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三浦湊の場合①

 三浦湊は一歳年下の田中健太郎の言葉に思わず絶叫した。


「それマジか~!?」


 夕暮れ直前の夜を超すための枯れ木集めの最中、二人っきりになった時のことだった。

 三浦は田中に、15歳ほどに見える2人の獣人の少女が自分たちの性処理用に西郡が買って用意したものだと聞かされたのだ。

 西郡が男性陣にあてがうつもりだったが、先に女性たちがそれを察し、阻止に動いたということだった。

 湖川を初めとする女性が獣人少女の身の安全を揃って直訴し、西郡もそれを承諾したという。

 三浦も最近獣人少女の仕事を女性たちが補助・代行していると思ったが、まさか保護しているとは思っていなかった。

 女性たちの人権意識が働いたのはわかったが、我がままとも思う。


「んだよ、鬼むかつくわ!! 女たちは性欲が薄いから好き勝手やってるけど、こっちの身にもなってみろや!! こっちは20歳でヤることばっかり考えるジェネレーションだっつぅの!」


 激高する三浦に思わず田中が身を縮める。


「しっ! 声は小さく。料理作ってもらえなくなるっしょ!」


「あっ、ガチですまん。鬼すまん」


 三浦も田中も三食の食事を女性が担当してくれていることに感謝していた。城にいた時も獣人が料理をした時も、その調理のレベルの低さに絶望したものだった。

 だが日本人女性が作ってくれた者はまさしく食事であったのだ。塩の他に山椒やハーブ・キノコが加えられており、雑味がない。肉も食べやすいように工夫されており、普通に美味しいと思えるモノを提供してくれていた。

 焚火で作った木の実パンなどは日本でも食べられないほどの絶品だった。

 この放浪生活で食事が大きな心の支えになっているのは間違いがない。

 女性陣と対立するのは絶対に避けるべきことだ。

 腹が立った三浦だったがよくよく考えると、獣人少女は成熟したベス以外は対象外だった。ダンとジョーは中学生にしか見えない。

 男性の一番人気はエルフのドゥギランであったが三浦的には中村陽葵という明るい看護婦が一番エロいと思っている。

 三浦は落胆すると思わず、自分の体をまさぐる。煙草を探したのだ。


「あ~、煙草が吸いてえ。何が鬼ツラいって煙草が吸えないことだよな」


 すると田中が紫の葉を取り出して口に入れる。


「この西郡ちんに貰った葉っぱ、噛むとニコチン出るっしょ。馴れるとまあまあイケるっしょ」


 田中は屈託なくいったが三浦は日本の上質な煙草との落差からどうしても噛み煙草を受け入れなかった。乾燥して吸ってもやはりパッとしない。


「あ~、毎日が鬼ツラい。西郡怖い、煙草はない、パチンコできない、二郎ない、魔法の練習休みない、魔法の継続超つらい、西郡鬼怖い――本当に良いこと、何一つない」


「まあ、噛み煙草とドワーフのキッツい火酒もないよりマシっしょ!」


 西郡は希望者にはショットグラス一杯分の蒸留酒を毎日振舞っていた。〈厭忌のグマック〉が〔空間収納〕に10樽以上仕込んでいる極めて灰汁と度数の強い酒だった。ドワーフが作ったという話である。

 三浦は味を思い出し、顔をしかめる。


「悪い意味で麦臭くてとても飲めんけど、鬼度数が高いからストレートで飲むと30秒で気絶できるのは評価できるな」


「ははっ、確かに褒めるのそこしかないっしょ。」


「坂本さんは酒を飲んでねえらしい。鬼信じられん」


「ははっ、本当に。坂本さんも急に糞マジになるしやってられないっしょ!」


 三浦・田中の不良組の親分格の坂本雄大は現在、積極的に西郡から特別に格闘訓練を富野翔太と共に受けており、それに専念していた。

 坂本と富田は格闘のセンスがあると選抜され、皆を守るリーダーになっていたのだ。

 当初、チンピラ丸出しだった坂本であったが、毎日モンスターと戦い、西郡の活躍を目の当たりにしてすっかり態度を変えていた。西郡に心酔したと言ってもいい。

 最近はモンスター襲来の際に皆を指揮し、死角をなくすことで信頼を集めるようになっていた。

 三浦は今の坂本には迎合できない。能力的に見習えないのだ。不良ぶっているが三浦は戦闘センスははっきりいって16名の中でかなり低い。だから坂本のように戦いで貢献することができないのだ。基本、度胸も据わっておらず、ビビりである。

 そんな三浦でも西郡が相応しい武器とポジションを用意してくれたおかげで、大きな無様をさらしていなかったが、田中以外の者とは距離感を覚えていた。三浦は西郡から布の先に石を入れて振り回す原始的なスリングを渡されると、そこそこモンスターを倒せるようになっていた。が自信はまだ持てない。

 元々、叔父の蕎麦屋の出前で何とか生計を立てていた三浦だったので、こんな窮地で自分が活躍できるとは思えなかったのだ。


「田中はレベル上げる気あるのか?」


「全然っしょ。盾が増えたところで何にもならんでしょ!」


 田中の〈天禄(コーリング)〉は〈磁壁〉という直径40センチサイズの磁力を帯びた壁を出現させるものであった。一昨日レベル6になったところで同時に2つ出せるようになっている。西郡のアドバイスでモンスターの突進を食い止めたり、攻撃を受けそうな者の前に展開し、周囲の評価も上がっている。

 対して三浦の〈天禄(コーリング)〉は〈腐食〉。文字通り、何でも謎の細菌で劣化させるのだが、攻撃に使えるわけでもないので今のところ使い道がない。

 つまりは田中の方がこのグループ内では三浦より立場が良いのだ。

 〔身体強化〕においても自分が下位にいることがわかっている。皆が平均1分継続できるようになっているが、自分はその半分――一日トータル使用可能時間も5分弱で追放組のアベレージ以下だ。

 三浦は現在自分では下から3番目にいると思っている。

 二番目は円がなくなったことで役立たずの〈通販〉の山浦亮。だが何故だか西郡は〈通販〉のレベルを上げようとしているので逆転される可能性がある。

 一番下はもちろん14歳の泣き虫の松崎美優だ。まだ子供に本気になるのは愚かだとは思うが、実際役に立つのは相当に先になるだろう。

 

 いやいや下を見ている場合か。鬼情けないは俺――。


 こんな事態になっても逃げ腰で生きている自分自身に三浦は呆れながら思う。

 自分は死ぬまでこんな風なんだろうなと。

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