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ドゥギラン・ガタマン・ザラザンルの場合①

 ふぅ……っ。


 朝起きて、用意されたお湯に触れ、エルフのドゥギランは満足げにため息をつく。

 温度も適温だし、なおかつ用意するのに大きな物音を発てなかったのもポイントが高い。

 そえられたタオルを使うとしっかり乾燥していて、微かに柑橘系の匂いがする。

 やはり獣人より数段繊細で気持ちがいい。いいや世話を焼いてくれていたロウダゴ王国の者よりも遥かに高度な気配りと知性を感じさせられた。

 ドゥギランはこの異世界人たちはエルフに匹敵する裁量・精妙さを持っているのではないかと思う。

 ガサツではないし、いちいち指導しなくても要領を心得ているのだ。

 試しに2日前から精霊術を教え始めたが、受講態度も良く、質問も的を得ていた。


「くやしいが、向こうの世界はこの世界よりも進んだ文明を築いているように思うぞ……」


 ドゥギランは半分好奇心からマーグレイヴ西郡の誘いに乗ったが後悔していなかった。

 ロウダゴ王国からザウスター火山地帯をつなぐ、通称:陰鬱の森の中を進んでいたがかなり快適に進めていると感じている。

 当初は獣人が作る食事に閉口したが、すぐに異世界人が作り出すと味付けも盛りつけもぐっと良くなった。

 異世界から来た者がいかに変わっているか観察する気であったが今はただただ感心するばかりだ。

 ドゥギランは近くにいた眼鏡の女性・湖川に声をかける。


「今日も精霊術を教えてやるぞ。希望者を集めておくがいいぞ」


「まあ、そうですか! ありがとうございます。早速、希望受講者を集めますね!」


 すると白髭面の老人〈厭忌のグマック〉も関心を示す。


「ほほぅ。エルフの精霊術を教授できるとはありがたいな」


 人間の高位の魔術師でさえも、精霊術の知識を得る機会が希少なのだとドゥギランもわかっている。精霊術は、魔法という間接的に精霊にお願いするという陳腐なものではなく、直接精霊と交渉ができる技術で人間がほぼ知らない分野である。

 異世界人はことのほかドゥギランの使う〔浄化〕の精霊術に関心が高く、教えてくれることを望んでいたのだ。〔浄化〕は精霊に身体から不必要な要素を排除してもらうもので、身を清潔にするのに便利な術である。

 異世界人の記憶力と応用力も高く、〔浄化〕を初日で習得する者まで現れていた。

 民度も高く知的素養の高い日本人と呼ばれる異世界人はドゥギランのお気に入りになりつつある。


 そういえば西郡も日本人なのだろうか?


 ドゥギランは西郡のことをじっと見るがわからない。見つめているうちに最近の西郡に関する思い出がフィードバックしていく。

 ドゥギランは今から17日前にマーグレイヴ西郡と会ったことを思わず邂逅する。




 17日前、ドゥギラン・ガタマン・ザラザンルはトカカラ女王の治めるロウダゴ王国で軟禁生活を送っていた。

 〈天禄(コーリング)〉が〈誓約〉であるドゥギランはその希少性から、ロウダゴ王国の専属になってほしいと迫まれていたのだ。

 双方が一回だけでも同意すれば必ず執行させられる〈誓約〉は、国交でのやり取りに非常に有効で重宝されるのだ。魔法にも同等の〔契約〕というモノがあるが、〈誓約〉の精度と効果の方がずっと上だった。

 現にドゥギランはエルフの里を出てから50年の間に、何度も様々な国から強引な勧誘を受けている。

 ドゥギランは勧誘を受けるたびに「レベルを上げてくれたら専属契約を結んでも良い」と返答するのだが、スムーズに事が運んだことがない。

 〈誓約〉を持っていることで恐ろしいほどレベルの成長が遅く、ドゥギランが満足できるレベルアップをさせた国はまったくなかったのだ。

 ロウダゴ王国も400匹のゴブリンを用意したがドゥギランをレベルアップさせることができなかった。

 癇癪を起こしたトカカラ女王はドゥギランを〈囚人の塔〉に閉じ込め、移動できなくさせたのだ。

 ドゥギランはそんな窮地を何度も迎えても、精霊をかき集めれば精霊術を効して脱出できるので深刻には思っていない。旅と軟禁を繰り返して生きてきていたのだ。

 ドゥギランは幽閉を幸いに、溜めていた書き物と、〔契約〕等の魔法の研鑽に専念して日々を過ごす。

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