法は神々の魔法の系譜に属するわ。
精霊達も創造神様に創られたから神々の魔法の系譜に属する古代魔法により反応するのね。
オークやゴブリンは彼ら自身で作り出した現代魔法を使うけれど、精霊魔法の使い方は私達エルフに近いわね。
古代魔法の応用をしているの。
オークやゴブリンの住むヴァラキアの方が古代魔法がまだ伝わっているのよ。
精霊魔法は精霊を使役する魔法なのだから、術者の想いに精霊が応えてくれないと成立しないわ。
精霊がどれだけ応えてくれるかは、術者と精霊の相性のようなものがあるの。
そこが真魔法や身体魔法と違うところ。
精霊というのは不可思議な存在でどうすれば応えてくれるかなんてわからないわ。
だから、一般的にヒト族では真魔法や身体魔法より難しいとされているの。
それなのに精霊魔法だけが得意というダンカンは少し変わっているわね。
魔法の世界はとても奥深く、ちょっとやそっとのことでは理解できないけれど、簡単に説明すればこんな感じね。
ね?
どう?
ダンカンの説明よりはわかりやすかったでしょう?
ありがとうございました。
これで『ワールドガイド 魔法論』はこれで完結です。
この作品は拙作『転生者なんて負け組だ』の舞台となる世界の魔法についての読み物でした。
もし、お気に召したら是非、本編もお楽しみください。




