魔王の娘はリストラされました。
「リストラされました……。」
私、リリア・ダークネス。魔王の娘として、誇り高く魔界で生きてきた。威厳と恐怖の象徴として、魔界を統治する父・魔王の期待を背負い、日々邁進してきたはずなのに……今、私の手元には一枚の紙。
「退職通知」
そう、私は リストラ されたのだ。しかも、理由が パワハラ だという。魔王の娘として、力強く周囲を導いていただけだというのに、なぜこんなことに……。
パワハラって、何それ?
少し前、突然父から呼び出された。
「リリア、少し話がある」
「なんですか、お父様?また新たな反逆者の粛清ですか?」
父は渋い顔をしていた。いつもの厳しい表情ではない。なにか、しおれたような雰囲気を感じたのだ。
「実はな、リリア……お前に関する“問題”が浮上している」
「問題……ですか?私に?」
「パワハラだ。お前の部下や周囲の者から、最近、“厳しすぎる”という苦情が……SNSに書き込まれ、すでに大炎上している」
「……パワハラ!? わ、私が!? 一体何を言っているんですか、お父様!? 私はただ、魔界の秩序を保つために厳しくしていただけですよ!部下を導くためには、多少の厳しさが必要なのです!」
「……その結果がこれだ。SNSで書かれた内容が、今や魔界全土に広がってしまっている。『魔王の娘、ブラック上司!』などと、酷いあだ名までつけられてな……お前の存在が今、危険視されている」
「ブラック上司!? そんな……!」
どうしてこんなことに。魔王の娘として、誰よりも一生懸命に務めを果たしてきたのに、なぜこれが「パワハラ」になるのか? 私は、部下たちを導くために少し厳しく指導しただけだ。魔界を支配するには、それくらいの厳しさが必要なのだ!
「リリア、これはもう避けられない。もう、庇いきれないんだ。お前には……退職してもらうしかない」
「退職!? いや、そんな! お父様、これは何かの間違いです!」
だが、父の決断は揺るがなかった。魔界での圧政は今の時代にはそぐわないらしい。部下を締め付けるのは時代遅れだと……。しかも、問題はすでにSNSで広がっていて、魔界中の話題になっているというのだ。
~魔界SNSの恐怖~
私の耳にも、噂が届いていた。最近、魔界では「SNS」というものが急速に発展し、あらゆる情報が瞬時に広がるらしい。魔界の住民たちは、匿名で思ったことを自由に投稿できるという。
「それが何だというの……」
私はSNSなんて興味がなかった。魔王の娘としての威厳があれば、そんな匿名の言葉など気にする必要もないと思っていた。だが、現実は違った。
「リリア様って、怖すぎ……あの指導、きつすぎるんですけど」「魔王の娘にしたって、もう少し優しくしてほしい……」「部下を追い詰めてどうするつもり?」「これって、パワハラじゃない?」
そんな投稿が、次々とSNSで拡散されていたのだ。しかも、誰も私に直接言ってこない。その代わり、魔界の住民たちはSNSで私のことを批判し、ついにそれが炎上――拡大してしまったのだ。
~魔王の娘、失業~
「そんな……私はただ、魔界のために頑張ってきただけなのに……」
退職を命じられた後、私は途方に暮れた。魔界の指導者として、父の後を継ぐために日々努力してきたのに、すべてが水の泡だ。しかも、理由が「パワハラ」とは……。
私は頑張ってきたんだ!
毎日、闇の魔法のトレーニングを欠かさず、部下たちに魔界支配の厳しさを教え、反逆者たちを懲らしめてきた。それが、パワハラだと?そんな馬鹿なことが……。
「……これが、今の魔界のやり方なのか……?」
時代が変わったのだ。魔界でも、力による支配や厳しすぎる指導が通じなくなっている。代わりに、SNSでの「評価」が影響力を持つ時代だ。どうしてこんな世界になったのか……。
~新たなる挑戦~
「リリア、くよくよしててもしょうがないよ」
同僚のエルザが、私の肩を軽く叩いた。エルザは魔界の「SNSインフルエンサー」として知られる存在。彼女は、SNSで圧倒的なフォロワーを持ち、常にトレンドを先導している。
「でも、私が“パワハラ”なんて……。私は、ただみんなをしっかり導いていただけなのに……」
「うん、分かるよ。でもね、今の魔界では“厳しいだけ”じゃなくて、もっと柔軟なリーダーが求められてるの。あと、SNSでの評判が本当に大事。逆に言えば、SNSをうまく使えばリリアも人気者になれるよ!」
「私が……SNSで……人気者?」
「そうそう! 今は自己ブランディングの時代だから、自分をうまくアピールしないと。パワハラで退職なんてのも逆にネタにしちゃえばいいのよ!」
「ネタに……?」
私はエルザの言葉に衝撃を受けた。ネタにする? そうか、今の時代は厳しさではなく、自己ブランディングが必要なのか。私のような存在も、SNSで自分をアピールして、再出発することができるかもしれない。
「……分かったわ、やってみる! 私、リストラなんかで終わるつもりはないわ!」
こうして、魔王の娘リリアは新たな挑戦を始めることになった。SNSを駆使して、魔界で再びその名を轟かせるために――。
次回予告
パワハラでリストラされたリリア、SNSデビュー!? フォロワーを増やして、魔界のトップに返り咲けるのか!? 第2話「インスタ魔界デビュー!?フォロワー1万人を目指して!」