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サプライズニンジャかもしれない

作者: 吟野慶隆
掲載日:2026/01/29

「端的に言うとあれですね、いわゆるサプライズニンジャ理論というやつが当てはまってしまっていますね、この台本は」

 友人が最初に発した言葉は、そんな指摘だった。持っていた冊子を食卓の上に置き、椅子を少し後ろに引いた後のことだ。

「サプライズニンジャ理論か……」おれは視線を友人の顔から逸らし、斜め上に遣った。「名前を聞いたことはあるが、中身はよく知らないな。どういう理論なんだ?」ダイニングと廊下を隔てる扉が視界の隅に入った。

「簡単に説明するとですね、『もしストーリーの途中でいきなりニンジャを乱入させて大暴れさせたほうが面白くなるようなら、そのストーリーは改良の余地がある』というものです」

 友人は冊子の表紙を軽く撫でた。そのコピー用紙の束には、おれが数日前に完成させた台本が印刷されている。来年の春、所属する社会人劇団で披露する予定の芝居のものだ。

「一理あるな」おれは椅子の背に深く凭れた。「しかし、ストーリーの途中でいきなりニンジャが乱入してきて大暴れするなんて展開、たいていの場合は面白くなってしまうんじゃないか?」

 おれは今から五時間ほど前に友人の家を訪ね、台本の講評を依頼していた。友人はフリーランスのシナリオライターとして華々しく活躍していて、批評眼もかなり優れていた。

「それはあれですよ、サプライズニンジャ理論を語るうえで必ず言われることですよ。まあつまりそういうことなんです、サプライズニンジャはそれなりに面白いんですね。だから、もし自分が考えたストーリーの面白さがそういう安直な展開による面白さを下回っているのなら、もっと話を練らなければならない、ということです」

「なるほどな。その理論、誰が最初に提唱したんだ?」

「さすがにそこまでは知りませんよ。ネットで調べたらわかるでしょうけど……いや、ちょっと待ってください」友人は顔をしかめた。「まさかとは思いますが、このショートショートのオチもサプライズニンジャじゃないでしょうね」

 おれは眉間に皺を寄せた。「ショートショート? 何の話だ? お前に見せたのは芝居の台本だぞ」

「いやですから、このショートショートですよ」友人は両手を大きく広げ、読者のほうを向いた。「今ぼくたちが登場して会話をしている、このショートショートですよ。小説家になろうで公開されている」

「ちょっ、おい! 何を言いだすんだ突然……」おれは思わず腰を浮かした。「いきなりそんな、メタ発言を」読者の顔色をちらちらと窺った。

「だって、仕方がないでしょう?」友人は手を下ろした。「ぼくはフリーランスのシナリオライターとして活躍していて、批評眼も優れているという設定なんです。どうしても気になってしまうじゃないですか、このショートショートのオチがサプライズニンジャかもしれないと思うと」

 おれは友人の発言を制止するのを半ば諦めて尋ねた。「どういうことだよ?」

「つまりですね、めちゃくちゃありきたりなんです」友人は唾を飛ばして力説し始めた。「サプライズニンジャ理論を題材にした話のオチがサプライズニンジャだなんて、誰でも思いつくことじゃないですか、本当に。もし、百人のシナリオライターに対して『サプライズニンジャ理論を題材にした話を作ってください』って言ったら、百人とも最初に思いつくのはそういうオチに決まっています。おそらく読者ですら、このショートショートの冒頭を読んだ時に『たぶんオチはサプライズニンジャじゃないかな』って思ったでしょうよ」

「それはまあ、そうかもしれないが……」

「もしこのショートショートのオチがサプライズニンジャだったら、ぼくは作者を軽蔑します」友人は顔を険しくした。「そんな陳腐で凡庸なオチにするなんて。読者だって白けるに違いありませんよ、『やっぱりオチはサプライズニンジャだったな』って」

「……よし、そこまで言うんなら少し待ってみようじゃないか」おれは腕を組んだ。「この話はショートショートだが、すでにそれなりの文字数を消費している。もしオチがサプライズニンジャなんだったら、そろそろニンジャが登場するはずだ」

 それからしばらくの間、おれたちは椅子に座ったまま待機した。しかしニンジャはいっこうに現れなかった。

 友人は小さく安堵の溜め息をついた。「どうやらこのショートショートのオチはサプライズニンジャじゃないようですね」顔をほころばせた。「いやあ、よかった。もしそんな安直なオチだったら、ぼくは作者を見下げていましたよ。読者にも申し訳ないですし」

「まったくだ」おれも相好を崩した。「しかし、そうなると気になることがあるな。このショートショートのオチはいったいどんなものになるんだ? もうおれもお前も、メタ発言をしまくっているし」

「さあ……」友人は肩をすくめた。「ただの登場人物に過ぎないぼくたちにはとうていわかりませんね。作者のみぞ知る、というやつです」

「そりゃそうだ。……というか、おれたちの会話も話題が尽きてきたな。もしかしてそろそろオチなんじゃ――」

 次の瞬間、廊下に繋がる扉が勢いよく開け放たれ、男が姿を現した。肩衣と袴を身に着け、腰には刀を差し、頭にはちょんまげを結っていた。

 おれはあんぐりと口を開けた。「サプライズサムライだ」

 友人は舌打ちした。「さては作者のやつ、他のオチを思いつきませんでしたね。ニンジャじゃなくてサムライですって。工夫したつもりですかくだらないあほらしいセンスがないばかばかばかばか」

 そんなことを言っている間にサムライは距離を詰めてきて刀を抜き、おれたちの首をすっぱすっぱとはね飛ばした。


   〈了〉

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