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どん底に突き落とされたVTuberはどんな夢を見るのだろうか

作者: Marmelack豆蔵

ショートストーリー読み切りです

 今日もいつもの動画配信サイトでリスナーといつものようにワイワイと楽しいストリーミング活動をしていた。

 それが突然こんなことになるなんて…


 信じられない。

 信じたくない。

 どうしてこうなった?

 わたしが何をした?

 もう、何もわからない…

 これからどうすれば良いのか?




 わたしは配信者。一般的に『モデル』と呼ばれているアバターを駆使してライブ配信をしている。

 色々な企画を考え、たくさんの人に楽しんでもらえる…そんな配信を心掛けている。


 その日もいつも通り楽しく配信をしていた。

 ネット環境に異常なく、先日入れ替えたばかりのPCも順調に稼働している。

 使用しているアバターも可愛らしく良く動くお気に入りだ。

 いつもそうしているように明るい声でリスナーのみんなとの楽しいやり取りが始まる。

 とりとめのない雑談に花が咲き、次第にテンションも上がってゆく。


 この高揚する感じが好きだ。

 自身の存在を否定されないこの環境。

 ストリーミングの主導権を握っているという心地よい緊張感。

 打てば鳴る様なリスナーとの駆け引き。

 その全てがわたしを満たしてゆく。


 だがそれは次の一瞬で終わりを迎えた…


 ひとしきり盛り上がった話題もそろそろ終わり、次の話題に移ろうと先日撮影した美味しいお店の画像をストリーミング画面に表示させようとしたときだ。

 PCからけたたましいエラー音が鳴り響き、モニター上に映っていた全てが文字化けしはじめたのだ。すぐさま何が起きたのかを確認しようとタスクマネージャーを開こうとしてキーボードの『Ctrl+Alt+Delete』を押した瞬間、わたしの世界はその形を大きく歪ませた。

 視界にはただただ明滅する光だけが映り、聴覚には恐怖を感じるほどの大きな流水音が響き、四肢の感覚は徐々に薄れ自身の存在が希薄になってゆく。


 ただ、思考だけはわたしがわたしであることを誇示するように明確にそこに存在した。

 揺蕩う意識、そこには【雪兎ちゃう】としてのわたしが居た。



───どれくらいの時が経ったのか。

 時間の感覚も曖昧になり全てを諦めかけたとき、わたしの五感がじわりと自らの仕事を始めた。


 気になっていたのはリスナーのみんなのこと。

 楽しい配信の途中で突然わたしが居なくなったことに困惑していないだろうか。

 心配させたくない。せっかく集まってくれたみんなをガッカリさせたくない。

 そんな思いで胸中がギュッとしめつけられる。

 そして頬に伝う涙の感触。


「なんで…なんでなんや…」


 しばらくぶりに発した声は悲嘆に暮れたかすれ声だった。

 背中に冷たく硬い感触が伝わる。少し痛いがそれは大したことではない。

 なぜならそこは薄暗く石壁で覆われた牢獄の様な場所だったから。


 記憶をたどり、順を追って思考するが全く身に覚えのない環境にどうすることも出来ず佇む。


 怪我などはなく身体に異常はないようだ…

 否、正確にいうならば実際のところは異常だらけである。


「なんで雪兎ちゃうの身体なん?元の身体はどうなったん?」


 そう、わたしの身体はアバターである雪兎ちゃうの姿に変わっていた。

 眉間に険しい筋を作りながら考える。だが答えはでない。

 それもそう、この状況にあること自体不可解なのだ。


 石壁の牢屋の隅で膝を抱えて考える。

 だが、浮かぶ思考は『なぜ』ばかりである。

 遠く理解の及ばない状況に虚しささえ感じ始めた。

 いつものわたしはどんな苦境でもそれを楽しみに変える程度には余裕があった。それがこの有様である。


──はぁ、情けない


 一度顔をあげて周囲を見渡すも何ら変化のない牢獄。

 再び抱えた膝に顔を埋める。



 そして流した涙もすっかり乾いた頃、その変化は遠くからの音ともにやってきた。


「ちゃ…どこ…だ!」

「ちゃうちゃ…どこに…るの?」

「おーい!…大丈夫なの…かぁ」

「おるぁ!邪魔だ!!どけ…この野郎!」


 どこか遠くから聞こえる声。

 テキストコメントではない、耳から感じる本当の生の声がわたしの名前を呼んでいる。

 無意識の中の何かがそれを『リスナー』の声だと教えてくれる。

 次第に近付き、明瞭になっていく剣戟の音とわたしを呼ぶ声。


「ちゃうーーっ!ここに居るのかぁ?」

「ちゃうちゃーん、返事してぇ~!」

「てめぇ!まだくたばってないんか!おるぁ!!」

「ちょっwおまwやりすぎやろwww」

「俺を殺そうとするやつは殺される覚悟のあるやつだけだ!!」

「うほっw名言キターwww」

「ちゃうちゃーん!どこーーーー!?」


 わたしの大切なみんなの声が胸を熱くさせる、力をくれる、勇気をくれる。


 わたしの身体は自然と牢獄の格子へと向かい…


「みんなぁぁああああああああああああああああ!!!」


 いつの間にか張り裂けんばかりの声で叫んでいた。

 そしてこちらへ向かうたくさんの足音。

 たくさんの足音…その数はどんどん増えて地響きを起こすのではないかというくらいに膨れ上がる。


 格子のすきまから足音の鳴る方へ声をかける。


「ここだよーーー!みんなぁあああ!!ちゃうはここだよー!!」


『おぉぉぉぉおおおおおお!!ちゃうだぁあああ!!』


 わたしの声に応えるようにみんなの声が牢獄中に響き渡る。

 格子の隙間からみんなの声が聴こえる方向に目を向けると、たくさんのみんなが、なりふり構わずこちらへ駆け寄ってくる。


 うれしい…みんな来てくれた!

 理由なんてわからなくたっていい。ただただ嬉しい!!

 先ほどとは違う、熱い何かが頬を濡らす。

 格子にしがみついてわたしは叫ぶ。


「ちゃうはここだよーーーーー!!!」


『うぇーーーーーーーーい!!!』




──おしまい


お読みいただきありがとうございます。

また何かの間違いで執筆することがあればお知らせしますw


ではまた!

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