ばか
家をでます
家の鍵を忘れました
家に帰ります
鍵は持っていました
家をでます
忘れ物です
家に帰ります
どこに置いたんでしたっけ
家をでられません
時間がありません
家をでられません
時間がありません
何を忘れたんでしたっけ
家をでなさい
忘れ物が見つかりません
家をでなさい
行きたくないです
家をでなさい
家をでます
きょうは何をするんでしたっけ
どこに何時に行くんでしたっけ
鍵を忘れました
携帯端末を忘れました
ぜんぶぜんぶ忘れました
忘れるたびに怒られて
それでもぼろぼろ忘れました
忘れたい
ぜんぶぜんぶ忘れたい
かなしいことも くるしいことも
忘れられるなら
たのしいことも うれしいことも
ぜんぶぜんぶ忘れたい
家を出なさいといってくれる声も
怒ってくれる声も
ぜんぶぜんぶ忘れたい
家をでます
どこに行くんでしたっけ
どこに帰るんでしたっけ
忘れました
いろんなものを忘れました
おぼえているのは
かなしいことと
くるしいことだけ
◆
なにを見て なにを読んで
なにをして生きたら
かきたいものをかけるんでしょうか
かきたいなにかがあるのに
それをかたちにする力がありません
心の中で それを想うとあたたかくて
だから かたちにして 見たいのに
なかなか 出てきてくれません
なにかは心の中でみるみるふくらんで
くるしくて いてもたってもいられなくて
忘れられたらいいのに
捨てられたらいいのに
できなくて
意味のない調べ物だけが散らかって
ああ 調べたはずなのに おぼえたはずなのに
あれはどこに おいたっけ
かきはじめるまえに 疲れ果て
かきはじめたら ゴミのような想像力と技術に吐き気がし
けっきょく
時間をかけてなにもなせなかった徒労感が
心につもります
ああ よかった
私は なにもかけない なにもうめない
あとは ぶをわきまえて
ちゃんと ひとになろう
せめて ひとの怒鳴り声の中で 生きられるように
もしくは だれとも会わずに 生きられるように
やがてまた
かきたいなにかはふくらんで
なにもなせなかった経験と苦しさで 蓋をしても
暴れて ふくらんで
けっきょくまた 意味のない調べ物で散らかして
ああもう頭と心の中が
ゴミの部屋のようです
足の踏み場もありません
なにを見て なにを読んで
なにをして生きていたら
かきたいものをかけたんでしょうか
◆
わたしがうみだしたのだから
わたしの子供です
愛しい愛しい わたしの子供
どうして私をこんなに醜く生んでしまったのと
悲しそうにわたしを見てくる
愛しい愛しい わたしの子供