フォア・フォウ・フラウ
「やっほ、こんなとこで会うなんて奇遇だね」
これが不審者の第一声だった。
5月12日、日曜日。
昨日の恐怖体験の後、家に帰ってお風呂にもはいらずにベッドに倒れるかのようにして眠りにつき、お昼まで寝てたらお母さんに叩き起こされた。
頭をすっきりさせるのにシャワーを浴びて朝昼兼用の食事をとった後、独りで昨日のことについて考えていたら電話が鳴ってた。
「はい、島倉です」とでると隣の家のおばさんからで、「あっ一美ちゃん、あなたのお家の前に変な人がいるわよ。警察に連絡した方がいいわ」と言われた。
窓から外をのぞくと……確かにいた。玄関の前の電柱の影に。あれは確実に不審者だ。
私は外に出られる格好に着替えて玄関から外に出る。
するとその不審者は近づいて来て、こう言った。
「やっほ、こんなとこで会うなんて奇遇だね」
……全然奇遇じゃないよ。佐上君……。
~~~~~
「昨日はすまなかった」
この一言が口切りだった。
ちなみにここは佐上君の家。
あの後「話がある」と言われてここに連れて来られた。
「お前達を巻き込むことにはならないと思っていたんだが、詰めが甘かった」
頭を下げ、心底すまなそうに謝ってくる佐上君。
私はちょっと困った。
「えっと……顔を上げて」
佐上君は動こうとしない。
「ほら、怪我とかはしてないから。ね?」
そう言うとようやく顔を上げてくれた。
「あれは何だったの?」
私がそう訊くと佐上君は何ともいえない表情をした後、ゆっくりと話し始めた。
「あれは…この地に眠る魔神だよ。名を破壊神。かつてこの町をその名の通り破壊しまくった化け物だ。5年前のこと…あいつらから聞いてるだろ? 再開発地区のガス爆発のこと」
もちろん聞いている。
羽柴市南部が再開発地区になった原因の事件のことだ。
「あれはガス爆発なんかじゃない。破壊神がやったことなんだ。そして、俺の父さんが破壊神と戦った。父さんは魔法使いだったからな。んで、そのときに父さんが破壊神を封印した。父さんが死んでしまったから俺が引き継いだ。ここまではOK?」
「ごめん…ついて行ってない。じゃあ…昨日は封印が解けたってこと?」
「それは違う。あれは封印を解いたんだ。封印っていっても完全じゃない。ずっと放置していると、奴は周囲の魔力を吸収して力を蓄え、いつかは封印を破ってくる。そうさせないために定期的にこっちから封印に穴をあけて魔力を放出させてるんだ。お前が見たのはその魔力の塊ってわけ」
言っていることの半分も理解できない。
「初めから話さないと駄目だ。その娘、ほとんどわかってないよ」
後ろから声がした。
振り向くと、ゴスロリのファッションをした少女がいた。
「こんにちは、メメさん。昨日はありがとうございました。」
佐上君が挨拶をする。
「こっこんにちは」
どう見ても私や佐上君の方が年上に――少女はせいぜい12、3歳といったところだろう――見えるのにどうして敬語を使うのかを不思議に思ったが私もそれにあわせる。
「こんにちはそしてはじめまして、フォア・フォウ・フラウ」
「? フォア・フォ……?」
「フォア・フォウ・フラウ、ドイツ語で美しいお嬢さんって意味だね。ちなみに彼女は飯塚メメさん。まあ、俺の知り合いってことで」
佐上君が助け舟を出してくれる。
「私のことはメメでいいわ。じゃあ、何か飲み物をもらうから」
そう言って部屋から出ていくメメ……さん?
「ねえ、あの娘私たちより年下よね。何で敬語?」
メメさんがいなくなったところで私は佐上君にそう聞いた。すると彼は可笑しそうに、
「メメさんは俺らよりずっと年上だよ。たぶん10歳以上……。そしてメメさんも魔法使いだよ」
「そうよ」
~~~~~
その後は延々と荒唐無稽なファンタジーの話を聞かされた。
曰く、この世界、いやこの日本には魔法が存在する。
正確には存在した。
その昔、魔法は日常的に存在し、人々は魔法と共に生活してきた。
魔法は誰でも使えるもので、魔法なしの生活など考えもしなかった。
しかし、それは日本だけだった。
世界に目を向けると、魔法を使えるのはこの国の人間だけだった。
この国では常識、日常であるはずの魔法は、世界にとっては異形のものであり、非日常だった。
故にこの国の人々は、思った。
「我々は選ばれたものだ。神の使いだ」と。
選民思想とでも言うのだろうか。
そんなくだらない《・・・・・》思い違いからこの国は世界に戦争を仕掛けた。
そして敗北。いや、勝ち負け以前に勝負にならなかった。
人数とかそういう問題じゃない。
魔法が発動しなかった《・・・・・・・・・・》のだ。
日本から少しでも外に出ると、発動しない。
人々は絶望した。
それで、終わるはずも無い。
世界からは恐怖の目で見られることになる。
世界に対しては何も出来ないのに。
力をもっいるから。
それを一度でも向けようとしたから。
日本は世界から孤立する。
それを恐れた当時のトップたちが魔法の封印を考えた。
魔法の利益より、世界との関係を選んだということ。
それは、正しかったのだろう。
そして、魔法を封印した。
魔法は永久に失われた……はずだった。
しかし、そんなことが出来るわけがない。魔法そのものを魔法で封印するなんて。
もし出来たとしたら、封印された瞬間にその封印自体も消える。
表向き、魔法は消えて、日本人は世界と平等になった。
しかし裏では魔法は存在している。
魔法使いは存在している。
啓介のように。メメのように。
~~~~~
「とまあ、こんな感じかな」
そう言って啓介が締めくった。
あれから3時間は経っている。
メメは「疲れた」といって先に帰ってしまっていた。
「…………」
一美の3点リーダ4つ分の反応。
「……えっと、わからないとこあったら質問どうぞ」
「わからないというより、信じられないわ」
そりゃそうだと啓介は思う。
「じゃあ証拠を見せるよ」
そう言って啓介はポケットから指輪を取り出す。
「これが魔法を使うのに必要な指輪。これを嵌めることで、体内にある魔力を魔法に変えるんだ」
「へ~」
「じゃあ、何をしようか? リクエストをどうぞ」
「じゃあ…炎を出してみて」
「了解」
そう言って啓介は目を閉じる。
指輪をはめた右手を前に出し、
「火炎」
右手に複雑な模様の円が出来た後、火の玉が現れる。
「こんなもんかな。俺は火は苦手なんだが、得意な水ならほら……招水」
そう言って今度は左手に水を出してみせる。
「すごい」
それはありきたりかもしれないが、一美の素直な反応だった。
~~~~~
帰路。
一美は今日の話を思い返していた。
「あんな話、信じられないよね~。でもほんとに魔法使ってたしな~」
なんて一人で呟いている。
ふと、疑問が生じた。
「あれ? 何で私だけ? どうして未来ちゃんたちも呼ばなかったんだろ?」
「それは、君以外は巻き込まれただけだからよ」
不意に、後ろから声がした。
~~~~~
まあ、とりあえず話したことは話したかな。
一人になった啓介は今日の話を振り返ってそう思う。
所々嘘もあったが、大筋はあんなもんだ。
しかし、
「フォア・フォウ・フラウ、あれは美しいお嬢さんなんてそんな意味じゃないあれは……」
~~~~~
「……メメさん?」
なにを言っているのかわからない。今日は散々不思議な話を聞いたが、これだけは心の底からわからない。
「彼女たちは被害者。でもあなたは違う。昨日の事件あなたのせいで起こったのよ」
「何を……いって…るんか?」
「言葉通りの意味よ」
そう言って彼女は背を向け、
「それじゃさようなら厄災を招く少女《フォア・フォウ・フラウ》」
次の瞬間にはその姿は無かった。
どうも、cancelerです。
少し間が開いてしまいました。
待っていて下さった方はすみません。
第7話です。
今回は魔法について、ただし不明瞭な点も少し残してあります。
それは、少しづつ紐解いていきたいと思います。
では、今回はこの辺で。
次回はもっと早く更新できることを願いつつ。
あっ、ご意見ご感想、質問などがありましたら、頂けると嬉しいです。