安定職だと信じてた
私は幼い頃よりある仕事に就きたいと思っていた。人が必ず世話になる仕事であり、人の命や尊厳にも関わる重要な仕事で、その分仕事がなくなり職にあぶれるということもないと言われている仕事である。もちろん給料だって良い。
だがその分厳しい適性検査や、適性検査をパスしたとしても長い長い下積み期間をこなす必要がある。
私と同時期にこの仕事を希望した者たちのほとんどは適性検査をパスすることが出来ず、残った一握りの者たちもそのほとんどが長く厳しい下積みに耐えられずに辞めていってしまった。
しかし私はそれらの試練を乗り越え、今日ようやく一人前として初めてこの仕事を行うことが出来るようになったのだ。
「そうか、君が僕の後任の子か」
先輩はそう言って奇妙な表情で私の方を見た。昔の自分を見るような、それとも時流の読めない愚かな子どもを見るような。
「まあ、しばらくは僕がこの地区での仕事を教えるから。それが終わったら僕はお役御免だね」
まだまだ働き盛りに見えるというのに先輩はそんなことを言う。
辞めちゃうんですか? 辛かった下積み時代を思い出し、首を傾げながら私はそう尋ねた。
先輩は曖昧に笑って答えた。
「君もすぐに分かるよ」
そんな先輩の言葉を思い出して私は自分の持ち場である、交通量の多い信号機の上で一人ため息を吐く。
ビュンビュンと行き交う車を眺めていると、私の見ている前で一台の車がハンドルを切り損ねてガードレールにぶつかるという事故が起こった。
昔ならこれで仕事が出来たと喜んでいたのだろうが、いまではもうこんな事故を見てもまったく嬉しくならない。
事故現場をぼんやりと眺めていると、すぐに救急車がやってきてあっという間にケガ人を病院へと運んで行ってしまった。それを見た私はもう一度ため息を吐く。
本当に嫌になる。医療機関の発達で死神の仕事が激減するだなんて。
ああ、潰しのきかないこんな仕事なんて選ぶんじゃなかった。