表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
指輪の魔法  作者: canceler
5/7

そしてそれは現れた

 再開発地区。

 羽柴市南部で5年前に起こったガス爆発事故の被害地の名前である。

 当時、工場や発電所といった建物が立ち並んでいたその土地を半径4kmに及ぶ爆発が襲った。

 町の4分の1を更地に変える爆発だったが、幸い(というより奇跡に近い)怪我人は多数出たものの、死者は10人にも及ばなかった。

 その土地を町の発展に役立てようと、再開発を始めた市民。

 しかし、2年前、今度は原因不明の爆発が再び再開発地区を襲った。

 3年間の工事を全て無に返した。その爆発の後も、何度か工事現場が破壊されることが起こったが、市民から工事の中止を訴えられることを恐れ、市は公表しなかった。

 しかし、噂がたたないわけが無い。再開発地区の別名は、昔工場だったのと併せて「お化け工場」とも呼ばれている。


 そんな再開発地区を一美たち4人は歩いていた。

 なぜ4人か。

「それは啓介が逃げたからだ」

「進藤君、誰に言ってるの?」

「あいつがこんなにチキンだとは思わなかったぜ」

 一美の言葉を無視して徹也は続ける。

「今時『親戚のおばさんが倒れた』なんて嘘でも言わないっての」

 事の顛末はこうである。

 電車から降りて現場に向かう際、啓介の携帯に着信が入った。本人曰く「親戚のおばさんが倒れてしまい今からそちらに向かわなければならない。故に再開発地区に行くことが出来なくなってしまった」というものだ。(明らかに嘘であるとわかる様子に、4人は「怖いんだな」と共通の認識をもった。)そして啓介は駅へと走って行ってしまった。


 そんなことがあったものの、予定通り再開発地区の中に入って(『立ち入り禁止』の看板は当然のごとく無視)歩いている4人。

 時刻は午後8時半過ぎ。月は出ているものの辺りは暗い。各自が(未来の指示で)持ってきた懐中電灯を点けている。

「夜の工事現場ってだけで既に不気味ね」

 Tシャツにジーンズという動きやすい服装の上から薄手のパーカーを羽織った格好の未来が呟いた。

「本当だな。いかにも何か出そうな感じだ」

 徹也が楽しそうに答える。彼はカーゴパンツにタンクトップという格好だ。上から着ていたシャツは歩いて暑くなったため今は肩に掛けている。

「そんなこと言わないでよ。本当に出たらどうするのよ」

 未来のパーカーの裾を掴みながら一美が言う。彼女は未来と同じような格好に、ピンクのキャップ帽を被っている。

「あらあら? 一美ってば怖がってる? 大丈夫だよ。何かあったら私が守ってあげる」

 制服姿の恵子が言った。因みに何故彼女が制服なのかというと、部活の終わった後であるからであって決して彼女が「普段着=制服」という思考回路の持ち主なわけではない。


 4人は楽しそうに話しながら歩みを進めていく。


 これから起こることも知らずに……


~~~~~


 4人と別れた啓介はというと、本当に家に帰った……のでなく、遠回りをして再開発地区の中に入っている。彼は一美たちがいる場所から更に南にある資材置き場のような開けた場所に腰を下ろして電話をしている。相手はメメ。内容は……謝罪である。

「メメさん、機嫌を直してくださいって」

「嫌だ」

 原因は電話。4人と別れるためにメメに電話を頼んだのだが、その際に「親戚のおばさん(・・・・)」と言ったことをメメは怒っているのだ。

「メメさんのことを言ったわけではないんですって」

「君から見れば私はおばさんか」

 話がかみ合わない。4人と別れた後からずっとこの調子である。

「今度何か奢りますから」

「物で釣る気か?」

「決してそういう意味では…」

「…まあよい、許してやる。そろそろ時間だしな」

「8時56分。残り4分ですね。では、そろそろ始めます」

「健闘を祈る」

 「健闘を祈る」なんて言葉はメメに最もふさわしくない言葉だと思いつつ電話を切る啓介。

 ポケットに携帯をしまいつつ別のものを取り出し右手に嵌める。それは、銀の台座に真っ玄な宝石がついている指輪だった。

 瞬間、啓介の纏う空気が変わる。


 魔力の体内循環……正常。

 現容量は最大値の約42%。

 使用可能量の算出……終了。

 使用術式の確認……終了。

 全て問題なし。


 自らの状態を確認する。そして、

「結界展開」

 啓介のいる資材置き場が世界から切り離される。これによって(結界の中)で起こることは外の世界には決して感知されなくなった。

「武器開放」

 啓介の右手に60センチほどの小太刀が現れる。

「ふう、準備はできました」

 啓介が呟くと、

「こちらも完了した」

 返事があった。メメの声だ。

 辺りには誰も居ない。

「しかし大層な結界だな。念話が通しにくくて仕方がない」

「すみません。で、あいつらは今何所に?」

「ああ、君の友達は今入り口から東のほうへ真っ直ぐに歩いている。近づいてきては無いから安心しろ」

「ありがとうございます。しかし、さすがは千里眼。助かります」

「こんなもの、十里眼程度だ」

 啓介の言う「千里眼」とはメメの使う魔法であり、大きく分けて2つの能力がある。1つは「時系眼」。土地や人の過去や未来を視ることができる。もう1つは「望遠眼」。今メメが使っているものであり、遠くのものを見ることができる。

 ちなみに「念話」とは、魔力による通話のことである。

「さて、9時まで残り5秒」

「始まるか」


 4

 3

 2

 1


 そしてそれは現れた。

 地面のあちこちからいくつもの黒い塊が湧き出る。

 それは徐々に人の形をとっていく。

 2メートルを越す体躯。

 全身が禍々しい黒色。

 唸り声がそれの完成を伝える。

 その体が触れた部分から壊れていくコンクリート。

 人の形をしているものの、どう見ても「化け物」としか言いようが無かった。


「出たな、破壊神」

 啓介は走り出す。小太刀を鞘から抜き、化け物の1体に向かう。

 化け物は啓介に気づいて顔をこちらに向けて腕を振り上げる。

「遅い」

 振り下ろしてきた腕をかわしつつ、懐に入って一閃。胴体を真っ二つにした。  

 血は出ない。元々魔力の塊であるので、出るはずも無かった。

「まずは1体」

 そう言っている間にも化け物は湧き続ける。

 夜はまだ長い。

どうもcancelerです。

第5話を読んでいただきありがとうございます。

魔法が出ます。と前回言ってのですが、最後のほうに少しだけでしたね。

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

ご意見ご感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ