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三浦湊の場合②

 移動13日目の明け方、三浦は起こされていきなりハンドサインを中年・貞光剛に見せられる。

 人差し指と親指で作ったL文字を首の下で何度も往復――「危険が迫っている。声を出さずに移動準備」であった。

 三浦は口から悲鳴を上げそうなのを何とか堪えて用意に入る。貞光の手助けを受けながら、荷物と武器を用意し、テントなどを〔空間収納〕に入れる。

 しばらくすると、オークの干した皮に墨で文字が書かれたものが回ってくる。


「天禄を使っているであろう山賊が60名ほどこちらを包囲しようとしている。南東の方角に全員で移動せよ」


 西郡の文字であった。


 60名? しかも〈天禄(コーリング)〉を使える奴がいる? いや、それって鬼ヤベーじゃねえか!?


 三浦は恐怖に胃液が逆流しそうになっていた。唐突な死の予感に震え上がる。

 おまけによく見ると、このグループの飛車角の坂本と富田がいない。西郡の命令で何か特別な仕事をしているのだろうと思う。

 顔を真っ青にして競歩の様に歩いていると、真横に立った田中がスマホを自分に向けていることに気づく。スマホのメモに文字が書かれている。


 60名とか言っているけど20名は子供だっていうから余裕っしょ!


 それどこ情報だよ? と思っていたが田中は案外しっかりしているところがあるので信用できる気がした。

 田中にはサムズアップで返し、三浦は精神安定のために〈通販〉の山浦を見る。早朝いきなりの駆け足で山浦は今にも吐きそうな、悲壮な顔をしていた。

 次に泣き虫松崎美優を見ると、いつものように湖川と中村に支えられながら、引きずられながら移動していた。

 死ぬならあの2人が先だな――そう思うと三浦は気持ちが少し軽くなった。

 そうして歩いて15分ほど経ったところで皆の前に、アイススケート選手の様に地面を滑って〈重力〉富田が姿を現す。


「みんな、ここで止まるっす! 山賊どもはもう大半、西郡さんが片付けたっす。マンティコアの毒とかいうのを擦りつけられたら面白いように山賊どもが倒れていったっすよ。あとは俺らで叩きのめして制圧するっす!」

 

 富田は大きな声を出したのでみんなに安堵が広がる。少なくとも声を殺す事態ではないようだった。

 湖川が富田に尋ねる。


「危険度が高くないのは早速わかったけど、私たちでやってくる山賊を殺せってことでいいのかな?」


 湖川の言葉にこの場にいる富田以外の者がゾッとする。モンスターと散々戦ってきたが、ここで人間相手に殺し合いをしろということなのかと思ったのだ。

 いつかは人を殺す事態になる――そのことは皆うすうす頭の中に浮かべていたことだった。

 だが富田はどこかのんびりした声を出す。


「『殺せ』とかじゃないっす。ほら、時々やる奴で、弓や石で仕留められなかった奴をみんなで槍の反対で殴って取り押さえるっていうの。あれでやってくる山賊を捕獲してってことっす」


 ああっ――確かに全員、棍棒もしくは槍の反対で襲撃者を撃退する訓練を受けていた。ただ取り押さえるターゲットがいつも西郡で、一度も成功したことがなかったが。

 西郡の言葉は他にもあった。「〔身体強化〕は計画的に使え。また完全に気絶させるまで、交渉や命乞いに応じるな」というものだった。

 富田がみんなの迎撃する手助けをしていると、間もなく8名ほどの山賊が姿を見せる。いずれも30歳以上で不潔で、髪がぼさぼさ、獣皮で荒く作った服を着ていた。武器は形が雑な蛮刀か短剣である。


「いやがった! てめえら、逃げるな! ぶっ殺すぞ!」


 山賊は殺気立っていたが全員息を切らしており、声に張りがない。 

 そんな山賊たちに追放組は一斉に矢や石礫を見舞う。この攻撃で3名が悲鳴を上げてぶっ倒れる。

 耐えた5人も疾走する富田の棍棒の一撃を受けて、よろめく。そこで追放組12名が槍や棍棒で襲い掛かっていった。


「せい!!」


「やーっ!!」


 掛け声を上げながら山賊をリズムよく打ちすえていく。西郡やモンスターに比べると山賊はあまり脅威にはならなかったのだ。

 山賊達の半数が〔身体強化〕を使っていたが、三浦らも〔身体強化〕を適度に使って応戦できていた。

 ここで一番大柄の男が、泣きながら「助けてくれ」と言い出す。


「い、命だけは取らねえでくれ! 俺たちは食わせなきゃいけないガキがいるんだよ! だから殺さないでくれ~!!」


 降参・命乞いを聞いた追放組だったが、止まることはなかった。気絶するまで攻撃の手を休めない。

 皆、山賊よりも西郡の方が怖かったのだ。

 昏倒した山賊たちを拘束していると、坂本と西郡が戻ってくる。坂本は返り血を浴びている様子で、顔も青ざめ、震えていた。三浦はヤバい状況が起きたのだろうと察した。恐らくは坂本が山賊を殺す事態が発生したのではないかと思う。

 西郡が白髪の老人と輝く銀髪の亜人に声をかける。 


「グマック、鑑定を頼む。ドゥギランは契約魔法の準備を――」


「やれやれ――朝食はこの後かい」


 グマックは億劫そうに馬車を降りるとトボトボと歩き出す。

 ドゥギランは〔空間収納〕から十枚ほどの丸めた羊皮紙を取り出すと慌ただしく動き出す。


「まあ、巻物を使って8人ってところだぞ。無論〈誓約〉を使って追加で2人だぞ!」


 三浦達にもドゥギランが何をしようとしているのかはわかる。〔契約〕の魔法と〈天禄(コーリング)〉の〈誓約〉を山賊に使おうというのだろうと。


「山賊を奴隷にしようっていうことにしか思えないっしょ……」


「た、たぶんそうじゃね? ……鬼ヤバいことになってきたな」


 三浦と田中の予想は当たった。間もなくドゥギランの前に連れてこられた10名の山賊は術を受けることになったのだ。10名の選抜はグマックが魔法で行っていた。

 これには追放組の誰もが息をのむ。改めて人権などない世界なのだと痛感したのだ。

 山賊は他に30名いるはずだったが、それがどうなったのか誰も西郡には聞かない。西郡も説明しなかった。

 が、追放組で強い発言権を持つ湖川愛と中村陽葵は西郡に迫る。


「質問させてください。この後、この山賊の人たちを奴隷として私たちに同行させるのですか?」


「当分はその予定だ。〔契約〕と〈誓約〉がどこまで有効かの検証、犯罪者をどこまでリスクヘッジに流用できるかを確かめるのが目的だ。今のところ、ドゥギランには契約をした者に、『我らへの絶対服従』、『我らを率先して防衛する』、『許可なき暴力行為の禁止』を約束させる予定だ」


 西郡の返答にそれなりに皆、安堵する。また西郡が検証したいと言われると苦情が言いにくい。

 この世界のこと、特に魔法に関して西郡がわからないことも多いので、西郡に様々な責任を押し付けるのは間違っていると湖川や貞光も配慮していたのだ。

 三浦はこのやり取りをドギマキとしてみていた。ベス・ダン・ジョーを別として間接的に奴隷を持つということを面白いと感じていたのだ。


 へへへっ、陰で殴っても文句を言わねえのかな? これは鬼確かめなきゃいけねえよな。女の山賊も2人いるからおっぱいモむのもありか


 三浦は死の恐怖が去ったこともあって上機嫌となってそんなことを考えた。

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