第2話 寄辺との出会い
女神ルナSide
悪魔との戦争で私は最愛の妹リューヌを失った。
残ったのは力だけ。
親しい人が誰も居なくなって全てがどうでもよくなった。
だから私は気が触れたんでしょう。
信者達から囁かれたある事を鵜呑みにする程に。
【世界を滅ぼしてやり直せばまた皆に会える】
信者から言われたその言葉を聞いた私もそう思ってしまった。
世界をやり直し最愛の妹に会えると。
そして神族を裏切り悪魔側へと寝返る。神族の姿勢は現状維持、つまり今のままではどうやってもやり直せない。だから神族と敵対する悪魔側に寝返ったの。
それに悪魔ごとき神族を片付ければどうとでもなると思ってたから。
けれどその考えが甘かった。
悪魔が私に歯向かうなど、ましてや神族を相手取っている最中に裏切るなど微塵も考えていなかった。
だから私は悪魔と手を組んでいた人族がお供えとして出したお酒に混ぜられた睡眠薬に気付かずに酒を飲み干し眠ってしまった。
「ここ……は……?」
起きた時には全てが手遅れ。
私は深く暗い地下に幽閉され両手両足を拘束され宙吊りにされていたわ。
おそらく地下牢まで引き摺られたのでしょうね、服はボロボロで身体中にも傷があったわ。
「力が……」
神気がゆっくりと少なくなっていくのが分かった。
どうやら悪魔どもは神気を奪う術を持ってるようね。
それから何度か脱走を企てたけれど脱走どころか拘束具を外すことすら叶わなかったわ。
悪魔どもは時間を掛けてじんわりと、じんわりと、残った私の神気を身体から抜き取っていった。
わざとゆっくりと抜き取って分からせて、絶望させるの。そうして最後に穢すのでしょう。
そういった負の感情は悪魔の力の源にもなる、だから悪魔どもはわざと私を穢さなかった。
日に日に弱くなる私の力、そして純潔を散らされるであろう日が近付くと私の心は悪魔どもの狙い通りに徐々に恐怖と絶望に彩られていったわ。
繰り返す孤独な日々、一人目覚める時に差し込む光は無く暗闇に閉ざされた世界。それでも微かにリューヌと巡り合う夢をみて正気を保ち、気丈に振る舞う。
それを見て悪魔の配下の魔族達は卑しく笑った。
それが見かけ倒しの勇気だと分かっていたのでしょう。
そうして神気が尽きかけたある日。
近付いてくる足音、もう駄目だと思った。
願った筈の温もりは無くただ孤独に純潔を散らされて死ぬのだと、そう思った。
けれど現れたのは悪魔でも魔族でもないただの人族だった。
「もう大丈夫です、今助けますから」
鉄格子を開け、捕らえられた私の拘束具を外してくれた、長い事囚われていたことで力が入らない私は星の重力に従って身体が前へと倒れる、けれど彼が優しく抱きとめてくれた。
そんな彼から感じた温かさは私が長年求めてやまなかったものだった。
それが私の唯一の寄る辺となる彼、月光昇との出会いだったわ。
「いつ敵が来るか分かりません、急いで脱出します。しっかり掴まってて下さい」
彼は自身の継接ぎだらけの外套を私に被せた後、地下牢から抜け出す為に私を背負って慎重に進み始めた。
私を背負う事で両手が塞がった彼は松明を捨て、壁伝いにゆっくりと進む。
彼曰くここまで一本道だったらしく壁伝いに進めば外に出れるから明かり無しでも行ける筈との事。
ふふ、そこは嘘でも絶対行けると言い切って欲しかったわね。
正直者な彼に少し笑いが漏れた。
コツン、コツンと彼の歩く足音が洞窟内に響く。
耳元には彼の息遣いが届く。
そうして暫く進めばようやく外に出た。
長らく幽閉されていた地下から外に出れば、真っ白な満月が暗闇に浮かんでいた。
私の象徴とも言うべき月は、冷たく私を見下ろしていた。
冷たく見下ろす月に【馬鹿な事をしたな】と、そう言われた気がした。
ええ、本当にそう思う。
仲間である神族を裏切り、悪魔側に付いた。
自分の欲の為に利用しようとし逆に罠に嵌められた愚かな女神。
友達は、アリシアは無事だろうか……いや、無事では済まされないだろう。
神族側の最高戦力の1人、光の女神アリシア。
彼女は悪魔達に捕まった。
本来なら捕まえることなど不可能な彼女が、捕まった。
何故なら私が、裏切ったから。
私の誘いに乗ったアリシア達を悪魔達が待ち伏せる場所まで誘き寄せた。
そしていとも容易く悪魔達に捕らえられた。
アリシアの力の一部を借り受けた聖女を捕まえ人質にしたからだ。
きっと今頃アリシアも私と同じ様に囚われ力を奪われているだろう。
私よりも早くから奪われている可能性も考えればその純潔も散らされているかも知れない。
本当に身勝手だけれど助けたい。
けれど力の大半を奪われた私では……いえ、そもそも力を上手く扱えない私では助けられない。
どうすれば助けられるんだろう、どうすれば良いんだろう。
どうすれば良かったんだろう……。
「何かお悩みですか?ルナ様」
「え……?」
「腕、だいぶ力が籠もってますし、思い悩んでるっぽかったので」
本当に些細な変化に、彼は気付いてくれた。
「……聞いてくれるかしら……愚かな娘の話を」
「私で良ければ」
そんな彼に気付けば私は、自身の話をしていた。
悪魔と神族の戦争、それにより最愛の妹を失った事。
信者から世界をやり直しせば良いと言われ、それを私も望んだ事、友を裏切った事、そして今は何も無くなり、孤独である事を。
きっと恨まれている、それでも彼女を、アリシア達を助けたいと。
私の話を聞き終えた彼はお返しにと自分の身の上話を始めた。
曰く、彼はこの世界の住人では無いとのこと。
その世界で彼は家族を早くに亡くしたと、友人達が居たものの家での孤独の寂しさまでは紛れなかった事を。
そして彼は荷を運ぶ鉄塊に轢かれて亡くなってこの世界に迷い込んだと。
私と彼は親しい者を亡くした者同士と言うことが分かった。
話し終えた彼は言った。
「助けに行きましょう、大丈夫、まだ間に合います」
「確証も保証も無いですけど」と言った。
そんな彼の横顔は苦笑いしていた。
「そういう時は嘘でも絶対大丈夫って言うものよ」
「あはは、すいません」
そう言いながら彼は私を背負いながら歩き続ける。
「所で貴方、助けるとはいうけれど、どうするつもり?」
「近くで爺さんが、協力者が待機しているのでそこまで向かいます」
「そう……」
一度人族に騙された事から普通なら簡単に信用してはいけないのでしょうけど、不思議と彼は信じても大丈夫だと、そう思った。
彼は私を背負いながら岩肌の山から離れ、森を目指して素早く移動する。
森の中に入り、辺りを探る彼。
どうやら待ち合わせた人物を探しているようね。
「こっちじゃお主よ!」
突如森に響く聞き覚えのある声。
私と彼はほぼ同時にその声のした方を向いた。
「貴方は……?!」
彼の言っていた待ち合わせ場所、そこに身を隠して待っていた者を見て私は驚愕した。
「貴方が何故此処に……まさか貴方が協力者!?」
「話は後じゃ!悪魔達が居ないとはいえ万が一がある!先に転移するぞ!」
「分かった!」
「え?ちょっ━━」
私が何か言うよりも先に彼は現れた神王に触れ、それを確認した神王は転移を行った。




