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ダンカンの語る魔法論

この作品は拙作『転生者なんて負け組だ』の世界で使用される魔法について登場人物達が語る形式の設定資料です。

本編を読んでいなくても独立した読み物としてお楽しみいただけます。

(たまに本編のネタが入っておりますが…)

魔法について話をしよう。

俺はこちらの世界に転生してきて、今では魔法使いだ。

そう。

こちらの世界では魔法が使えるんだ。


まだ赤ん坊の頃、ようやくこちらの言葉がある程度理解できるようになってきた頃だ。

俺のこちらでの両親ロバートとアリシアが魔法について話しているのを耳にした時は興奮した。

俺も魔法を使えるんだ!

ってな。

前の世界でもファンタジー世界に憧れていたからな。

しかし、魔法に無縁な彼らの話題に魔法がのぼることはほとんどなかった。

やきもきしたね。

もっと、魔法のことが知りたい!ってな。


俺が話せるようになって…

前世の記憶をそのままに転生はしたが、体が然るべき成長をするまでは話をすることは不可能だった。

声が出せるようになっても、思うように発音できないしな。

また、いきなり話ができてもロバートとアリシアがびっくりするだろう?

我慢していたのさ。

兎に角、話せるようになったら、魔法のことを聞き出した。

よく覚えている。

寝物語に魔法使いの出てくるおとぎ話をアリシアがしてくれたんだ。

俺はできるだけ舌足らずに『魔法?魔法?』って聞いたんだ。

アリシアは笑って言ったものだ。

『あらあら、坊やは魔法に興味があるの?魔法を使えるのはほんの一握りの人なのよ。あなたも使えるようになると良いわね。』

勿論、アリシアはこんな複雑な会話を俺が理解しているとはわかっていない。

しかし、この頃の俺には凡そ理解できるようになっていた。

俺はショックを受けた。

誰でも魔法が使えるわけではない!

魔法使いになれるのはほんの一握りだと?

救いもあった。

アリシアは『あなたも使えるようになると良いわね。』と言ったんだ。

つまり、俺にも魔法使いになれる可能性があるわけだ。


もっと大きくなると俺には家庭教師がつけられた。

遠い親戚の老人だ。

バーン=マカリスター。

俺はダンカン=マカリスター。

同じ家名の通り親戚だ。

そして、なんと、その人が南方では有名な大魔法使いだった。

後に俺の魔法の師匠となるから、俺はバーン師と呼ぶ。

バーン師はすぐに俺に魔法の才があることを見抜いた。

「ダンカン。お前には魔法の才があるな。まだ早いが少しずつ教えてやろう。」

後から知ったことだが、バーン師はこの頃には俺が転生者だと疑っていたらしい。

その上できちんと家庭教師をして魔法まで教えてくれたんだから、感謝だ。

なにしろ、この世界では転生者は忌まわしきものとされていて、ばれたら捨てられたりするのが当たり前なんだ。

殺されることだってある。

普通はどんなに早くても十代半ばで始める魔法の修行を俺は五歳から始めた。


繰り返すがこちらの世界には魔法が存在して、魔法を使うことができる。

さっき言った通り誰でも魔法が使えるわけではなく、魔法が使えるのはごく一部の人だけだ。

けれど、理論上では誰でも魔法をかけることはできることになっている。

魔法には『かける』、『成立する』、『実現する』という三つのステップがある

誰でも魔法を『かける』ことはできるが、それで魔法が『成立して』、術を『実現できる』かは別問題なんだ。


例えば、炎の玉の魔法をかけるとする。

炎の玉の魔法をかける為の呪文や頭に浮かべるべき事はこうですってのは明確に文書化されている。

一般人にはなかなか手に入らないだろうが、望めば入手できる。

そして、それを読んでその通りにすれば、誰だって炎の玉の魔法は『かける』ことはできる。

でも、だからと言って魔法が『成立』し、術が『実現する』かといえば、それは別の話なんだ。

それが魔法が使える人と使えない人の違いなんだ。


まずは魔法を『かける』、『成立させる』、術を『実現させる』ってことを話さなきゃだな。


魔法を『かける』ってのはさっき言った通り、必要な呪文を唱え、必要なことを頭に浮かべ…

浮かべるっていうと簡単だが、魔法では精霊を使役したり、魔力を操って自他の体内に入り込んでその組織に干渉したりするんだ。

だから、頭に思い浮かべるというよりは精霊に頭の中で伝えたり、己の中にある魔力に命令するってことなんだけどな。

とにかくここまでが魔法を『かける』ってことなんだ。


魔法使いが魔法をかける時、呪文を唱えたり、杖で指し示したりするんだが、これらのアクションは必須ではない。

さっき言った通り『かける』というのは頭の中で色々やるからな、ちょっとでも別のことが頭をよぎるとダメになってしまう。

そこで自分が頭に思い浮かべるべきことを口にしたり、魔法をかける方向を杖で指すことで頭の負担を軽減したり、魔法を『かける』ことに没頭する補助になるんだ。

俺は独り言を言いながら考えた方が集中して考えられる方なんだが呪文はまさにそれだな。

因みに熟練者になるとそこを簡略化しても魔法を『成立』させ、術を『実現する』ことができてしまう人もいる。


次に魔法が『成立する』という話なんだが、ここからは難しい。

さっきの炎の玉の魔法を例に挙げれば、魔法をかけた後、火の精霊がそれを受けて反応してくれるかどうかだ。

魔法の使い手が頭の中で思い浮かべた意思を精霊が受け取り、リアクションをおこしてくれれば、魔法が『成立した』ことになる。

『成立』のするしないは魔力の有無ではなくセンスによる。

魔力は全ての人間に等しく備わっている。

魔法使いでなければ、ただ魔力を持っているだけになってしまうんだが…

後で説明するが魔法のセンスがあるから、魔法を『かける』ことで魔力を操ったり、魔力を消費して精霊に伝えたりすることができるんだ。

センスと言うが俺も魔法を使っていてもなかなか魔力を意識することができない。

無意識にできてしまうんだ。

本当にセンスとしか言いようがないな。


術を『実現する』は成立した魔法が使い手の思い通りの現象をおこせるか否かだ。

魔法が『成立して』も、精霊が使い手の意思とは異なることがおきれば、それは術が『破綻した』と呼ばれ、一番やってはいけない失敗とされている。

炎の玉で言えば、例えどんなに小さくても炎の玉が出現して、指示した場所まで行って炸裂すれば成功だ。

その炎の玉が石ころ程度の大きさだったとしてもな。

しかし、炎の玉の術を使ったのに、意図していないものを燃やしてしまったりすれば、それは術が『破綻』したと言う。

『破綻』がやってはいけない失敗と言われるのは危険だからだ。

魔法ってのは恐ろしいことを『実現』するんだ。

それが意図したものと違えば危険だろ?


師匠が弟子に魔法を教える時、出来が悪くて機嫌が悪かったとする。

弟子が魔法をかける時に、師匠の顔色を窺ったりすると、火の精霊がその思考を拾ってしまい、魔法が『成立して』火がおきても、術が『破綻』してしまい、思った通りに炎の玉になって飛んでいかず、師匠の顔を燃やしてしまいかねない。

術が『破綻する』のは危険なんだ。


魔法の術を『実現』できるところまでいけるかどうかは属人的な問題なんだが、かといって生れた時から決まっているのかと言われるとそうでもない。

後天的なものに左右されるんだが、生まれつきの才能ってのもあるのはある。

わかりにくいな。

わからないよな?


俺にも言語化して説明するのは難しいんだが、俺は『絵が描ける』『絵が描けない』が近しいと思っている。

よく『絵が描ける人』っているだろう?

でも、『絵が描けない人』っているか?

絵なんて誰だって描くだけならできるだろ?

魔法を『かける』のは誰でもできるってのはそれだ。

でも、うまい下手があるから『絵が描ける』『絵が描けない』って言うんだ。

じゃあ『絵が描ける』人と『絵が描けない』人の違いが何かと言うと…


一つはセンスだ。


よく絵心がある人っているだろ?

そういう人って何気なく描いた絵でも、他人が見るとどこか素敵に見えるんだ。

これってセンスだと思う。

生まれついてのものなのかもしれないし、これから話す他の要素の結果、身についたものかもしれない。

とにかく絵で言うところの絵心的な要素が魔法では大きい。

『魔法心』なんて言葉はないから、まぁ魔法のセンスと呼ぼう。

魔法では目に見えない、手で触れない魔力を操ったり精霊を使役したりするんだ。

これには魔法のセンスが必要だ。

これは先天的なものなのかもしれないし、魔法の修行の過程で会得するものなのかもしれない。

俺は特に精霊と交信するセンスはあまり苦労せずに感じることができたから、よくわからない。

センスがなければ魔力や精霊を感じることもできなければ、操ったり、使役することもできない。

センスがあってこそ、やっと『かけた』魔法が『成立』する。

この魔法のセンスはこちらの世界でしか存在しないようだ。


あれ?

もしかしたら、転生前の世界でも魔法を『かける』だけならできてたのかもな?

なんかそんな気がする。


とにかく魔法のセンスがあるか否か。

そこが魔法の第一歩だ。

ここで魔法使いになれる、なれないが大きく別れるんだ。


二つ目は気持ちだ。


そもそも『絵が描きたい』と思っていなければ、何か絵を描くことがあっても、何も考えず適当に描いてしまうだろ?

多分『俺、絵なんて描けないし』って思っている人にとっては自分の描いた絵がその対象物に見えるかどうかや他人からどう見えるかなんてあまり興味がないんだと思う。

でも『絵が描きたい』って気持ちがあれば、どうやったらそれをもっとうまく描けるんだろう?とかどう描けば、他人にわかってもらえるか?とか考えるし、工夫する。

その違いって大きいと思うんだ。

はっきり言って魔法って難しい。

魔法を使いたいという強い気持ちを持って、真剣に取り組まなければ絶対に無理だ。

魔法のセンスが必要な水準以上にあって最低限の教えを受ければ、さして努力せずとも精霊の存在を感じ、意思を伝達するところまではいける。

しかし、魔法を『成立』させる為には、それなりの『魔法をかけたい』という気持ちが必要なんだ。

精霊魔法で言えば、それだけ強く希うから精霊に響くし、反応もしてくれるってわけだ。

そこで初めて魔法が『成立』させられるんだ。

要は気持ちなんだな。

気持ちがあれば、一つ目のセンスが多少欠如してたって補えるってもんだ。


三つ目はスキルだ。


『絵が描ける』人ってのはきっと見たものを正確に理解し、自分の中で整理して把握できてると思うんだ。

例えば、『恐竜の絵を描いて』と『絵が描ける』人に頼めば、『絵が描ける』人はどんな恐竜を描くかを頭の中で思い浮かべ、その形を頭の中で正確に把握し、絵という平面に落とし込むにはどうしたら良いかを考え、絵を描くと思うんだ。

それができるってのはスキルだと思う。

そこまでできている人の絵であれば、しっかり恐竜に見えると思うんだ。

逆にそれができていなければ、なんか恐竜に見えない…ってなるだろ?

魔法だってそうだ。

自分が起こしたい事象をどれだけ正確にイメージして精霊に伝えられるかってのはスキルだ。

せっかく魔法を『成立』させても、術が正確に『実現』できるどうかはこのスキルに左右される訳だ。


四つ目は努力だ。


画家になりたい、イラストレーターになりたい、漫画家になりたいと思えば絵の練習をする。

デッサンを繰り返すだろう、描こうとする対象物の研究をするだろう。

人物を描きたいと思えば、その骨格や筋肉のつき方まで勉強しなければ正確な絵は描けないだろう。

転生前の世界でビアトリクス・ポターは動物の絵を描く為に、幾度も死んだ動物を解剖して研究したと聞いたことがある。

魔法だって同じだ。

練習に練習を重ねて、やっと術を正確に『実現』させられるんだ。

俺だって、魔法の修行だけは熱心にやった。

努力が必要なのは全てのことに共通するよな。


ま、俺に言わせれば魔法使いになるってのはそういうことだな。

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